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ゾイドバトルストーリー文藝部

ゾイドバトルストーリー文藝部>掲示板

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  • from: たかひら鶉さん

    2008年09月05日 10時54分10秒

    icon

    <連載小説>白霧の戦線〜Banners Of Liberation〜



    白 霧 の 戦 線 

    〜Banners Of Liberation〜

                         written by TGZ

    CAUTION!!
    著者本人ノ許諾無キ部外ヘノ帯出を禁ズ

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コメント: 全8件

from: TGZさん

2009年01月23日 18時34分25秒

icon

「第三話 解説兼後書」

■ベアファイター
BWIライセンス生産の機体をチューンしたプラムヤ隊仕様のベアファイター。
トルクが通常機と比べ二割り増しとなっている。
貧弱な機体が多い革命軍の突撃隊の中核。
ラリーサ機にはナンバー「01」、アドリス機にはナンバー「02」のマーキングが入っている。

■ラリーサ・アントーノフ
ジャミル民国出身。
ジャミルの社会主義政権樹立前にタイレンに移住していた。
ホワイトミスト直属のベアファイターのみで構成された戦闘隊「プラムヤ隊」の女隊長。
ライカスが絡むと何かと口を出すが、いつも軽くあしらわれている。
普段は冷静沈着。
イヴナに対しては姉のように振舞っているようである。

■アドリス・ハブゼン
タイレン王国出身。
プラムヤ隊の副隊長。丁度ラリーサの父親ほどの年齢であり、経験のラリーサが経験の足りない部分を良くフォローする。
ライランドとは酒飲み仲間。

●後書
いやはや、同時進行の項目が多すぎて、ライカスがすっかり説明役になってしまいました。
「彼女」の事とか、ウェリントンが何か怪しかったりとか、副長が出て未だにラリーサ隊長が活躍しないのは何故だとか、ゴジュラスどうした、だとか色々あると思いますが、順次消化していきたいと思いますので。
ちなみに今回のタイトルの「一殺多生」と「一匹の羊」は仏教用語とキリスト教用語です。ちょっと説明すると長くなるので、まぁブランドンが悩んでるのを表していると思ってもらえれば結構です。
別働隊を任せられるキャラも出てきまして、ようやっと機動力が増して来そうです。
今後とも、ご期待せずにお待ちください(!?)

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from: TGZさん

2009年01月23日 18時19分37秒

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「第三話 『一殺多生と一匹の羊』 後編」
「ジャミング確認!」
「五度目……。そろそろ仕掛けてくるか?」
 顎に手を当て、カザントは呟く。
「第四及び第三エレベーターシャフト損壊! 地中貫通弾<バンカーバスター>です!」
「何だと!? ジャミングの範囲はまだ基地の被射程圏と重なっていないだろう!? 何故接近を許した!?」
 フラッドレーが怒鳴る。
「接近……いや、違う……! 地上格納庫にある私のアイアンコングを出す! すぐに準備を!」
「り、了解!」
「メインジェネレータ落ちます!」
「サブに切り替えろ!」
 基地の照明が非常用の赤色灯に変わる。
「砲撃確認! カノントータスとモルガキャノリーです!」
「通信、レーダー施設、破壊されました! 敵戦力数及び配置、把握出来ません!」
「くそッ……やってくれる!」

     *     *     *

「いくらルーチンワークだからっつって警備が甘ぇんだよ!」
 ギャリットは基地のマシンガンを乱射しつつステルスバイパーを基地の滑走路に走らせる。弾け飛ぶアスファルト。間髪入れず、レーダーにミサイルを撃ち込む。
「あんまり前に出すぎちゃいけませんよ!」
 一緒にチームを組む事になったガイサックのイヴナが言う。ジャミング下でも使用できるレーザー通信だ。
「分かってないな嬢ちゃん! 敵が滑走路から飛び立ったり、格納庫から出てきたりしちゃ元も子もないんだぜ!? 何の為に高価なミサイルぶっ放してると思ってんだ!」
 いくらガイサックやステルスバイパーが奇襲戦闘用ゾイドとは言え、センサーを騙して基地近くまで接近する事は不可能だ。だが、「火を落とした状態で、センサーに気付かれない」事はできる。ジャミングの影響下にあるうちに移動し、本体が撤退した後も潜伏する。そうすれば見つかる事はない。これがライカスの言った「置き土産」であった。
「そんなこと言ったって!」
「いいからさっさとサブジェネレータ落として来い!」
 ギャリットは地上格納庫のシャッターを破壊し、アタックゾイド隊の通り道を作る。
「わ、わかりましたよう!」
「奇襲隊! こちらブランドンだ! 遠距離砲撃で破壊できる部分は全て破壊した!」
「了解! 良い仕事してくれたぜ旦那!」
 回頭。地上格納庫から出てきたヘルキャットを叩く。崩れ落ちたヘルキャットの傍らをアタックゾイドが駆け抜ける。
「賛辞は作戦が終了するまで取っておけ。すぐに応援に行く」
 背後からの地響き。プラムヤ隊が到着したらしい。
「美人隊長さんももう来てるぜ。獲物が残ってると良いけどな!」
 刹那、派手な音を立ててギャリットの右側の格納庫の扉が弾け跳んだ。
「おっと……ボスのご登場ってか。これは旦那に残しとくよ」

「やってくれるものだな。私の主義ではないが……致し方あるまい」
 サブジェネレータまで破壊された為、拳で格納庫の扉を打ち破り、アイアンコングがその姿を月光の下に晒す。
 カザントは、拡声器を最大にして口を開いた。
「双方、撃ち方止めッ! 聞け、革命軍将兵! 諸君の指揮官の命は、我々の手中にある!」

     *     *     *

「何!?」
 流石のライカスも、指揮車使用のグスタフの中で腰を浮かせた。
「……申し訳ない、ぬかったようです」
 ウェリントンからの通信。
 隣の護衛であるはずのブラックライモスから、コクピットに突きつけられている電磁砲。
「グラントか……!」
 ライカスは額に汗を浮かべてブラックライモスのパイロットの名を呟く。
 トマス=グラント。ホワイトミスト直属の戦闘員の一人――だった男。
(遅かった……!)
 様子見にかこつけて、スパイを探っていたのだが……。

     *     *     *

「タイメイアまでを手放せとは言わん」
 そんなことを言えば、ウェリントンを殺してでも革命軍が向かってくるのが猩将の目には見えているのだろう。
「この場から引け。そうすれば彼の安全は保障しよう。撤退が完了した後に、開放する。ゴルドスはこちらで接収させてもらうが」
 ライカスのほかにもう一人、他人より強い衝撃を受けている男がいた。
「グラント……! 貴様……ッッ!」
「久方振りだな、ブランドン。まぁ、気付かなくても無理は無い。お前は俺の顔を知らんからな」
 顎を上げ、こちらを見下す男を、ゴルドスを経由して有線で映し出すモニターを、ブランドンは激しく睨み付けた。
(……あの時……この視線だった……! 俺の目は節穴か、何故気付かなかった!?)
「彼女が死んで以来か? いや、殺されて以来……まぁ、同じことだが、言い換えるなら俺が彼女を殺して以来か」
「ぬけぬけと……ッ。そこを動くな……!!」
「おいおい、お前が動くなよ。指揮官さんが肉塊に変わるぜ」
「貴様……」
「おっと、恨み言を長々と聞く気は無いんでね」
 ブツリと、通信が切れた。

     *     *     *

(今更驚きはせんが、やはりこんな男だったとはな……)
 カザントは諜報員グラントが敵と会話する内容を聞いて辟易する。
「さて、どうする、フッダール代議士? 聞いているのだろう」

     *     *     *

「こりゃあ危ないな……」
 ギャリットが呟くのが聞こえた。
「ひょっとして、『彼女』って……」
 マイクが言っていた言葉をイヴナは思い起こす。
(師匠……)

     *     *     *

「ッ!……参謀長!」
 ラリーサが息を呑む。
「グラントの野郎……!」
 アドリスは奥歯を噛み締める。

     *     *     *

(……私に取り付いた亡霊諸共消え去る良い機会、か)
「司令、構いません」
 ウェリントンは覚悟を決め、通信を入れた。しかし。
「そうはいかん。君を失う事は我々にとって、イェンバを落とし損ねる事よりも問題だ。それに、カザント将軍という男は取引に値する」
 ライカスは反対する。

「……戦闘に犠牲者は付き物だ。弾が当たれば死ぬのは一兵卒だろうと、幹部だろうと同じ事。時間が無いと仰ったのは司令のはずです。今ここでイェンバを落とし損ねれば、タイメイアだけで持ちこたえられるとは思えません。私だけを助けようとするなら、それは偽善だ……!」
 ウェリントンの感情を殺した声。
「君が死ねば、君の頭脳で助けられていた筈の人間が……いや、革命軍が必ず全滅する」
「詭弁だ。貴方の参謀は誰です?」
 例えそれがウェリントン自身を殺すような作戦であろうと、作戦を考えるのは自分の仕事だと、ウェリントンは言う。
「君の司令は誰だね?」
 しかしライカスは下がらない。
「五分だ。それ以上は待てん。言っておくが上空には複数機のサイカーチスが哨戒している。妙な動きはするなよ」
 カザントがそう言い残す。
(五分ね……さて、間に合うか……?)
 ライカスは顎に手をやった。

     *     *     *

「まずいな……」
「状況は?」
「ジャミングはまだ生きてる。カザントにしては珍しい手落ちだが……それを利用できるかどうか」
「要は、あのブラックライモスを落とせれば……いや、落とせなくとも、電磁砲さえどうにかできれば良いということですね?」
「ああ……ゴルドスに仕掛けさえされていなければ、な」
「その点については彼を信用しましょう……。展開、終了したようです」
「よし、仕掛けるぞ……! 『灯火』の名に賭けて……!」

     *     *     *

(こうなった以上は機体を棄て……)
 ブランドンはキャノピーの開閉レバーに手を掛け、しかしその手を止めた。
 ブラックライモスの電磁砲は、砲身下のケーブルさえ切断すれば、復旧に時間がかかる。返答までのリミットは五分。布陣の中でゴルドスに最も近い距離を考えれば、積み込んである対物ライフルを担いででも、向かえない事はない。問題はその後だ。自分の命はどうでもいいが、機体を放置すれば戦闘が再開した時、間違いなく真っ先にウルフが狙われる。
 イヴナとの会話以降、引っかかっていた事が、いきなり深刻な問題としてのしかかってきた。
「……傭兵にとって、ゾイドは……」
 殺しの道具に過ぎず、しかし同時に相棒。無抵抗に倒れる愛機の姿は想像するに忍びない。

――そもそも戦闘機械獣という存在自体が大いなる矛盾であるのかもしれない。

 ブランドンの言葉を聴いて、ウルフが唸り、頭を下げた。
「行けと、言うのか……?」
 そう言って気付く。
(グラントが「あいつ」の仇であるというのは、ウルフにとっても同じことか……)
「だが……。……?」
 レーザー通信のシグナル。頭部の位置が変わった事によって入ったらしい。
「師匠!」
 モニターに映るイヴナの顔。
 ここでの劣勢は全滅につながりかねない。全滅するにしても自分のことは良い、むしろもう二度と失うわけには行かないと思った相手がいる。そしてウルフの同意。
「俺が機体を棄てて奴の動きを一度止める。その隙を突けない参謀長ではないだろう」
「じゃ、じゃあウルフは……」
 ウルフが再び唸る。
「決めてるんですか、覚悟……」
 その唸り声を聞いてイヴナが呟く。
「時間が無い……俺は行く」
「……旦那」
 それまで黙っていたギャリットが口を開いた。
「何だ?」
「全てを天秤にかける事は無いぜ? まぁ、見てろ」

     *     *     *

「五分の猶予ねぇ……ささっと殺しちまって、相手がキレて向かってくる方が面白いんだが」
 グラントが呟いたその瞬間。

 対物ライフルの銃声。

 ゴルドスが、動いた。グラントはトリガーを引くが反応が無い。
「!?」
 ゴルドスのレールガンが火を噴く。
「……そうこないと面白くない!」
 ブラックライモスが屈む、射角の変化、浅い角度で突き刺さった弾丸は高い音を立ててライモスの上部装甲に弾かれる。
 用意しておいた爆破装置も作動しない。視界の隅で、迷彩服が動くのが見えた。
「また、死に損ねましたか」
 ウェリントンの声。ひとまずは、この男を対処するべきか。
「安心しろ! すぐにあの世に送ってやろう!」
 唸り始める超硬度ドリル。だが、ガツリとその角をゴルドスは咥え込む。
「これでも親衛隊の出身でしてね!」
 ドリルの右モーメントがそのままライモスを回転させる。
「うお……ッ!?」
「参謀長、そのままッ!」
 ライモスが地面に叩きつけられると同時にコマンドウルフの咆哮。
「チ……ッ! ブランドン!」
 ライモスが首を振りゴルドスから逃れ、同時に姿勢の安定しないまま無事な方の電磁砲を撃つ。
 轟音。地面が抉れ、土埃を抜けるロングレンジライフルが減衰する。

     *     *     *

「何が……!?」
 フラッドレーが呟く。
 規模は大きくないが、北東部からの迅速な増援。歩兵部隊が九割を占める。
「レジスタンスの連中だ……!」
 カザントからの通信。
「馬鹿な!? 『灯火』の戦闘部隊は一年前の鎮圧で全滅した筈では!? あれ以降、戦力の流入できるような状況では無かった!」
「機体の損害と人員の損害は必ずしも一致しない……。ライカスめ、手を回していたか……!」
 レジスタンス「灯火」。一年前にこの地域で反乱を起こした武装組織である。軍の鎮圧により機動戦力はほぼ壊滅。それ以降、作業用も含め、ゾイドの往き来が徹底的にチェックされるようになった為、再起の可能性は無いと考えられてきた。唯一の懸念事項は、レジスタンスの頭領格であったクスヴァント・ギルノークの戦死が確認されていない事だった。
「第二、第四格納庫、制圧されましたッ!」
「兵舎棟、応答ありません!」
「弾薬庫、応戦するも戦況芳しからず!」
 結局、止まっていた戦闘が再び動き出しただけのことだ。劣勢に変わりはない。

     *     *     *

 ウェリントンは情報管制に専念する為に下がっている。
「グラント……!」
 ブランドンは唸る。
「おぉ、いいなぁその気合……!」
 ウルフの跳躍。ライモスは避けずに角を突き出す。
 交錯する爪と角、飛び散る火花。
「仇だけは、討たせてもらうぞ……!」
 ウルフのドリフトが終わりもしないうちに ライフルの轟音。ライモスは一番厚い前面装甲で受け、突進、足元のブースターを点火する。
「仇ねぇ、こんな仕事してりゃ……殺す殺されるは茶飯事だろうがよ!」
 電磁砲の三点射。と、同時に突き上げられた角。
 ウルフが退り、距離を取る。
「だからと言って……人殺しを楽しむか!」
 ブランドンが唸る。今度はウルフがライフルを三点射。
「同じことだよ! どちらにしろな!」
 ライモスが屈む。

     *     *     *

 革命軍の「クリアー!」の声が次々と響く。
 基地内でも王国軍は、総崩れであった。

「総員退去だ!! 殿は私が務める!」
 カザントが怒鳴る。
「殿なら私が!」
 一応、フラッドレーの乗機はレッドホーンである。
「ライカスの『持ち駒』を見誤った私の手落ちだ! 君を危険な目には合わせられん!」

     *     *     *

「ぬ!?」
 ロングレンジライフルを乱射するウルフにブラックライモスが正面から突っ込む。
(捨て身か!?)
 だがしかし。空、爆音。
「サイカーチス!?」
「あばよッ!」
 ブラックラモスの脱出装置が稼動する。
「させるか……!、!?」
 組み付いたブラックライモスが、オートで圧し掛かる。
 グラントはサイカーチスに確保され、飛び去った。

     *     *     *

「なんとか間に合ったか……。ウェリントン君。敵は撤退行動に入った。掃討戦だ」
 ライカスは汗を拭い、通信を入れる。
「了解。ジャミングを解除します」
「いやしかし、無事でよかった」
「……」
 ウェリントンが何かを言う前に、隣の通信機が鳴った。
「ああ、やっと繋がった。こちら『灯火』代表、クスヴァント・ギルノーク」
 髭面の男の顔が映る。ライカスもライランドもアドリスも鬚はあるのだが、この男の場合、髭達磨の様相である。
「ホワイトミスト総司令ライカス・フッダールだ。今回の支援、感謝する」
 ライカスがモニターに目礼する。
「例には及びません。こちらも助かりました」
 丁寧な口調とは裏腹に、その後にがはは、と豪快な笑い声が続く。
「ついては、追撃を我々に任せて頂きたい」
「了解した。こちらからも余裕のある戦力は出そう。ただし、深追いはしない方がいい」
「承知いたしました」
 ブツリと、ラインが切れた。
「良いのですか?」
 ウェリントンが尋ねる。
「まぁ、カザント将軍相手の追撃戦で深追いするようなら、その程度の指揮官ということだ」
 このあたり、ライカスは冷然としている。

     *     *     *

「……取り逃がした、か」
 グラントに迷いも無く捨てられたブラックライモスを見ながら、コマンドウルフのキャノピーを開いてブランドンは呟いた。
「師匠!」
 ガイサックががさがさと森を掻き分けて現れる。
「……イヴナ」
「大丈夫ですか!?」
「ああ、問題ない」
 そう答えるブランドンの目はどこか虚ろである。
「旦那、俺は追撃戦に出てくる。嬢ちゃんは返したぜ」
 後ろに出てきていたギャリットのステルスバイパーが身を翻した。

     *     *     *

 掃討が完了したイェンバ基地。
「改めて例を言わせてもらう」
「いや、こちらこそ」
 ゾイドを降り、ライカスとクスヴァントが握手をする。
「いやしかし、惜しかった! あの『猩将』をもう少しで仕留められる所だったのではありますが!」
 クスヴァントは額に手を当て、『灯火』に残った数少ないゾイドの一つで彼の乗機、マンモスを仰ぐ。嘘か本当かは定かでは無い。が、言われたとおりに深追いはしなかったらしい。
「調子の良い事ばかり言わない!」
 クスヴァントの後ろの金髪の青年が嗜める。マテウス・ファルグリムと名乗ったこの青年は、クスヴァントの補佐役らしい。愛機は強化型のゴドスである。
 背後では遠くから響く喚声。町が、開放された喜びに沸いているようだ。

「……で、最初から説明して頂けますか?」 
 一通り挨拶が終わった後でウェリントンが言った。
「確かに、状況が飲み込めません」
 ラリーサが片眉を上げた。
「……グラントの件は?」
 ブランドンの声は低い。
「そうだな、まずは『灯火』の事から話そう。まぁ、万が一の事を考えても、どうしても基地は二つ以上確保したくてね」
 ライカスは言う。
「……つまり、タイメイアは『灯火』に預けるのですか?」
「そういう事だ。幸い、無傷で手に入った王国軍の機体がある。まぁ、一部は資金のために売却して、別の一部は整備のための部品取りになるだろうが、『灯火』のメンバー分の機体数は確保できる」
「我々は元々ゾイド乗りですから、基地防衛くらいはさせてもらいますよ。まぁ、たまには前線に呼び出してくれたほうが退屈せずに済むというものですが」
 クスヴァントが頷く。
「例の蜂起があったという一年前から手を回していた訳ですか?」
 ウェリントンが尋ねる。連携が上手く行き過ぎているし、一度は蜂起した団体がいくら締め付けが厳しくなったとは言え、カザントが存在を失念する程大人しくしているというのも妙な話だ。
「そうだよ」
 何食わぬ顔でライカスは答える。
「ひょっとして、他の地域のレジスタンスがまったく動いていないのも……」
「流石にヴァツトも馬鹿ではないから、ゾイドの流れには厳しい目がつけられている。それぞれがそれぞれの根拠地で蜂起しようものなら、各個撃破されてしまう。違うかね?」
 ラリーサの言葉を聴いてライカスが言う。
 なら戦力を一箇所に集めればいいのではないかと考えるかもしれないが、それにしろやはりゾイドの流れは目をつけられている。進軍と同時に戦力を拾って行く方が賢いやり方なのである。そして、王国軍は敵戦力数の正確な把握が出来ない。レジスタンスはある意味で覚悟を決めた一般人であり、蜂起するまでは無闇に取り締まるわけにもいかないのだ。
「まぁ、連絡役として一人、送ってもらった人間もいるが」
 ギャリットの事だろうとブランドンは見当をつけた。
「狸ですね……」
 ぼそりと、ウェリントンが呟いた。
「何か言ったかね?」
「いえ、そういえば大事な話があるとか?」
 途中でジャミングの為切れてしまったが、通信

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from: TGZさん

2009年01月23日 18時18分37秒

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「第三話 『一殺多生と一匹の羊』 前編」
「むむむむむ……」
「む……? 一体なにをやってんいるんだね?」
 格納庫。ライカスはガイサックのコクピットを見上げて言った。イヴナは気付かない。
「むむむ……」
「イヴナ君? イヴナ君!」
「あ――――っ!」
 イヴナの声に、びくう、とライカスが固まった。
「ああ……折角……」
 がっくりと首をうなだれるイヴナ。
「あ、指令」
 今気付いたようにこちらを向く。
「い、一体何を?」
「今朝、師匠に手合わせしてもらったんですけど、集中力が足りないって言われたんで訓練してたんです」
「訓練?」
 イヴナの視線の先をライカスは見た。ガイサックの鋏。そしてその間に。
「ガイサックの鋏で豆を持とうと……」
「……いやいやいやいや」
 ライカスが首を振ってから眉間に手を当てた。
(どうしてこう……)
 うつむいたまま微苦笑する。
「ところで何か御用ですか?」
 ライカスが顔を上げた。
「ああ、そうだった。君の師匠――ブランドンはどこだね? 次の攻城戦の準備が整いつつあるから、意見を聞いておきたいんだが」
「師匠ならコマンドウルフに」
 ライカスは傭兵達の代表――という言い方は正しくないかもしれないが――としてブランドンにちょくちょく意見を聞いていた。ブランドンが先の防衛戦でアイアンコングと渡り合った事は知れ渡っていたし、古参の傭兵の中には「二番の灰色」の名前を知って居る者も少なくなかった為、彼の処遇に対する不満はほとんど出ていない。むしろ、給金が変わらないなら、厄介事を引き受けてくれる人間がいるなら押し付けておくという、そろそろ打算的な態度になってきた傭兵も多かった。

「何を思ってガイサックなんだ……」
 コマンドウルフのコンピュータに記録された模擬戦のデータを確認しながらブランドンはぼそりと呟いた。
「や、ブランドン」
「司令」
 ブランドンは顔を上げた。
「どうだね、イヴナ君は?」
 ライカスがブランドンに尋ねる。
「正直言ってガイサックに向いているとは思えません。一発の被弾が致命傷につながりかねないあの脆い機体なら、極度の集中力が要求される。だがあいつにはそれが……無いとまでは言いませんが、足りない」
「ふうむ、色々苦労しているようだな、君達も……。ところで、次の目標が決まった。イェンバ基地だ」
「……!? あの『猩将』の指揮する基地ですか?」
「ああ、まともに航空戦力を動かしていないところから見ても、王国軍の最上部はまだ我々をよくある反乱の一つと評価しているらしいのでな」
「しかし、猩将は……」
 ブランドンは顔をしかめる。
「そうだな、確かにカザント将軍を臨時に派遣してきた程だ、最上部は楽観していても、将官クラスの一部には頭の良い連中もいるのかもしれんが……」
 ライカスはジャルナクの機知を見抜いていた。
「魚は頭から腐る物ですが?」
 最上部が馬鹿なら全てがだめになる、とブランドンは言う。
「それはともかく、我々はカザント将軍を退けた。恐らく王国軍の最上部も危機感を持ち始めた頃だろう。ならば、大部隊が押し寄せる前に、二つ目の拠点を制圧しておいた方が良い。それに……イェンバにはもう一つ、陥とすと特典が付いてくる」
「特典?」
 ブランドンが片眉を上げた。
「……事情が事情で詳しくは話せんのだが、以後の為にも陥としておいたほうがいいと思うのでな。詳細なデータは司令室だ。来てくれるか?」
「分かりました。……しかし、何故司令が直接ここに?」
「君達の様子を見るためだよ」
 飄として答えるライカスに対し、得心しかねたような表情をブランドンは顔に浮かべた。

     *     *     *

 王都ベドルナク。
「恐れ多い申しようながら、私は、連中を甘く見るべきではないと何度も上申致した……!」
 「一部の頭の良い将官」の一人であるジャルナク中将は会議の席で声に怒気を孕ませた。
「しかし、数とて取るに足らぬ程ではありませぬか?」
 将官の一人が言う。
「ですから、ライカスという男の存在、ヘリックの後ろ盾……それが何を意味するか、分からぬお歴々ではありませぬでしょう!?」
 ううむ、と将官達は顔を見合わせる。そもそも、カザントの「我危機ニ窮セリ」の電信がなければ、この会議すら開かれなかった。
(……ボンクラ共が……! ガイロスの後ろ盾を失ったこの状況の意味を分かっているのか、何の為の独裁政権だ!?)
 ジャルナクはジャルナクで苦心していたのだった。無論、革命軍側の知るところではないのだが。
 独裁政権の利点の一つはその意思決定の早さにある。それこそ鶴の一声で全てが決まるのだ。民主主義の煩雑な手続きを考えればその速度は雲泥の差と言える。しかし、一人の男が全ての案件に目を通せるわけではない。その間隙に、今は大きな問題があるのだ。軍の上層部が、事の重大さを飲み込めず、情報をヴァツトに伝えていなかったのである。
「閣下、全軍の機動許可を!」
 その遅れを今更取り戻そうかとするように、ジャルナクは半ば怒鳴るように言う。

「…………よかろう」

 ゆっくりと顔を上げ、重い口を開き、雷光走る目を開く。司政公ヴァツト・ボランディオは許可を下した。
「ガイロスの後ろ盾も無い状況だ……指揮は貴官に一任する」
「は……」
 と、ジャルナクが畏まる。
(持ち堪えろよ……「猩将」……!)

     *     *     *

「隊長! 参謀長が呼んでやすぜ!」
 格納庫。並ぶベアファイターの下でプラムヤ隊の副隊長、アドリス・ハブゼンが言う。筋骨たくましい壮年の男である。
「分かった、すぐに行く!」
 タラップも使わず、ラリーサはベアファイターのコクピットから飛び降りた。
「あんまり根をつめんで下せぇ。隊長にぶっ倒れられると俺らが迷惑しやすんでね」
 肩をすくめてアドリスが言う。ラリーサは戦闘部隊の隊長としての仕事と、ホワイトミスト上層部の仕事が重なって、ほとんど休みが無いのだ。
「大事な時期だし、そうも言ってられないわよ。これぐらいの事だったら、ブランドン君もやってるみたいだし」
 ブランドンも自機の整備とイヴナの稽古の上に総指揮にも一枚噛んでいる。
「あの御仁は少々規格外でしょうよ」
 アドリスが苦笑いする。
「何にせよ、待たせちゃ悪いし行ってくるわ!」
「へぇ。了解しやした」

「これがイェンバ市の地形図と、基地の配備戦力です」
 ウェリントンが地図と資料を広げた。
「……基地の周辺部北東は市街地、反対側は森林丘陵地帯か……。いくら軍事基地の近くとは言えやけに検問所が多いな……」
 ブランドンが呟く。
「一年ほど前に反乱があって、それ以降民間のゾイドはこの地区から絞め出されたそうだ。軍の目の厳しい地区でもある」
 ライランドが言う。
「だからこそ、我々が開放する事により大きな意味がある、と」
 ブランドンの言葉にウェリントンが頷く。
「しかし、出来るだけ民間に被害を出さずにイェンバ基地を攻略するのはかなり骨が折れそうですが?」
「数は少ないながら航空戦力も配備されている……」
 ブランドンが片眉を上げ、ラリーサが頬を撫でる。
「『出来るだけ』では不十分だ。民間に被害を出せば我々の立場が限りなく危うくなる」
 ライカスが言う。
「そういうわけなので、私と将軍とで策を講じまして」
 ウェリントンがライランドの方を見る。
 ライランドは頷いた。
「正面切っての戦闘は無理とは言わないが、今後のことを考えても消耗はできるだけ避けたほうが好ましい。タイメイア防衛の為の最小限の数も割きたい。そこで、敵の戦力を出来る限り出撃前に無効化する」
「出撃前に?」
 怪訝顔のラリーサにライカスが頷き、口を開く。
「イェンバの格納庫は、立地条件上、大半が地下にある」
「なるほど、格納庫の出入り口を通行不能にしようと?」
 ブランドンが言う。
「その通り。まず、少数の隠密製の高い機体と、長距離砲撃の可能な機体で、基地のメイン、サブ両ジェネレータ及びエレベーターシャフトと、滑走路、格納庫のシャッターを破壊し、出撃経路を塞ぐ」
 ライランドが続けた。
「後は歩兵隊の仕事です。アタックゾイドの数からして、こちらが圧倒的に有利でしょう。首尾良く行けば、王国軍の機体も手に入れられます」
「少々貧乏臭い発想ではあるがね」
 ウェリントンの言葉に、ライカスが肩をすくめて言った。
「で、実動隊の君達に意見を聞いておきたいのだが」
「動かせる戦力数は?」
 ブランドンが問う。
「タイメイア防衛戦力は置いておくことになるから、総戦力の六割といったところだ」
 ライランドが言う。
 ふうむ、とブランドンは腕を組む。
「隠密性の高い機体……ガイサックとステルスバイパー程度ですね」
「一応、LRライフルを装備している俺のウルフも動かすことになるか」
 ラリーサとブランドンが呟く。
「しかし……いくら隠密性を頼るといっても、気付かれずに接近することが可能ですか?」
 ブランドンが尋ねる。
「ええ、森林の至る所に磁気センサーが配置されています。が、ブラフ用のカードは既に私が持っている」
 ウェリントンが言う。
「『カード』?」
 ラリーサが片眉を上げた。
「丁度、オーバーホールから帰ってきたところでね」
 ライカスがニヤリと笑った。ウェリントンが頷く。

「私の乗機――ゴルドスです」

     *     *     *

 出撃まで四時間。出撃前のチェックであわただしい格納庫。
「で、俺は留守番かよ?」
 マイクがごちる。
「そういうことになるな」
 ブランドンが言う。
「チ……光学迷彩がありゃあ……」
「休める時に休んでおくのも仕事の内だ」
 ちなみにこれはライカスがライランドに放った台詞と同じである。
「ヘルキャットもあんまり無茶させすぎちゃ、酷ですよ」
 イヴナが言う。
「……ま、それもそうか」
 マイクはヘルキャットを見上げる。
「今思えば一緒に戦ってきたゾイドの中じゃあ一番付き合いが長いんだよなぁ」
 がりがりとマイクが頭を掻く。
「そうなんですか?」
「ああ、コイツの前に乗ってたフロレシオスは、弟にすぐ譲ったからな」
「……ふろれしおす?」
 イヴナが首を傾げた。
「ヘリック製の最初期の海戦戦闘ゾイドだ。現役で動く機体が残っていたとは驚いた」
「将軍」
 ライランドが現れた。
「何故ここに?」 
 ブランドンが尋ねる。
「司令に様子を見てくるように申しつけられたのだが……どうも、さり気なく見て回るというのは私には向いていないらしい」
 ライランドが肩をすくめた。「大物のくせにさり気なさすぎる司令の行動は異常ね」とは後でこの話をイヴナから聞いたラリーサの弁である。
「それはそれとして、君は陸戦が専門じゃなかったのか」
「ま、まあ、それはいいとして。イヴナちゃんのガイサックは?」
 何が気まずいのかマイクが強引に話を変える。
「そうだ、俺も気になっていた。何を思ってガイサックなんだ?」
 ブランドンが話題にのっかかる。
「え、何でって、ウチでずっと使ってた作業用ガイサックのコアを、戦闘用のフレームに移植したからですけど?」
「むう……」
 ブランドンは苦い顔をする。
「私がアイアンコングの前に出て行けたのも、ガイサックが行っていいって言ってくれたからなんですよ?」
「……」
 ブランドンはガイサックを省みる。
「師匠のウルフは?」
 そしてコマンドウルフを仰いだ。
「……親父がBWIから買ったものを引き継いだ」
 そういえば、そういう因果があったのだと、今更ながらブランドンは思う。
「そうなんですか。すごくいい子ですよ、ウルフ」
「いい子?」
 ライランドの疑問の声。
 コマンドウルフが唸る。
「……いつの間に懐いてるんだ……!?」
 マイクが驚く。
「これは……一種の才能かも知れんな」
 ライランドが言った。

     *     *     *

 王国軍イェンバ基地。
「西南西のセンサーがジャミングされています!」
「スクランブルをかけろ! 偵察にサイカーチスを出せ!」
 フラッドレー中佐が怒鳴る。
「西南西……? この基地に正面から来るのか」
 カザントは怪訝顔をした。革命軍の次の目標は戦力の少ないダマルカンかアヌタングだと踏んでいたのだ。
(確かに上のお役所仕事の所為で我々は動けなかったが……)
 まだ正式に討伐命令は出されていない。が、迎撃の為の出撃は、その性質上当然の事だが、許可が無くとも行えるようになっている。そして、上にお伺いを立てずに基地司令の判断で防衛戦中の他基地の増援要請も受けてよい。
「スクランブル発令! スクランブル発令!」
 ダマルカンとアヌタング、二つの基地のどちらかを攻めに入ったところを背後から挟撃するつもりだったのだが。
「シーエアラ ツー、テイクオフ! 離陸を許可する!」
 それにしろ、イェンバの戦力は少なくない。攻撃に出せる機数は多くなかったが、迎撃なら全基地の戦力を出撃させても構わないのだ。
「高速戦闘隊は格納庫で待機、指示を待て!」
 戦力差を考えると、この段階でイェンバを攻めるのはあまり賢い策とは言えない。
 ダマルカンかアヌタングを攻めても挟撃されると分かって、まず最初にゴリ押しでイェンバを攻める事にしたのか――。
 そこまで考えてカザントは気付いた。
「いや、ジャミング……ッ! そうか……!」
 カザントは舌打ちする。
「どうされましたか、准将?」
 フラッドレー中佐が尋ねる。
「いや、これは少々面倒な事になるぞ……。アイアンコングもスタンバイさせておいてくれ」

     *     *     *

 丘陵森林地帯。ギャリットは岩陰から、スリーマンセルで向かってくる蒼黒のヘルキャットの間にステルスバイパーをいきなり躍らせ、煙幕弾を発射した。
 各種センサーの情報と自身の勘で三機全てをロックする。全てが一瞬。六基に増設されたヘビーマシンガンが火を噴いた。
 爆風収まらぬうちに、事態に気付いたモルガの一個小隊がこちらに機首を向ける。
「生憎、こういうのは俺の独壇場だぜ……!」
 滑るようにステルスバイパーが樹木の間を縫う。
 先頭のモルガの突進を避け、その一機に絡みつき、そのままマシンガンを乱射。同士討ちを恐れたモルガは成すすべも無く蜂の巣と化す。
 最後に絡み付いたモルガの動力部に一発くれてやったその時、信号弾が空に輝いた。
(第一段階完了か)
 珍しく戦場へ出た参謀長からだった。

     *     *     *

「以上です」
 報告を聞いたカザントは渋い顔をした。
「案外あっさりと引いて行きましたね」
 フラッドレーが言う。
「いや、まだ次があるぞ……」
 偵察機からの報告だと、戦力はそれほど多くなかった。地形のお陰で探索し辛いのが災いして、正確な数は分からなかったが、明らかにこの基地を攻めるには少なすぎた。
「と、言いますと?」
 フラッドレーが片眉を上げる。
「こちらの疲弊を狙ったハッタリだ。我々はいつ全戦力を投入すべきかの判断が付かん」
「……なるほど、ジャミングを掛ければ『攻めてきた事』は分かっても『敵戦力数』は分からないが故に?」
「その通りだ」

「西南西のセンサーにジャミング!」
「やはり……当たって欲しくない予想ではあったが」
 カザントは唸った。

     *     *     *

 10時間後――時刻は2130。イェンバのセンサーレンジ外ぎりぎりの森の中。ゴルドスと護衛のブラックライモスが佇む。
(さて、そろそろ仕掛けますか……)
 ウェリントンは薄暗いゴルドスのコクピットで、モニターの明かりでタイムテーブルを確認する。
「ヴァイシュタインだ。カノントータス隊、モルガキャノリー隊、配置に付かせた。いつでも構わない」
「プラムヤ隊、控えています」
「こちらフッダール。『置き土産』及びアタックゾイド隊も問題ないようだ。しかし、出番が無いと言うのはいささか退屈だな……」
 報告を聞いて、最後の台詞は無視し、ウェリントンは頷く
「了解。Phase5、開始10秒前。同時にジャミングを開始」
 モニターの数字が減っていく。
「…………ああ、そうだった。ウェリントン君、後で大事な話が……」
(何!?)
 ライカスの声は、ジャミングの開始によりノイズに掻き消された。

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from: TGZさん

2008年10月14日 18時08分00秒

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「第二話 解説兼後書」

■ガイサックカスタム
イヴナの愛機。ガイサックに都市・礫砂漠戦用迷彩を施し、尾部ウェポンラックの武装を改修した機体。センサー機能などが強化されている。ちなみに、追加武装のクローを使うには両脇の装備のパージが必要。

■イヴナ・サーヒブ
ブランドンの押しかけ弟子。タイレン王国出身。問屋業をしていた両親が武装警察に連行された為、革命軍に参加。努力家だが、その努力が空回りする事も。ガイサックは作業用の機体のコアを、ジャンクを集めて作ったフレームに移植したものらしい。

■マタンナ共和国
遊牧民族「カヌグル」が作り上げた国家。共和国化にはヘリックの圧力があったといわれる。統一戦争に参加した客将カザント・ヴィシュナワートは「追い出された」と言ったが仔細不明。

■プラムヤ隊
ホワイトミスト直属の戦闘部隊。ベアファイターのみで構成されている。隊長はラリーサ・アントーノフ。

●後書
長らくお待たせいたしました!待ってる人が居るかどうかは別として!(滅
B.O.L.二話「戦場の一連托鉢」です。
イヴナとライランドがメインですが、かなり盛りだくさんなので一話の三割増し位の容量になってしまいました(サークルプレーヤーから文句言われたのでやむなく前後編に;
一応名ありキャラのほとんどに役割分担させましたが、本人の言うとおりラリーサ隊長が噛ませなんで、そのうちちゃんとプラムヤ隊の活躍も書きたいと思います。
ちなみに、一部堀田さんのアイデアを流用させていただきました。この場でお礼申し上げます。ありがとうございました。

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from: TGZさん

2008年10月14日 17時49分27秒

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「第二話 『戦場の一蓮托生』 後編」
「ゾイド乗りの腕はベテランとは行かないまでも……指揮官が優秀だな」
 コマンドウルフを横滑りさせながらブランドンが呟く。
 ロングレンジライフルを三点射。避けられた。返しでビームが束になってコマンドウルフを目掛ける。
「……先程の言葉は取り消すか」
 ウルフを横っ飛びさせブランドンはニヤリと笑った。
「余裕ブッこいてる場合か! ったく勘弁してくれッ!」
 隣でマイクがヘルキャットを走らせながら叫ぶ。
 さらにライフルのパワーレベルををミリタリーからチェックへ落とし乱射。同時に跳びずさる。
「むっ!?」
 着地時に右前足のダンパーに異音が響く。
(くッ! さっきのビームか! 高負荷機動はできんな……。持つか……?)
 一声ウルフが吼えた。
(そうか、まだやれるか……!)
 敵は王国軍の黒と青で塗られたヘルキャットでほぼ統一されていた。こちらは城砦をあまり離れる訳には行かず、構成機もまちまちだ。同一機で構成されている為同機動力のヘルキャット隊で攻めては引くを繰り返す事で、機動力の異なる革命軍機を分散させ、集中攻撃を掛けていた。さらに部隊を三列に分け、陣対陣に有利な陣形で突撃させた後、各個戦闘に移し、自軍戦力が分散しきる前に第一陣を退かせ第二陣を突撃させる波状戦法を取っている。
 流石に傭兵達も瀬戸際での引き時は心得ているのか、死人は少なかったが戦闘不能となる機体は増える一方だった。
「こ……このままじゃあ……!」
「弱音を吐くな!」
 イヴナの言葉につい反射的に言ってしまってからブランドンはしまったと言う顔をする。しまったと言う顔をしながらヘルキャットの前足を噛み砕く。
(奴には構わんと決めていたが……)
「は……はい!」
 ブランドンの心情を知ってか知らずかイヴナが返事をした。

「戦況はどうなっている!? 敵機数と構成を正確に! 出られる機体は……!?」
 無線にがなりたてながらライランドはディバイソンに乗り込んだ。
「やはり高速機での波状戦法か……分かった。ああ、すぐに出る!」
(この戦い方……!)

「これ以上は……!」
 ステルスバイパーに乗って煙草を咥えた傭兵、ギャリット・ボールドウィンは唸った。
 周りは青黒のヘルキャットのみ。完全に孤立している。
「万事休すか……ッ!?」
 刹那、轟音とともに幾条もの光が降り注ぐ。数機のヘルキャットがまとめて吹き飛んだ。
「死にたくないだけならば退がっていろ! 勝利も手にしたいのなら私の指示に従え!」
 通信が開いた。
「ディバイソン……!将軍か」
 ギャリットは呟く。
「聞こえているのかッ!そこのステルスバイパー!」
「は、はい!」
「全軍に告ぐ! この戦況では役に立たん装甲擲弾隊は退がれ! 砲撃機、城壁上部からの援護に専念! 高速機、正面戦闘! 突撃機、迂回して敵の頭を潰すぞ!」
 後方からラリーサのベアファイターが躍り出た。
「プラムヤ隊! 続け!」
 群れを成して突撃する鋼鉄の猛熊。ヘルキャットは退がりはじめた。

「反乱軍、まとまった反撃に移り始めたようです」
 波状攻撃を仕掛けるヘルキャット隊の後方。指揮者使用のグスタフ。
「指示は早い。『指し手』も悪くは無い。だが伝達が遅いな」
 カザントが言う。
「機体の準備は出来ているか? じきに敵はここを狙ってくる、私も出るぞ」
「問題ありません」
 フラッドレーが言った。
「手筈通りに頼むぞ」 

「……ゴジュラスは出せるか?」
 情報管制の喧騒飛び交う司令室で、通信機を通してライカスは技師長に呼びかけた。
「出せるっちゃあ出せます。整備は終わっておりますからな。ただ、銭もパーツも少ないということを考慮していただけるとありがたいですが」
「分かった」
「この戦況では逆にゴジュラスの出る幕は無いのでは?」
 ウェリントンが言う。
「いや……まだ分からん。これで終わるとは思えん」
「根拠は?」
「……将軍が本気を出している。前回は私のお供だったが今回は……」
(それにこの戦い方は……)
「成る程」
 ウェリントンは目を細めて頷いた。
 ライランドの指示に乗り遅れた、あるいはそれを無視した機体は孤立し集中攻撃を受けて大破していく。だがその数は少なかった。
 敵はこちらの動きを読むと同時に陣形を変える。防御に適した方陣。そして波状移動のサイクルが早くなった。出来るだけ消耗せず敵を進ませない為だ。
「城攻めで防御陣形に入りましたか……これはもう撤退の準備ですかね」
 ウェリントンが言う。
「いや、これは……何かを待っている……?」
 ライカスが呟く。
「?」
 ウェリントンが片眉を上げた。
「すまんがウェリントン君、後は頼むぞ!」
 ライカスは格納庫へ駆け出した。
「……やれやれ」
 ウェリントンは呟き、その自分の声にハッとし、そして首を横に振った。
(私は……馴染んでいるのか……あの男とこの仕事に……!?)

「あれが指揮車かッ!」
 王国軍のグスタフをディバイソンのモニターが捕らえた。
 敵陣を切り裂く突撃機の一団。後方を高速機が固め、退路を確保する。
 突如、ヘルキャットがザッと下がった。グスタフに牽かれた巨大なコンテナが開く。
「その肩章……やはり貴様か、カザント・ヴィシュナワート……!」

「アイアンコング……!」
 イヴナは呟いた。
 名前は忘れたが東方大陸のボードゲームの駒を模ったパーソナルマークがペイントされている。
「やはり貴様か、カザント・ヴィシュナワート……!」
 オープンチャンネルでガイサックの通信が開いた。
(将軍!?)
「相変わらずのようだな、ライランド」
 これはアイアンコングからか。
「何故マタンナの客将だった貴様が『そこ』に居る。よりにもよって……ヴァツト指揮下の王国軍等にッ!!」
 マタンナ共和国。エウロペ東部の小国で、長く明確な国境を持たず、「カヌグル」と呼ばれる遊牧民族が多く暮らしていた。近年になり近隣諸国による領土分割が始まり、それに抵抗する為、統一戦争が起きている。カザントは王国軍からその統一戦争に外交の一環として送られた増援隊の指揮官だった。ちなみに、ZAC2099年1月に終わった統一戦争の後、マタンナはヘリックの後押しで共和国化し、現在もヘリック共和同盟圏の一国だ。
「知れた事、マタンナを追い出されて元の所属に戻ったまで。そして我が目的、我が誓い……それを果たさんが為に」
 全ての機体が止まっている。パイロット達は二人の会話に耳を傾けているのだろう。
(……将軍はこの人と見識がある……?)
「分かっている筈だ、今の王国軍の実態……! それでも尚ッ、そこに残るかッ!!」
「私は軍人! 理由など、それで十分」
 イヴナにはその声が苦渋を含んでいるように聞こえる。
(十分……? そんな訳ない……。理由は自分で見つけるべき物……。あなたの『理由』は……)
 イヴナはコマンドウルフの方を見た。

「今の時点では……最早語る事は何も無いッ!」
 アイアンコングが跳躍した。
「ぬぅッ!」
 ディバイソンが跳び退る。
 轟音。
 地面が、割れた。
「来ないのか?」
 感情を押し殺した声。コングが胸の前に掲げた拳から土がパラパラと落ちる。
(敵だというのなら……今は、ただ、戦うのみか……!)
 ディバイソンが頭を上げた。
「破ッ!」
 一閃する超硬角。それを跳んで回避するコング。
 ディバイソンは勢いを殺さず蹄で急旋回。十七の轟音が大気を穿つ。避けられた。
「フン、『脇役』がッ!」
「な、に、をぉおおおおおッ!!!」
 再び超硬角の一閃。コングは今度はそれを正面から受け止めた。
「な!?」
 超硬角が掴まれている。
「ぬうえぇいッ!!!」
 掴んだままコングが上半身を回す。
 ディバイソンの機体が、宙を舞った。

「な!? 将軍!!」
 ベアファイターの一団――プラムヤ隊がアイアンコングに突撃した。
 避けられる、殴り飛ばされる、投げられる。周辺でも戦闘が再開した。ヘルキャット隊が革命軍とぶつかり合う。
「!」
 ブランドンは我に返った。
「マイク! 援護を!」
「って、え!? わ、分かった」
 ディバイソンは地面に叩きつけられてから動いていない。
「チッ!」
(この戦況ではゴジュラスは出撃していまい……!)
 マイクの援護射撃を受けながらスモークを全開にしてコングに突っ込む。
 肩関節を狙ってライフルを発射。コングはわずかに体をそらす。射角が浅くなった。拳を避けて跳び退る。
(外したか。だが……!)
 追い縋るコングが煙幕の中に突っ込んだ。
 ライフルのモードをミリタリーからマックスへ。感度を最大にしておいたセンサーを頼りに撃ち込む。一発……二発……三発……。
「!?」
 煙の中から拳が飛び出す。
「く……ッ! ……!?」
 ウルフの右前足が崩れた。
(さっきの損傷かッ!!)
 残った足で直撃だけは避けようとする。
 そこへ。
「!?」
 イヴナのガイサックが、割って入った。

 文字通り吹き飛んだ。マイクのヘルキャットの頭上を越える。
 破片をバラ撒き、横滑りし、止まる。顔から血の気が引くのが分かった。
「バカがッ!!!」
 ブランドンは叫ぶ。ウルフが腹から大きく吼えた。怯むコング。
「ぬおぉおッ!」
 ライフルを強制排除。右の肘関節に喰らい付く。遮二無二振り回される。
 ウルフが飛ばされた。……が、コングの右肘のアクチュエーターが音を立てて爆発する。
「ブランドン!!」
 マイクが叫んでいる声が聞こえる。
(南無三……)

 だが、コングが顔を向けていたのはウルフではなかった。

「生きているか? 私に話しかけられたら死ぬなんてジンクスを作らないで欲しいものだがね」
「司令!?」
 ガトリングの付いたヘルキャットのパイロットが叫んだ。
 ウルフが弱くだが確かに唸り、首を上げる。
「ガイサックも回収した。パイロットも生きているそうだ。…………さて」
 ライカスは顔を上げてアイアンコングを見た。
「久方振りだね。カザント・ヴィシュナワート将軍」
「……ライカス・フッダール代議士。ライランドの仲立ちで会ったとき以来か」
「こちらに来る気は?」
「折角だが……断らせてもらう」
「ふむ……では戦うかね?」
「右腕が使えん状態でゴジュラスと……いや、貴君とやりあう愚は避けさせてもらう。あまり『高飛車』なやり方は嫌いだ。それに、手紙も回収した……」
 最後は聞き取れなかった。
 刹那、全てのヘルキャットが閃光弾を放った。

 後に残ったのは、動かぬ残骸と革命軍のみ。
「ウェリントン君、全軍に通達。『我々は勝利した。帰還せよ』とな」
「了解」
 スピーカー越しにウェリントンの声が聞こえた。

     *     *     *

「……」
「……」
「……」
「……」
 一緒に担ぎ込まれたブランドン、イヴナ、ライランド、ラリーサの四人は部屋の一角に横に並べられて寝かされている……もとい、いた。ブランドンとラリーサは寝ていろと言われたにも関わらず既に起き上がっている。
 死人も少なくない戦いだ。負傷者は多い。ベッドなど足るはずが無い。辺りは雑魚寝さながらである。
「やあ、気分はどうだね」
 ライカスが様子を見に来たらしい。
「最悪ですよ」
 開口一番この調子なのはラリーサだ。
「今回ほとんどど噛ませ同然でしたから、ああ、全く情けない!整備員も医療班も資金も足りないのに。足りないのは司令、あなたのせいですけれどね!」
「あまりまくし立てない方がいい、体に障る」
 ライカスの言葉にラリーサが固まる。
(ラリーサ隊長……こんな感じだったっけ?)
 かつぎ込まれる途中に二言三言ラリーサと会話をしたイヴナは思う。
「大体!そもそも……」
「ラリーサ隊長って、何か司令が相手だと多弁になってその上遠慮が無いですね」
 ラリーサの言葉におっかぶせてイヴナが言った。ラリーサがさらに固まった上に赤くなる。
「気のせいだと思うが?」
 何食わぬ顔でライカスが言う。
「司令も……狸、ですな」
 ライランドが起き上がった。
「大体の事情は聞かせてもらった」
 表情を変えてライカスが言う。
「そうですか……。彼と私は士官学校時代からの付き合いで……いや、そんなことは関係ないですな」
 ふむ、とライカスが首を軽く傾げる。
「彼が向こう側に未だ留まる理由は分かるかね?」
「自分は軍人である、それが理由だと言っていましたが……」
「『が』?」
 逆接に繋がる言葉をライカスは尋ねる。
「それだけではないような気がするのです。……根拠はありませんが」
「そうか……」

「イヴナ」
「……はい?」
 ライカスが出て行って、ラリーサが隊員の様子を見に行った時にブランドンが言った。ライランドは寝ている。
「何故あんな無茶をした?」
「聞かなきゃ分かりませんか? 理由」
 少し寂しそうな言葉。
(どのみち……付きまとわれるな)
 ブランドンは自嘲気味に笑った。
「……いいだろう」
「……? ……!!!? はい!? 何の事です!?」
「聞かんと分からんか?」
 ニヤリとブランドンは笑った。
「よ、よろしくお願いします!」
(二度と失いたくは無い……。なら……)
「自分を守れるだけの力は必ず身に付けろ、いいな」
「はい!」

 ライランドは隣でのやりとりを聞いて気付かれないように軽く笑った。
(若さだな……だが、私は……。彼にまで『脇役』と言われるとは)
「?」
 隣の部屋から騒ぎ声が聞こえてきた。
「あのおっさんの指揮なら俺らは勝てる!!」
「直接戦闘でのやられっぷりは酷かったけどな!」
「ワハハハハハハハ!!」
「ライランド・ホフマン将軍に乾パーイ!」
「かぁんぱーい!!」
「おい、俺らも混ざっていいか!?」
「誰だお前等?」
「構わねぇって! 入れ入れ!」

 『組織力』は改善しつつあった。

(私は……。ああ、まだいけるな!)
 ライランドは拳を握り締めた。

 格納庫。
「終わらねぇ終わらねぇ終わらねぇぇぇええええええ!!!!」
 ヘルキャットも整備が必要な上に、右前足全損のコマンドウルフと半壊したガイサックの修理を頼まれたマイクは死にそうであった。

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from: TGZさん

2008年10月14日 17時17分53秒

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「第二話 『戦場の一蓮托生』 前編」
「まずはタイメイアを陥とせた事を祝おう。君達の奮闘あってのことだ。礼を言わせて頂きたい」
 タイメイア城砦。革命軍の上層部がそろっている中で、ライカスが言った。
「さて、今後の事だが。まずは補給に関してだ。参謀長」
「では、申し上げます」
 ウェリントンが立ち上がる。
「タイメイア城砦の物資を全て接収し、捕虜はヘリックに引き渡す予定ですが、食料含め生活物資に関しては持ってせいぜい一週間分と言うところです。武器弾薬類に関しては……」
 ウェリントンが軍事物資を取り仕切る技師長の方を見る。
「戦闘の規模と頻度にもよるでしょうが、今回の戦闘を一回とすると三回程度の備蓄ですな」
 技師長が言う。
「へリックからの援助は?」
「協定で定められた最低限の物しか来ていません。やはり先方も気を抜けないようです」
 ウェリントンが応じ、腰を下ろす。事実、この後ガイロスはヘリックからの停戦勧告を無視する。
「将軍、今後の戦略についてはどう考える?」
 ライランドの方を向き、ライカスが言う。
「まずは、このタイメイア城砦を拠点として使う体制を整えたほうが良いかと考えます。組織力を改善する期間も必要でしょうし、ヴァツトが勢いだけで倒せる相手とは思えません故。ただ、

補給の件もあります。あまり手間取っては後手に回る事にもなりかねませんな」
「組織力の改善……ですか」
 ホワイトミスト直属の戦闘部隊、プラムヤ隊の女隊長、ラリーサが柳眉を寄せて呟く。
「将軍、その『組織力の改善』はどうなさるおつもりか?」
 ホワイトミストの幹部の一人が言う。
「それは……」
「呆れた物だ、考えがないと!?」
「まあまあ、落ち着きたまえ。考えのある者は?」
 ライカスが言う。
「資金さえあれば……!」
 別の幹部が言う。
「金で繋ぎとめた結束等脆い物だ。危うくはあるが、今のヴァツト打倒でなんとか持っている組織を、方向性を変えないまま纏めねばならん」
「とはいってもゴロツキ共がそう上手く……」
 幹部の台詞にライカスが言葉を被せる。
「彼等は彼等で事情が有って傭兵を生業としている者が多い。我々が地下組織として活動してきた様にな」
「……それは……そうかもしれませんが」
 傭兵をゴロツキと言った事を非難したらしい。
「しかし傭兵業は信用の上に成り立つ商売だ。資金さえあれば相応の働きはするのでは?」
 また別の幹部が言った。
「たとえそうにしても無いものねだりでしょう」
 ウェリントンが言う。
「ところで技師長、司令のゴジュラスは……」
 ラリーサが言った。
「ああ、そのことですが」
 技師長はニヤリと笑った。

「ブランドンさん!」
「言ったはずだ、弟子など取る気は無い」
「お願いです、この通り」
「知らん」
 整備員の人数不足で何時整備してもらえるか分からないので、自分でコマンドウルフを整備するブランドンだったが、そこにイヴナが付きまとっている。
「おい、そこの君! ガイサックの整備で分からんところがある。ちょっと来てくれ!」
 整備員が声をかけた。
「え、あ、は〜い」
「糞ッ! 光学迷彩がありゃあこんなに損耗しないだろうに!」
 ガイサックの方へ駆けていくイヴナを見ながら隣のヘルキャットから、同じく整備中のマイクが言う。攻城戦で調子に乗りすぎてヘルキャットを痛めたらしい。
「輸出仕様の機体には光学迷彩は装備されていないんだろう?」
 手を止めずにブランドンが言った。
「変なところで出し惜しみしやがって……ガイロスの連中め」
「光学迷彩を装備したところで、その装備にコストと手間がかかるだけだと思うがな」
 傭兵の機体選びに重要なのは、性能よりもまず、損耗率と部品のコスト、規格外の部品も受け入れられる設計上の余裕だ。
「……むぅ。まぁ、それはそうと、そこまで嫌がる理由は何だ?」
「奴のことか?」
 ブランドンが手を止め、ガイサックの方を顎でしゃくった。
「そ、イヴナちゃん」
「……生憎、その気も義理も無いんでな。それに、あの手の人間は苦手だ」
「煮えきらんなぁ。お前らしいといえばお前らしいが……」

     *     *     *

 時は少し遡る。タイレンの王都、ベドルナク近郊。王国軍基地、ドルニテ。
「ぬうッ……。デモクラット共め!」
 ジャルナク中将は報告書を握りつぶした。
「中将、状況は?」
 男が部屋へ大股で入って来た。
「カザント准将か。反乱軍の手によってタイメイアが陥ちた」
「タイメイアが……!? 反乱軍の指揮官は誰です!?」
「フッダール、ライカス・フッダールだ」
 ジャルナクは忌々しげにその名を口にした。
「ライカス……」
 カザントが呟く。
「あの男、一度投獄されて大人しくなったと思っていたが……。狸め……!」
 ジャルナクがより一層報告書を握り締める。
「各地のレジスタンスは?」
「まだ目立った動きは無いが、時間の問題だろう。フッダールがヘリックのを後ろ盾を取り付けたらしいからな。連中がこの機を逃すはずが無い」
「! ヘリックの……ということはやはりあの情報はダミーだったのか」
 カザントは首を振った。
(しかし……ヘリックの後ろ盾か……これは問題だな。あの国のような事にさせる訳には……!)
「准将、幸い制空権はこちらの物だ。タイメイアに最寄のイェンバ基地まで飛んでくれんか。あの基地には優秀な指揮官がおらん」
「願ってもいない……叩き潰して見せましょう」
「……それと、反乱軍に諜報員が一人潜入している。行きがけに接触してくれ」
(諜報員?)
「分かりました」
「頼むぞ、『猩将』」

     *     *     *

「奴を見ていると……あいつを思い出す」
 ガイサックの方を向いてブランドンが呟いた。
「ん、何か言ったか?」
 整備を一足先に終えたマイクがこちらを向く。
「給弾作業も済んだのか?」
「ああ、一応な」
(弟子、か。何にせよ、また失うわけには……)
 ふと、ブランドンが顔を上げ、眉を寄せた。
「どうした、ブランドン?」
「いや……」
 マイクの問いにはっきりとは答えず、ブランドンは最後のボルトを締め上げつつ、首を動かさず目だけで辺りを見回す。刺されるような感覚。
(視線か?やけに鋭い……)
「……消えたか」
「あ、おい」
 マイクを無視してブランドンはコマンドウルフから飛び降りた。

「整備の手が足りていない……か。なるほどな」
 格納庫からは死角になっている通路。サングラスの男が顎に手をやって呟いて、踵を返そうとしたその途端。
「動くな」
「……ふうむ、無用心が過ぎたかな」
 背中に銃口が突きつけられるのを感じて男は動きを止めた。
「どこの人間だ?」
 背後からの言葉。
「それはこちらの台詞……何? どこの人間?」
「傭兵の身のこなしではない……だが操縦桿を握ってきた手だ。何を調べていた?」
 ニヤリと笑って男はサングラスに手をやった。
「動くなと言った……!」
 銃口がより強く押し当てられる。
「この顔に見覚えはないかね?」
 男がサングラスを外した。
「!……申し訳ありません」
「いやいや、君のような人間が居てくれるなら私がスパイを警戒する必要は無いな」
 ニヤニヤと笑いながら男――ライカス・フッダールは言った。
「名前は?」
「ブランドン……ブランドン・ヴァイシュタイン」
「そうか、私がライカス・フッダールだ。知っているとは思うがね」
 ライカスは方眉を上げて右の口元をニヤリと吊り上げた。
「失礼しました」
「いや、私もこんな格好で出歩いてきたのがまずかったな。会議も一段落して様子を見に来たのだが」

「マイクさ〜ん! ブランドンさんは?」
「さあ? さっき一人でブツブツ言ってどっか消えたけど。ガイサックは?」
 イヴナの問いにマイクが答える。
「規格外の部品を使ってたんでちょっと問題があっただけで、整備も終わりました。それはそれとして……どうしたらいいんでしょう……」
 イヴナがコマンドウルフを見上げる。ウルフが軽く唸った。
「弟子入りねぇ……」
 マイクが天井を仰ぐ。
「奴は奴で必要以上に嫌がってるように思えるが……気になるのはイヴナちゃん、君がどうしてアイツに弟子入りしたいかなんだが」
「それは……ブランドンさんに我流じゃだめだと言われて……」
「惚れたか?」
「な、何でそうなるんですかっ!」
(おうおう、顔が赤いぞ)
「じゃあ、この革命軍に参加しようと思った理由は?」
 ニヤニヤしながらマイクが言う。
「……端的に言うなら、両親の為……ですか」
「?」
「重税で喘いでいる内はまだ良かった……。国交が途絶えて輸出入ができなくなって……。問屋業を営んでいた私の父母はファハン市の嘆願集会に出て行っている時に武装警察に連行

されました」
「ぬ……」
「父母は……多分処刑されては居ないはず。ヴァツトを倒してあの日常を取り戻したいんです。だから経験の有る人に色々教えてもらいたいんですけど伝手も無くて……」
 マイクはイヴナの目を見た。その目が輝くのは凝視している暗闇の中に希望の光があるからか。
(それが君の『理由』か。両親の為……俺とはえらい違いだな)
「じゃ、代わりにブランドンの事、一つ教えておこうか」
「何です!?」
「昔、奴を庇って死んだ傭兵が居た。それが君によく似てると奴は思ってる」
「え!?」
 イヴナが目を見張る。
「奴の様子を見ていると、似てるのは外見よりも行動や考え方らしいけどね。奴は怖いんだろうな。二度失うのが」
「怖い? ……でも」
 イヴナの目が泳ぐ。
「ああ見えて臆病なのさ。あの男は。俺も短い付き合いじゃないんでね、それくらいは分かる。とりあえず、その辺どうにかしないと、どうにもならないと思うぜ?」
「そうですか……。分かりました!」
 イヴナが笑うのを見てふとマイクは思った。
(ん……待てよ……伝手がないってだけなら別に俺でも……)
「あ……」
 既にイヴナは居なかった。
(まぁ……いいか)
 赤くなったイヴナの顔とブランドンの仏頂面を思い出しながらマイクは一人ニヤニヤした。

(むう……ぬかったな)
 頭を下げつつブランドンはそう思った。
「ところで、だ」
 ライカスが言う。
「ここで会ったのも何かの縁だ。少し手伝ってもらいたい事がある」
「非礼の手前もあります。出来る限りの事なら」
(いや……しかし)
「司令! ここにいらっしゃいましたか」
 男が駆けて来た。
「どうした?」
「ヘリック共和国軍のグレアム・クライヴ中将がお見えです」
「何……!? 本人が、か?」
 ライカスが眉を寄せた。その目をブランドンは見た。
(この目線だったか……? いや、わからん)
「はい。何でも、司令に直接話したい事があると」
「分かった。すぐに行く。ブランドン、また追って話そう」
「お忙しいようで」
「『まだ』彼等には任せられん仕事もあるのでな」
 ライカスは今度こそ踵を返した。
(まだ任せられん……か)

     *     *     *

「……総戦力数のデータは……タイメイアの事を鑑みても質の問題でアテにできんからな」
 イェンバ基地。指揮車仕様のグスタフに乗り込み、カザントは資料を再確認した。
「何!? 一体どういう……? ああ、そうか、分かった」
 イェンバ基地の司令官、マタル・カ・フラッドレー中佐が携帯端末を耳から話した。
「准将、ヘリックのグレアム・クライヴ中将がタイメイアを訪れているようです」
「グレアム……対外干渉に積極的な軍閥のリーダーだな」
 苦い顔をしてカザントは呟いた。
「このまだ危険な時期に本人が出向くとは……」
「大方、後々のことを考えてのパフォーマンスだろう」
 協力の姿勢を示す事で恩を売ろうと考えている、とカザントは踏んだ。
(だが……それだけか?)
「成る程……。と、准将、出撃準備が整いました」
「よし、これ以上後手に回るわけにはいかん。まずは様子見だが高速部隊で突いて『角道』を開けさせるとしようか」
「は? 『角道』でありますか?」
「ま、相手の出方を見るといったところだな。出るぞ!」

     *     *     *

「中将、ご足労、痛み入ります」
 ライランドが言った。
「いやいや、我が空軍は最早どの国にも劣りませぬからな」
 ストームソーダーの開発、レイノスの再配備、そしてこの時期にはサラマンダーの再生産と共和国空軍は着々と力をつけている。
「……ご用件は?」
 グレアムに尋ねる。
「実はライカス閣下に直接手渡したい物がありまして」
 そう言ってグレアムは懐から数枚のディスクを取り出した。
「お預かりしましょう」
「ライカス閣下に直接、と申し上げた」
「む、……」
「お待たせした!」
 ライカスが入ってきた。
「……それは?」
「我が軍内でも研究が進められているあるシステムのデータです。何らかの役に立てばと思いましてな」
「それはありがたいが、開発関係のデータは私達が役に立てるは……」
 ライカスが困ったような表情をする。
「開発関係のデータ……間違いではありませんが、一度、その類が分かる人間に見せれば、これが本質的に何なのか分かるかと」
「……分かりました」
「それと、信用するしないは貴方方次第ですが、進路上にある遺跡は出来るだけ抑えておいた方が良い。取り返しのつかぬ事を恐れるならば」
「…………」
(一体何だと……? いや、それにしても私は……)
 ライランドは左右に小さく首を振る。
(『脇役』か……)
「では、私はこれにて失礼しますぞ、イェンバから王国軍も近づいて来ている様なのでね」
「!?」
 グレアムが踵を返すのと、警報が鳴り響くのはほぼ同時だった。

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from: TGZさん

2008年09月05日 17時49分27秒

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「第一話 解説兼後書」

■コマンドウルフLC
ブランドンの愛機。BWI(ベルクヴェルクインダストリー)がライセンス生産したもの。肩の番号はこの機体がどこかの軍隊に所属していたものである事を示しているが、詳細は不明。「二番の灰色」の二つ名で通っている。

■ブランドン・ヴァイシュタイン
ドレトニア公国出身。幼い頃に両親を亡くし、以後戦場を渡り歩いていた。マイクと知り合ってからは亡命の手助け等タイレンで仕事をすることが多くなる。

■革命軍旗
鉄(黒)血(赤)白霧(白)平等と民主主義(天秤)を表す。


●後書
さて、部長さんから許可を頂きまして連載始めましたB.O.L.。
後書のネタもあまり思いつかないので毎回ゾイド一機+αの解説も一緒に入れることにしました。
ちなみに、今回のタイトルとライカスの台詞にある「一天地六」とはサイコロのことで、サイコロの各面が天地東西南北を象徴しているところから来ているらしいです。「革命」=「天地がひっくり返る」と「賽は投げられた」を掛けてみました。
ともあれ、執筆速度はあまり速くないと思いますが、長い目で見守っていただければ幸いです。

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from: TGZさん

2008年09月05日 16時59分50秒

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「第一話 『一天地六は投ぜれり』」
 ZAC2100年10月下旬某日夜。
「おい、聞いたか? ガイロスが手を引くそうだ」
 西方大陸北端。タイレン王国のとある闇営業の酒場。
「……そろそろ出番だな。議会派……いや、ホワイトミストの連中は動いたか?」
 10年以上にわたり権力を握ってきたヴァツト独裁政権が、ガイロスの後ろ盾を失った事により、揺らぎ始めていた。
「まだ何も言ってきちゃいないが、時間の問題だろう。機体の整備はちゃんとしとけよ」
 政権に対抗するのは議会派。その多くは革命を目指す地下組織、ホワイトミスト――白霧――の構成メンバーだ。
「言われるまでも無い」
 議会派の頼みの一つはへリック共和国。だが、その戦力はこの戦争が暗黒大陸本土決戦までもつれ込んだ場合に備え、そう動かせるものではない。かといって、へリックの戦力が動かせるようになるまで待てば、大企業に影響力を持つヴァツトを守ろうとする周辺各国は戦後の混乱を収拾し、間違いなく革命に何らかの形で干渉してくるだろう。
「また、多くの血が流れるか……」
「ガラにもねえぞ」
 そして議会派のもう一つの頼みは、独裁政治により、タイレンでの活動の制限を余儀なくされていた彼等――傭兵達であった。

「それに、無血革命って言葉もある。俺等は仕事が出来るようになりさえすればいいからな」
 そう言ったのはマイク・クローデンソ。カスタムヘルキャットを愛機とする武装化隊商「バルカ」出身の中堅の傭兵だ。まだ若いが、独裁政権下で仕事をこなしてきただけあって、腕は悪くない。
「状況を鑑みて連中が何の抵抗もせず政府を明け渡すとは考えにくい。戦後の混乱期で各国の軍隊の動きが取り辛いとは言え、外国の干渉も無いとは言い切れん」
 そして今一人は眉間にしわを寄せているブランドン・ヴァイシュタイン。グレーのコマンドウルフLCを駆る、傭兵には珍しく戦闘家ではなくむしろ戦術家の男。こちらは中年一歩手前といった所だ。二人はよく組んで仕事をする仲である。
「何にせよ、この流れは変えられんし、変えていいものでも無いだろう」
「……そういうものか?」
 ブランドンは酒を煽った。
「革命だぜ? いよいよあのヴァツトの野郎を権力の椅子から引き摺り下ろす事が出来るって事よ!」
 マイクが両腕を広げる。
「ふむ、ま、久々に大っぴらに仕事が出来るなら、俺はかまわん」
 マイクを横目で見ながら、ブランドンは肘を突く。
「冷めてやがんなぁ」
「そういう歳じゃないんでな」
 軽く笑い、ブランドンはそう言った。

     *     *     *

「この好機を逃す手があろうか!」
 薄暗い、だが広い空間に力強い声が響いた。壇上で男が諸手を振り熱弁している。
「答は否である!」
 男は続ける。賛同の声があちこちから上がる。
「我々は、待ち続けた!」
 タイレン王国が現政権下の独裁体制に入った事の起こりはZAC2088年まで遡る。当時、暴君カルタナト2世の治世の後で、幼い王が立て続けに立った事で、宰相一族の権限が増し、そのことに不満を持った貴族階級がクーデターを起こした。その指導者がヴァツト・ボランディオである。彼は司政公という地位を作り、そこへ自分が納まり、独裁制を敷いた。
「名ばかりの議会に集い、決して通らぬ決議をし続けた!白霧の中へと身を隠し!唯耐え忍び続けた!雌伏の時は五年に渡ったのだ!」
 現状、議会は存在するが、司政公には立法拒否権があり、全くと言っていいほど彼に都合の悪い法案は通らない。王政時代は、行政権は王にあったが、二院を通過した決議には、王は従わなければならなかった。加えて衆議院と貴族院の二院制で、ヴァツトが貴族出身であるがために、貴族院と衆議院の対立が深まり、衆議院の力は以前にも増して弱まっている。そしてまた、王家は今でも続いているが、ほとんど飾り同然の存在になっている。
「だが!時代は変わろうとしている!」
 転機となったのは昨年――ZAC2099年のガイロス帝国のエウロペ侵攻だ。ガイロス帝国の侵攻はプロイツェンの思惑はどうあれ、外国の立場から見れば侵略戦争だ。当時、西方大陸で反ガイロスの同盟を結ぼうとする動きがあった。だが、西方大陸諸国の同盟が成立する前にタイレンやジャミルを初めとする北方諸国とガイロスが同盟を結び、反ガイロス同盟の希望は露と消えたのだった。西方大陸がまとまってガイロスに対抗していれば、歴史はまた、違う流れに乗っていただろうと言われる。
 タイレン政府、否、ヴァツトの思惑はこうだ。上手くいけば、ガイロス軍の通過のみで、タイレンが戦場になることは無い、そして、ガイロスがこの戦争に勝つならば――当時誰もがガイロスが勝つと思っていただろうが――今のうちに同盟を結んでおけば後々の利益があるかもしれない。
 しかし、予想に反してガイロス軍は西方大陸の同盟国家の戦力を消費させるだけ消費させた挙句、自軍の戦力までとことん潰して、今月に入って暗黒大陸に逃げ帰ってしまった。
 ここでホワイトミストは一気に勢いを得た。タイレンの正規軍の戦力は消耗している。そして、親ガイロス政権を潰そうとするへリックとの思惑の一致もある。時期を逃せば諸外国の干渉が必ずある。
「旗を揚げろ! 薬嚢を噛み千切れ! 機体に火を入れろ! 今こそ! そう! 今こそ! 革命の時だ!」
 割れんばかりの歓声が響く。男は満足そうに頷き、壇を降りた。

 革命の時は刻一刻と近付いていた。

「ライカス閣下、今日の演説、お見事でした。貴方になら、皆付いてゆくでしょう」
「いや、私は唯、皆を助けているに過ぎないよ。革命の主役は彼等全員なのだ」
 先程の男――ライカス・フッダールが椅子に掛け、もう一人の男と話している。
「謙遜なさる事はありませんよ」
「で、ウェリントン君、君は何を言いに来たのだね。下手な世辞か?」
 ニヤリと笑ってライカスはもう一人の男――ウェリントン・グラノックに言う。
「コレは手厳しい。傭兵達に信頼できる伝手から参戦を呼びかけました。一週間後には十二分な戦力が整うでしょう。ライランド将軍も招集に応じるようです」
「そうか……とうとうだな。カザント将軍も居れば言う事はなかったのだが……言っても仕方あるまいか。最早賭け時は変えられん……一天地六は投げられたも同然。へリックの助けで私の『アレ』もそれまでには動けるようになるだろう」
 ライカスは掌を組んだ。
「朗報です」
「根回しをしておいてよく言う」
 ライカスは片眉を上げて軽く笑った。
「良い情報網をお持ちのようだ」
「下手な世辞は止してくれと言ったはずだが?」
「心得ておきましょう。願わくば、我等を包み隠す、ホワイトミストの無用とならんことを」
「ああ、ホワイトミストの無用とならんことを」

     *     *     *

 ZAC2100年11月初旬某日。
「右だ!」
 ブランドンが叫ぶ。
「ぬおッ!」
 マイクのヘルキャットが飛ぶ。一刹那の後、そこへ瓦礫に隠れていたモルガの体当たり。舞い散る瓦礫。ロングレンジライフルの轟音。モルガは頭側部を打ち抜かれ、動きを止めた。
 マイクやブランドンら傭兵は、挙兵時に会わせて、まずタイレン政府の目が届かないドレトニアとの国境近くの山岳地帯へ集まった。ヴァツト政府の目が厳しく、首都近辺で蜂起するのが難しかった為だ。一方で、ドレトニアのガイロス残存部隊掃討のために傭兵を募っているというダミーの情報(実際は、416部隊「青の軍」が既にガイロス部隊を駆逐している)をへリックが流した為、傭兵達はタイレン政府の目を気にせず移動する事が出来た。
 そして、現在戦闘の真っ只中なのがタイメイア城砦の城下。タイメイアは山岳地帯から首都ベドルナクに至る為の最初の関門だ。
「チッ! まだあちらさんは撤退する気は無いみたいだな!」
 ヘルキャットのガトリングが火を噴く。イグアンが釘付けにされ、装甲が弾け飛び、弾が内部機関を抜ける。イグアンは崩れ落ちた。
「戦力差から考えれば、打って出て叩き潰せると考えても当然だろう」
 コマンドウルフが別のイグアンの喉笛を噛み千切る。
 機体の足元ではアタックゾイドが我先にと瓦礫や残骸を縫って進む。
「ハ! 戦力差が何ぼのモンだ! 俺達は戦闘のプロだぜ。ロクに実戦経験も無い名ばかりの正規軍が勝てると思ってんのか!」
「それはその通りだ。……しかし……」
 ブランドンは周りを見て片眉を上げた。
「”戦略のプロ”ではないからな……」
 イグアンがまた一機、倒れた。
 戦況は王国軍が数で大きく勝るにもかかわらず、革命軍が圧倒的に有利だった。実戦を重ねた傭兵達の熟練度に加え、アタックゾイドの機敏性を生かした電撃作戦が功を奏し、王国軍は孤立し、各個撃破されていった。

「……む……」
 明らかに有利な戦闘の形勢とは裏腹に、グスタフに引かれた指揮車の中でライカスは渋い顔をした。この戦闘を見て明らかになった懸念事項がいくつかある。
「コラァ! 左翼分隊! 前に出すぎだ、言う事を聞かんか!」
「ポイント4-Bの救援に向かえ! おい! 穴が開くとまずいんだよ!」
「ラリーサ隊長、申し訳ありませんが4-Bの救援をお願いします!」
 ライランド・ホフマン将軍の部下の指揮官達の怒声が響く。彼等の声の大きさを上げているもっとも大きな問題の一つ。これは以前から予想できた事ではあるのだが。
「指揮系統が機能していないな……」
 傭兵部隊を組んでいる傭兵達はそうでもないのだが、大半を占める個人経営の傭兵達は各々で勝手に戦闘を進めている。戦略も何もあったものではない。電撃作戦も勢いだけで成り立っていた。
「彼等の鬱憤が裏目に出ましたか」
「そのようですな」
 ウェリントンにライランドが応える。
 革命軍の女隊長ラリーサ・アントーノフ率いるプラムヤ隊はじめ、いくつかの部隊はホワイトミストのメンバーで構成されているが、残りの9割方は傭兵だ。しかし、ホワイトミストにはこれだけの傭兵を集められる資金は無かった。ならば何故これだけの傭兵が集まったのか? 答えは簡単だ。ホワイトミストが傭兵を集めたのではない。傭兵達が自分で集まってきたのである。ヴァツト政権を倒すために。その為、報酬で彼等を束縛できず、指揮系統が不安定な状態が続いていた。
 その他、医療チームの不足、整備体制の不備等さまざまな問題が明るみに出ている。
「それでも勝ち戦なのが不幸中の幸いです」
「しかし、次までにはなんとかせねばなりません」
 ウェリントンとライランドの言葉にライカスは一層渋い顔をした。
(何とかできるものか……?)
「敵軍、撤退を始めました!」
「追撃戦に移るぞ! 篭城戦に持ち込まれる前に出来るだけ数を減らせ!」
 ライランドが怒鳴る。
「……いや、将軍、その必要は無い。出来るだけ連中を追い立てろ」
 ライランドの指示を指揮官達が通信機に向かって伝える前に、ライカスはふと思いついたように言う。
「は、しかし……」
「私に考えがある。……『アレ』も出す。いいか……」
 ライカスは説明を始めた。

     *     *     *

「敵軍、撤退を始めました!」
 通信機越しに情報が伝わる。
「今更劣勢に気付いても遅いわ!」
 マイクのヘルキャットがモルガを追い立てる。
「連中を城砦に追い立てろとのお達しだ。あまりスコアにこだわりすぎるな」
 一歩遅れてブランドンが続く。
「あァ!? 何言ってんだ! 敵戦力は減らしとくのが常識だろうよ! 先行くぞ!」
 マイクが叫ぶ。
「……ふむ」
 飛び掛ってきたレブラプターを無造作に撃ち抜きながら、ブランドンは考える。
「……分からんな」
 だが答えは出なかった。出ないながらにコマンドウルフの歩を進める。
「……む?」
 ガイサックが四機の王国軍のモルガに囲まれている。このエリアの戦闘はほぼ静まっている。奇襲でも受けたのだろうか?
 モルガがじりじりと距離を詰めていく。
「あれじゃまるで素人だな」
 幸い、敵機はこちらの存在に気付いていない。
「どこの誰かは知らんが……」
 半ば呆れたような声を出しながら、ブランドンは操縦桿を倒した。

 四方にモルガ。
「くうっ……」
 ガイサックのパイロットは後悔した。回り道でも、遮蔽物の少ない道を通って本陣へ撤退するべきだった、と。レブラプターと戦闘になり、撃破したのは良いがガイサックも深手を負い、撤退している最中にモルガ四機の奇襲を受けたのだ。
「このっ……!」
 意を決して飛び掛ろうとしたその時、眼前のモルガが轟音とともに撃ち抜かれた。
「え……?」
「何をしている! 機体が損傷しているなら離脱しろ!」
「は……はいっ!」
 その声に尻を蹴られたようにガイサックを走らせる。悪路での走破性能ならガイサックは大概のゾイドには引けをとらない。
 その後ろにコマンドウルフが着地した。
「まったく……」
 コマンドウルフがモルガに突撃する。バルカン砲の牽制。だが、コマンドウルフは跳び、その勢いで正面のモルガの駆動輪を前足で弾き飛ばす。と、同時にロングレンジライフルが右を向き火を噴く。そしてたじろぐ最後の一機に迫り、関節を噛み砕いた。
「ふぅ……、!?」
 駆動輪が抜けたモルガが体を捩らせ、バルカン砲をガイサックのほうへ向けた。
「ッ……!」
 すぐさまモルガを叩き潰すが、バルカンの数発は既に発射されている。ウルフの首がガイサックの方を向いたとき、ガイサックは崩れ落ちた。
「大丈夫か!」
 応答無し。
「むぅ……。放っておくのも後味が悪いか……」

「生きているか!?」
 ガイサックのキャノピーを開き、声をかける。
「……うぅ」
 どうやら気絶しているらしい。しかし、ブランドンを驚かせたのは……
「……女か?」
 そういえば声が高かったか、とも思う。
 どうしたものかと辺りを見回す。歩兵隊も進軍した後のようで人影は無い。
「ぬ……」
 一通り思案した後、頭を掻いてからその女を抱き上げる。その時、"グググググ"と、ガイサックのコアが唸った。
「安心しろ、妙な事は考えちゃいない」
 ブランドンはガイサックに語りかける。
"グググッ"とガイサックの唸り声が収まった。

     *     *     *

「城外の敵機、ほぼ掃討を完了しました」
「では我々も出るとしようか。ウェリントン君、後の指揮は任せる」
「了解しました。お気をつけて」
 通信機越しで参謀長のウェリントンに後を託し、ライカスは操縦桿を握った。
「何も指令自ら出陣なさらずとも」
 眼下からライランドが声をかける。
「出陣? 敵などほとんどどこにも残ってない状態での出陣など本当の出陣ではないよ」
「しかし……」
 ライランドは明らかに不機嫌そうな顔をしている。
「時代遅れだと言いたければ言うがいいさ。だがな、私は後方でぬくぬくとして指示だけ飛ばすようなやり方は好きではない。それに君とてその機体を部下に預けても良かったのではないか?」
 片眉を上げ、ニヤリと笑ってライカスが言う。
「それは……」
「違うかね?」
「……いえ、その通りです」
 ライランドは吊り下げていた口の両端を少し上げて言った。
「……やはり指令には敵いませんな」

「だ、大丈夫なのかよ!?」
「構うか! 突っ込めぇええええっ!」
「ぬおぉぉおッ!」
 多数の傭兵達のゾイドを従えて、二機のブラックライモスが城砦前の森から城門に突撃した。しかし、その分厚い壁はびくともしない。
「ぬうっ……!」
 ブラックライモスを援護していたマイクは唸った。そう易々と崩せそうにはない城壁。そしてそのの上にはキャノリータイプのモルガが並んでいる。動きを止めた革命軍の頭上にグライドキャノンの120mm弾が雨あられと降り注ぐ。
「突入は無理か!?」
「だめだ! 退がれ!」
「馬鹿野郎! 押しかけてくんな!」
 流れに乗り、一機に城砦内に突入しようとしていた革命軍は身動きが取れなくなっていた。
「おわわわわわわぁっ!?」
 マイクも足元のアタックゾイドを踏みつけないように回避行動をとるが、流石に長続きするものではない。一機、また一機と、大きな的になりやすいゾイドから倒れていく。そしてその機体が障害物となり、ますます回避行動が取れなくなる。敵は後方の部隊を優先的に砲撃していた。後方の機体が障害物と化せば、革命軍は撤退行動が取れなくなるからだ。
「畜生っ!」
 ここへ来て流れがひっくり返り、壊滅かと思われたその時、重々しさと甲高さが交じり合った咆哮が轟いた。
 だれかが呟いたその機体の名は……
「……ゴ、ゴジュラスッ……!?」

「調子が良い。へリックの正規の部品を使って整備しただけのことはあったな」
 ライカスはゴジュラスのコクピットの中で笑った。
「城門前で傭兵達の身動きが取れなくなっています!」
 部下からの連絡が届く。
「……あれか!?」
 ライカスは突入しようとしていた傭兵機の最後方の様子を森の中から見て眉間に皺を寄せた。残骸が累々と横たわっている。その様子を見てか、ゴジュラスが重く甲高く咆哮する。
「グライドキャノンの射程圏内に入ります。ご注意を」
 ディバイソンのコクピットからライランドが言う。
「くっ……了解した。行くぞ、ゴジュラス!」
 ゴジュラスがその巨体からは想像できない瞬発力で駆けた。装甲が次々と飛んでくる砲弾を弾き飛ばす。ゴジュラスは残骸を縫い、わずかな隙間に足を付けて半ば跳びながら進む。そして場所によってはアタックゾイドが蜘蛛の子を散らしたかのようにゴジュラスに場所を譲る。ゴジュラスの体を盾にし、ディバイソンが続く。
「さて、我々も一仕事だ!指令、撃ちます!」
 ライランドが言うと同時に、ディバイソンの突撃砲が耳をつんざくような音とともに一気に火を噴いた。
「よし!」
 ゴジュラスが姿勢を低くする。
 砲弾は全て城門に叩きつけられる。そこへゴジュラスが低い体勢のまま体当たりをかけた。
 轟音とともに、ブラックライモス二機の突撃で破れなかった城門がいとも容易く崩れ落ちる。すぐさまゴジュラスは体勢を立て直し仁王立ちした。城門をまたぐと城壁の上からは死角になる。加えて、万一敵が城門を破った場合、一気に多数の敵がなだれ込まないように城門から中へと抜ける通路は狭い。それが裏目に出た。敵は少数でゴジュラスを相手しなければならない。横に並べる機体は小型機でせいぜい五機だ。ゴジュラスを前にすればひとたまりも無い。敵は進退窮まった。
「タイメイア城砦の指揮官に告ぐ! 我々も無用な戦闘は望んでいない! 直ちに武装解除し投降しろ! 三十秒以内に返答が無い場合は攻撃を再開する!」
 こうなった以上もはや革命軍を城壁の外へ押し出す力は王国軍には残されていなか

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