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from: 夏野さん
2022/04/18 22:45:26
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茨木のり子『マザー・テレサの瞳』
時に
猛禽(もうきん)類のように鋭く怖いようだった
マザー・テレサの瞳は
時に
やさしさの極北を示してもいた
二つの異なるものが融けあって
妖しい光を湛(たた)えていた
静かなる狂とでも呼びたいもの
静かなる狂なくして
インドでの徒労に近い献身が果せただろうか
マザー・テレサの瞳は
クリスチャンでもない私のどこかに棲みついて
じっとこちらを凝視したり
またたいたりして
中途半端なやさしさを撃ってくる!
鷹の眼は見抜いた
日本は貧しい国であると
慈愛の眼は救いあげた
垢だらけの瀕死の病人を
- なぜこんなことをしてくれるのですか
- あなたを愛しているからですよ
愛しているという一語の錨(いかり)のような重たさ
自分を無にすることができれば
かくも豊饒(ほうじょう)なものがなだれこむのか
さらに無限に豊饒なものを溢れさせることができるのか
こちらは逆立ちしてもできっこないので
呆然となる
たった二枚のサリーを洗いつつ
取っかえ引っかえ着て
顔には深い皺を刻み
背丈は縮んでしまったけれど
八十六歳の老女はまたなく美しかった
二十世紀の逆説を生き抜いた生涯
外科手術の必要な者に
ただ包帯を巻いて歩いただけと批判する人は
知らないのだ
瀕死の病人をひたすら撫でさするだけの
慰藉(いしゃ)の意味を
死にゆくひとのかたわらにただ寄り添って
手を握りつづけることの意味を
- 言葉が多すぎます
といって一九九七年
その人は去った
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きっと あなた は あなたの 仕事の 意味 を 知っているのだろう・・
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