🌟道産子でないアタシが、この地にあこがれて移り住み、早や四十年と少し。
　山国育ちゆえ、生臭いものは苦手。正直申せば、多くの人が恋焦がれる、この地の海産物には、大して食指はうごきませぬ。
　蟹もイクラも、ウニとて、まったく魅力には感じず、生まれ育った土地のローカルあるあるで“マグロと芋さえあればゴキゲン”という、ご当地の諸氏にしたらば、まさしく“人非人”といえますな。

🌟そんなアタシが、この地で「とても良いな」と思わさるのは次の三品なり。

その一……〔肉屋のラムが安くて驚く〕
　肉がこんな安値で贖えるとは。それが羊肉と知るのは後日の事で、初見でその安さとうまさに仰天したのは、進学した某：◯農◯園大学一年の事でした。

その二……〔十本脚より八本脚が好みだった〕
　タラバよりズワイより、ましてや毛ガニより、アタシゃ「花咲ガニ」美味し！のひとでした。濃厚な甘みとジューシーさ。
　お高くとまって中身はパッサパッサの虚しい身持ちの方よりは、バラにも負けぬ、イケずなトゲ持ち美人の、滋味深き御身頂く幸せ。

その三……〔安くて美味くて、もうメロンメロンです〕
　まだ故郷に居た幼少の頃、産地ものを安いと喧伝して売りに来る行商人が時々現れた。リンゴやスイカや梨とか、海産物もあったと記憶。
　そんな中で、高級品の代名詞である〝メロン様〟の売り子（たいていシワシワのジジババ）もおった。
　スイカのように叩いて中身を検分するわけにもいかず、言われるがままに買いしところが、ズブズプの悪マズさに、家族一同「騙されたげな！」と怒り心頭。
　ところが、この地で売られし、メロン嬢（様から昇格）は、そげなリーズナブルでよかとですか？と半ちく方言で再確認したくなるほどの、安い・美味い・瑞々しいの三拍子ワルツなのでした。