2012年 5月 29日 7:59 JST

　【マドリッド】財政再建能力や金融システムに対する市場の疑念が募るスペインの国債は28日、利回りが再び過去最高水準を更新（価格は下落）し、ラホイ首相は市場懸念の鎮静化に向けた欧州連合（EU）への協力要請を余儀なくされた。

　記者会見した同首相は、金融システム安定化についてはEUからの資金支援は必要がないと述べた。ただ、ユーロ圏内の財政基盤が弱体化している国に対してはEUの各機関がより積極的に支援する必要性を指摘、それが高騰するスペインの国債利回りの低下につながるとの見方を示した。

　資産規模で国内第3位の大手銀行であるバンキアへの190億ユーロ（約1兆9000億円）の公的資本注入の決定を受けた28日の欧州国債市場では、スペイン国債が激しい売り圧力にさらされた。先週末に発表されたこの決定はバンキアを事実上国有化するもので、これをきっかけに政府が同国の弱体化した金融システムを支えるためさらに資金拠出が迫られるとの市場懸念をあおることになった。

　スペインの金融システムについては、EUからの圧力もあり、同国政府がコンサルティング会社のローランド・バーガーとオリバー・ワイマンに各銀行の外部監査を要請、6月中旬までに結果が公表される予定だ。

　市場懸念の1つは、金融システム全体で予想を上回る損失が生じるのではとの点だ。今回のバンキアの企業融資や不動産融資に対する査定額の引き下げが、他行の同種の資産にも適用されるとの読みからだ。複数のアナリストは、バンキアに次いで不動産関連融資の多い大手銀のバンコ・ポピュラールが大きな評価損を補う十分な資金を調達できるかに懸念を表明している。同行の広報担当者は、公的支援は不必要で自己資本規制については利益と資産の値上がり益でクリアできると話している。

　ノムラ・インターナショナルの銀行アナリスト、ダラ・クイン氏は顧客向けノートで、スペインの銀行部門は規制基準を達成するために全体で500-600億ユーロの資本が必要と指摘した。この額はスペイン政府の銀行業界再編基金（FROB）が、不振銀行支援のために支出可能な90億ユーロをはるかに上回っている。

　FROBは債券を発行することによって資金を調達することはできるが、最近の入札では政府関係機関の資金調達コストは急騰する一方、応札は細っており、資金調達への制約が強まっている。バンキア支援資金も調達できないこともありうる。ただ、政府広報官はこの問題は現金の代わりに、信用度はまだ高いスペイン財務省やFROBの機関債を提供することで解決できると話している。そうすれば、これらの債券を担保にしてバンキアがECBの融資基金を利用できるからだ。

　ラホイ首相は、スペインが資金調達や流動性確保、債務水準の維持などでEUからの一層の支援を必要としていると述べた。また「通貨ユーロについては、より明確で力強く、積極的な支援が必要」と指摘したが、それ以上の具体策には踏み込まなかった。

　ラホイ首相のこの発言は、各国債利回り低下を目的にECBが債券流通市場で以前行っていた債務残高の大きいユーロ圏加盟国の国債購入を再開することを訴えたもの、と受け止められている。

http://jp.wsj.com/Finance-Markets/Foreign-Currency-Markets/node_450505