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弥生の河に言の葉が流れる

弥生の河に言の葉が流れる>掲示板

公開 メンバー数:7人

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  • from: yumiさん

    2012年06月07日 11時51分55秒

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    「二周年記念小説『生きる』」
    『未来』

     私はいつまで経っても衝撃が来ないので、薄っすらと目を開ければまた場所が変わっていた。

    「ここは…病院?」

     何処かの大きな病院で、私はふっと人の気配を感じ振り返ると、そこには一人の男性が居た。
     その男性はどこかあの少年に似ているような気がしたが、私は気のせいだと思うことにした。

    「頼む…無事に生まれてくれ。」

     まるで神仏に頼むかのように彼は手を握り額にそれを押し当て、硬く目を瞑っていた。

    「何なのよ。」

     先ほどは『死』、今はまるで『生』の光景のように思えた。

    「人は一人では生まれる事が出来ねぇ。」
    「貴方。」

     聞きなれてしまった声に私が振り返ると少年は杖を地面に当て、そして、苦しげな表情をしていた。

    「どうしたのよっ!」
    「叫ぶな…。」

     思わず驚いて大きな声を出した私に少年は私を睨んできた。

    「大丈夫なの?」
    「ちょっと無理をしているが、大丈夫だ。」
    「……。」

     何でここまでして少年は私に関わるのか疑問を持つが、それを口にするにはどこか躊躇われた。

    「頼むから…これ以上喋るな。」
    「だけど…。」

     少年は私を睨み、これ以上喋るなと目で言う。
     私は諦めて頷いた。

    「………。」

     一瞬自分の名前が出たような気がして振り返ると、男の口がまた開き、私の名前を呼ぶ。

    「えっ、何で知っているの?」

     私がそう呟いた瞬間、何かガラスのような繊細なものが砕ける音がした。

    「この馬鹿っ!」

     少年の怒声が男の耳に入ったのか男は弾かれたように私と少年を見る。

    「兄さん?……。」

     男は誰かに対し兄と言い、そして、私の名前を呼ぶ。
     私はどうしたらいいのか分からず、思わず少年を見れば彼は眉間に皺を寄せていた。

    「久しぶりだな。」
    「兄さん…だよな?」
    「ああ。」

     少年はどこか優しげに微笑むが、かなり見た目としては違和感があった。

    「…俺を恨んでいるのか?」
    「まさか。」

     少年はおどけたように肩を竦めた。

    「……なんで兄さんとこいつが…いや、あいつにしては若いな。」
    「そりゃそうだろう、お前と会う前だしな。」
    「そうか…。」

     どこか納得したような男に私は怪訝な顔をした。

    「貴方は何なの?」
    「……。」

     男は無言で微笑んでいると、一室から産声が上がった。

    「産まれた…。」

     男は本当に嬉しそうにそう言い、私を見る。

    「ありがとう。」

     たったその一言を言い、男は頭を下げる。
     私は訳か分からず、少年を見ればまるで本当に彼の兄のような、そんな柔らかい笑みをたたえていた。

    「もう、行くな。」
    「ああ、じゃあな、兄さん……。」
    「いや、じゃあなじゃない「またな」だ。」

     男は虚を衝かれたような顔をしていた。

    「大丈夫だ、義妹であり、母親であるこいつは無事に帰すよ。」

     男と私は同じように目を大きくさせ、そして、私の体が徐々に消え始める。

    「またな、二人とも。」

     その男の声が最後だった。

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  • from: yumiさん

    2012年06月07日 11時31分56秒

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    「ダークネス・ゲーム」
    第十二章《罠》・1・

     遊園地の事件が終わり、友梨(ゆうり)たちに短い休憩時間が訪れたのだが、友梨は先の事件で池に落ち、見事に風邪を引いてしまった。

    「大丈夫か?」
    「ごほ、ごほ…大丈夫に見える?」
    「……。」

     心配でできる限り看病する昌獅(まさし)に友梨は激しく咳き込みながら軽く睨んだ。
     熱が高く、堰もひどい、本来ならばちゃんと医者に見せたほうがいいのだが、残念ながら今の状況でそれは叶わなかった。

    「何か食べるか?」
    「食欲…ごほ、ない……。」
    「だがな……。」

     何か胃に入れてから市販の薬を飲ませたい昌獅は顔を顰めた。

    「…………………なら、ゼリーか、ヨーグルト……。」
    「分かった。」

     昌獅はすぐに立ち上がり台所に向かおうとするが、何かに引っかかったのか、服が後ろに引っ張られた。

    「………………えっ?」

     不思議そうに昌獅が振り返ると、彼は一点に目を奪われる。
     友梨は熱で朦朧とした頭でなぜ彼がこんなにも驚くのか、不思議に思った。

    「昌獅?」
    「………友梨。」
    「何?」
    「離してくれないか?」

     友梨は昌獅が何を言っているのか理解できなかった。
     昌獅は溜息を一つ吐き、己の服を引っ張る友梨の手を指差した。

    「………………あれ?」

     無意識の行動によって、昌獅を引き止めていた事に、友梨は少なからず驚いていた。

    「すぐ戻ってくるからな。」

     昌獅は友梨の髪を優しく梳いた。友梨はその言葉を信じたのか、それとも自分の無意識の行動に恥ずかしくなったのか、昌獅から手を離した。

    「ごめんね。」
    「いや、平気だ。」

     昌獅は友梨に微笑みかけ、そのまま温くなった水の入っている洗面器を持って部屋から出て行った。
     シンと静まった部屋に一人残された友梨はふと疑問に思った事を口にする。

    「何で…一緒に…池に落ちた…昌獅は…風邪引いて…いないんだろう?」



    「昌獅さん。」
    「おい、昌獅。」

     年少組みの二人に呼び止められた昌獅は眉間に皺を寄せながら二人を見た。

    「何だよ。」

     早く戻りたいという空気を纏いながら昌獅はすごむが、残念ながら鈍感な少女、美波(みなみ)には通じなかった。

    「お姉ちゃんの様子どうなんですか?」
    「……。」

     心から姉を心配している事は、昌獅だって気づいていたが、どうしても自分の感情を抑えられない昌獅はとげとげした物言いで、美波を責めた。

    「平気な訳ないだろうが、夕方の冷たい池に落ちたんだぞっ!」
    「……っ!」

     美波はびくりと肩を震わせ、助けを求めるように涼太を見た。

    「昌獅、苛立っているのは分かるが、こいつに当たるな。」

     鋭い視線が睨み合う。

    「友梨先輩だって今のあんたを見たら、怒るに決まっている。」
    「……くそっ!」

     昌獅は眉間に皺を寄せ、荒い足取りで出ていった。

    あとがき:やっと第十二章です、長かった…。けど、まだ最後の章って訳じゃないので辛いです。

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