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奇跡をくれた犬たち

奇跡をくれた犬たち>掲示板

公開 メンバー数:8人

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  • from: きなこさん

    2011年11月30日 23時26分44秒

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    25

    「じいさんが死んで二十年、子供はいるけれど、それぞれの生活が大変なんだろう。誰も私と暮らしてくれる子はいなくてね。この年になると長年の友達も死んでしまったり、具合が悪くて出歩けなかったりでね。いつもいつも一人でいたんだよ。あたしだってさ、老人会がやっている踊りだのカラオケだのをして楽しんでいたんだけどさ、体が思うようじゃなくなるとね、なかなか外に出ようっていう気がおきなくなってね。だから歩けなくなっちゃったんだよねぇ」

    ああ、わかった。おばあさんは歩けなかったんじゃない。一人になってしまった寂しさや悲しさで、心が歩かなくなったのだ。そんなおばあさんの気持ちが私にも伝わって、うっすらと涙がにじむ。

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  • from: きなこさん

    2011年11月30日 08時55分36秒

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    24

    「太郎とおばあさんの話、聞かせてくれますか?」

    私がそう言うと、とてもうれしそうな顔をして、「いいよ、いいよ」と答えてくれた。

    私たちはそれから、おばあさんと太郎が積み重ねてきたこの二年の日々を、笑いあり、涙あり、感心あり、ほのぼのありで、じっと聞き入った。

    「あたしゃね、今じゃさ、こうして元気に歩いているけどね、太郎を拾った時はさ、全然歩けなかったんだよ」

    おばあさんは、冬の寒いあの日を思い出すように、遠い目をして言う。

    (あれあれ?だっておばあさんは歩いてスーパーに行って、それで太郎と出会ったんだよね。歩けていたはずだなぁ)

    そう思ったが、あえてその疑問をぶつけずに、そのままだまっておばあさんの話を聞いた。

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  • from: きなこさん

    2011年11月30日 08時45分17秒

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    23

    太郎とおばあさんとの生活は、二年になるらしい。

    二年前の冬のある日、スーパーマーケットの駐車場の片すみに、ダンボール箱に入れられて、太郎は捨てられていた。太郎の弱々しい声に、その日たまたま買い物に行ったおばあさんが気づき、あれ?と思ってダンボールのふたを開けたら、五匹の子犬が入っていた。三匹はすでに死んでおり、冷たくなっていた。生き残っていたのは、太郎をふくめたオスの子犬が二匹。

    一匹は知り合いの家へもらわれていったが、一年ほどたったある日、交通事故にあって死んでしまったそうだ。

    「あの時のきょうだい犬の中で、生き残っているのは太郎だけなんだ。太郎は運が強い犬なんだよなあ?」

    おばあさんは、水を飲んでいる太郎に話しかけるように、目を細めてそう言った。

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  • from: きなこさん

    2011年11月29日 22時59分55秒

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    22

    おばあさんは家につくと、

    「太郎、こっちにおいで。どれどれ。お客さんにいたずらするんじゃないよ」

    と言うと、太郎を部屋の中に上げ、エサ入れに水を入れる。太郎はその水をおいしそうに飲んだ。

    「よく来てくれたねぇ。ずっと一人暮らしでね。お客さんが来てくれるなんて何年ぶりだろう」

    と言いながら、私と娘にお茶を出してくれた。

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  • from: きなこさん

    2011年11月29日 22時50分43秒

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    21

    おばあさんの家は、そこからまっすぐに百メートルほど行った先の古い貸家だそうで、車はそのままおいていくことにしてしまった。

    太郎はそんなおばあさんと私たちのかわす言葉にジッと耳をかたむけていたようだったが、

    「太郎、お客さんが来てくれるって。久しぶりだねぇ。じゃ行こうか」

    おばあさんが声をかけると、太郎はしっぽを左右に振って、またのったりのったりと歩きだした。私たちもおばあさんの歩調に合わせて歩きながら、いろいろと質問をした。おばあさんと太郎の住む家は本当にすぐそばで、あっという間についた。

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  • from: きなこさん

    2011年11月29日 22時38分54秒

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    20

    この一笑い(ひとわらい)で警戒をといてくれたのか、おばあさんは、

    「楽しい人たちだねぇ。太郎がいい犬だなんてあたしゃ初めて言われたよ。うれしいねぇ。あたしの家、すぐそこなんだよ。どうだい?お茶でも飲んでいかないかい?」

    初めて会った人に図々しく声をかけ、あげくにお茶をごちそうになるなんてめっそうもないと横に手を振る私たちに、おばあさんはなおも、飲んでいけ飲んでいけとすすめてくれる。私たちはそんなおばあさんの申し出(もうしで)を断りきれず、おじゃますることにした。

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  • from: きなこさん

    2011年11月29日 22時27分27秒

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    19

    「おばあさん、この犬の名前は何ていうんですか?」娘が聞くと、

    「太郎ってんだよ」とおばあさんは答えてくれた。

    「太郎といっしょに生活しているんでしょう?何才くらいになるの?」と私が聞くと、私の聞き方が悪かったのか、

    「八十二歳だよ」と、おばあさんは自分の年を教えてくれた。聞いたのは犬の年齢であったのだが、私は、

    「へー、八十二歳なんだ〜、元気ですね〜、太郎は?太郎はいくつになるんです?」と、もう一度太郎の年齢を聞きなおした。すると、やっと私の質問の内容がわかったのか、

    「アハハハハハ、太郎のことかい。あたしゃ自分の年かと思ったよ。アハハハハ」しわしわの顔をますますしわだらけにして、歯のない口を大きく開け、そりゃもう楽しそうに笑った。私も娘も、そんなおばあさんにつられて、「アハハハハ」と笑った。

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  • from: きなこさん

    2011年11月29日 22時10分24秒

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    18

    私の中に純血種と雑種のちがいはない。どちらにもよい所、悪い所があるし、犬は犬である。

    電話で教室の問い合わせをしてくる人の中には、「雑種でもいいですか?」と聞いてくる人がいるが、そういう人に私は言う。

    「雑種は犬ではないんですか?雑種のどこが純血種におとりますか?どうぞ自信をもって、私の愛犬は雑種ですと言ってください。雑種でもいいですか?と聞くことからして、自分の愛犬を心のどこかで卑下(ひげ)しているということですよ」

    私の愛犬の中には、雑種だってもちろんいる。その子たちが純血種の犬たちと何か待遇がちがうか、といえば全員同じだし、私が犬たちに向ける愛情もまた、同じである。また、犬たちの心や訓練性能(くんれんせいのう)が、雑種と純血種とで極端にちがうといったところもない。ちがいが出てしまうとしたら、それは犬種のちがいよりも飼い主の心がまえや生活のしかたが原因だ、と言っていい。雑種だからこその幸せと不幸せ、純血だからこその幸せと不幸せというものが、どちらにも同じだけあるものなのだ。

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  • from: きなこさん

    2011年11月29日 21時47分13秒

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    17

    私と娘のそんなカーミングシグナルを理解してくれたのか、その犬はすぐ横を通った私たちにチラッと視線を向けただけで、攻撃的な態度に出ることはなかった。おばあさんの真横(まよこ)にいったその瞬間、私はおばあさんに声をかけた。

    「いい犬、連れてますねぇ〜」

    おばあさんは一瞬ビックリしたようだったが、次はキョトンとした。私たちの顔を見、次に連れていた愛犬に視線を向けると、ちょっとおどおどしたように、

    「私の犬かい?」と聞き返してきた。

    「ええ、ええ、そうですよ。いい犬ですねぇ〜」と、私がなおもほめると、

    「お前さん、この犬はどこにでもいる雑種で、特別にいい犬なんかじゃないですよ。雑種を知らんかね?」と、今度はスラスラと答えてくれた。

    「そうですね。雑種ですね。私がいい犬だと言ったのは、この犬、おばあさんが大好きなんだなっていうのがよくわかってね、それでいい犬って言ったんですよ」

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  • from: きなこさん

    2011年11月29日 21時12分59秒

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    16

    私と娘は、おばあさんの連れた犬と目を合わさないようにしながら、ゆっくりとした動作で、ゆるやかなカーブを描きながら近づいた。

    目を合わすということは、知らない相手であればあるほど、自分の中にある相手への敵意を表すことになる。かんたんにいえば、「ケンカを売る」ということになるのだ。

    また、カーブを描きながらゆっくりと近づくのは、「私にはあなたに対する敵意はありません」という意味をもつ。逆にいえば、こちらをにらみつけながら、まっすぐに向かってくる犬は要注意で、敵意をもって近づいてきている、ということである。

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