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from: あきらめてんさん
2019/06/19 12:46:22
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ショートショート『グラスに浮いたバラ』2完
手を握った宮原の握力が強かったので、古河征四郎は表情をゆがめた。宮原の見えない意志を感じた。
「姉の里津子は元気にしておりますか。」
「それがね。1週間前になりますか、急に旅行をしたいといって、出かけてまだ戻ってきていないのです。私の弟子の中でも里津子さんはベテランですから、展示会の前に出かけるのは止めて欲しいと言ったのですが、残念です。おかげで発表会の準備が大変でした。」
「ええ。そうだったのですか。私には展示会の案内状を送ってきましたから、楽しみにして、本日、寄せていただいたのです。挨拶が遅れましたが、ご盛況での開催、おめでとうございます。」
一息ついて、古河征四郎は笑みを見せた。
宮原は会場の中央にある丸テーブルに進み、真ん中に飾ってあった比較的大ぶりのブランデーグラスを右手に持った。コンパニオンがグラスの三分の一ほどブランデーを入れた。
「みなさん。このように照明に向かってグラスを差し上げますと、ほら、バラの花が浮んでくるのが見えますでしょう。」
展示会場に、どよめきが起こった。
「本当だ。これはすごい。」
一斉に拍手で迎えられた。この喝采の渦の中で宮原健作はゆっくりとグラスを傾けてブランデーを飲み始めた。ブランデーグラスにはくびれがあって、アルコール度数の強いブランデーを少しづつ飲むために宮原は仰向けの姿勢になった。この時であるブランデーグラスが割れて、ガラスの破片が鋭い刃物となって、宮原の頸動脈を切り裂いたのであった。うつ伏せに倒れた際、グラスを持っていた右手が丸テーブルに当たって傾き、テーブルに載っていたブランデーグラスが周囲に散乱した。宮原が床に頭を打ち付けた衝撃でブランデーグラスの破片は宮原の頸部の奥深くに達した。この惨劇に会場は騒然となった。
後日、不思議な映像がネットに流れていた。それはガラスを溶かす炉に人間の切断した部分を投げ入れるガラス創作作家で有名な宮原健作の姿であった。彼は弟子の古河里津子との関係がこじれて、彼女を殺害し、ガラス炉の中へ遺棄していたのであった。里津子の肉体が溶け込んだガラス材料で宮原はグラスを製作した。ブランデーグラスが割れたのは里津子の魂の復讐であった。 終わり。-
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