おばあさんの連れていた犬は、このアイコンタクトをしょっちゅうとっていた。
二車線の横断歩道をおばあさんがわたりきるまでに、十回くらいは振り向いたのではなかろうか。
犬が振り向くたびに、おばあさんはニコニコと笑い、手押し車のとってから手をはなすと、手のひらをヒラヒラと振りながら、「前へ進みなさい」と言わんばかりに犬をうながした。
犬はそんなおばあさんの様子を確かめると、安心したように歩きだし、そしてまたすぐに後ろを振り返る。クルクルとしょっちゅう振り向くその仕草(しぐさ)は、とても忙しそうだった。