前期高齢者ともなれば、老い先の短さは納得済みで、未来を見透かしてもさしたる大望は抱けないものと、相場は決まっている。

　明日の命があるのかないのか。それは、今の年齢とは無関係に、人には等しく存在している。年相応の持病があり、一昨年、突然襲ってきた大きな不幸（左眼失明）は、著しく生活基盤を揺るがせて、八方ふさがりの迷路から抜け出そうと、ジタバタしてきました。

　それでも、天命尽きるまでは生きて行こうと思い直し、ほんの少し先の未来に視線を据えて、どうにかこうにか生きております。

　縁あって、昨年秋に、長男一家から譲り受けた雄雌二匹の猫との暮らし。
ともに十歳超えのシニアで、すっかりこの家とその家族たちに馴れた今は、
ノンビリと猫らしい毎日を送っています。

　喘息持ちと下部尿路結石持ち。
近所にある、犬猫専門病院のS先生夫婦（ともに獣医さん）のアドバイスの甲斐あり、
少々おたかい療法フードと、マメな世話人（同居の次男坊）のお陰か、まずまず快適に日々を送っている（と、人間は勝手に自己評価）。

　彼らを観察していて、ふと思うことがありました。
“猫って、その時々の思い付きで行動している”
　多分、ですけど、彼らは未来なんて夢想していないし、計画的に先回りして準備などもすることは無い（多分）。

　寝たいからお気に入りのソファにゴロリとなり、空腹を覚えたから催促ニャーを発し、爪がムズムズするから研ぎ板と対峙。
　渇きを覚えればい家内三カ所設置の飲み場を訪ね、チチチと野鳥が啼くから窓越しに目線を投げ、閉め忘れの玄関ドアを見つけてタタキでゴロリとしてみる。

　全部、その時との時の思い付き。成り行きで、出まかせで、ひらめきで、インスピレーション次第。
　あぁ、それでいいんだな、あれでいいんだな。
下手に人間やっているから、明日の朝のパンを心配して、通帳の残高に一喜一憂するんだな。

　猫になればいいんだ。
明日、もし目覚めなくても、それは、ただそこにある、現実で、
運命だとか宿命だとか、持って生まれた星の巡合わせとか言って、つじつまを合わせようとするのは、あまり意味のある事ではない。

　猫の様に生きればいいんだ。
その時その時、胸に湧いた衝動に沿って、右を向き、左脚を上げ、椅子に腰かければ、事は済んでしまうに違いない。

　そんな感じで、プラプラ歩いて行こうかな。