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ゾイドバトルストーリー文藝部

ゾイドバトルストーリー文藝部>掲示板

公開 メンバー数:8人

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  • from: たかひら鶉さん

    2009年01月09日 01時26分31秒

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    【連載小説】銀風は故郷に吹いた【全四回】



     銀河の彼方にある惑星Zi。

     そこには金属生命体『ゾイド』が存在した。
     高出力のエネルギー炉を心臓(核)とするこの生命体はZi人の手によって捕獲、改造され、この惑星独自の文明成立に少なからず寄与してきた。

     惑星に浮かぶ大陸のひとつ、中央大陸デルポイは戦火に包まれていた。部族間の争いが耐えなかった大陸を初めて統治したヘリック大王の子、へリック二世とその弟ゼネバスの引き起こした骨肉の争いである。
     部族間の確執も巻き込んで戦渦は拡大し、統一国家は分断。
     へリック二世が受け継ぎ、大統領として治める共和国と、出奔したゼネバスを皇帝とする帝国が成立し、ここに機械化されたゾイドを主力とする一大戦争が勃発することになる。

     後に『中央大陸戦争』と呼ばれる戦い。
     以下はその末期、とある戦場の片隅で生まれた物語である。



        銀 風 は
        故 郷 に 吹 い た 


          著:たかひら鶉
          〜旧バトルストーリー及びゾイドグラフィックスより〜
                 毎週金曜日更新予定




              CAUTION!!
              著者本人ノ許諾無キ部外ヘノ帯出を禁ズ

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コメント: 全5件

from: RYOさん

2009年01月30日 17時46分32秒

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「Re:【毎週金曜日】銀風は故郷に吹いた・第四章【更新予定】」
新作読ませて頂きました。

敗戦10ヶ月前ということで、敗色が濃厚になってきた頃ですね。
ゼネバス最後の名機体であるライジャーですが、きっとどの
出撃もこんな哀しいものだったのでしょう。

だからこそ感じることのできる浪漫が、ライジャーにはあると
思います。歴戦の名機には無い、哀しい運命を背負った最後の
高速ゾイド。
たかひらさんの文章力と、センスを持って、また輝くことが
できたみたいですね。

ちょっとライジャー買ってきます。




>例の件
もうしばしお待ち下さい(こればっかですいません。。
本当に申し訳ない。。

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from: たかひら鶉さん

2009年01月30日 00時38分22秒

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「【毎週金曜日】銀風は故郷に吹いた・第四章【更新予定】」
 サーシャが見たのは、敵機のクラッシャーホーンに煌くビームの反射光だった。
 1発、2発。
 ディバイソンの足元へ立て続けに炸裂し、浮き足立った右のサーボ機構へ3発目が突き刺さる。
 続いて上流の方角から飛んできた新手のビームが、対岸のゾイドたちを襲った。残り50センチ先にシーパンツァーを捉えていた角の切っ先が、空しく宙を流れた刹那。吹き荒れた一陣の風は銀色であった。

 川面を跳ねる水切りの石さながらの、
 低い跳躍で川を飛び越えたそのゾイドは、
 上流から降りてきた加速そのまま、
 右側へ崩れかけたディバイソンの背中、
 そこから伸びた17連装砲の砲身を、
 黒い装甲に覆われた後ろ足で蹴りつけ、
 尾部先端のエルロンエッジで風を切り、
 隣に装備された低反動のビーム砲で僚機を牽制、
 シーパンツァーを囲むように半円を描くと、
 大きく横に傾いだディバイソンの腹めがけて、
 胸部の連装砲を次々とぶっ放し、
 装甲を瞬く間に歪ませ、 
 次の一撃でコアを焼き、
 そして最後の一撃で、
 薬室と弾倉にストックされた残りの砲弾ごと貫くと、
 次の瞬間生まれた、
 マッチを放り込まれた火薬庫さながらの爆発が、
 完黙した鉄牛の機体を、
 横たわる地面ごと撃砕し、
 後に残った屑鉄の塊が、
 隣で慌てふためくディバイソンともども、
 トビチョフの流れに消えていくのを、
 湧き上がる爆炎に照らされて見つめる、
 流線装甲に包まれた1頭のライオンである。

『……パンツァー、シーパンツァー聞こえるか』
 コンソールに帝国の共通回線が開かれる。
 サーシャは弾かれるように応答した。
「こちらシーパンツァー、無事です! わたしも、父ちゃんも」
『サーシャ! 無事なんだね、怪我は無いかい!?』
 聞き覚えのある優しい声。
 対岸の共和国部隊に相対した銀のライオンは、その数を物ともせず、悠然と頭を巡らせる。腰を落とし、その4本の足で大地を踏みしめると、弓のように胸を張った。
『っと……失礼。こちらはゼネバス帝国機動陸軍所属、エイベル=ストラウス少尉であります』
 ヘッドホンの向こうでがちゃりと音がする。
 外部スピーカーへ出力を切り替えて、ストラウスは宣戦した。

 ――共和国軍に告ぐ。
 貴君らの祖国を蹂躙せしめたデスザウラー大隊は、此処に未だ健在なり。
 高速戦闘隊の剣、ライジャーの牙を恐れぬならかかってこい!

 大気を震わせ、獅子が吼える。
 共和国部隊の背後からも、応えるように3機のライジャーが躍り出た。
 山裾に点在する基地を襲いながらの決死行、その長距離を走破した満身創痍の体もそのまま、剥き出しの牙をコマンドウルフの首筋につきたてる。シーパンツァーの前で佇むストラウスの機体にも、無数の弾痕と擦過痕が刻まれていた。
 すべては、ひとりでも多くの仲間を救うために。
『よく最後まで橋を守り抜いてくれました、ロブーシン団長。倒れた同志たちが、安らぎに満ちた神の御許へ向かわれることを』
『おまえ……高速戦闘隊って……』
 ロブーシンの声が震えている。
『サーシャ、がんばったね。君たちが最後の脱出部隊だ』
「最後って少尉たちはどうなるの? それに上流の橋はもう」
 そうだ。橋がひとつでも敵の手に落ちた以上、今からここを渡ったところで、シーパンツァーが追いつかれるのは時間の問題である。
「だから少尉、わたしたちも一緒に!」
『耳を澄ませて』
 風のない草原を思わせる、穏やかなストラウスの声が耳を打つ。
 それを合図に、遠くから地鳴りのような音が近づいてくるのをサーシャは感じた。
 やがて座席の下からも伝わってきた振動は、次の瞬間、橋を押し流すほどの波濤となってサーシャたちの目の前に姿を現したのだった。
 濁流。
 コンクリートの破片や砂礫、流れ木を飲み込んだ土色が、その名の如く、堰を切ったように押し寄せてくる。飛沫を連れて轟き渡る瀑音に、ライジャー達と揉み合っていた共和国ゾイドの群れもじりじりと後退した。
『北と東、ダムの駐留部隊を黙らせて、水門に爆弾を仕掛けるので時間を食ってしまってね。でもこの流れに乗れば、シーパンツァーなら一気にウラニスクまで行けるはずだ。ロブーシン団長、コクピットへ移ってください』
「おまえらはどうすんだ、えぇ少尉!」
 ガンナーシートから半身を乗り上げたロブーシンが怒鳴った。
 トビチョフ川は岸壁を抉り、その勢いと水嵩とを増していくばかりである。コクピットのキャノピーを開いてサーシャが立ち上がっても、ライジャーが二度と振り返ることはなかった。
「少尉、どうしてあなたがそこまでしなくちゃいけないの!?」
『中央山脈を越えたとき、僕の魂は死んだ。けれど、僕はまだ生きている。僕はまだ戦える。戦って戦って戦い続けて、いつか必ず、僕はあの雪の下に置いてきた魂を取り返しに行くんだ。そうだろう、サーシャ』
 悲壮という言葉を、これほどサーシャは憎んだことはない。
 傷だらけのライジャーの背中を美しく染め上げているのは、そうとしか言いようのない凄絶な決意に他ならないからだ。
 けれども――とサーシャは思う。
 どんな状況でも、人は「あした」とか、「いつか」とか、ここではない「どこか」を夢に見る。いずれは「いま」という、無慈悲な時計の歯車に飲み込まれ、決してたどり着く事のできない世界に、それでも心を託してしまう。
 幼き日に見た、そして失われゆく故郷の風景であれ、見知らぬ街、これから出会うかもしれない誰かの横顔であれ、そこにはどんな恐ろしいゾイドをけしかけられても、譲ることのできない何かがあるからだ。
 母はいない。ティマリーも、カミンスキも逝った。
 でも、わたし達はまだ生きている。
 まだ戦える。
「できるわ。少尉なら、きっと」
 進もう、ここから先へ。
 力をこめて答えながら、サーシャは操縦桿を握り締める。
 達者でな、と祈るように呟いたロブーシンがその巨体をシートの後ろへ滑り込ませた後、キャノピーは閉ざされ、再びの暗がりの中、コンソールと正面のディスプレイが蛍火を灯した。
『ありがとう、サーシャ。この流れの先に、よき出会いがあらんことを』
「あなたの魂に、神の御加護のあらんことを」
 別れは、言わなかった。
 サーシャは操縦桿を押し込んだ。
 鋏を大きく振りかざし、シーパンツァーが濁流へと身を躍らせる。
 その真上を飛び越えたストラウス少尉機が、共和国軍の進攻部隊と交戦状態に入ったのはほぼ同時のことだ。

 振り返ることはなかった。

 それからの高速戦闘隊のことを、サーシャは知らない。
 およそ10ヶ月後、中央大陸からひとつの国が消滅した事を告げるラジオの声を、粉雪が舞い落ちる占領下のウラニスクで耳にするだけである。
 ライジャーはゼネバス帝国の旗の下に生まれ落ちた、史上最後の戦闘機械獣となった。

 ただ、コクピットにいたサーシャは決して見ることはかなわなかったが。
 シーパンツァーがトビチョフの流れへ飛び込んだとき、その頭上に虹がかかっていた。
 大きな弧を描いて飛んだ少尉のライジャーは、7色の橋を渡って、はるか空の彼方を目指しているように見えたかもしれない。



   了

(20090120)

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from: たかひら鶉さん

2009年01月23日 01時58分41秒

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「【毎週金曜日】銀風は故郷に吹いた・第三章【更新予定】」
 砲撃。
 吹き上がる水柱の向こうでレッドホーンが叫びをあげた。

『じゅじゅ、11時方向に大型ゾイドの反応あり! 川の向こうから、敵が来るッ!!』
 シーパンツァーの中で、半ば悲鳴と化した声を上げてカミンスキが告げる。
 川、の、向、こ、う。
 サーシャの鼻の奥で、つんとした不気味な緊張が走った。
「父ちゃん、これって……」
『上流の橋を獲られちまったんだ、畜生もう少しだってのによ!』 
 黒い機体が、蹄をかいてこちらを見据えている。共和国軍はロブーシンに歯噛みする暇さえ与えなかった。
 ディスプレイに投じられた拡大画像に、牛だ、とサーシャは呟いていた。従軍経験のあるロブーシンたちも含め、ディバイソンというそのゾイドの名を知る由もない。
 その背中に17本の野太い砲塔をぎらつかせ、その喉元にありったけの死を満載して、3機の鉄牛は平原に姿を現した。
 レッドホーンの首を射落とさんばかりに、橋の周囲に次々と砲弾の雨を降らせ始める。橋のひとつくらい落としてしまってもいいと考えているのかもしれない。ぞろりと悪寒が背中を這い上がり、サーシャは機体の向きを変えた。ごわごわした革手袋の下で操縦桿を握りなおす。
『親方ァ、ここももう持ちませんよォ!』
『んなことできるか!』
 大急ぎで橋を渡ったシーパンツァー隊が、丸腰のレッドホーンを囲んで応戦する中、カミンスキの悲痛極まりない具申をそれでもロブーシンは一蹴した。
『あと17分で正午だ、それまでもたせるって俺は約束しちまったんだよあの青ビョウタンと!!』
『叩き返すことはできなくてもさ、あの牛どもをここで縛り付けておけば、その分みんなが少しでも遠くへいけるんだろッ? よぉし終わった!』
 2機のシーパンツァーの陰で、レッドホーンの足元を馴らしていたティマリーが叫ぶ。大地にできた瘡蓋のように捲れ上がった石畳を高硬度マニュピレーターが放り投げると、レッドホーンは障害物のなくなった地面を踏みしめて駆け出した。
 気づいたのは右端のディバイソンだった。猛然と加速する。仲間から大きく離れてレッドホーンを追いかける猛牛の足元へ、ティマリーのシーパンツァーが滑り込むようにして挑みかかった。
『馬鹿野郎、引き返せ!』
「ティマリーさん!」
 ロブーシンとサーシャの悲鳴が重なる。
 禍々しい曲線を描いて突き出したディバイソンの角が、果敢に振りかざされたヤドカリの鋏を無慈悲に跳ね上げた。ともすればデスザウラーの足すら止めるへリックの鉄牛を前に、シーパンツァーのそれはあまりにも脆い。
 そのまま掬い取り、首の動きひとつで根こそぎ引きちぎる。
 舞い上がったティマリーのシーパンツァーへ、背中の砲門が至近弾の洗礼を見舞う。宙でハンマーで殴られたように拉げた機体は、火花をまとって爆散した。
『ティマリィィィ――――――ッ!』
 ロブーシンとカミンスキの絶叫がこだました。
 コクピットで、サーシャは紫色の唇を噛み締めている。
 少しでも力を緩めれば、この狭い空間でかろうじて固化しているものは間違いなく決壊する。ストラウスの約束も、あの夜彼に語った自分の言葉も、同じ空の下で戦っている顔も知らないゾイド乗り達のことも、母のことも、ティマリーのことも、その瞬間すべてが嘘になってしまう気がした。
 あんな大砲がなんだ。そんなもので消し飛ばされてしまうほど、わたしがトビチョフで過ごした15年は軽いものじゃない。
 これは駄々かもしれないとサーシャは思う。誇りが聞いてあきれるぜ。最後の最後にしがみつくのは、こんなにもちっぽけな感情で、けれどもそのたったひとつのために、震える手は操縦桿を手放そうとしないのだ。
『サーシャ、いけるか!?』
「……誰の娘だと思ってるの?」
『へ、違ぇねぇ!』
 サーシャ/ロブーシン機とカミンスキ機、2機のシーパンツァーが並んで前進する。
 猛然と迫るディバイソンの鼻先とクラッシャーホーンの輝きがディスプレイいっぱいに広がったとき、ロブーシンの合図に合わせてサーシャとカミンスキは操縦桿を握り締めた。
 帝国軍のD‐day上陸作戦で初めて運用されたシーパンツァーは、沿岸部への上陸と橋頭堡の確保、さらには野戦築城を続けざまに行って戦端を開いた生粋の工兵ゾイドである。その両腕の高硬度マニュピレーターが大きく振動し、地面に叩きつけられた瞬間、地表の砂礫はさながら天へ落ちる怒涛となって吹き上がった。
 巻き起こった粉塵の中でディバイソンのコアは敏感に反応した。低い悲鳴とともに前足の蹄を上げ、大柄のシャーシを怯えで浮き立たせる。ロブーシンとカミンスキの照準は、その首元を狙った。ビームキャノンと鉄鋼弾を放ち、そのまま左右へ散開する。
 砂煙が晴れた。
 真下から頭部コクピットを射抜かれて横たわったディバイソンの向こうで、2機の同型がたじろいでいる。荒い息をつきながらサーシャが睨み付けた時、ふたつのアラートが同時に鳴り響いた。

 一
 二
 〇
 〇。

 撤収刻限を告げるサイン、そして、
『親方、サーシャお嬢さん!』
 もうひとつが敵機からの被照準を告げるそれだと気づいた時には、カミンスキ機がサーシャ/ロブーシン機を押しのけていた。真横から飛んできたのは一条の閃光。
 中央コクピットに、深々と突き刺さっていく。
「嫌ぁ――――――ッ!」
『カミンスキ……どいつもこいつも!』
 顔を覆った指の隙間から、それでもサーシャは目の前の現実を手繰り寄せる気丈さを失わなかった。崩れ落ちたカミンスキのシーパンツァーの向こう、橋を挟んで街道沿いまで広がる森林を押しのけるようにして、共和国軍のゾイド部隊が鼻先をのぞかせていた。
 コマンドウルフがいる。シールドライガーがいる。
 高圧電流を帯びた牙を光らせたけだものたちは、橋へ、そして西域へと続く石畳の道を踏みしめて近づいてくる。援軍の到来に勢いを取り戻したディバイソンも、威嚇の眼を光らせて蹄を踏み鳴らし始める。
「父ちゃん」
『なんだ、サーシャ』
「わたし、最後まで父ちゃんの娘だからね」
『……よせやい』
 ロブーシンはそれだけ答えると、ぶつりと無線を切った。
 頭を低く構えたディバイソンが、土埃をあげて近づいてくる。
 最期の一瞬までサーシャは眼を逸らしたくなかった。
 その一対のクラッシャーホーンがコクピットを貫き、黒光りする蹄がシーパンツァーの小柄な体を無慈悲に踏み潰していくとしても。

 ……もっとも、レーダーサイトに眼を見開いていたところで気づきはしなかっただろう。
 時速320キロでこちらへ接近してくる、4頭の獣がいたことなど。

(20090123)

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TGZ

from: たかひら鶉さん

2009年01月16日 00時43分11秒

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「【毎週金曜日】銀風は故郷に吹いた・第二章【更新予定】」
「ふわぁ……」
 サーシャは息を呑んだ。
 黒い竜が、太陽に向かって頭を伸ばしている。

 東と北の山中、ふたつの水源から注ぎ込んだ流れがトビチョフ城の正面で合流する。上空から見ればYを横に寝かせたような流域周辺には無数の橋が架けられており、そのひとつをいま、帝国軍のグスタフが通り過ぎようとしていた。
 直結したトレーラー3台にまたがって仰臥するデスザウラーは、それでもなおシーパンツァーのコクピットからは圧倒的な威容として眼に映る。だがその首元には、熱と質量を持った何かに大きく抉られた、痛々しい跡が広がっていた。
 この傷を刻んだゾイドが、それを引き連れた共和国軍が、もうすぐやってくるのだ。
「感謝する、自警団の諸君!」
「ご無事で何よりであります!」
 サーシャたちの乗るシーパンツァーは重戦仕様である。
 作業用に取り外されていた回転砲塔を再び増設した。そのガンナーシートから立ち上がり、仲間たちを従えて敬礼するロブーシンの髭面に、やさぐれた面影は微塵もない。愚痴はこぼしてもいったん腹を決めたらとことんやる。そんな父の性格を慕うものは決して少なくないし、サーシャ自身も好ましく思う。
「しかし、君たちだけでよく守ってくれている」
 デスザウラーの下で小銃を抱えていた兵士のひとりが、心底驚いたという風情であたりを見渡した。
 トビチョフからの本格的な撤退が始まって3日が過ぎ、道を固める石畳にも生々しい機銃掃射と爆撃の痕が残っている。それでもトビチョフからの部隊は順調に橋を渡っていた。一般市民は、昨日の段階ですべて川を越えている。
 真向かいでは別のシーパンツァーが、その特徴である前脚の『鋏』……高硬度マニュピレーターで散らばった破片を次々と摘んでは路肩へ避けていた。修繕作業も余念がない。
 ロブーシンは誇らしげに胸を張った。
「蓋を開けてみりゃプテラスが朝夕の新聞配達(爆撃)に来るだけですからね。隠れてやり過ごして、死角から二2、3発ぶっ放してやりゃあすぐに帰っちまいます。それも今朝はいよいよお休みときた。共和国の連中、ほんとに中央山脈を越えてるんですかい?」
「すでに山裾に前線基地が設けられている。君たちを襲ったプテラスも、恐らくそこから」
「なるほど。このあたりが航続可能なぎりぎりってとこですか」
 なら、この穏やかさはなんだろうとサーシャは思う。
 自分たちの知らないところ、見えないところから、誰かに守られているような感覚。約束すると告げたストラウスの声、決意に満ちたエメラルドの瞳が浮かび上がり、そこへ重なるようにして兵士のひとりがつぶやいた。
「……高速戦闘隊だ。あいつらが後ろで、頑張っているんだ」
「コウソクセントウタイ?」
「向こうにいたとき話を聞いたことがある。共和国首都のデスザウラー大隊に、新型ゾイドで構成された支援部隊があるってな。こいつは」兵士は頭上の竜を指差した。「コクピットだけ潰されていたところをなんとかここまで回収してきたんだが、もしかしたら一緒に戦ったことがあるのかもしれない」
「トビチョフの後ろで戦ってる人たちがいるんですか!?」
 たずねたサーシャの声は、驚きで半ばひっくりかえっていた。とてもではないが、ロブーシンの提示した刻限……今日の正午には間に合わないだろう。
「山脈を北の端から越えてきたんだ。今は飛行場や後続の輜重部隊を片っ端から襲ってる」
「あいつらも、最初から渡るつもりはないんだろう。前線の基地という基地を荒らしまわって、最後まで共和国を足止めするつもりらしいよ」
 話を聞いたロブーシンは黙って戦闘帽を脱ぐと、胸元できつく握り締めた。
『……なんてこった』
『俺たちだけじゃ、なかったんだな……』
 他のシーパンツァーから漏れる感嘆をスピーカー越しに聞きながら、サーシャは空を仰いだ。もうじき故郷と呼べなくなってしまう場所で、まだ戦っている人たちがいる。
「……おしゃべりは、ここまでにしましょうや」
 湿り気を帯びた空気を振り払い、帽を被りなおしながらロブーシンは檄を飛ばした。
「仕事に戻るぞ野郎ども!」
「応ッ!!」
 男たちの野太い声に混じって、サーシャも張り上げる。
 次にストラウス少尉に会ったとき喉ががらがらになっていたら嫌だな。ここから先のことなんてわかりもしないのに、そんな事を考えられる自分が不思議だった。

 それからさらに5つの部隊を見送った。
 太陽はすでに真上に差し掛かりつつある。

 刻限の正午を迎えるまであと30分を切った時、最初に異変をキャッチしたのはカミンスキのシーパンツァーだった。サーシャ/ロブーシン機に通信が飛んだのと、街道脇の森林からレッドホーンが飛び出してきたのはほぼ同時のことだ。
 対空ミサイルを初めとする武装は、既に銃座ごと潰されていた。その小豆色の装甲を銃弾が擦過し、サーシャはレッドホーンの頭上で死神のごとく飛び回る2機のプテラスを睨んだ。
 飛行場の機能が回復したということだ。頬が引きつってぴりぴりと震える。
「父ちゃん!」
『わかってらぁ』無線越しにガンナーシートのロブーシンが答える。『カミンスキ、このまま見張れ! ティマリーはプテラスを追い立てろ!』
『合点だ!』
 レッドホーンへの道を開いた自警団のシーパンツァー3機は、散開しつつ後退する。
『オラこっちだ走れ走れェ――ッ!』
 ティマリーの絶叫とともに、次々と放たれる弾頭。扇を広げたように水平な軌跡を描いたのもつかの間、次々とピンク色の煙を宙に噴出した。煙幕弾。一帯に広がる。
 プテラスは翼のマグネッサーで制動をかけてから、避けるようにして大回りな軌道を描いた。煙が視界から消えたとき、パイロットは驚愕したに違いない。地上には橋を渡るレッドホーンの姿があるばかりである。
 3機のシーパンツァーは橋げたの横、トビチョフ川が眼下に広がる岸壁へしがみついていた。自慢の高硬度マニュピレーターと、ヤドカリ型素体が持つ登攀力がなせる技だ。その1機、サーシャとロブーシンの乗ったシーパンツァーが俄かに飛び出した。
『野郎、これでも食らえッ!』
 地響きのようなレッドホーンの足音が通り過ぎていく。ロブーシンの気合とともに放たれた鉄鋼弾は、首尾よく接近してきたプテラスの翼を射抜いた。砲をぎりりと旋回させてもう1発。命中。
 残りのシーパンツァー達が川岸へもぞもぞと這い出したとき、敵影ふたつはバランスを失い、サーシャ達の頭上を木の葉のようにきりもみしながら通り過ぎていった。手負いの大型ゾイドという餌に釣られた翼竜どもの顛末である。
『さっすが親方!』
『ふふ、射撃には自信があるのよ。なんせ俺ぁサーシャだって1発で……』
 冗談でも実の娘の前で言うセリフか、こら。
 顔をしかめたサーシャが口を開きかけた時。地を滑るように飛来したそれは、轟音を上げて橋げたを掠めた。

(20090116)

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from: たかひら鶉さん

2009年01月09日 01時30分28秒

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「【毎週金曜日】銀風は故郷に吹いた・第一章【更新予定】」
「誇りが聞いてあきれるぜ、帝国軍人さんよ!」
 年季の入った木製の丸テーブルへ、罵声とともに父は拳を叩きつけた。
 薄明かりの下でもそうと判るほど白く握り締められている。
 若い士官は顔色ひとつ変えずに父の顔を見つめていたが、その時微かに顎を引いていたようにサーシャには見えた。

 ――ZAC2050年春
   中央大陸西部、ゼネバス帝国領トビチョフ城近郊


「無血開城といえば聞こえはいいさ。ああ、井戸に毒投げ込んで軒並み火ぃつけて、女子供を掻っ攫っていかれるのに比べたらどれだけマシかなんてのは、俺だってわかってるんだ。どんな無様な負け戦でも愛する臣民を巻き込まんと、潔くその高貴なるケツを捲くられた、偉大なる皇帝陛下の御代に幸あれかし!」
 父はまくし立てると、コップの中身を一気に煽った。ろくに飲めもしない酒を。
「だがな、残されてくほうはたまったもんじゃねぇんだ。ストラ……なんだ?」
「ストラウス少尉です、ロブーシン団長」
「いいかストラウス少尉」
 仰々しい音を立ててコップを置くと、父は亀のように首を伸ばした。
「このロブーシンとてな、陛下の心意気を思えばこそ、せめて銃後を預かろうと奮い立った。外のシーパンツァーを見たかい。あいつもあんたがたのお仲間が、宿と飯と、それから鉄とレッゲルの代わりにおいてったもんさ」
 吐きつけられるアルコールまじりの息にも、ストラウスと呼ばれた軍人は眉ひとつ動かさぬまま静かにうなずいてみせる。
 城(城を中心に要塞化された大型の市街地。統一国家の誕生以前、かつて部族ごとの王家が栄えていた名残である)内に基地を、その東南には一大工廠をもつトビチョフとその一帯の運命が、ゼネバス軍のそれとコインの表裏をなすのは自然の成り行きだった。
 基地が出来れば兵士やその家族が街へと移り住み、人口の増加が活気をもたらす。工廠が昼夜火を灯し続け、帝国の楔となるデスザウラーを生産すれば、街は北東や西部から送られてくる資材の仲介を賄う。市場の人々と談笑する兵士や、白亜の城門をくぐってゆく山のようなアイアンコングの姿は、サーシャが物心ついたころには当たり前のように広がる風景だった。
 大河の恩恵を受けた肥沃な土地、加えて共和国領へと通じる北国街道の存在は、その後年もますます軍をトビチョフに依存させる。デスザウラーを前面に押し立てた大規模な東部進攻の始まりだ。帝国軍は膨大な量の各種物資を買いつけ、時として旧型化した小型ゾイドをその代金に残して、北国街道の向こうへ進んでいったのである。
 それから約8年。
 覇を唱えながら踏み鳴らした道を、帝国軍が西へ西へと引き返していた。傷ついた兵とゾイドを抱え、その背後に共和国軍を引き連れて。
 完全な敗走である。
 そして今夜、サーシャたちのキャンプへやってきたストラウス少尉もまた、東から撤退してきた部隊の一員だった。その少尉へ、このキャンプの長であるサーシャの父、ロブーシンは唾を飛ばし続ける。
「確かに俺たちは、自警団を組織した。ひとつでも多くの家族を逃がしてやるための殿なら、喜んで引き受ける気のいい連中ばかりさ。だがその先は俺たちの仕事じゃねぇ。ましてやあんたら、軍のケツモチなんざお断りだ。バタ臭いヘリック野郎まで引っ張り込んでおいて、自分たちはさっさと逃げ出しちまうわけか」
「それは」端正な口元を開きストラウスは答える。「正しい認識だと小官も考えます」
 ふん、とロブーシンは蹴りつけるようにして足を組んだ。
 あとは遠くに流れる、トビチョフ川の音ばかりである。耐え兼ねて食器台のポットへ手を伸ばしたサーシャに向かって、こんな奴に茶など出さんでいい! とロブーシンは怒鳴った。
 大陸西域への脱出支援。
 一言でいえば、ストラウスの依頼はそれである。ロブーシンの言うとおり、本来ならトビチョフ基地に駐留する正規部隊の仕事だったが、現実としてそれが不可能な状況に追い込まれていることをサーシャは知っている。
 トビチョフ基地は戦わないのではなく、戦えないのだ。北国街道から逃走してくる友軍を城内に迎え入れるまでの段階で、すでに過半数の兵力を損耗している。長期にわたる敵国領の統治を賄うため、政情の安定した西部の駐留戦力を縮小させていたことが裏目に出た。
 ばつの悪い顔をしたサーシャと、ストラウスの視線がかち合った。目礼してくる瞬間、翡翠色の瞳を縁取る睫毛が長いことに気づいてどきりとする。銀色の髪は襟にまでかかり、こけた頬をうっすらと無精髭が覆ってはいたが、帝国士官の気品は少しも失われていない。
 少なくとも敗軍の兵の顔ではないと、サーシャは思う。
 ストラウスは再びロブーシンに向き直った。
「だからこそ、この先に待ち受ける事態も考えていただきたい。あなた方の家族を無事送り届けるのには残されたトビチョフの戦力が……そして西域を守り続けるには、ひとりでも多くの兵士とゾイドを、無傷のまま送り出すことが必要なのです」
 そのためには、トビチョフ川流域に点在する幾つかの橋を確保せねばならなかった。最後の部隊が撤退したところで橋を落とし、追走する共和国戦力を足止めする。その担い手を帝国軍は求めていた。越えて西では既に、一般市民による義勇軍が編成されているという噂も聞く。
 最後のカードを切り出すようにストラウスは告げた。
「……軍の指揮の下、一般市民の脱出はすでに始まっています」
「軍の指揮の下、か。ものは言いようだな、少尉殿」
 ロブーシンの茶色い瞳が、ねめつける。
 少し目を伏せてから、ストラウスは口元を引き締めなおして言い放った。
「トビチョフの人々は、すでに我ら帝国軍の手の中にあるということです」
 手袋に包まれ、ズボンの横で揃えられた少尉の指先が震えている。
「へ、最初からそう言えばいいんだよ」
 最後の部隊が橋を渡りきるまで3日。
 その最終日の正午までが俺たちのくれてやる時間のすべてだ、とロブーシンは告げた。

 サーシャがロードスキッパーを駐機場から引っ張ってくると、ストラウスは礼を言って手綱を受け取った。三つの月が青白く輝く、静かな春の夜である。
「あ、あの。少尉、殿」
「ん?」
 月光に照らされた横顔にサーシャがおずおずと話しかけると、ストラウスはやわらかい笑みを浮かべてこちらを向いた。
「父ちゃ……父の無礼を、どうか許してください。工兵崩れの親分が祭り上げられてるだけで本当はどうしようもなく怖いんです、だから」
「誇りが聞いてあきれるぜ」
 あふれ出しかけたサーシャの言葉をさえぎって、ストラウスは唐突に言った。
「僕が君のお父上だったら、たぶん、いや確実に同じことを言うだろうな。理不尽にも程があるのに、それしか方法はないんだ。仲間や愛する娘にも危険が及ぶ。それが解っているからこそ、ロブーシン団長はあんなに怒っているんだろう」
「でも、それを少尉にぶつけるのだって理不尽です」
「この仕事のつらいところは憤懣をぶつける相手がいないことだ、と隊長がぼやいてたよ」
 ははは、と気楽そうに笑いながらストラウスはサーシャの頭を撫でた。
「僕は何の力にもなれないまま。隊長は山脈越えで流れ弾に当たって、とうとうこっちに戻ってくることはできなかった。だからさっきみたいに怒鳴られるくらいでちょうどいいんだ」
 平原を包む闇のかなた、トビチョフ城の光がかすかに瞬いている。
 ずいぶん寂しくなってしまったな、とサーシャは思う。その最後の灯火も3日後には潰え、トビチョフ一帯は無人の野となるのだろう。
「……泣いてるのかい?」
「ふぇ!? え、あ」
 手袋越しに伝わってくる熱を感じながら眺めていたサーシャは、涙がこぼれていたことにはじめて気づいた。カッと頬が熱くなる。いっそ涙も飛んでしまえばいいと思った。
「サーシャちゃんはいくつだっけ」「サーシャでいいです。もう15です」
 顔を隠すように袖口で目元をぐしぐしと拭いながら、サーシャはぶっきらぼうに答えた。「もう」にひときわ力を込めたのは言うまでもない。
「サーシャもここに残るつもりなのかい。お父さんと一緒に」
「いられるだけ、ここにいたいなって思っただけです。誰よりも、1秒でも長く。気持ち半分はもう、ここで死んじゃってもいいやって感じかも」
 ストラウスが息を呑む音がした。
 さらりとそんな事が口にできてしまう自分に、内心サーシャも驚いている。トランプを目隠しでめくるように現れた言葉でも、そう、半分は本心だと感じた。
「この町で生まれて、この町で育って、母ちゃんが死んで、父ちゃんとふたりで……だから、ここから先なんてもう、全然想像もできなくて。もし今何もしないでいたら、気が狂っちゃってたかもしれません」
「ここから先……か。考えもしなかったな」
 ストラウスは軽く背伸びをすると、詩でも読むように口ずさんだ。
 ここから先、ここから先。
 何度か繰り返した後、彼はもう一度サーシャの髪を撫でた。
 肩で切りそろえられた艶のある黒髪。母から受け継いだ、サーシャのひそかな自慢の髪だ。
「綺麗な髪をしているね。伸ばしたらきっと美人になる」
「本当ですか?」
「帝国軍人だからね。嘘はつかない」
 ロードスキッパーに乗り込み、サーシャがこっそり食料を詰めた鞄を受け取ると、ストラウスは力強く告げた。
「だから……もうひとつだけ約束する。
 君たちは僕らが必ず西へ送り出す。
 捨石なんかには、絶対させない」
 敬礼。サーシャも返す。
 ストラウスを乗せたスキッパーは、鬱蒼とした森の広がるトビチョフ川の上流へと走り去っていった。

(20090109)

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