花さん
　父上は海軍でしたか？
　父上は、軍艦が出港後まもなく撃沈されたんですか？それとも南方へ送られての戦士でしょうか？
そうだとすると、遺品も何も帰らずじまいですか？
　それは無念のことでしょう。
　
　呉には海軍工廠に海軍鎮守府ありで、軍港として栄えていました。
　また、対岸の江田島には海軍兵学校があって、青年が大勢鍛えられて、戦地へ送られました。
　親父の直ぐ下の弟も志願兵として兵学校へ入隊し、その後軍艦へ乗っていたけど戦争がなく、そうこうしたら盧溝橋事件が起き、海軍も陸戦えと陸軍から要請があり、叔父は上海特別陸戦隊へ入隊し、蒋介石を追って揚子江を遡り、今の武漢市、昔は武昌と漢口に分かれていた漢口で、下士官として部下を叱咤激励していて両足に銃弾を受けて、S１３年１０月１６日戦死しました。
　まだ戦死者が少ない時で、遺体は骨として勿論軍服など一式が戻った。
　町葬として葬儀が執り行われ、全国の知事や関係大臣をはじめとして、各鎮守府長官、大将とか大勢の方から弔電が来ていました。
　天皇皇后陛下から下賜金も贈られ、大層な葬儀だったようで、その時の資料はガリ版刷りで一式残っています。
　１０年ほど前、その資料を黒表紙を付けて綴じ、黒漆塗りの文箱へ入れ、文箱は桐箱に入れて残しております。

　ですが、亡くなった者は戻る筈もなく、爺さんと婆さんが２回にわたり、代々木の練兵場で行われた全国戦没者慰霊祭へ出かけただけ。
　爺は私が誕生して１週間後に、婆さんは１年後に亡くなり、一切顔も知りませんし、勿論亡くなった叔父２名も顔を知りません。
　親父は、広島原爆投下翌日に救護のために行き、入市被爆者となり、元気な姿を見たことがありません。

　今は戦争もなく、一応平和な世の中。
　戦争を知るものは少なくなるばかり。
　改憲とか言ってますが、この国はどっちへ向かうのでしょうね。