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  • from: あきらめてんさん

    2019年08月05日 17時11分37秒

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    老後の椅子取りゲーム㉒

    子供がいないので老後は寄り添って、介護生活をしていくという定番の考え方に佐和子は馴染めないのかもしれない。今さら別れて、どうしようというのだろうか。いや待てよ。ひよっとすれば、パートに行くようになって誰か好きな人ができたのかもしれない。夫である信二郎を疎ましく感じるようになってきたのか。確かに父親が自動車事故を起こすまでは平凡な生活が続いてきた。あの事故以来、母親の介護のために自宅にいる時間も少なくなり、佐和子との会話も事務的になってしまった。意思の疎通が十分でなかったのは反省しなければならない。だからと言って、いきなり離婚してくださいと関係の切断を迫られると信二郎は戸惑うばかりであった。
    「離婚したいというが、どんな不満があるのか、具体的に言ってくれたら、いいだろう。いきなり別れたいといわれても、理解できないな。」
    「それじゃ、言うわ。あなたね、お父さんが亡くなってから、お母さんが貯えて来た老後の資金を株式投資で大分損を出しているでしょう。私は今まで何も言わなかったけれども、あなたのような素人判断で株式投資で利益を上げられると思っているのが、辛抱できないのよ。お父さんやお母さんの名義の資産を売って、また株式投資を続けるつもりでしょうが、そんなことをしていたら、手元にお金が無くなってしまうでしょう。だから、損を出してからでは遅いので、目の前にお金がある間に私に半分下さいといってるのよ。私のいうことなんか、全然聞かないから、もう嫌になったのよ。この際、別れた方がいいと思ったの。それだけよ。ここにある現金の半部わたしに、ちょうだい。」
    「投資の事業知恵が、おれにはないと言いたいのだろうが、何も結論が出たわけではないだろう。評価損が出ているだけであって、手仕舞いしたわけではないから、才能がないないと騒がないで欲しいね。」
    「やせ我慢ばっかりしてさ。生活費だって、最近は待ってくれ、待ってくれと言い訳ばっかりじゃないの。私はね、あなたの性格にいや気がさすのよ。」
     信二郎は佐和子の要求通り離婚の求めに応じてもいいと思う反面、一定の期間を設ければ、佐和子の気が変わるかもしれない。何かの妥協案は出てくると考えた。

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  • from: あきらめてんさん

    2019年08月04日 16時50分35秒

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    老後の椅子取りゲーム㉑

    風呂場の一件があってから母親は生きる気力をなくしたのか、療養中、病院で出される食事を完食することもなく、食べても三分の一ほどであった。数日後には食べる量が極端に減っていった。栄養の不足分は点滴で補っていたが、ある日、夜中に暴れたらしくて信二郎が病室に入ると、母親は両手に手袋をされていた。点滴の管を引きちぎったようであった。鎮静剤を飲まされたのか、呼びかけても瞼を薄っすら開けるだけで反応が鈍かった。こうした症状が1週間ほど続き、母親の血圧が急激に下がって他界した。
     親戚はいないので家族葬であった。信二郎と妻の佐和子だけの静かな葬式になった。葬儀が終わって、母親名義になっていた自宅の相続を司法書士に依頼し、手続きが終了すると信二郎は駅前の不動産屋に土地と家、物件の売却を依頼した。駅から歩いて約15分の住宅地だったので高額な値段が付くものと思っていたが、意外にも厳しく一千三百万円が精一杯ですと突き放された。やむなく信二郎は不動産屋の言い値で手放した。その代わりに現金での受け渡しを要望したので不動産屋の営業マンが信二郎の自宅にやって来て、売買は成立した。不動産屋の車が信二郎の自宅を離れた途端に妻の佐和子は、受け取った現金の半分を欲しいと言い出したのである。
    「あなたと別れたいから、家の売却金の半分を離婚の生活資金としてください。」
     佐和子からの突発的な提案であった。佐和子は前々から考えていたのであろう。表情も崩さずに冷静な声であった。
    「ええ。ほんまに別れたいのか。」
     信二郎は絶句した。妻の顔を見詰めるだけで言葉が続かなかった。

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  • from: あきらめてんさん

    2019年08月01日 17時30分59秒

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    老後の椅子取りゲーム⑳

    帰路はJR駅まで森山が車で送ってくれた。車中、森山は明るい未来を見詰める表情でこんなことを言った。
    「僕ね。今は保険の代理店に勤めていますが、中山先輩の事業を応援するためにアイデア支援ファンドというものを立ち上げようと計画しているのです。和田さんも、ひと役担ってもらえませんか。事業が立ち上がって、株式が上場されれば、ひと山あてられますよ。株の百株や二百株を毎日売り買いして、日銭を稼いでいるより、数十倍の単位で見返りが手許に戻ってきますから。新規開発投資の魅力を味わいましょうよ。」
     信二郎は返事に困った。株投資で損を出し、歯止めがかからないのが現状である。新規事業の株式上場という話は魅力がある。こうした事例は経済誌の見出しなどで知っているが、具体的に何をどうするのか、起業家的な人間関係というものが皆無なので森山に背中を押されると、信二郎は惑わないこともなかった。だから、考えておきますという言葉でファンドへの誘いから逃げた。しかし、電車の中でも信二郎は森山の誘い話を頭の中で反芻していた。
     予定より帰宅が遅くなった。急いで玄関から母親のいる居間の方を見た。静かで、物音がしない。母親は寝ているのかと思った。精神安定剤を飲ませているので眠りだすと際限なく寝ることがあった。寝室に母親の姿はなかった。便所かと思って、庭先に面した廊下へ出た時、風呂場に電気が点いているのに気付いた。
     風呂場で何をしているのだろう。半開きになったドア越しに母親が風呂に入っている姿が見えた。一人で風呂に入っているのか。意外な様子に信二郎は深く考えずに風呂場へ入った。母親が風呂の湯船に仰向けになって浮いていた。口が風呂の湯の中に沈んだり、浮いたりしていた。水を大分飲みこんでいる様子であった。
     信二郎は必死に母親を湯船から引き出した。水の入った重い桶を抱きかかえて引き上げるようであった。まさに渾身の力であった。心臓が止まっていなかったので、ゲゲゲと口から水を吐き出した。この状態であればなんとかなる。この一心であった。直ぐに救急車を呼んだ。やっとの思いで、母親に下着を着せ終わった時、救急車が玄関前に止まった。

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