過去にも様々なアトリウムで演奏してきましたが、音楽的音響まで考えられて
設計建築されているアトリウムにまだお目にかかったことがありません。
アトリウムではありませんが、過去には赤坂・山王病院のロビーは
演奏に耐えうる響きがあったことを記憶しています。
どこもアトリウムは天井が３〜４階くらいまであり、
反響板に値するものがないため音がまとまらず、
外で演奏している状態に近くなります。
この川崎市市民ミュージアムの逍遥展示空間もやはり広かったです。

この空間には、立派なベーゼンドルファーがあります。
ここでの演奏会では、べーゼンドルファーの音色を
聴きに来られる方もいるそうですが、
演奏家はそこでふわふわ響いているピアノの雰囲気を
聴かせたいわけではありません。
細部の音楽表現や、そのピアノ本来の音色ではない、
そこからさらに表現された音を明確に聴いてもらいたいのです。
そうでなければ誰が演奏しても同じということになります。
よって、私たちはマイクを使って音をまとめることを考えており、
ポップスのそれとは意味が異なることを明記しておきたいと思います。

しかし、そこで重要なのは耳が良く、常に理想的なバランスを即座につくりだせる
音響技師が必要となります。
これは演奏と同じくらいに奥深く難しいことです。
残念ながら、トラブルがあったとは言え、
今回ゲネプロで行ったとおりの音響が一部なし得ませんでした。
そこの会場本来の音響であれ、後からつくった音響であれ、
音響が悪いと演奏の細部はどうでもよくなってしまいます。
せっかくさらい込んだ細かいフレーズの表現も、
絶妙のバランスをつくったアンサンブルも、
音響が悪いと即座にその努力が無意味になってしまいます。

今回の演奏は皆本番に向けてがんばってよく調整したと思います。

金井さんの「月の光」は力を発揮できずに終わってしまい残念でした。
金井さんの持つ音楽はあの程度ではないはずです。
「アルデバラン」は１回目マイクが入らない不運に見舞われました。
しかし女声三重唱のバランスや３人３様の声質は
実に味わい深いものがありました。
フォーレの「パヴァーヌ」は、まさにこのゼミのための平泉君の編曲で、
この編成があたかもオリジナルかのごとく聴こえる編曲であったと思います。
１年生の三森さんの「きらきら星変奏曲」は、短期間によくさらい込みました。
この曲は題名から受けるイメージほど軽くはなく、
この日の最も長い曲です。集中力が冴えればなお良くなりそうです。
小國さんの「月光」は、楽譜に忠実で端正な人柄を
長所として押し出した名演だったと思います。
細部を取繕うことなく、丁寧な再現の中に無理のないパッションが
バランス良く配合され、このピアノに合ったいい音が聴かれました。
得能さんの「朧月夜」は、少し不安定さがありましたが、
演奏を聴いた人からは「その声質に感銘を受けた」という声も多かったです。
「見上げてごらん夜の星を」の安田さんは、
ゲネプロでピッチ調整に苦労していましたが、本番では修正してきました。
音楽を受けとめる感受性がとても優れている人だと思います。

プロデューサー、セッティング係やMCもやりにくい環境があった中、
よくがんばったと思います。
みんなで支えたという実感を強く感じられた演奏会であったと思います。