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  • from: あきらめてんさん

    2019年07月29日 17時03分22秒

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    老後の椅子取りゲーム⑲

    「どうです。一度、このバケツを持ち上げてもらえませんか。」
    中山は信二郎を促した。バケツの中にはブルーの液体が半分ほど入っていた。水に何かの成分を入れて着色しているようであった。臆することなく信二郎は軽い気持ちで腕を伸ばした。次の瞬間、信二郎は口を真一文字にして歯をかみしめていた。
    「これは何ですか。これ水じゃないのですか。」
    信二郎は、やっとの思いでバケツを地上から二十センチほど持ち上げて、降ろした。
    「重いでしょう。この水のような液体に秘密があるのですよ。この比重が高い液体でもって、重量のある水車を一気に回転させる。これに連動した発電機から電力を引き出す、これが異次元の揚水発電の原理になるのです。」
    自信に満ちた中山の言葉がガランとした鉄工所の廃屋に響いた。
    「しかしですよ。これだけ重い液体を自転車のペダルをこいで、高いところまでくみ上げるのは大変な労力ではないのですか?」
    平凡な素人の疑問であった。
    「そうでもないのです。実際に実行してみると分かります。自転車には電動アシストが付加されています。さらに蓄電池があるのですが、この蓄電池からの電力補助でモーターを回し、液を汲み上げるようになっています。これだけでなく太陽光パネルからも蓄電池に電気が流れ、備蓄できる仕組みになっているのです。だから、人力で作り出す自転車のエネルギー部分は、言って見れば、聞こえのいいキャッチフレーズなのですよ。健康志向の時代でしょう。これに便乗して、敢えて自転車健康発電とネーミングを付けた。これが真意なのです。」
    大演説であった。信二郎は自分を見失ほど感銘した。
    「なるほどね。こう言った仕掛けになっていたのですか。それにしても、バケツの液体は重いものですね。どういった、性質の物質なのでしょうか。」
    「いやー。詳しくは申し上げられません。世界的な秘密ですから。特許の申請もしていませんのでご容赦ください。」

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  • from: あきらめてんさん

    2019年07月27日 13時59分02秒

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    老後の椅子取りゲーム⑱

    建物の側面に通用口があった。錆びた鉄が擦られ、高い音立ててドアが開いた。
    「どうぞ、入ってください。」
    森山に手招きされて足を踏み入れた。天井が高く、大きなクレーンが中央にあった。建物の中は広い空間で風通しがあるのか、思いのほか静かでひんやりとしていた。
    「中山先輩、おられますか。」
    大きな声で森山は呼びかけた。この時、合図をするかのように金属の落下する音が奥の方でした。鉄の櫓が組まれ、水槽が上部に設置されていた。アルミ製の梯子の上から声がした。
    「作業をしていて、スパナを落としたよ。まあ、こっちへ来てくれないか。」
    ジーンズにシャツ姿の中山秀次が笑顔で迎えた。鉄の櫓の下には自転車と水槽が置かれていた。水槽の上には水車が設置され、水車の軸心が発電機に連結されているようであった。信二郎は素人でもあり、発電装置の構造的なことは理解できなかった。
    「試作機というのは、これですか。」
    信二郎は素直に質問した。
    「そうです。まあ、試作品の試しづくりのようなものです。」
    腕を腰にあて、どこか悠揚としたところが中山にあった。
    「この装置で電気を発生させることができるのですか。」
    「まだまだ微弱なものだから、公表するまでにはいっていません。」
    実物を見る限り、感動めいたものは何もなかった。期待をしていたわけではない。好奇心があっただけだ。これでは子供の工作に、産毛がはえたようなものである。
    ここで森山が口を挿んだ。
    「先輩。水車を回す液体を持ち上げてもらいましょうか。」
    「ええ。この僕が自転車をこぐのですか。」
    信二郎は予定外の提案に顔を緊張させた。
    「秘密は水のような、この液体にあるのですよ。」
    こう言って、中山は水槽の傍に置いてあったブリキ製のバケツを指差した。

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  • from: あきらめてんさん

    2019年07月26日 17時05分07秒

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    老後の椅子取りゲーム⑰

    人間の意識は記憶している映像の連鎖反応で誘導されていく。投資相談コーナーで最初に声をかけてきた森山新平という青年の顔が浮んだ。信二郎は、研究者が実験しているのであれば、現場に一度、訪ねて行っても悪くはないと思った。連絡は直ぐにとれた。二日後にJR駅前で待ち合わせをした。
    「いやー。嬉しいです。関心を持っていただくことが先決ですから。」
    森山は駅裏にある駐車場へ信二郎を案内し、軽自動車に乗った。
    「君の先輩の研究者。中山秀次さんだったか。もう会社を設立したのかね。」
    「いえいえ。これからですよ。資金が集まらなければ、何もできませんから。」
    「それは、そうだろうが。ところで森山さんは、中山先輩に雇われているのかね。」
    「私は応援しているだけです。私は保険代理店の営業をしておりまして、時間の余裕が出来た時に先輩の応援をしているのです。技術的なことは詳しく知りませんが、要は本人から直接に説明を受けてください。これから案内する作業所は、先輩の父親が以前、鉄工所を経営していた場所なんです。ご存知の通り鉄鋼関係は景気の悪化で、どこも経営が苦しいようですね。それで先輩の父親も昨年末に廃業されたのです。まあ、先輩は父親の廃業した工場を、なんとか新しいアイデアで再生したいという気持があるのでしょうね。何分にも思いついたら、先輩はとことんやり抜く性格ですから、私も、つい誘いに乗ったわけなんです。」
    約十分ほどで赤さびた鉄の扉のある建物の前で車は止まった。入口周辺には雑草が高く生い茂っていた。人の出入りのない様子が周囲の風景で観察できた。

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  • from: あきらめてんさん

    2019年07月24日 12時38分19秒

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    老後の椅子取りゲーム⑯

    持ち金が目減りしてくると精神的な重圧がかかってくる。正直、資金の元だけでも取り戻したいという気持が優先していた。誰でも同じ思いを抱いて、深みにはまっていく。信二郎はそのうちに好転するだろうという楽観的期待は幻覚でもあった。願望が幻想の発生源になる。投資額が倍になるというのは、ユニークな商品開発をしている企業を見つけて、この企業の株式を上場するまで応援していく。上昇サイクルに乗れば、企業価値が一気に二倍、三倍になっていく。当たり前のことだ。問題は、どのメーカーの製品が爆発的にヒットし、次世代の産業になっていくかである。この見分けが難しい。もし、判断を間違って投資すれば、つぎ込んだ資金はゼロになる。ただ、冒険をしなければ、成果もない。この言葉の通りである。野球ゲームと同じで、満塁を迎えたバッターがヒットを打つか、三振するかの見極めが大切である。見送り三振でもされたら、ゲームセットお終いだ。こんなケースは球を投げるピッチャーも、打つバッターも、ピンチヒッターを送り込んだ監督にしても、事前に結果は分からない。分からないから、ゲームになる。結論が分かっておれば、八百長になってしまう。一瞬の緊張との勝負である。こんなことを信二郎は頭に描きながら、買い物に出かけた。カレーを作ってみたいという胃腸の欲求が湧いてきたからだ。カレーというのは、ふと食べてみたくなるものだ。太陽が照りつける暑い季節にカレー欲が湧き上がってくる。いろんなことを自問自答して自転車に乗っていた。この時、例の足こぎ揚水発電の研究をしている背の高い研究者の顔が信二郎の脳裏に浮かんできたのであった。

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  • from: あきらめてんさん

    2019年07月22日 14時20分32秒

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    老後の椅子取りゲーム⑮

    会場を後にしたが、信二郎の手には森山新平の名刺があった。捨てようと思ったが、名刺だってリサイクル塵になると財布にしまい込んだ。自転車をこいで、発電機を回し、発電することは学校での実験でもしている。夜間の安い電力を利用して水を揚げる揚水発電は古くから行われている。自転車をこいで、水を屋根に吸い上げて、落下する水の力で電力を起こす。まるで小学生の夏休み工作の宿題ではないか。少しの新鮮味もない。いくら説明をされても、関心を示す人はいないだろう。信二郎は自宅に帰って、玄関のドアを開けた途端に家中が異常な臭気に包まれていることに気づいた。まさかと思って、母親の部屋に行くと縁側の廊下に母親がうずくまっていた。
    「トイレに行く途中で失敗した。」
    母親は紙パンツを脱ごうとして、自分で処理できず周辺に糞尿が付着していた。信二郎はこうした事態は過去にもあったので慌てずに母親を風呂場へ誘導し、全身を洗い流した。骨折してから母親はリハビリに精を出さない。筋力が低下し、便所へ行くにしても直ぐに立ち上がれずに失敗するケースが増えてきた。文句を言っても仕方がないので信二郎は黙々と処理して、一段落ついてからパソコンで株式の投資画面を開いた。急激な円高で持株が大幅な下落をしていた。

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  • from: あきらめてんさん

    2019年07月20日 17時13分21秒

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    老後の椅子取りゲーム⑭

    「ご案内しますので、こちらへどうぞ。」
    信二郎は中央のステージ横へ案内された。背の高い男前の人物の周りを数人が囲むようにして話を聞いていた。しばらく様子を見ていた。すると、小太りの中小企業の社長らしい風貌の男が質問をした。
    「発電装置と健康器具を合体させたシステムですか。まあ、発想はおもしろいです。しかしですよ、自転車のリム発電を、揚水発電にしたということですが、自転車を、こいでですな、屋根に揚げられる水の量なんか知れたものじゃないですか。また、そんなもので発電できる電力量なんて僅かなものでしょう。確かに力を入れて、ペダルを回さないと水が屋根まで上がりませんから、運動になるといえば、なるでしょうが、無理があると思いますな。」
    この会話を傍で聞いていた信二郎も同感であった。ちょっと子供じみている。小太りの男が去って、人の輪がとけた。
    「この方も、先生の説明を聞きたいと思っておられるのです。」
    先生と呼ばれた人物と信二郎は向き合ってしまった。背丈のある目鼻立ちのいい人物が信二郎を優しい目線で見降ろしていた。
    「私は事業をしているわけではありませんので誤解のないようにお願いいたします。興味があるわけではないのですが、説明だけでも、お聞きしたいと思いまして。」
    正直言って、何かを求めているわけではない。信二郎の素直な気持ちであった。
    「ありがとうございます。原理が単純なものですから、なかなか信用してもらえないのですよ。あのう、なんでしたら、私の実験場へ来ていただければ、納得してもらえると思います。いかがでしょうか。私の発案を事業化するプロジェクトにご参加していただけたら、嬉しいのですが。今は、ご協力者を募集しているのです。」

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  • from: あきらめてんさん

    2019年07月15日 16時39分37秒

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    老後の椅子取りゲーム⑬

    ネットで見た投資コンサルタント会社のセミナーに信二郎は顔を出した。ホテルの大会議室を貸し切った大掛かりな催しであった。廊下に参加者が溢れるほどの盛況で、会場の一角には投資相談コーナーブースが設けられていた。富士山の写真を背景にしたコーナーのパイプ椅子に腰を下ろし信二郎はコーヒーを飲んでいた。知り合いがいるわけではないので係の女性から手渡されたパンフレットを見ていると、背広の胸にバラの花を付けた若い男が近づいて来て、信二郎の耳元で、こう囁いたのであった。
    「どこかで、お見受けしたように思うのですが、私は森山新平といいます。こうした会場でお薦めするのも、おこがましいのですが、実は近々に新規上場を希望する会社がありまして、この会社の未公開株に興味をお持ちではないでしょうかと思いまして、お声掛けさせていただいたわけなのです。」
    「なんという会社?何を作っているの。」
    信二郎が反応を示したので、森山は、さらに声を落として言った。
    「実は、私の大学の先輩で研究室の責任者でもあるのですが、画期的な発電装置を開発しまして、ほぼ開発が終わって、後は製造工程をどのようにして設定するかで資金を調達しているところなのです。詳しい技術的なことは本人が、この会場に来ているものですから、もし、興味をお持ちであれば、本人から説明を差し上げたいと考えておりますが、いかがなものでしょうか。」
    「本人が来ている。ほー、そうかね。」
    信二郎は興味を覚えたので席を立って、周囲を見回した。

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  • from: あきらめてんさん

    2019年07月13日 17時04分15秒

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    老後の椅子取りゲーム⑫

    トゲトゲしい会話になる時もあるが、それは海岸に打ち寄せる波のようなもので事態を根本的に変えることもなく日常は経過していく。ある意味、悟っていくしかないと信二郎は割り切って考えるようになった。考え方の要領として細々した記憶は過ぎ去れば、早く忘れるようにしていた。これは信二郎自身が、還暦の年齢になってボケが始まってきたのかもしない。母親を車椅子に乗せて、総合病院のリハビリ施設に行くのが日課になってしまった。信二郎は廊下のベンチで母親のリハビリが終わるまで読書をしていた。リハビリのない日は、精神科へも連れて行って、薬の処方をしてもらった。こうした生活は田舎道を散歩するようなもので1年ほどが、あっという間に経過した。
    問題は母親の認知症状にあるのではなく、母親が溜めていた老後資金を信二郎が株式投資と為替相場で損失を出し続けていることであった。損得勘定になると儲けた部分もあったが、損を出した取引の方が多く、差し引きした総合収支は大きく落ち込んでいた。スタートした時の資金の三分の一ほどの目減りが生じていた。だが、こんなことを母親に報告するわけにはいかない。妻の佐和子にも内証であった。将来の生活に対する不安が、信二郎の心理に動揺を増幅させた。自分が沈んでいくような気分に信二郎は陥った。相場に手を出した自分の安易さに気づいても、タバコを止めたようにスパッと未練を清算できなかった。泥田に両足を踏み入れたようであった。もがき始めると、すべての判断が二重になって、ますます焦点が霞んでくるのであった。

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  • from: あきらめてんさん

    2019年07月11日 17時24分55秒

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    老後の椅子取りゲーム⑪

    今日は直ぐに行けないと佐和子は断った。交代勤務の人が、子供の熱で出勤が2時間遅れになると連絡してきた。仕方がないので残業になったというのである。母の家に電話をしてきたのは、佐和子の帰りが遅くなるという連絡で、義母である峰子の様子を聞くのはお愛想からであることが分かった。信二郎は、佐和子の意図がどうあれ、母親の退院のことについては連絡してあったので、こうしたものなのだろうと判断した。万事がこのようにして時間が経過していくのであった。極論すれば、佐和子との間に子供ができていないので離婚しようと思えば、難しい課題ではないと思っていた。夫婦という形式を維持しながら、曖昧な関係が継続しているだけであった。
    信二郎は出前センターに電話してみた。注文する時間が遅いので断られるかもしれないと思ったが、すんなりと夕食メニューを受け付けてくれた。再び、佐和子に連絡して、出前センターから三人分配達してもらうようにしたから、母親の退院日でもあるので母の家の方へ食事をしに来るように言った。佐和子は余計な気遣いをしてくれなくてもいいのにと素っ気ない返事が返ってきた。要するに佐和子は義母と一緒に食事をすることに乗り気ではない。これは今に始まったことではなく、性格の合わない者同士は一緒に食事をしたくないのだろう。食事は気の合う者で美味しく食べるのが一番いいのだろう。信二郎は結婚当初は苛立ったものだが、最近は考え方も枯れて来て、嫌なら嫌で仕方がないと思うようになった。

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  • from: あきらめてんさん

    2019年07月10日 18時28分32秒

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    老後の椅子取りゲーム⑩続き

    「家に引きこもっていたら、ボケるばっかりや。リハビリの指導もしてくれる介護施設があるから、一度、考えてみたらいい。」
    信二郎は母親の顔を伺いながら、思い切って言ってみた。
    「施設は嫌いや。ここでいい。家にいるわ。」
    率先して施設に入ろうと先のことを考える人は少ない。切羽詰まってからでないと施設の話はできないと思った。「やっぱり、母親を説得するのは、こりゃ大変だわ。」と信二郎は内心思った。母と息子の二人生活を続けていくより方法はないのか。信二郎は止めていたタバコを急に吸いたくなって、机の引き出しを開けてみたが、何もなかった。展望が見えなくなると喫煙欲が出てきた。ただ、禁煙してから5年も経過しているので一時的な欲求を抑え込むことはできた。しばらくして、妻の佐和子から電話がかかってきた。
    「お母さんの退院はおわったの。」
    まったく事務的な話し方であった。佐和子にしてみれば、面倒なことが増えたくらいにしか思っていないのだろう。母を思いやる気持ちは佐和子からは感じられなかった。
    「ああ。さっき家に着いたところだ。もし、こっちの家に来るのだったら、途中、夕食の材料を買ってきてくれないか。」
    信二郎は気軽に頼んだつもりであった。

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