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弥生の河に言の葉が流れる

弥生の河に言の葉が流れる>掲示板

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  • from: yumiさん

    2010年07月31日 14時23分57秒

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    「ダークネス・ゲーム」
    〜第五章〜・27・

     友梨(ゆうり)は階段の手すりに体重を預け、ゆっくりと登っていく。

    「大丈夫かい?」

     斜め後ろから聞こえる声に友梨は振り返り笑みを浮かべる。

    「大丈夫です、勇真(ゆうま)さん。」
    「……無理したら駄目だよ。」
    「分かっています、他の人には迷惑を掛けないようにがんばりますよ。」
    「……。」
    「分かってないわよ。」

     呆れたような声に友梨は勇真とは反対の斜め後ると、そこには氷のように冷たい瞳を持つ智里(ちさと)がいた。

    「智里?」
    「お姉ちゃんは、本当に分かってないわ。」

     智里の物言いに友梨はカチンと来て、眉間に皺を寄せた。

    「お姉ちゃんが無理をしようとすればするほどだけ、こっちは被害があるのよ。」
    「何であんたに被害があるのよ。」
    「本当にお姉ちゃんって馬鹿?」

     溜息とともに吐き出された言葉に、友梨は唇を尖らせる。

    「何でそんな事を今言われないといけないのよ。」
    「それはお姉ちゃんが分かっていないから。」
    「……。」
    「『私の何処が分かってないのよ』というような顔をしているわね。」

     智里は蔑んだ瞳で友梨をじっと見た。

    「お姉ちゃんは未来(さき)を見なさすぎ、だから、今ここで大怪我をしてその次を乗り越えられなかったらどうするのよ。」
    「……。」
    「本当にお姉ちゃんって考えなしよね。」
    「……。」
    「本能で動くなんて、動物がすること、人間は考える頭があるのに使わなくてどうするの?ああ、お姉ちゃんは退化した動物だったわね、悪かったわ。」
    「智里。」
    「何?お姉ちゃん。」

     ニッコリと満面の笑みを浮かべる智里の背後で黒いもやが蠢いて見えた友梨はギクリと体を強張らせた。

    「…お姉ちゃん?」
    「何でもありません。」
    「お前ら、そろそろおしゃべりは止めたらどうだ?」

     一番前を一人突き進む昌獅(まさし)は友梨たちよりも先に行っていたので立ち止まり、不機嫌な表情を彼女に向けた。

    「緊張感なさすぎだろ。」
    「何よ。」
    「無駄に口を動かすよりも足を動かせよ。」
    「む、無駄っ!」

     友梨が叫ぶと、昌獅は煩げに耳に手を当てた。

    「ああ、無駄だ。」
    「酷い!」
    「酷くねえよ。」
    「………仲直りしたのね。」
    「何でそうなるのよ!」

     智里の呟いた言葉に、友梨は噛み付いた。

    「何処を見れば仲直りしたと思う訳!」
    「全部。」
    「……智里、目が悪いよ。」
    「そうね、小学校から眼鏡をつけているしね。」
    「そうじゃなくて……。」

     わざととぼけたことを言う智里に友梨は肩を落とした。

    「友梨お姉ちゃん、大丈夫?」

     あまりの落ち込みようにとうとう美波(みなみ)が心配そうに問うて来た。

    「……あんまり大丈夫じゃない…。」
    「おい、そろそろ屋上に着くぞ。」

     昌獅がそう言い、友梨が顔を上げると真っ白な扉が目に入った。

    「第三ステージ、終了まで後ちょっとね。」

    〜つづく〜
    あとがき:あと少しでやっと第五章が終わるはずだけど…そのあと少しのめどが立っていません……。

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  • from: yumiさん

    2010年07月30日 10時35分46秒

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    「ダークネス・ゲーム」
    〜第五章〜・26・

    「……ようやく来たようね。」

     目を閉じていた智里(ちさと)がゆっくりと閉じていた瞳が開いた。

    「智里お姉ちゃん?」

     不思議そうに首を傾げる美波(みなみ)に智里は一点を指す。

    「あ…友梨(ゆうり)お姉ちゃん。」
    「………やっぱりずたぼろね。」

     智里の声が届いたのだろうか、友梨は険しい顔をしながらずんずんと近寄ってきた。

    「誰がずたぼろよ。」
    「お姉ちゃんたち。」

     冷めた目で智里が言い、友梨はフッと息を吐く。

    「仕方ないでしょ、こっちは、ロボットと戦ったんだから。」
    「あら、読みが外れたわね。」
    「嘘吐き。」

     友梨は胡乱な目付きで智里を見詰める。

    「あら、どういう意味?」
    「そのままの意味よ、あんた絶対に分かっていたから、昌獅をこっちに寄こしたんでしょ?」
    「分かるはずがないでしょ?」
    「……。」
    「ただ、何となく嫌な予感がしただけよ。」
    「……。」
    「まあ、多少あいつなら障害の一つや二つ、五百や一千くらいは用意しているでしょう。」
    「……数が一気に増えすぎ。」

     呆れたような友梨の物言いに、智里は喉の奥でくくくと可笑しそうに笑った。

    「あら、あの変態はそうでしょう?」
    「……。」

     否定できない友梨は不機嫌な表情のまま、溜息を一つ漏らす。

    「さて、手当をしないとね。」
    「へ?」

     珍しくまともな事…いや、優しいことを言う智里に友梨は目が点になった。

    「……智里、熱ある?」
    「……ないわよ。」
    「……嘘だ。」
    「ふーん、そんな事を言うの?」

     目を細め、智里は何処から取り出したのか、茶色い大きな瓶を取り出した。

    「……ち、さと?」
    「それなら、容赦はしないわ。」
    「げっ!」

     友梨は逃げようとして身を翻そうとするが、残念ながら智里にその手首を掴まれてしまった。

    「ち、智里さん、何をする気なの?」
    「ふふふ、可笑しな事を言うお姉さんですね。勿論治療に決まっているでしょう?」

     身長さで言えば友梨の方が高いのだが、この時ばかりは友梨の何倍も智里が大きく感じられた。

    「良薬口に苦し。」
    「……。」

     智里は怪しい笑みを浮かべ、そして、瓶のキャップを外した。

    「良薬――。」

     瓶を傾け、智里は友梨の腕の切り傷にその液体をかけた。

    「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!!!!!!」
    「――傷に痛し。」

     口元に弧を描いて微笑んだ智里はぱっと見は天使のように慈愛で満ちているように思えるが、実際は違った……。
     彼女は悪魔の如く、鬼の如く、姉を苛めている。
     悲鳴にならない悲鳴を上げる友梨を尻目に美波は昌獅(まさし)と勇真(ゆうま)の怪我の手当をしていたのだった。
     しかし、美波の手当は慣れていない所為で遅く結局は智里が手伝い、仕舞いには悶え苦しんでいた友梨が復活してから、彼女も手当に回ったのだった。
     因みに、智里が持っていた薬はあの薬しかなく、昌獅、勇真が痛みに堪えていたのは、言うまでもないだろう。

    〜つづく〜
    あとがき:…最強(最凶)は智里なのか、【ルーラー】なのか分からなくなってきました……。
     最近「友梨」と打とうとするとなぜか「誘致」になってしまいます…、「ゆう」までは一緒なのに…何故に「り」ではなく「ち」になってしまいます…。他の子はそんな間違いはしないのに…。

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  • from: yumiさん

    2010年07月29日 10時35分03秒

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    「ダークネス・ゲーム」
    〜第五章〜・25・

     必死な形相な友梨(ゆうり)に昌獅(まさし)はクッと喉の奥で笑った。

    「人形か。」
    「何。」
    「確かに、俺は人形みたいだな。」
    「……何で。」

     友梨は怒りにも似た形相で彼を睨みつける。

    「そんな事を言うの。」
    「俺が空っぽだから。」
    「嘘吐き。」
    「どこがだ?」

     昌獅は口の端を歪め、意地悪そうに笑った。

    「本当の事だろ?」

     怖いほど真剣な目つきをする昌獅を見ている友梨の顔色が先程まで青白かったのに、サッと怒りで赤く染まった。

    「バカっ!!」

     友梨は腕を振り上げ、そして、乾いた音が響き渡った。

    「バカ!バカ!バカっ!!」

     友梨はもう一度昌獅を殴ろうと手を振り上げるが、昌獅に止められた。

    「お前がどう否定しようと、俺が空っぽなのには変わりない。」
    「……嘘よ。」
    「空っぽさ。」
    「嘘よっ!」
    「……それなら、何処が空っぽじゃないというんだ?」
    「あんたには血が通っている!」

     友梨はグイッと昌獅の胸倉を掴んだ。

    「あんたは怒ったりしたじゃない!」

     昌獅はフッと息を吐いて、冷めた目で友梨を見た。

    「それだけか?」
    「………なら、何で私なんかを助けようとしたのよ。」
    「……。」
    「人形だったら、私を助けようとはしない。」
    「……。」
    「本当に人形だったら、思いやりの心なんて持っていない!」

     友梨は勢いよく昌獅から手を離した。

    「あんたは人間よ。」

     友梨は昌獅の右手に触れる。

    「たった一人の人間、日部(にちべ)昌獅という人間なのよ。けっして人形ではない。」

     そっと昌獅の手をしっかりと握る。

    「温かい……ちゃんと血が通っている証拠でしょ?」
    「……馬鹿が。」
    「ええ、馬鹿で結構。」

     友梨はしっかりと昌獅の鋭いけど、先程より柔らんだ眼差しを受け止める。

    「貴方は大馬鹿者よ。」
    「そうか。」
    「ええ。」

     フッと笑う昌獅に友梨は微笑み返した。

    「お前には負ける。」
    「ええ、女の子は強いのよ?」
    「そうだな。」
    「うん。」

     友梨はもう大丈夫だと思い、昌獅の手を離そうとするが、昌獅がしっかりと握り返していた所為で、手は離れなかった。

    「……昌獅?」
    「……。」
    「昌獅?」
    「……。」
    「昌獅。」

     何時まで経っても離そうとはしない昌獅にとうとう友梨は強行突破にでた。

    「昌獅!」

     友梨は無理矢理手を振り払いきっと睨んだ。

    「どうしたって言うのよ!」
    「……いや…。」

     自分でも何をしたのか分かっていない昌獅は不思議そうに自分の手を見つめた。

    「……よく分からないけど、智里(ちさと)たちのところに行こう。」
    「そうだな…。」

     まだ自分が何でこんな事をしたのか分かっていない昌獅はどこか虚ろな目で自分の手を見詰め続けていたが、そっと目を逸らしたのだった。

    〜つづく〜
    あとがき:すみません、昨日の内にこれを載せようとしましたが、ついやる気を失いやりませんでした……。

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  • from: yumiさん

    2010年07月26日 09時08分22秒

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    「ダークネス・ゲーム」
    〜第五章〜・24・

    「……っ。」

     昌獅(まさし)はロボットの攻撃を受け、微かに顔を歪めるが、それでも、武器は手離さなかった。

    「……。」

     突進してきたロボットの肩に手を掛け、昌獅は空中で一回転を決めてから着地する。
     振り返り様に昌獅はロボットに鋭い攻撃を喰らわせ、破壊する。

    「……。」

     殺気を感じ、昌獅はトンボを切り、ギリギリの所で攻撃を回避した。

    「……。」

     冷めた視線の先にいるのはとうとう一体だけしか残っていないロボットだった。

    「さっさと、壊れろ。」

     昌獅は床を蹴り、一気に襲い掛かるが、それは意外にも強く、昌獅の攻撃を防いだ。

    「く……。」

     ここに来てはじめてみせる苦渋の表情に昌獅は一瞬だが、ロボットがほくそ笑んだ気がした。

    「……。」

     昌獅は慎重にロボットから距離を保ち、武器を構えなおす。

    「……。」

     昌獅はじっとロボットを見ていたが、一瞬にして彼の視界からそれがいなくなった。

    「昌獅!」

     切羽詰った声に続き、何かが空を切る音がして、昌獅は反射的にしゃがみ込んだ。
     そして、彼の頭上に何かが掠った。

    「……。」
    「……。」

     昌獅は顔を上げるとそこにはナイフを胸に刺さっている、ロボットの姿があった。

    「……これは…。」

     前にも同じ事があり、昌獅はこれが誰の仕業かすぐに分かって振り返ると、彼の思ったとおり、右手にナイフを一本構え、左手にはその予備を持っている友梨(ゆうり)の姿があった。
     この時、彼は気付いていなかったが、彼の瞳に再び感情が宿った。

    「間に合った…。」

     息を吐く友梨はどこか嬉しそうだが、その顔は青白くなっていた。

    「……。」
    「………あっ!」

     昌獅が友梨の所に向かって歩き出した瞬間、友梨は昌獅を通り越した先を見て、表情を強張らせた。

    「ま――。」
    「消えろ。」

     怒りが詰まった声音によって、不意打ちを狙ったロボットを瞬殺した。

    「………す、すご――。」
    「何をやってるんだっ!」

     感嘆の声を上げようとした友梨に向かって昌獅は怒声を上げた。

    「ひゃっ!」
    「何で大人しく待っていなかったっ!」
    「ま、昌獅…。」
    「何で約束を破ったっ!!」

     友梨の肩を強く掴み、真剣な瞳を見せる昌獅に彼女は黙って受け止めた。

    「このバカがっ!」
    「……ええ、私は確かに馬鹿よ。」

     友梨は強い眼差しを、真直ぐに昌獅を射抜く。

    「だけど、私よりも、貴方が大馬鹿者よ。」
    「なんだと。」

     眉間に皺を寄せる昌獅に友梨は怒気を含んだ瞳で彼を見た。

    「貴方こそ死ぬ気なの?」
    「……。」
    「貴方は確かに強い、でも、さっきの戦い方は何!」

     友梨は肩に乗せた手を振り払った。

    「まるで、人形じゃない!」

    〜つづく〜
    あとがき:ああ、ゆう(友梨)ちゃんやっぱり、戦っちゃのね〜…。
    彼女らしいといえば、彼女らしいけど、もっと別ので方もあったのかな?

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  • from: yumiさん

    2010年07月25日 13時20分48秒

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    「ダークネス・ゲーム」
    〜第五章〜・23・

    「……て…。」

     擦れた悲痛の声がした。しかし、それは誰の耳には届かない。

    「やめ…て……よ。」

     友梨(ゆうり)は足を引きずり、前に出ようとするが、その途端とうとう限界が来たのか、激痛が彼女を襲った。

    「あっ…痛……。」

     顔を顰め、しゃがみ込む友梨だが、その目はしっかりと昌獅(まさし)を見ていた。

    「……どうして…。」

     唇を噛み、友梨は彼を止めるための何かがないかを探し、そして、勇真(ゆうま)が目に入った。

    「ゆう…ま…さん。」

     自分が戦っていた時はしっかりと覚えていたのにも拘らず、今の今まで忘れたことに自分に怒りを感じたが、それよりも、今自分の耳に入ってくる金属のぶつかる音、荒れる呼吸に恐怖を覚えた。

    「……お願い、動いて。」

     友梨は無理矢理自分の足を動かした。
     一歩、一歩歩くごとに痛みを感じているが、彼女は歯を喰いしばりながら、ゆっくりと進む。

    「ゆうま…さん…。」

     ようやく着いた時には友梨の呼吸は荒れていたが、それでも、今この状況を何とかできるのは彼しかいないのではないかと思い、力を振り絞る。

    「…ゆう…ま…さん……っ酷い…。」

     友梨は勇真の怪我に息を呑んだ。
     腹からは取り敢えず血は止まっているが、その顔は完全に血の気を失せていて、今すぐ彼を起こすのは得策ではないことを悟った。

    「……どうすれば…。」

     友梨は戸惑うように昌獅を見た。

    「――っ!」

     昌獅は鬼神の如くロボットを倒していく。
     無表情に武器を振るう姿は、自分が知っている昌獅ではない、と友梨はそう思った。
     だけど、そうさせたのは戦えない自分で、その事実が彼女に重く圧し掛かった。

    「どうすれば……。」
    「……ちゃ…ん。」

     下から擦れた声が聞こえ、友梨が下を見ると、薄っすらと目を開けた勇真がいた。

    「勇真さん!」

     友梨はしゃがみ込み、勇真の声が聞こえる位置に耳を向ける。

    「ゆうり…ちゃん…まさし…を…とめて、くれ…。」
    「……。」
    「たのむ…ゆうり…ちゃんしか……。」
    「喋らないで下さい。」

     友梨は今にも泣き出しそうな表情で、勇真を見た。

    「……。」
    「私じゃ、昌獅は、止められませんよ。」
    「……。」

     勇真はじっと何も言わずに友梨を見詰めた。

    「私なんかじゃ……。」
    「……。」
    「彼を…昌獅を…止めれません…。」

     友梨の拳が小刻みに揺れ、その上に勇真は力を振り絞って重ねた。

    「だいじょうぶ…きみ…なら……。」
    「……。」
    「たのむ…ゆうり…ちゃん。」

     友梨は口の端を噛み、小さくだが縦に頷いた。
     それを見た勇真はホッとしたのか全身の力を抜いた。

    「たのんだよ…ゆうり…ちゃん……。」
    「……勇真さん…。」

     友梨は勇真の手を握り、そして、目を瞑った。

    「私にできるかは分かりませんが、やってみますね。」

     友梨は勇真の手を離し、ゆっくりと足に力を入れた。
     まだ、体が言う事を聞かなかったが、それでも、友梨は真直ぐに昌獅の方を向いた。

    〜つづく〜
    あとがき:さ〜て、ゆう(友梨)ちゃんはどうやって割り込むのか、作者にも分かりません……。

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    2010年07月24日 15時23分44秒

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    「ダークネス・ゲーム」
    〜第五章〜・22・

     昌獅(まさし)は友梨(ゆうり)をロボット達との戦闘に巻き込まないように一気に突っ込んで行った。

    「はあっ!」

     武器を振りそして、ロボットの武器が吹き飛び、昌獅はそれを器用に空中で掴んだ。

    「今の奴よりは絶対に殺傷力があるな。」

     昌獅は目を細め、残忍な笑みを浮かべた。
     これで友梨を甚振ったのかと思うと腸が煮えくり返りそうだった。

    「……絶対に、許さねえ。」

     昌獅はこれ以上ない程怒りをその瞳に宿し、ロボット達と向き合った。
     スッと目を細めた昌獅の瞳に感情が一切抜け去る。
     刹那、ロボット達が一気に昌獅に襲い掛かっていった。

    「……。」

     淡々とした無駄のない動きで昌獅はロボットをあしらう、その時、ロボットの一体の武器に血がついている事に気付き、感情を消していた昌獅の表情に一瞬だが怒りにも似たものが浮かんで、瞬く間に消えた。
     争う時、感情むき出しで戦えば負ける。と昌獅は考えていた。
     彼は自分が未熟だと知っていた。
     技術
     体力
     気合
     色々なものが昌獅の中で欠けていたが、それでも、感情を殺す事で、いつも何とかしてきた。
     無駄な怒りや痛覚を消すことで、感情的にはならず、淡々と戦うことを覚えた。
     だから、今回も昌獅は無情になって闘った。
     一撃、一撃は苛烈だった……。
     だけど、それを見ていた一人の少女はそれを見て、一人、涙を流した。
     彼の繰り出す一撃一撃に、確かにロボットの数を確実に減らしていったが、その代わり、無数の傷を昌獅が負っていたのだ。
     一体目を倒しきった時、彼の左腕に裂傷ができ。
     二体目を倒した時には足に怪我を負った。
     二体倒しただけでも凄いのに、昌獅はまだ武器を振るった。
     そして、昌獅は次を倒すためにまだ戦った。

    〜つづく〜
    あとがき:あ〜、今まで出一番少ないものになりました…すみません、ストックが切れてしまい、頑張ったんですが、これ以上やったら変な文になりそうなので、止めました、すみません、明日か、明後日に続きを載せたいです……。

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  • from: yumiさん

    2010年07月23日 09時35分23秒

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    「ダークネス・ゲーム」
    〜第五章〜・21・

     友梨(ゆうり)の感謝の言葉に昌獅(まさし)は頬を緩めた。

    「……取り敢えず、無事…だったんだな。」
    「ええ、おかげさまで、命はなくさずにすんだわ。」
    「……。」

     友梨はこの時、昌獅の背中に庇われていたので、知らなかったが、この時の昌獅の表情が凍りついたかのように強張っていた。
     そう、彼はもし自分が駆けつけるのが一秒でも遅かったのなら、今自分の後ろで庇った少女の命がなかった事に、今更ながら気づいたからだ。

    「……昌獅?」

     急に黙り込んだ昌獅に友梨は怪訝な顔をした。

    「……何でもない。」
    「そう。」

     硬い声音だったが、友梨は彼が何もないと言うのなら、どうせそんなにしつこく聞いても無駄だと思い、追求しなかった。

    「ねえ。」
    「何だ。」
    「私も戦う。」
    「――っ!」

     昌獅は驚きのあまり、いつもの仏頂面ではなく、本当に目を丸くさせていた。

    「大丈夫、無茶はしない。」
    「………。」
    「だから――。」
    「駄目だ。」

     硬い声音に友梨はビクリと肩を跳ね上がらせた。

    「これ以上お前に怪我なんかさせたくない。」
    「え…どういう意味?」

     友梨の耳には昌獅が自分を気遣っているようにも聞こえるような気がしたが、それは都合のいい解釈のような気がして、尋ねた。

    「……。」

     昌獅は黙り込み、そして、ようやく言葉を紡いだ。

    「お前の妹に、お前を参戦させるな、と言われた。」
    「あ、そうか…、智里(ちさと)なら、言いかねないね。」
    「……。」
    「ごめんね、何か変な解釈をしてしまって。」
    「……。」

     笑っている友梨の目の前では微かに動揺している昌獅がいたのだが、それは、取り敢えず置いておこう。

    「智里に言われたんならしょうがないよね。」
    「…。」
    「分かった、それなら、私は手を出さない。」

     友梨はそっと昌獅の服の裾を握った。

    「手を出さないから、お願い、怪我をしないでね。」
    「……。」
    「約束して。」

     真剣な眼差しで見詰める友梨に昌獅は一瞬だが表情を和らげた。

    「またお願いか。」
    「……。」
    「悪いが、最初のお願い自体叶えてないぞ。」
    「智里に言われたでしょ?」

     友梨はフッと微笑み、昌獅の服の裾を掴んでいた手を離した。

    「だったら、それは必要な事、だから、最初の願いも叶えてもらったのも同然よ。」
    「……そうか。」

     昌獅は持っていた武器に力を込めた。

    「高田姉、絶対に手を出すんじゃないぞ。」
    「ええ。」

     昌獅は気合とともに拮抗していた力のバランスをワザと崩し、その瞬間から戦闘が開始された。

    〜つづく〜
    あとがき:戦闘開始、さ〜て、勝負の行くへは…。

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  • from: yumiさん

    2010年07月22日 10時21分22秒

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    「ダークネス・ゲーム」
    〜第五章〜・20・

    「…………何処なんだ?」

     昌獅(まさし)は汗を拭い周りを見渡すが、何処も同じ部屋にしか見えていなく、所々シャッターが閉まっているので、中々前に進めなかった。

    「くぁっ!」

     何処からか声がし、昌獅はハッと顔を上げた。

    「高田(たかだ)姉!」

     声がした方に向かって昌獅は走り出し。
     そして、異様な気配がする場所へと辿り着いた。

    「ここか?」

     中からは金属同士がぶつかる音、何かが壁へと激突する音、そして、女性が痛みを堪えるようなそんな声が聞こえた。
     昌獅は周りを見渡し、何が武器になりそうなものを探した。

    「これでいいか。」

     すぐさま彼が見つけたものは、掃除用具入れに入った箒だった。
     本来なら、刀を持ってきたかったが、バイクに乗るのにそんなものをつけていたら邪魔だと感じ止めたのが、その事が裏目に出て、昌獅は微かに顔を歪めた。

    「ぐっ……かはっ。」

     中からの何かを吐き出すような音に、昌獅は背筋が寒くなった。

    「…………けて…。」

     弱弱しい声が昌獅の耳に入る。

    「たす…けて…だれか……だれか……。」

     友梨(ゆうり)の弱弱しい声に、昌獅は怒りで体中がカッと熱くなった。
     そして、中に入り込んだ昌獅が目にした光景に彼の怒りは爆発したのだった。



     友梨は一人、果敢にロボットに挑みかかったが、それでも、元から怪我をしていた所為と、ロボットのあまりの強さに彼女の体はボロボロになり、とうとう、友梨は自力で起き上がれなかった。

    「………。」

    ――此処で負けてしまうのか?――

     そんな言葉が友梨の脳裏に浮かび、ポロリと一粒の涙が零れた。

    「…………けて…。」

     自分の力だけでは勝てない圧倒的な敵に友梨は見も心もズタズタに引き裂かれた。

    「たす…けて…だれか……だれか……。」

     自分はどうなってもいいが、勇真だけは助けたかった。
     だから、友梨は必死で、神に祈る。
     刹那、友梨は殺気を感じ、顔を上げると、目の前に「5」と書かれたロボットが友梨に向かって刃を振り下ろした。

    「……。」

     この瞬間友梨は自らの死を目の前にして、「死にたくない」と強く思った。

    「いやっ!」

     顔を背け、ロボットから目を離した友梨はその時動いた影を見る事はなかった。

    「…………間一髪。」

     聞き覚えのある声に、友梨は戸惑いを隠せないでいた。

    「……し?」
    「………すごいボロボロだな、高田姉。」
    「………昌獅…。」

     軽愚痴を叩く昌獅に友梨は涙を流した。

    「好きで、ボロボロになっていないわよ。」
    「へ〜、そうなのか。」
    「………ふっ…。」

     友梨は急に何かが抜けたかのように方の力を抜いた。

    「昌獅、ありがとう。」

    〜つづく〜
    あとがき:ゆう(友梨)ちゃんのピンチに正義(?)の味方昌獅登場、って、正義の味方???…ま、いいか。

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  • from: yumiさん

    2010年07月21日 15時00分14秒

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    「ダークネス・ゲーム」
    〜第五章〜・19・

     友梨(ゆうり)は何が起こったのか分からなかった。
     ただ分かるのは、目の前に蹲る勇真(ゆうま)の姿。
     そして、彼の体から流れる血。

    「――っ!いやあああああああぁぁぁぁぁ――――――!!」

     耳を塞ぎ全てを拒絶したかった。
     だけど、それをする余裕を敵はくれなかった。
     人のように二つの足で歩くそれ。
     だけど、人と違いぎこちなく歩くそれは持っていた刃物で友梨を切りつけようとしたが、それを友梨は寸前の所でかわした。
     何故、こんな事になったかは少しと気はさかのぼり、勇真と友梨が十五階に着いた所から始まる。
     勇真は友梨を背負っていたのにも拘らず、早々と十五階に着いたのだ。
     だけど、そこで待ち受けていたのが、この人のように二足歩行をするロボット達だった。
     ロボット達は友梨たちを認識した次の瞬間、容赦なく襲い掛かってきた。
     勇真はとっさに友梨を庇うが、自分が無防備になってしまい、怪我を負った。
     友梨は幸いにも傷は負わなかったが、それでも、挫いた足が痛んだ。
     それが、災いし、動けない友梨を再び庇った勇真は床に沈んだ。
     そして、放心から我に返った友梨は怒りで顔を真っ赤に染めた。

    「よくも、勇真さんを……。」

     持ってきていた折りたたみ式のナイフを抜き取り、友梨は構えを取る。

    「許さない…。」

     怒りでいつもよりいっそう輝く瞳は美しく、だけど、危険を孕んでいた。

    「許さないんだから!」

     友梨は左足で床を蹴り、ロボットに突っ込んで行った。
     ロボットの数は全部で五体、まるで、友梨たち全員の数をあわしたみたいで、友梨はこれが【ルーラー】の仕業であると悟っていた。

    「卑怯者…。」

     自分では一切動かず、他のもので手を汚す。そんなやり方に友梨は吐き気を覚えた。

    「はあっ!」

     気合とともにナイフを滑らせるが、ロボットは彼女が思っていたよりも頑丈で微かに傷が付いただけだった。

    「く……。」

     友梨は苦渋で顔を歪め、すぐさま後ろに飛び退き、真横にいたロボットの攻撃を回避した。

    「……どうしよう…。」

     足の痛みがじわじわと友梨の動きを鈍くさせる。

    「……っ!」

     戦いに集中していなかった友梨は後ろにいたロボットの攻撃を回避できずもろにその攻撃を喰らった。

    「くぁ……。」

     壁に背中を打ちつけ、友梨は顔を歪ませた。

    「……………ゆうり…ちゃん、にげろ……。」

     床にうつ伏す勇真は苦しげにそう言うが、友梨は逃げる気など無かった。

    「嫌…です。」

     友梨はよろけながらも立ち上がり、鋭い目付きでロボットを睨みつけた。
     よく見ればロボットにはそれぞれ番号がふられているが、友梨はそんなくだらない事に気付く余裕もなかった。

    「私、一人逃げる、なんて、出来ません。」

     体中が痛かった、だけど、友梨はそれを無視し、構えを取る。

    「大丈夫です、きっと、智里(ちさと)たちが、助けにきます。」

     友梨は本心ではない言葉を口にしながら、笑みを浮かべた。

    「だから、それまで、私が持ち堪えます。」

     本心は智里たちにこんな危ない所に来て欲しくなかった、それくらいなら、自分の命を犠牲にしても、このロボット達すべてを薙ぎ払いたかった。

    「……。」

     勇真は顔を歪ませ、口を開こうとするが、もう限界だったのか言葉を発する前に気絶してしまった。

    「……ごめんなさい、勇真さん。」

     友梨は眉を下げ、今にも泣き出しそうな表情を浮かべた。

    「私なんかを庇った所為で……。」

     ロボット達の顔が一斉に友梨の方に向いた。

    「………今は、私が、貴方を守ります。」

     友梨は勢いよく床を蹴り、再びロボットに向かって斬りかかった。

    〜つづく〜
    あとがき:ゆう(友梨)ちゃんバトル開始!!といっても、既に手負い…何処まで彼女はやれるか!!

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  • from: yumiさん

    2010年07月20日 09時12分30秒

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    「特別企画!?」
    涼太:誕生日・後編・

    「はあ…はあ…。」

     肩で息をする美波を見て、涼太はもう少しゆっくり歩けばよかったと後悔をするが、あの時は恥ずかしさが勝っていたので、仕方がないような気もした。

    「大丈夫か?」
    「う、うん。」

     弱弱しく微笑む美波を見詰める涼太だったが、何か違和感を覚えた。

    「……。」
    「どうしたの?」
    「………美波。」

     涼太は屈みこみ、美波の足に触れる。

    「りょ、リョウくん!」

     目を丸くさせる美波は慌てて足を隠そうとするが、それは少し遅かった。

    「……悪い。」

     涼太は表情を曇らせた、その理由は美波が鼻緒擦れを起こしていたからだ。

    「リョウくんは悪くないよ!」

     美波は首を横に振ったが、涼太はそう簡単に自分を許そうとはしなかった。

    「美波。」
    「何?」
    「ほんの少し離れるが、絶対に変なのに絡まれるなよ。」
    「ふえ?」
    「絶対に動くなよ!」

     涼太は早々と美波の元から離れていき、美波は不思議そうに首を傾げていると、すぐに涼太は戻ってきた。

    「大丈夫だったか!?」

     二分も経ったか経ってないかの時間にどうすれば、何かの問題に巻き込まれるのか、と誰もが思うかもしれないが、美波はトラブルメーカーなので、ほんの一秒でも問題が引き起こされることがあるので、涼太は気が気でなかった。

    「え?リョウくんすぐ戻ってきたから大丈夫だよ?」
    「……すぐでも、トラブルを引き起こす奴がここにいるじゃないか。」

     涼太は溜息とともにその言葉を吐くが、幸いにも美波の耳には届かなかった。

    「美波、ジッとしていろよ。」

     涼太は自分の膝の上に美波の鼻緒擦れを起こした足を乗せ、その足を先程濡らしてきたハンカチで冷やした。

    「……少し抑えててくれ。」

     涼太は美波にそう言うと、自分は美波の下駄を持ち上げ、二枚目のハンカチで鼻緒の部分を巻いた。

    「リョウくん器用だね。」

     感心した美波の言いように涼太は眉間に皺を寄せた。

    「世話をかける誰かさんの御陰で必要以上に器用になったからな。」
    「へ〜。」

     自分の事を言われているとは気づいていない美波は再び感心している。

    「……これでよし。」
    「ありがとう。」
    「これからどうする?」

     涼太としてはこれ以上何も起きないうちにさっさと美波を家に送っていった方が得策のように思えたが、それでも、この祭りを楽しみにしていた美波の事を考え、譲歩した。

    「うん、リンゴ飴を食べてから、射的をしたいな〜。」
    「分かった。」
    「その後はね、花火を見るの。」
    「分かった、分かった。」

     涼太は美波の手を引き、腰掛けるのに丁度いい岩の上に美波を座らせた。

    「焼きそば食うか?」
    「うん。」
    「そういやさっき、お前の姉さんにあったぞ。」
    「…あ〜、友梨お姉ちゃん?そういえば、お姉ちゃんそんな事言ってた気がするな。」
    「そうなのか?」
    「うん。」

     喋りながら器用に食べる涼太とは対照的に、美波は喋る時は手を止め、食べる時は必死になって食べていた。

    「…ん、ご馳走さん。」
    「ふえ、早い……。」
    「そんな事ねえぞ。」
    「むむむ……。」

     美波は必死で食べるが、中々焼きそばの量は減らない。
     そして、涼太が食べ終わって十五分は経ったというくらいに、ようやく美波はリンゴ飴を食べ始める。
     おいしそうに食べる美波を見詰めながら、涼太はそれを買ってよかったと心の中で小さく思ったのは、彼だけの秘密だ。

    「リョウくん。」
    「ん?」
    「一口食べる?」
    「はあ?」

     珍しく間抜けな表情を作る涼太に美波はニッコリと微笑んだ。

    「買ってもらったでしょ?あたし一人で食べるのももったないんだもん。」
    「でもな、オレは甘いのは。」
    「駄目?」

     まるで捨てられた子犬のようにしょんぼりとする美波の申し出に、涼太が断れるはずがなかった。

    「分かった、一口だけな。」

     涼太は意を決して、一口飴の部分ではなく美波のかじった実の部分を食べた。しかし、少し雨の部分を口に含んだのだろう、涼太は微かに眉を寄せた。

    「甘いな…。」
    「うん、おいしよね〜。」

     微妙にかみ合っていない会話に涼太は溜息を吐いた。

    「うまいのなら、それでいい。」
    「うん。」

     美波は再び嬉しそうにリンゴ飴を食べ始めた。



    「リョウくん!!」

     美波は涼太の手を引き、射的の出店まで引っ張って行く。

    「待てよ。」
    「あそこの景品で可愛いのあったんだよ!」

     いつの間にそんなもんを見たんだ、という涼太の突っ込みは美波の耳にはどうやら聞こえなかったみたいだ。

    「……。」
    「おじさん!一回お願いしま〜す!」

     美波はお代を払おうとするが、涼太に止められた。

    「え?」
    「友梨先輩がくれたから、おごる。」
    「で、でも…。」
    「オレが貰ったんだ、好きにさせろ。」
    「……。」

     美波はこれ以上何を言っても無駄だと悟り、さっさと銃を構えお目当ての景品の番号札に狙いを定める。

    「いけっ!」

     引き金を引き、勢いよくコルクが飛び出すが、美波の狙った札よりも十数センチもずれた。

    「……。」
    「……へた。」
    「むうううううう………。」

     美波は怒りで顔を真っ赤にさせ、次々に撃っていくがどれも器用に番号札にはあたらず落ちていった。

    「…ここまで外すのも一層清々しいな。」
    「…リョウくん、やって!」

     美波は膨れっ面のまま涼太に自分が今しがた使っていた銃を突きつけ、涼太はそれを苦笑しながら受け取った。

    「おっさん、一回追加。」
    「おう。」

     涼太はコルクをつめ、美波が中てようとした三番の番号札に向かって先を向け、特に身を乗り出さず、一気に引き金を引いた。

    「えっ!」

     涼太が放ったコルクは見事に番号札の真ん中に当たりこけた。

    「…他にはどれが欲しい?」

     美波は一瞬無茶を言おうかと思ったが、それよりも、自分が欲しい景品を取ってもらえるという欲求に負け、一番、十番、十三番の札を指差した。

    「分かった。」

     涼太はまず、一番を狙い、見事に命中させた。
     その次は十番を狙い、危うく狙いが逸れそうになったが、それでも、彼は命中させた。
     十三番は先程の危うさなど見せず、見事に命中。

    「すごい!すよいよ!」

     手放しで褒める美波に涼太は一瞬頬を緩ませた。

    「……。」

     残る弾は後一つ、美波は特に欲しいものがないのか、何も言ってこないが、それでも、彼女の視線は何も言わない変わりに雄弁にある事を語っていた。
     涼太は美波の視線の先のものに勿論気付き、そして、迷わずそれを狙った。
     良太の放った最後のコルクは見事一番高い棚にある特等と書かれた札を倒した。

    「お、うまいと思ったが、これもとったか。」

     見せの主は苦笑に近い笑みを浮かべ、景品を涼太の前に置いた。
     三番の可愛らしい兎の置物
     一番の木彫りの犬のストラップ
     十番の綺麗なオレンジ色に染められたコースター
     十三番の桜の花を描いたグラス
     そして、特等の華奢な指輪だった。

    「リョウくん……。」
    「これ欲しかったんだろ?」

     涼太は美波の手の上にその華奢の指輪を置いた。
     指輪は銀色でその中央には淡いピンクのガラス玉が埋められていた。

    「何で分かったの?」
    「お前を見てりゃすぐに分かる。」
    「そうなんだ〜。」

     感心しながら指輪を嬉しそうに見ている美波に涼太は口元を緩ませた。

    「気に入ったか?」
    「うん!ありがとう、大切にするね。」

     涼太は本当に美波が喜んでくれたので、今日祭りに来て本当によかったと思ったのだった。

    「あ。」

     涼太は偶然目の前にかかっていた時計を見て、もうすぐ打ち上げ花火が始まる事を知った。

    「美波、もうすぐだ。」
    「ふえ?」
    「は・な・び。」
    「ウソッ!」
    「嘘じゃねぇ、行くか?」
    「うん!」

     涼太は自分がとった景品を抱えるが、フッと空いた焼き場の袋を思い出しそれに全部入れた。

    「リョウくん……。」

     涼太が袋に入れたのを見た美波は悲しげに眉を下げた。

    「しゃーねー、だろ。」
    「でも〜。」
    「そんなちっぽけな手提げに入る訳ないからな、これがいいんだ。」
    「手提げ…って巾着の事!」
    「別に何でもいいだろ、早く行かねえと、場所とられるぞ。」
    「う、うん。」

     美波は涼太の手に引かれ、そのまま見晴らしのいい場所までついていった。

    「…リョウくん。」
    「ん?」
    「ここ、人が少ないな。」

     それもそうだ、美波は知らないが、涼太がつれてきたのはあまり人に知られていない穴場と呼ばれる場所だった。

    「そりゃ、そうだろ。」

     涼太がこの場所を見つけたのは小学校三年あたりで、その時ワザと親からはなれ、そして、この場所を見つけたのだった。
     当時は真っ暗な闇が怖く感じて半泣きになっていたが、打ち上げられた花火の美しさは今まで見たどの花火よりも美しく、そして、大輪の花を思わせた。
     だから、だろう、涼太は美波の近所の神社がここだと知って、この場所につれてきたのだった。
     そして、花火が夜空に大輪の花として咲いた。

    「うわあぁぁ…。」
    「……。」
    「綺麗……。」

     次々と上げられ花火はどれも綺麗で、人気のないこの場所で二人は十二分に花火を堪能した。



    「綺麗だったね。」

     帰り道、美波が涼太の手に引かれながらそう言った。

    「ん。」
    「………ねえ、リョウくん。」
    「何だ?」
    「お誕生日、おめでとう。」
    「え……。」

     唐突の言葉に涼太は目を丸くさせた。

    「……もしかして忘れてた?」

     言われて涼太はようやく自分の誕生日が今日だという事を思い出した。

    「それで、誘ったのか?」
    「う〜ん、少し違うかな?」
    「……。」
    「あのね、あのね、誕生日プレゼントを用意したんだけど…すんごい、変で……それの変わりに、これに誘ったんだけど…………う〜ん、笑わないでね?」

     美波はそう言うと、巾着から小さな紙袋を涼太の手に置いた。
     涼太はどんな変なものを渡すのかと思い、眉間に皺を寄せ、掌にそれを置いた。

    「……。」

     涼太の手のひらに転がっているものは携帯などに付けるストラップで、ストラップの先の針金の部分や他の部分が異様に歪んでいる、だけどその中にある淡い赤色の石が涼太の目を引き付けた。

    「この石ね、勇真(ゆうま)さんが取り寄せてくれたの。」

     一瞬涼太の眉がピクリと上がったが、美波は気付かなかった。

    「リョウくんの誕生石は7月だからルビーでしょ、その原石なの。」
    「……。」
    「手作りのストラップだから、すんごくもったいないもするけど……。」
    「ありがとうな。」
    「え……。」
    「プレゼント、ありがとな。」

     涼太はそっぽを向き礼を述べる。

    「大切にするから。」
    「うん!」

     涼太は確かに誕生日プレゼントをもらったのは嬉しかったが、それよりも、自分の誕生日を覚えていてくれて、笑顔でおめでとうと言ってくれた方が何倍も嬉しかった。
     涼太の十三回目の誕生日は今までで一番嬉しく、そして、美しいものとなった。

    〜終わり〜

    あとがき:リョウ(涼太)くん、誕生日おめでとう!?
    ようやく、みな(美波)ちゃんと同じ年になりましたね、彼女の誕生日が来るまで、当分の間同じ年、……作中ではでていませんが、身長はまだ少しみなちゃんが高いので、そのうち追い抜いて欲しいですね。
    さ〜て、今回は出番の少なかった人、全くでてこなかった人もいますが、次回は10000人記念が先か、それとも、まさ(昌獅)くんの誕生日が先か、その時によりますね。
    それでは、この場駄文を呼んでいただいた方には感謝いたします。ありがとうございます。

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