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弥生の河に言の葉が流れる

弥生の河に言の葉が流れる>掲示板

公開 メンバー数:7人

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  • from: yumiさん

    2011年10月31日 12時25分16秒

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    「ダークネス・ゲーム」
    〜第十一章〜・103・

    「ねぇリョウくん。」
    「ん、何だよ、美波(みなみ)。」

     一人ぽつんと立っていた涼太(りょうた)に美波は近付き、彼の服を掴んだ。

    「リョウくんは大丈夫なの?」
    「なにがだよ。」

     本当に訳の分からない涼太は眉間に皺を寄せた。

    「体の調子。」
    「オレ?オレは本当に何もないが、美波こそどうなんだ?」
    「あたし?あたしも大丈夫だよ?」
    「本当にか?」
    「うん、疲れているとはいえ、別に普通だよ。」
    「……。」

     涼太は美波の言葉を聞き、眉を寄せた。

    「少しでも調子が悪かったんなら絶対に言えよ。」
    「うん。」

     美波は小さく微笑むが、涼太はあんまり彼女の言葉を信じていないのか、眉にしわを寄せたまま考え事を始めた。

    「こいつは友梨先輩みたいに無茶はしないとお思うが、それでもな……。」
    「リョウくん?」
    「この天然は自分の体力がどのくらい残っているかなんて把握できるはずもないしな、やっぱりオレが……。」
    「……。」

     ぶつぶつとあまりにも小さな声で美波の耳には届いていなかったようで、美波は顔を顰めていた。

    「リョウくん、聞こえているの?」
    「だが、ずっと気にかける事は無理だしな。」
    「……駄目だ…聞いていないよ。」

     美波は肩を落とし、溜息を一つ吐いた。

    「美波ちゃん、どうしたんだい?」

     困ったような顔をしている美波に気付いた勇真(ゆうま)は彼女の側に歩み寄った。

    「あっ、勇真さん。」

     美波はほっとしたように微笑んだ。

    「リョウくん、何か自分の中に閉じこもって話しを聞いてくれないんです。」
    「……。」

     勇真は涼太を一瞥し、そして、苦笑を浮かべながら、智里(ちさと)を指差す。

    「智里ちゃんが呼んでいるから、こいつはおれに任せてくれないかな?」
    「分かりました。」

     元気の良い返事に勇真は笑みを零し、そして、美波がちゃんと立去った事を確認して、涼太の頭を叩いた。

    「いい加減にしろ。」
    「――っ!勇真。」
    「美波ちゃんが心配していたぞ。」
    「……。」

     己の頭を叩いた勇真を恨みがましく見ていたが、彼の次の言葉で言葉を飲み込んだ。

    「あんまり、心配をかけるなよ。」
    「……。」
    「お前が美波ちゃんを案じているのは知っているが、こうも自分の中で篭っていると、彼女が心配するぞ。」
    「悪い……。」

     根が正直な涼太は素直に自分の非を認めた。もし、これが昌獅(まさし)ならきっと睨んで終わりだっただろう。

    「お前の良い所はその素直な部分だ。」
    「……あんま褒められた気がしねぇ。」

     眉間に皺を寄せ、涼太は溜息を一つ零した。

    「でも、サンキュウな。」

     勇真はやはり、涼太は素直な良い子だと思った。自分の非を素直に認め、そして、人に感謝の言葉を忘れない。それは当たり前の事であるが、それを実行するには少し難しい所がある。

    「一応お前の忠告どおり、気をつけるさ。」

     涼太は勇真の横を通り過ぎ、さっきまで側にいた少女の下に足を向けた。

    あとがき:今日は午後から就職活動の面接があるので、ここまでです。

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  • from: yumiさん

    2011年10月28日 11時26分04秒

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    「ダークネス・ゲーム」
    〜第十一章〜・102・

    「智里(ちさと)ちゃん、昌獅(まさし)。」

     落ち着いた声音が二人を止める。

    「…勇真(ゆうま)。」
    「何の用かしら?」
    「いや、このまま行ったら通り過ぎるよ。」

     苦笑を浮かべる勇真の言葉に二人が顔を上げると、確かに目的地を通り過ぎる所だった。

    「熱中するのは良いけど、流石にもう止めようよ。」
    「……。」
    「……。」

     智里と昌獅は睨み、そして、同時にそっぽを向いた。

    「…勇真さん。」

     友梨(ゆうり)はこそこそと勇真に近付き、勇真は首を傾け友梨の声を拾いやすくする。

    「ありがとうございます。」
    「いや、そろそろ止めないといけないと思ったからね。」

     勇真は微笑を浮かべ、友梨はホッと息を吐いた。

    「何であの二人は相性が悪いのかな……。」
    「さあ、でも、今更仲のいい、あの二人を見るのは不気味だと思うけど。」
    「……。」

     勇真がこんな事を言うなんて予想していなかった友梨は軽く眼を見張った。

    「珍しいかな?」

     困ったような笑みを浮かべる勇真に友梨は頭を振った。

    「すみません、驚いてしまって。」
    「いや、大丈夫だよ、自分もらしくない事を言ったかな、とか思ったし。」
    「……。」

     フォローされた友梨は苦笑を浮かべ、もう一度勇真に謝った。

    「すみません。」
    「友梨ちゃんらしいね。」

     もう一度友梨が謝る事を予想していた勇真は彼女に微笑みかける。

    「そんなに謝ってばっかりだと、向こうで拗ねている奴が心配するよ。」

     勇真は指で拗ねているように眉間に皺を寄せる昌獅を指差した。

    「あっ……。」
    「これ以上、おれと話していると多分…いや絶対に機嫌を損ねるから、行っておいで。」
    「…すみま…………ありがとうございます。」

     また謝礼の言葉を言おうとした友梨だったが、勇真の眼を見て、苦笑を浮かべ、代わりに感謝の言葉を述べた。
     勇真は一瞬浮かべた険しい瞳ではなく暖かな眼で友梨を見詰め、友梨は頭を下げ、嫉妬深い恋人の元に急いだ。

    「もう、睨まなくてもいいじゃない。」
    「お前が悪いんだろうが。」

     痴話げんかを始める二人に勇真は小さく笑った。

    「随分楽しそうですね。」
    「そうだね、少し前ならこんな風にコロコロと表情を変える昌獅を見れなかったし、それに、おれ自身の心の傷も、きっと癒えていなかっただろうからね。」
    「まあ、人形や死人のように感情がないのよりはああやって馬鹿やっている方が、人間らしいですけど、限度というものがあると思うわ。」
    「智里ちゃんはそう思うけど、おれはあれでいいと思うよ、まあ、嫉妬深いのは何とかして欲しいけどね。」
    「そうですね。」
    「友梨ちゃんの御陰だね。」
    「あの馬鹿姉でも役に立つんですね。」

     口は悪いが、その眼が優しい事に気付いていつ勇真は微笑を浮かべた。

    「ありがと、智里ちゃん。」
    「何ですか?急に。」

     訝しむ智里に勇真は口元に笑みを浮かべたまま正直な気持ちを口にした。

    「智里ちゃんが昌獅の事を信頼してくれたから、友梨ちゃんと昌獅はうまくいったんだと思うんだ。」
    「……わたしが認めなくとも、お姉ちゃんたちはくっ付いていたと思うわ。」

     肩を竦めて見せる智里に勇真は微苦笑を漏らす。

    「そうかもしれないけど、そうなればきっと友梨ちゃんはあんまり幸せそうな顔はしていないだろうね。」
    「……。」

     智里は確かにあの姉なら自分たち家族が認めていないのなら、心苦しい顔をしながら昌獅の側にいる事になるだろう。

    「そうかもしれませんね。」
    「だから、ありがとう。」

     智里は何ともいえない顔を一瞬浮かべるが、直ぐにいつもの仏頂面を浮かべた。

    あとがき:明日はバイト…今日は『さよなら』のかわりにシリーズのストックが無いので、お休みです。少しでも切がいいのが書けたら載せます。

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  • from: yumiさん

    2011年10月27日 14時36分21秒

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    「『さよなら』のかわりに―紅葉を―」
    「征(まさ)兄、機嫌よさそうだな。」

     夕食のコンビ二弁当を食べる弟は気味悪そうに、そう言った。

    「まあな、丁度いいおもちゃを見つけたんだ。」
    「……。」

     弟は心底その見知らぬ人に同情した。

    「程ほどにしろよ。」
    「……逃げられるぞ。」
    「逃げる前に捕まえるさ。」
    「……。」

     弟は完全に沈黙して、ご飯を頬張る。

    「ふぉんふぁに(そんなに)。」
    「口に入れながら、喋るなよ、汚い。」
    「……。」

     弟はご飯を飲み込み、征義(まさよし)に言う。

    「そんなに、気に入ったのか?」
    「ああ、あんな目をしたヤツ始めてみた。」
    「……。」

     弟は何か言いたげな顔をして、ジッと征義を見ていた。

    「気になるのか?」
    「別に。」

     インスタントのお吸い物をすすりながら、弟はそっぽを向く。

    「結構俺ってもてるんだよな。」
    「…自分で言うか普通。」

     呆れる弟を無視して征義は言葉をつむぐ。

    「まあ、俺自身も俺のどこがいいんだか、とか思うさ、それでも、あいつは真っ直ぐに俺という人間を見ていたんだ。」
    「……。」

     弟は軽く目を見張った。征義に言い寄る女性は殆どは彼の容姿に引かれての人が多く、征義はいつから眼鏡をかけて始めた。
     彼自身は目がいいのだが、他人と遮断するために、眼鏡をかけ、自分を守っている節があったのだ。

    「嫌われるなよ。」
    「ああ、そうなったら、元も子もないからな。」
    「……。」

     弟は最後のご飯の塊を飲み込み、手を合わせる。

    「ごちそうさん。」
    「勉強か?」
    「ん、下手にあいつら刺激したらヤベェからな。」

     弟が言うあいつらが誰なのか理解している征義は苦笑を浮かべた。

    「まっ、頑張れよ。」
    「他人事だと思って。」
    「他人事だからな。」

     征義の言葉に弟は苦笑を浮かべる。

    「それにしても、お前上位の成績を修めているのに、煩いのか?」
    「煩いさ。あいつらは人間関係によってオレを見ているからな。」
    「正直、鬱陶しいさ。」
    「輝太。」
    「征兄はそんなセンコウになるなよ。」

     弟の言葉に征義はニヤリと笑った。

    「当たり前だ。」
    「んじゃ、お休み。」
    「ああ。」

     弟が部屋に篭ったら朝まで出ない事を知っている征義は頷き、流し台に飲み終わったカップを持っていく。

    「さて、あの子猫とどう戯れるかな?」

     獲物を狙う獣のように爛々と目を輝かせながら、征義は明日を楽しみにした。

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  • from: yumiさん

    2011年10月27日 14時33分58秒

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    「ダークネス・ゲーム」
    〜第十一章〜・101・

    「智里(ちさと)なんなの?」
    「ちょっと聞きたい事があって。」

     珍しいな、と思いながら友梨(ゆうり)は小首を傾げた瞬間、智里の目を見て、ゾッとした。
     智里の目は氷そのもののように冷たく鋭かった。

    「お姉ちゃん、何かしでかしたの?」
    「な、何が?」

     本気で分からなかった、何で智里がこんなにも怒っているのかも、そして、勇真(ゆうま)の同情の眼を向けられている理由が――。

    「また、貧血を起こしたらしいわね。」
    「な、何でその事をっ!」
    「ふ〜ん、やっぱり真実だったのね。」
    「あっ……。」

     友梨はここで智里が完全に自分が貧血でぶっ倒れた事を知らなかった事を悟るが、既に遅かった。

    「えへへ、智里さん……。」
    「お姉ちゃん……。」
    「お、怒って……。」
    「いるに決まっているでしょうが、この馬鹿姉……。」

     友梨は般若のような顔をする智里に顔を真っ青にさせる。

    「か、顔恐いですよ…。」
    「誰が、こんな顔にさせていると思っているの……?」
    「…わ、私?」
    「ふふふ、よく分かっているじゃない。」

     黒い笑みを浮かべる智里に友梨は助けを求めるために首を動かすが、近くにいる勇真も美波(みなみ)も顔を背けていた。

    「……マジですか……。」

     絶対に自分を助けてくれないと思い、友梨は少し離れた所にいる涼太(りょうた)や昌獅(まさし)に視線を向けるが、彼らは友梨の視線に全く気付いていなかった。

    「……。」
    「お姉ちゃん…死ぬ前に言い残す事はある?」
    「し、死にたくないんですけど…。」

     友梨は冷や汗を流しながら、後退りをするが、智里は見逃してくれそうにもない。

    「あら…、そうなの?」
    「そうに決まっているじゃない……。」

     友梨は再び視線を昌獅に向けると、運が良いのか何とか昌獅と視線が交わった。

    「昌獅。」
    「……。」

     友梨の口から漏れる言葉はあまりにも小さく、昌獅は渋面を浮かべた。

    「おい、高田(たかだ)妹その一。」
    「……何かしら?ヘタレ。」
    「……何度も俺はヘタレじゃないといっていると思うが。」
    「ヘタレだと思うのだから、気にしないでください。」
    「……。」

     昌獅は智里を睨み、友梨の傍らに寄り添う。

    「こいつが倒れたのは仕方ない事だろう、誰だって体調を崩すんだから。」
    「…お姉ちゃんの貧血は異常だと思うけど?」
    「……そんなに酷いのか?」
    「まあ、意識を飛ばすほどじゃないとしてでも、完全に貧血だと分かるほど顔色を悪くさせるんだから、心配するのは当たり前じゃない?」
    「……。」

     智里が本当に友梨を心配しているのか疑う昌獅は眉間に皺を寄せていた。

    「何か失礼な事を考えているのかしら?」
    「……さあな。」

     曖昧な返事をするが、昌獅の言葉どう聞いても肯定しているようにしか聞こえない。

    「まあ、どちらでも構いませんが、お姉ちゃんを叱るのに邪魔はしないでいただけますか?」
    「こいつが困っているのに、無視できるほど無関心じゃないでな。」
    「……。」

     睨み合う二人に友梨はオロオロし始めるが、二人は全く気づいていなかった。

    あとがき:今週の土日と次の祝日でバイトの方を止めようと思っています。就職活動とうまくいかなくて、なんかづるづると引っ張っているような気がして、丁度潮時だと思い、止める事にします。一瞬、こちらと、もう一つのサイトの更新も控えようかな〜、と考えましたが、そちらはストックが切れるまでは頑張ろうかと思っています。

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  • from: yumiさん

    2011年10月26日 12時57分28秒

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    『さよなら』のかわりに―紅葉を―

     辻秀香(つじ しゅうか)はいつも通り、放課後の人気の無い廊下を歩いていた。
     ここから先あるのは図書室で昼休みならちらほらと人がいるのだが、放課後となれば人は皆無といってよかった。
     秀香はいろんな本に出合えるこの図書室が好きだった。
     実際彼女は高校三年で後数冊本を借りて読めば、この図書館の本を読破出来そうな勢いである。

    「……久しぶりにあの本もいいかな?」

     秀香は頭の中で読んでない本のタイトルや読んだ本で気になるもののタイトルを思い出し、ニッコリと微笑んでいた。
     図書室のドアを開けると図書室独特の匂いに秀香は更に笑みを深めた。
     しかし、すぐに、彼女の表情が凍りつく。

    「えっ……。」

     中に人がいないと思い込んでいた秀香だったが、実際は人がいた。その人は図書委員ではない。普段はきちりと着込んだスーツだが、今はネクタイをゆるくして机の上でうつ伏していた。

    「……先生?」

     正式に言えば彼は先生ではなく教育実習生だ。

    「……ん?誰だ?」

     焦点の合っていない目が秀香を捕らえる。

    「…辻?」
    「本城(ほんじょう)先生……。」
    「…今何時だ?」
    「五時を回りましたけど……。」
    「ヤベ…寝すぎた。」

     教育実習生の彼は頭を掻き、のろのろとした動作で体を起こした。

    「辻はどうしてここにいるんだ?」
    「放課後だからです。」
    「……本が好きなのか?」

     彼からの質問に秀香は戸惑い始め、後退する。

    「悪い…俺の悪い癖だな…。」

     彼は秀香が怯えている事を敏感に感じ取ったのか、素直に謝ってきた。

    「弟にもよく言われる。」
    「弟さんがいらっしゃるんですか?」
    「まあな、つーか、敬語なんか使わなくてもいいぞ。」
    「ですが……。」

     教育実習生だとはいえ、彼は一応秀香にとっては教えを請う対象なのだから、彼女が戸惑うのも当然だろう。

    「いいんだよ、どうせ、ここには俺とお前しかいないんだしな。」
    「……無理です。」
    「……。」

     強情な秀香に彼は眉を顰めた。

    「何故だ?」
    「貴方が教育実習生とはいえ、私にとっては先生ですから。」
    「……。」

     彼は肩を竦め、秀香に尋ねる。

    「辻、お前の下の名前は?」
    「秀香…秀でて香るで、秀香ですけど。」
    「そうか、俺は征義(まさよし)だ。」
    「……。」

     秀香は怪訝な表情を浮かべながら彼、征義を見た。

    「本城先生?」
    「二人の時は征義だ。」

     勝手に決められた事に秀香は目を見張った。

    「何を……。」
    「別にいいだろ、どうせ、教育実習は残り一週間だしな。」
    「……良くありません。」
    「お前、俺よりよっぽどセンコウだな。」

     妙に幼い口調になる征義に秀香は小さく眼を見張った。

    「本城先生。職員室に戻らなくてもいいんですか?」
    「不味いよな。」
    「だったら、戻らないと。」
    「…しゃーないな。」

     ゆっくりと腰を上げる征義は秀香を見た。

    「秀香、いつも放課後はここに来るのか?」
    「ええ、まあ……って。」

     思わず下の名前で呼ばれた事をスルーしそうになった秀香はそれに思い至り、顔を顰めた。

    「何で下の名前ですか!」
    「またな、秀香。」

     意地悪く笑う征義に秀香は怒鳴る。

    「馬鹿っ!」

     秀香はすっかり自分が何をしに来たのか忘れ、ただただ征義が出て行った扉を睨んでいた。

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  • from: yumiさん

    2011年10月26日 12時43分47秒

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    「ダークネス・ゲーム」
    〜第十一章〜・100・

     六人のメンバーは一番近いと思われた「アンタレス」に向かった。

    「友梨(ゆうり)先輩。」

     後ろから二番目にいる友梨に涼太(りょうた)は話しかけるが、後ろから突き刺さるような視線を感じ、ウザそうに睨んだ。

    「何だよ、昌獅(まさし)。」
    「別に。」
    「嘘吐け、お前の視線は殺気が篭っていて、視線で人が殺せるんならオレは絶対一回死んでいるよ。」
    「……。」

     昌獅は先程よりも凍りつくような眼で涼太を睨んだ。

    「もう、二人とも喧嘩しないで、で、涼太くん何かな?」
    「友梨先輩、体は大丈夫何ですか?」
    「大丈夫よ、少し休んで回復したし、心配してくれてありがとう。」

     友梨は涼太に家族に向ける特別な笑みを向けた。

    「……友梨。」
    「何?昌獅。」
    「何でこいつにはそんなに愛おしそうに見るんだよ。」

     拗ねるような声音に友梨は軽く目を見張った。

    「…してた?」
    「……昌獅の勘違いじゃないですか?」

     互いに顔を見合わせる二人に面白くないのか、昌獅はむっとしたような顔で涼太を殴ろうとするが、危険を察知した涼太がそれを避けた。

    「昌獅……。」

     呆れたような声音を出す友梨に昌獅は眉を寄せる。

    「腹立つんだからしゃーねーだろ。」
    「……嫉妬深いとマジで友梨先輩に嫌われるぞ。」
    「なっ!何本人の前でんな事を言うんだよっ!」

     まさか本人の目の前で言われるとは思っても見なかった昌獅は呆気にとられながら涼太を睨んだ。

    「まあ、まあ、二人とも……。」

     このままじゃ埒が明かないと思った友梨は二人の間に入り、昌獅を軽く睨んだ。

    「昌獅、涼太くんは純粋に私を心配してくれただけなんだよ、それなのに、睨むとか殴ろうとするなんて、酷いじゃない。」
    「……。」
    「何か、無事に平和を取り戻しても、私の近くにいる人をぶん殴りそうね…。」

     友梨はわざとらしく溜息を吐いて、そんな言葉を吐いた。
     勿論彼女は冗談のつもりでそんな事を言ったのだが、この言葉を聞いた二人は黙り込んだ。

    「……ありえそう。」
    「えっ?何か言った?涼太くん?」

     ポツリと零れた言葉に友梨は小首を傾げるが、涼太は首を横に振った。

    「いえ、何でもありません。」
    「そう?」
    「……。」

     友梨はまだ何か言いたそうな顔をするが、無理矢理聞き出そうという気分でも話題でもないと思い、これ以上何も言わなかった。

    「お姉ちゃん、ちょっといいかしら?」
    「あっ、うん、ごめんね、涼太くん、昌獅。」

     すまなそうに立去る友梨の姿を見ながら、涼太は先程よりもはっきりとした声で昌獅に言う。

    「マジで友梨先輩が言った通りになりそうなのはオレの思いすごしか?」
    「……悪いが、俺もやりそうだと思う。」
    「……さすが、友梨先輩、お見通しか…。」
    「いや、あいつはただ単に思いついた事を口にしただけで、多分本気でそうは思っていないだろう。」
    「……。」

    涼太はよくここまで友梨の事を理解しているのだと、感心しつつも昌獅を見習いとは一切思わなかった。

    「友梨先輩を心配させんなよ。」
    「どうだろうな。」
    「……。」

     涼太は小さく肩を竦めた。

    あとがき:とうとう、十一章100いってしまいました…。やばいです…。しかもまだ終わるめどが無いです……。

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  • from: yumiさん

    2011年10月25日 12時45分23秒

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    「『さよなら』のかわりに―貝殻を―」
    「こんにちは。」
    「……君たちは。」

     急に話しかけられ、広人(ひろと)は面を食らったような顔をしている。
    「確か、沙梨(さり)さんの従姉妹の……。」
    「そうです、わたしは綾(あや)で、こっちは誠(まこと)です。」
    「綾ちゃんに誠くんか。」
    「単刀直入で訊く。」

     まるで抜き身の刃のような鋭さを持つ誠に広人は目を見張る。

    「お前は沙梨さんが好きなのか?」
    「誠っ!」

     もっと言い方があるのに、というように綾が誠を睨むが、彼はそんなのを無視して、ジッと広人を見ていた。

    「好きだよ。」
    「……あいつに恋人がいたとしても?」
    「……。」

     広人はそんな事を考えていなかったので、目を見張り、考え始めた。

    「…一方的な片思いでも正直かまわない…。」
    「……。」

     誠の目がほんの少しだが、和らいだ。彼自身もずっと綾に恋していた、だから、想いが実のならなくてもいいと、考えていた時期もあったのだ。

    「そりゃ、想いが通じ合えば嬉しいけど、そう簡単に両思いになるのは難しいし、それに俺たちは出会って間もないからね。」
    「成程な。」
    「これが俺の本心、どう?認めてもらえるかな?」
    「取り敢えず、及第点だ。」
    「手厳しい。」
    「そりゃ、自分の恋人の親友だからな、変な虫が付いて、綾がヤキモキするのを見たくないからな。」

     誠の言葉に広人は納得し、綾は目を丸くさせながら顔を真っ赤に染めていた。

    「成程、君は特に沙梨さんの事は何とも思っていないようだから、正直何を考えているのか、分からなかったけど。今納得したよ。」
    「そりゃどうも。」

     顔を顰める誠に広人は苦笑する。

    「…沙梨さんは、彼氏がいたんだ。」
    「いた?」
    「ええ、いた、一年前まで……、一年前の夏……沙梨たちはここに来て、帰り道に彼氏の方が車に撥ねられて、ほぼ即死。」
    「沙梨さんは凄く落ち込んだよ。」
    「だから、ここに来て、沙梨が塞ぐんじゃないかと心配だった。」

     本当に沙梨を心配する二人に広人は彼らの頭を撫でた。

    「ごめん、赤の他人にこんな事を話させてしまって。」
    「…わたしたちは貴方に期待しているんです。」
    「期待?」

     綾の言葉に広人は軽く目を見張った。

    「ああ、期待だ。」
    「……俺は…、期待されるほどの人間じゃない。」
    「そうでもないです。」
    「だな。」

     互いの視線を交わし、頷く綾と誠に広人は不安になる。

    「君たちは俺を過剰に評価しているよ。」
    「そうでもないですよ。」
    「沙梨さんの様子が物語っているしな。」
    「えっ?」

     訳が分からない広人は首を傾げる。

    「沙梨、実は男の人が苦手なの。」
    「……。」

     自分とは普通に話していたので、広人には綾の言葉が嘘のように思えた。

    「綾の言っている事は本当だ。」
    「……正直、貴方と話している沙梨を見てびっくりとした。」
    「そうなのかい…?」
    「ええ、誠でさえ、沙梨なかなか話そうとしなかったもの。」
    「正直、いけ好かない女だと思ったがな。」
    「もう、誠ってば。」

     当時の事を思い出してか、誠は顔を顰めた。

    「しゃーねーだろ、顔見てすぐ怯えたような顔をするんだからな。」
    「……。」

     確かに一時期の沙梨の態度は正直褒められたものではなかった、しかし、理由を知っている綾にしては当然の事かもしれないと思いた時もあったのだ。

    「仕方ないよ……。」
    「……まあ、理由の知った今だから同感だけど、知らなかったら結構ムカつくんだよ。」
    「……誠。」
    「まあ、ストーカーって恐いからな。」
    「……。」

     広人はその一言で何となく沙梨の身に何が起きたのか、悟った。

    「分かったよ。」
    「えっ。」
    「あっ?」

     広人は従姉思いの二人に微笑みかける。

    「君たちの気持ちに添えるかは分からないけど、沙梨さんに気持ちを伝えるよ。」
    「ありがとうございます。」
    「……。」

     丁寧に頭を下げる綾と仏頂面で自分を見る誠のそれぞれの顔を広人は落ち着いた表情で見ていた。

    「本当に君たちは偉いね。」
    「……子ども扱いすんじゃねぇ。」

     本当に嫌そうに誠は眉間に皺を寄せているが、広人はそれを余裕のある笑みを浮かべている。

    「そんなつもりはないよ。」
    「どうだか。」

     誠はどうやら子ども扱いされるのが嫌いなようで、広人はそんな誠を微笑ましく思った。

    「まあ、本当に沙梨を頼んだからな。」

     誠はまるで野生の獣のような目で広人を見た。

    「もし、綾に心配掛けさせるんなら容赦しないからな。」
    「……。」

     広人は本当に、誠は綾の事が好きなのだと実感しながら頷いた。

    「分かったよ。」

     広人が頷くと、二人は安心したように互いの顔を見合わせた。

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  • from: yumiさん

    2011年10月25日 12時40分47秒

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    「ダークネス・ゲーム」
    〜第十一章〜・99・

    「ほ〜、友梨(ゆうり)何で理解していて、池に入ろうとしたんだ?」
    「ま、昌獅(まさし)さん、顔恐いですよ?」

     あまりにも恐い顔をしながら近付く昌獅に友梨はたじろぐ。

    「恐い顔をさせたのは誰の言動だと思っているんだ?」
    「わ、私?」

     とぼけたように言う友梨に昌獅は滅多に浮かべない笑みを浮かべる。

    「ほ〜、分かっているじゃねぇか。」

     自分を追い込む昌獅に友梨は助けを求めるが、智里(ちさと)は助ける気がさらさらないのか笑みを浮かべ、涼太(りょうた)と勇真(ゆうま)はご愁傷様というように苦笑を浮かべ、美波(みなみ)は訳が分からないのか首を傾げている。
     つまり、誰も友梨を助ける気がないのだ。

    「……。」
    「よそ見している場合か?」
    「ふにゃっ!」

     顔を戻すと先程よりも近付いた昌獅の顔があり、友梨は変な悲鳴を上げてしまった。

    「ふにゃ…って。」

     友梨の変な悲鳴の御陰か、昌獅は呆れたような顔をして、友梨から少し離れた。

    「色気ないな。」
    「煩いっ!」

     自分でも変な声を出したと思ったのか、友梨は昌獅に当たる。

    「は〜、何で池に入ろうとした。」
    「……だって、ここにある可能性はゼロじゃないもの。」
    「……。」

     昌獅は溜息を零し、友梨の頭を小突く。

    「だからって、体を張るな。」
    「少し足を付けるだけじゃない。」
    「それでも、お前は女だ。」
    「男尊女卑。」
    「違う、俺はお前を敬っている。」
    「どこがよ。」

     痴話げんかを始めた二人に残された四人は呆れる。

    「友梨先輩。」
    「昌獅。」

     涼太と勇真はこれ以上二人の喧嘩を続けさせるのは時間的にもったいないと思ったのか、間に入る。

    「あっ。」
    「……。」

     友梨と昌獅は同時に自分たち以外に人がいる事を思い出すが、反応はそれぞれ正反対だった。
     友梨は純粋に罰が悪そうな顔をするが、昌獅は自分を止めたのが勇真と知ったからか、それとも邪魔された事に腹を立てたのか顔を顰めている。

    「ごめんね。」
    「いえ…。」

     素直な友梨に対して昌獅は機嫌が急降下している。

    「テメェら。」
    「これ以上無駄な時間を使いたくないからね、悪いけど、ここまでだ。」
    「……。」

     勇真の正論は分かっている、だけど、それでも、昌獅は怒りを隠せるほど大人でもなかった。

    「後で覚えてろよ。」
    「……。」

     勇真は昌獅の怒りが自分に向けられているのを知り苦笑を浮かべる。

    「さて、皆行こうか。」

     勇真のその声に昌獅以外のメンバーが頷いた。

    あとがき:雨ですね〜。私が住んでいる地域が……。
    不味い事に『さよなら』のかわりに―貝殻を―の続きがまだ書ききっていません、本日載せて、明日はどうなるのでしょうか……。もしかしたら、―紅葉を―を載せるかもしれませんね……ヤバイです。

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  • from: yumiさん

    2011年10月24日 11時17分34秒

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    「『さよなら』のかわりに―貝殻を―」
    「広人(ひろと)さん?」
    「あっ、沙梨(さり)さん。」

     広人が最後の小さなお客にカキ氷を渡し終えた瞬間、沙梨に声を掛けられた。

    「お忙しそうですね。」
    「ああ、でも、少し暇が出来そうだから、休憩が取れそうだ。」

     快活そうに笑う広人につられ、沙梨も微笑む。

    「そうですか、少し時間いいですか?」
    「うん、ちょっと待ってて。」

     広人は中に入り、店長に休憩を取る旨を伝え、着けていたエプロンを外し、沙梨の所まで急ぐ。

    「お待たせ。」
    「ふふふ、そこまで急がなくてもいいのに。」

     口元を隠しながら笑う沙梨に広人は苦笑する。

    「急がないと、休みが逃げるからね。」
    「そうなんですか?」
    「ああ、今は人が空いているから休憩が取れやすいけど、人が多かったらまず無理だ。」
    「成程です。」
    「沙梨さん、従姉妹の子は?」
    「丁度岩場の所にいますよ。」

     広人は何となくあの少女の近くにあの少年が付き添っているような気がして、笑みを漏らす。

    「一人じゃないよね?」
    「ええ、綾(あや)の近くには誠(まこと)くんもいますよ。」
    「……。」

     広人は何となくだが、引っ掛かりを覚えた。ただ、その違和感が何なのか気づかなかった。
     沙梨は聡いのか、広人の表情を読み、説明する。

    「綾と誠くんは義理の姉弟なんです。」
    「そう言えば…。」

     弟の誠が意味深の言葉を発していた事を思い出し、手を叩く。

    「綾を生んだ母親は綾が幼い時になくなったんです、その後再婚して、誠くんと姉弟となったんです。」
    「成程……。」
    「綾の亡くなった母親と私の母親が姉妹だったので、綾とは従姉妹同士になるんです。」
    「俺なんかが聞いていいのかい?」

     かなり深い家庭内事情に、広人は戸惑うが、沙梨は笑みを浮かべ続けた。

    「いいんです、ですけど、一つ忠告がありますね。」
    「……。」

     沙梨の言葉に広人は息を呑んだ。

    「綾には手を出さないでください、ついでに、誠くんをからかわないでください。」
    「……別にしないけど……。」

     広人が気になっているのは目の前にいる沙梨なので、他の二人をどうこうしようとは、全く考えていなかったので、少し呆れた顔をした。

    「ふふふ、ごめんなさい、大学生だから、高校生なんか興味ないと思いますが、一応です。」
    「……。」

     広人は複雑そうな顔で笑った。
     別に彼自身好きになった人の年齢などあまり深くは考えないが、それでも、年は近い方がいいと思っている。
     それに目の前にいる少女も高校生なので、彼女が言うように「高校生に」興味がない訳ではないのだ。

    「あの二人…、恋人同士なんです。」
    「えっ……?」

     沙梨の言った意味が一瞬分からず、広人は素っ頓狂な声を出す。

    「驚きますよね。」
    「えっ、まぁ……。」
    「綾自身もついこの間まで、彼を弟としか見ていなかったんですけど、一人の男性と意識した時から、付き合っているんです。」
    「……どちらが先に?」
    「誠くんです。」

     広人は少年を思い出し、確かにあの少年ならありえるような面構えをしていた、と心中で呟いた。

    「あの二人が付き合って、私ほっとしたんです。」
    「……。」
    「沙梨さん?」
    「誠くんなら、綾を置いていったりしないから……。」

     寂しげな横顔に、広人は何があるのかと眉を顰めた。

    「すみません、暗い事を言って。」
    「いや……。」
    「私たち明日の昼に帰るんです。」
    「……。」

     広人は瞠目して、マジマジと沙梨を見た。彼女との別れがそんなにも近いだなんて彼はそんな事を考えた事がなかったのだ。

    「ですから、本当にありがとうございます。」

     丁寧に頭を下げる沙梨に広人は拒絶されているように感じた。

    「さようなら。」

     去っていく沙梨に手を伸ばすが、彼はその背中を追いかける権利など無かった。
     その姿を少年と少女は黙ってみていた。

    「あ〜あ、何で追いかけないのかな……。」
    「追いかけにくいに決まっているさ……、嫌われたくないし、追いかけて拒絶されたら、きっと立ち直れないからな。」
    「…自論?」
    「ああ、俺も綾に対してそうだった、距離を変に詰めたら逃げられるんじゃないかとかなり冷や冷やした。」
    「……。」

     綾は決まり悪いのかそっぽを向く。

    「別に責めてなんかないからな。」
    「分かっているよ。誠は意地悪ならもっと意地悪だモン。」
    「…んな訳あるか。」

     顔を顰める誠に綾は頬を膨らませる。

    「本当の事だもん。」
    「………なぁ、手助けするのか?」
    「そのつもり、だって、もう悲しい顔の沙梨を見たくないもの。」
    「……。」

     誠は沙梨にとっての大切な人が亡くなった事を詳しくは知らない、だけど、綾はその全てを知っていたのだ。

    「わたしは沙梨には幸せになって欲しいもの。」
    「まぁ、綾が世話になってるしな。」

     誠は服についた砂を払い、綾に手を差し出す。

    「んじゃ、行くぞ、時間が無いしな。」
    「うん。」

     綾は満面の笑みを浮かべ、誠の手を取った。

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  • from: yumiさん

    2011年10月24日 11時09分41秒

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    「ダークネス・ゲーム」
    〜第十一章〜・98・

    「お姉ちゃん〜。」

     何とも間抜けな声に友梨(ゆうり)と智里(ちさと)はそちらに顔を向けた。

    「何?美波(みなみ)。」
    「探さなくていいの?」

     珍しくまともな事を言う美波に友梨と智里は互いに顔を見合わせ、無言で会話する。

    (何か変なものでも食べさせたの?)
    (まさか……でも、美波がここまでまともな事を言うなんて……。)
    (拾い喰いしたのかしら?)
    (………。)

     美波に失礼な事を目で会話する二人に美波はあっさりと二人の心配を解消する言葉を発する。

    「リョウくん、全然効果ないよ〜。」
    「……お前…。」

     友梨と智里の反応を見て、美波がどう思われているのか知ってしまった涼太(りょうた)は鈍感なこの娘に呆れた。

    「成程…涼太くんか。」
    「紛らわしい事をしないで欲しいわ。」
    「オレじゃ効き目ないだろう。」
    「……。」
    「あら、どうかしら?」

     多分涼太の言葉では友梨と智里の会話は止められなかっただろう、だから、涼太が美波を使ったのは間違いではなかった。

    「智里…。」
    「……。」

     友梨と涼太はうそ臭そうに智里を見るが、彼女はそんな視線を何とも思っていないのか、クスクスと笑っている。

    「さて、本題に入りましょうか。」
    「……。」
    「あら、まだ何か言って欲しいの?お姉ちゃん。」
    「まさか、絶対に何も余計な事を耳にしたくないだけよ。」
    「安心して、わたしだって無為に時間を使いたくないわ。」

     確かに、智里なら無駄に時間を使いたいとは考えないだろう。

    「さて、勇真(ゆうま)さん、そのヘタレを連れてきてください。」
    「……。」

     勇真は苦笑を浮かべながら、昌獅(まさし)を見た。彼は何か言いたそうに口を歪めるが、結局は何も言えなかった。

    「何処から潰す?」
    「ここじゃないの?」
    「あら、お姉ちゃんはここにあると思うの?」
    「……。」

     智里の言葉に友梨は正直に複雑な顔をする。

    「どういう事ですか?友梨先輩。」

     智里に訊いては明確な答えが得られないと悟っている、涼太は友梨に訊ねた。

    「うん……多分私があると思うのをピックアップすると、「赤」は「アンタレス」、シューティングゲームの場所ね。」

     丁度地図を広げてみせる涼太に友梨は丁寧に教える。

    「それで、多分「紫」は「桔梗写真館」……多分ここのどこか、高い場所に隠されていると思うの……分からないけど。」
    「……。」
    「そして、最後は「橙」が「夕日橋」。ヒントに橋ってあったでしょ?」
    「分かりませんよ、もしかしたら、ここにも高い場所が――。」
    「あるはずが無いでしょ。」

     涼太の言葉をあっさりと智里は否定した。

    「ここに来るまでは正直、分からなかったけど、ここではないわね。」
    「…………多分ね。」

     何故か友梨は昌獅の方を見ない、それを不思議に思う涼太だったが、直ぐに、彼の言葉で理由を知った。

    あとがき:昨日、一昨日とバイトで本当に疲れました……。
    就職活動もうまくいかないので何か落ち込みます……。

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