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  • from: あきらめてんさん

    2019年11月24日 14時02分11秒

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    老後の椅子取りゲーム㉖

    信二郎は森山の全身を顔から靴までじっくりと見た。そして言った。
    「いやー。あんたに連絡をしようと思っていたんだ。僕は昼飯を食べに駅前まで出て来たんだが、君はもう、食べたのか。」
    「いえ。まだです。」
    「そうか。それはよかった。僕と一緒に食事をしながら、話をしないか。」
    「いいですよ。どこえでも、行きますから。」
     実を言えば、駅構内にある立ち食いソバ屋で森山は軽く食事をすませていた。ここは営業だから信二郎に話を合わせた方が得策と判断した森山の選択であった。
    「じゃ。行きつけの天ぷら屋はどうかね。」
    「結構です。お任せします。」と話は軌道に乗った。
    「ところで、例の健康自家発電装置の方は、その後、進展しているのか。」
     信二郎はずばり本題に入った。テーブルに生ビールが置かれ、軽く乾杯をすませた。
    「ええ。順調ですとも。発案者の先生は先日業界紙に紹介されましてね。ここに切り抜き記事があります。」
     森山は手提げカバンからスクラップ帖を取り出した。
     記事には、『健康良し。自力揚水発電!一挙両得。』という見出しが付いていた。
    「ところで、あなたは保険会社の営業を辞めて、現在は、この発電会社に席を置いているのですか。」
    「いえいえ。私は、この企業を盛りたて、会社が株式上場できるまでの資金支援グループの事務局をやっているのです。いろんな方々から反響や応援をいただいております。発想が奇抜だという人が多いですね。」
    「ほー。資金って、そんなに集まっているのかね。どうも、信じられないね。」
    「そこですよ。信じられるから、信じる。これだったら普通でしょう。信じられるかどうか、分からないものを信じていくのが、信心じゃないですかね。なんでも、考え方、信じ方ですよ。」
     森山は流暢な話し方で、一気に攻勢に出て、信二郎を説得にかかった。

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  • from: あきらめてんさん

    2019年11月22日 17時13分12秒

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    老後の椅子取りゲーム㉕

    佐和子の実家である小森家の相続に和田信二郎はお呼びでない。小森家の相続に関しては無関係でしかない。また、何がしかの金額を遺産相続として佐和子が受け取ったとしても、相続金の一部を信二郎が、自分にも分け前をよこせと言えない。相続というのは限定的な血族という係留の世界での出来事でしかない。関係のないものにとっては、まったく無縁だ。
     それよりもと、信二郎は不動産屋から受け取った売買金の半分を佐和子に分配した後、自分の取り分を証券会社に全額送金していたが、具体的にどの銘柄に投資するかは何も決めていなかった。ただ、証券会社の担当者から頻繁に、この会社は半導体素材の面で有望ですよとか、AIのプログラミングのノウハウで国際的に認められているから今が投資のチャンスですよと薦められる会社名はいくつかあった。
     けれども、食指を動かすほどの関心が信二郎に湧いてこなかった。信二郎は投資コンサルタントセミナーで出会った森山新平のことを考えていた。新規上場企業を育てることによって一気に収益を確保するという夢のような企画に信二郎の興味が移ろうとしていたからだ。こんな信二郎の心の揺れを察知したのか、悪魔の偶然なのか、佐和子がパートで出ている日、信二郎は駅前の商店街で昼食をする気になった。どの店に行こうかとバスを降りて、駅前のバスターミナルで立っていると、偶然に信二郎は森山新平と出会ったのである。
    「和田さんじゃないですか。お元気そうですね。その後、どうです。投資の方はもうかっていますか。」
     甲高いが親しみのある、ゆっくりした口調で森山新平は声をかけてきた。

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  • from: あきらめてんさん

    2019年11月22日 14時07分22秒

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    老後の椅子取りゲーム㉔

    離婚の届出書でも提示してくるのかと信二郎は気持ちを引き締めていたが、佐和子との生活は従来と少しも変わらなかった。火木土のパート勤務を続けているし、朝食も作ってくれるから日常生活で困ることは特に何も出てこなかった。ただし、佐和子の実の兄である小森義彦から亡くなった伯母の遺産分割の件で時々連絡が入った。小森義彦は独立して事業をしていたが、経営の方は相当な負債を抱えて、運転資金に苦しんでいるようであった。信二郎は直接に小森本人からは何も聞いていないが、佐和子との電話での遣り取りを聞いていて、だいぶ困っているようだと信二郎は分析した。
    「伯母さんの家を処分するなら、私にも権利があるわね。」
     このようなセリフを佐和子が言っているのを信二郎は聞いていた。どうやら、小森義彦は弁護士を立てて、佐和子との交渉をしようとしているようであった。理由は伯母が残した遺言状の解釈を巡っての内紛であった。遺言の文案には封印がしてあったわけではないので小森義彦は自分に有利な方向に解釈し、弁護士を通して佐和子に遺産の配分を決めようとしているようであった。
     普通、遺言状は封印しておかないと書き直されたりする危険がある。だから、開封する場合は親族の関係者が集まって、家庭裁判所の立会いの下に開封すのが平等といえる。当日、参加できなければ、弁護士に委任状を出すことであるが、佐和子と小野義彦との二人の兄弟関係の安易さから、兄の方が一方的にことを運ぼうとしているようであった。

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  • from: あきらめてんさん

    2019年11月21日 17時08分15秒

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    老後の椅子取りゲーム㉓

    信二郎には先のことが見えなかった。佐和子との関係を続けていても、状況は変わらないだろう。そうであったとしても、眼前の緊張した空気を変えたかった。よし、そうであればと彼は腰を挙げて、テーブルに置かれていた現金の束を無造作に分けた。
    「六百五十万ずつに分けたから。これでいいのだろう。」
     振り返ると佐和子の目は光ったように映った。
     しばらく沈黙が続いた。
    「本当にいいの。」
    「ああ。」
    「じゃ、いただいておくわ。」
     無造作に札束を不動産屋が持参した紙袋に佐和子は入れると、二階にある彼女の化粧部屋に入った。もう一度、金額でも確かめているのだろうと信二郎は想像していたが、間髪を入れずに服装を変えると佐和子は家を出て行こうとした。
     玄関を出ようとする佐和子に信二郎は慌てて声をかけた。
    「おい。どこへ行くんだ。」
    「決まっているじゃないの。銀行よ。」
     佐和子の声はあっけらかんとしていた。信二郎は何か、キツネに化かされたような気持になった。

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