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弥生の河に言の葉が流れる

弥生の河に言の葉が流れる>掲示板

公開 メンバー数:7人

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  • from: yumiさん

    2012/02/29 11:49:29

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    「ダークネス・ゲーム」
    〜第十一章〜・130・

     友梨(ゆうり)は近くにあったゴミ入れを引っつかみ、それを甲冑に向かって投げつけた。

    「……はぁ、はぁ…本当にきりがない。」
    「大丈夫か?」

     橋から少し離れた場所に二人はいた。
     甲冑の人形と対峙する内に徐々に離れていったのだ。

    「どうする、昌獅(まさし)。」

     友梨は投げれるものか、武器の変わりになるものを探す。

    「どうするも、こうするも橋に戻らねぇとな。」
    「うん。」

     友梨はふとある一体が武器を持っている事に気づき、そいつを蹴飛ばし、一瞬の隙を狙いその武器を奪い取った。

    「……お前、本当になれてきたな。」
    「当然でしょ。」

     呆れる昌獅に友梨は苦笑する。

    「そうでもしないとうまく生きていけないんだもん。」
    「……日常に戻ってからそんな事を続けてると警察に捕まるぞ。」
    「平和になればこんなスキル勝手になくなるわよ。」

     友梨の言葉に昌獅は肩を竦める。
     友梨ならば何かあった瞬間に今回みたいな乱闘を引き起こしそうに感じた。

    「何か、酷い事考えているでしょ?」
    「んな、訳ないだろ。」
    「どうでしょうね。」

     友梨と昌獅は確実に甲冑人形の数を減らしていった。

    「……あれ?」
    「どうした。」
    「橋の下一瞬何か光ったように思ったんだけど……。」

     友梨の言葉に昌獅は顔を顰める。
     友梨の見間違い、という事もあるが涼太(りょうた)の一件があるので、少しの手がかりを軽視できないでいた。

    「橋の下って、如何考えても水の中だよな。」
    「うん。」
    「……お前、入る気か?」
    「当たり前でしょ?」

     当然と言うように胸を張る友梨に昌獅は思わず頭を抱えたくなった。

    「かなり深いと思うが?」
    「大丈夫よ。」
    「お前体調が良くないんだろうが。」
    「そうだけど、一人よりも二人の方がいいでしょ?」
    「……。」

     頑な友梨に昌獅はどう諦めさせるか考えるが、残念ながらいい考えが浮かばなかった。

    「まぁ、あそこにたどり着く前にこいつらを何とかしないとね。」
    「ああ。」

     友梨の言葉に頷き、昌獅は一体の甲冑を切り伏せる。

    「探すにしても橋の上から飛び込まないと意味がなさそうだしな。」
    「うん。」
    「それじゃ、友梨行くぞ。」
    「ええっ!」

     二人は気合を入れなおし、敵の数を確実に減らしていく。

    「昌獅、後ちょっとだね。」
    「ああ。」

     この珠を手に入れれば、友梨たちは後は集めた珠を嵌めに行くだけで、今日のゲームは終わる。
     終わりを目指し、友梨と昌獅は敵を倒していった。

    あとがき:まだストックがあるのでちょっとずつ出していきますが、どこまで続くか本当に分かりません。

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  • from: yumiさん

    2012/02/28 15:04:17

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    「ダークネス・ゲーム」
    〜第十一章〜・129・

     橋にたどり着いた面々はそれぞれ二手に分かれて最後の珠を捜し始めた。
     因みにメンバーは友梨(ゆうり)、昌獅(まさし)、涼太(りょうた)の一グループでもう一つは智里(ちさと)勇真(ゆうま)美波(みなみ)のグループであった。

    「友梨先輩、どうですか?」

     橋から身を乗り出す涼太は近くで橋を叩く友梨に問いかけた。

    「ん〜、ないな。」
    「そうですか。」
    「涼太くんは?」
    「オレの方も全然です。」
    「ん〜、ここに本当にあるのかな?」
    「そうじゃなければ、どこの橋だよ。」
    「知らないわよ。」

     涼太との会話に割り込む昌獅に友梨は少しイラついていたのか、彼を睨みつけた。

    「切れるなよ。」
    「切れてません。」
    「……。」

     涼太は何で自分がこの二人の間にいるのだと、本気で頭を抱えたくなった。

    「切れているじゃ――。」
    「……。」

     不自然に言葉をとぎらせる昌獅に友梨もまた何故か黙り込む。

    「…昌獅?友梨先輩?」

     二人は同時に立ち上がり、一点を睨む。

    「……当たりなのかしらね?」
    「どうだろうな、あの変態だからな。」

     二人にだけしか分からない会話を始める友梨と昌獅に涼太は怪訝な顔をする。

    「どうしたんだよ。」
    「敵さんだよ。」
    「それにしても、こんな数どうやって集めたのかしらね。」
    「さぁな。」
    「……。」

     涼太ははじめ訳が分からなかったが徐々に何か重いものが歩くようなそんな音が聞こえ始めてきた。

    「友梨先輩、この音って。」
    「何でしょうね、まあ、一つだけ分かっているけど。」
    「敵だな、間違いなく。」

     臨戦態勢に入る二人に涼太は自分はどうするか決める。

    「オレは美波たちに避難するように言ってきます。」
    「ええ、頼むわ」
    「勇真以外は正直足手まといだからな。」

     涼太は昌獅の言葉を無視して、そして、走り出した。

    「昌獅、この音…かなり重そうだけど、大丈夫?」
    「正直、厳しいな。」
    「…そっか。」

     友梨と昌獅は今回の敵が今までよりも硬そうだと直感的に察していた。そして、その直感は見事に当たる。
     敵が姿を現した時、友梨は思わず頭を抱えたくなった。

    「何でなのよ。」
    「甲冑の人形かよ。」

     友梨の脳裏には思い出したくないあのロボットとの戦闘を思い出した。

    「素手じゃ対処できないじゃない。」
    「だな、はぁ、帰ったら手入れをしないとな。」

     昌獅は刀を取り出し構える。

    「友梨、お前は下がっていてもいいぞ。」
    「そんな事私がすると思う?」
    「しないな。」

     自ら矢面に立つこの少女に自分から引き下がる事がない事を彼は理解していた。

    「俺から離れるなよ。」
    「分かっている。」

     友梨が頷き、昌獅は近寄ってきた甲冑の人形に斬りつけた。

    あとがき:『さよなら』シリーズは完結しました。
    本来ならばそちらに書けばいいものを、何故かこちらに載せていますね。
    こっちはいつまで続くのでしょうね、そろそろゴールが見えてもいいはずなのに…。

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  • from: yumiさん

    2012/02/25 11:30:50

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    「『さよなら』のかわりに―口付けを―」
     冬はいつか終わり春になる。それは自然の摂理。
     長い、長い、寒く辛い時期があっても、いつかは暖かな春を迎える…。
     君と出会った冬は決して寒くはなかった。
     まるで綿雪のように優しく包み込むように、この思い出を護っていこう。

    「洸太(こうた)くんっ!」

     元気よく手を振る有華莉(ゆかり)に洸太は笑みを浮かべた。

    「おはよう、有華莉。」

     後から知ったのだが、有華莉と洸太は同じ学校だった。
     有華莉の手術は無事に成功し、今こうして二人は笑っている。それは当たり前の日常なのだが、それでも、それは当たり前ではない。
     いつかは崩れてしまうかもしれない、だけど、壊れるこの瞬間まで洸太は有華莉を想っていると心に決めていた。

    「洸太くん。」
    「ん?」
    「退院してずいぶんなるけど、言う事はないの?」
    「……。」

     何かを期待する有華莉に洸太は苦笑する。

    「有華莉…。」
    「……。」
    「好きだ……一人の女性として。」
    「……もっとムードを考えて欲しかったな。」
    「急がせたのはお前だろう?」

     唇を尖らせる有華莉に洸太は肩を竦める。

    「そうかもしれないけど……。」
    「それじゃ、プロポーズは期待していろよ。」
    「えっ?」
    「ムードを考えてやってやるよ。」

     有華莉は目を丸くするが、すぐに満面の笑みを浮かべた。

    「約束だよ。」
    「ああ、約束だ。」

     一つ、一つ、約束をしよう…。
     そして、一つ、一つ叶えていこう。
     きっと先にある未来は優しくて暖かなものだから。
     今この瞬間、自分たちは生きている、それは偶然であり、必然である。
     誰かと出会う奇跡、それは…自分たちの糧となろう。
     冬の後は春が来る、生きているものは、いつかは死んでいく…。
     それは自然の摂理…。
     だけど、それは決して悲しいものではない。死んでも受け継がれるものはある。
     こうやって一つ、一つ、思い出や何かを残していこう…。
     いつかの未来で会える者たちの為に――。

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  • from: yumiさん

    2012/02/24 12:32:04

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    「『さよなら』のかわりに―口付けを―」
     あれから洸太(こうた)が来る事はなく、有華莉(ゆかり)の手術前日、彼女はあの時洸太と出会った場所にいて携帯をいじっていた。

    「『アヤ…どうすればいいんだろう。』。」

     沈んだ声で、有華莉はメールを打ち始める。

    「…『せっかく、来てくれた人を…傷つけた…だけど、彼の笑顔が怖かった…死んでしまったら、もう、この笑顔を見る事が出来ないんだと思ったら…怖かったの…。』。」

     滲み始める視界に有華莉は手を止める。

    「……洸太くん。」
    「後悔するんならはじめから言わなければいいのにな。」

     聞きなれた声に、有華莉は驚いて顔を上げた。

    「悪い、来ちまった。」

     罰が悪そうに笑う洸太に有華莉はとうとう涙を零した。

    「泣くなよ……。」

     洸太は持っていたハンカチで有華莉の涙を優しく拭った。

    「何で…。」
    「おばさんが、教えてくれた。」
    「えっ?」
    「有華莉が明日手術だから励ましてくれないかと…。」
    「…お母さん…。」

     有華莉は何で母が余計な事をしたのだと思う反面、呼んでくれてよかったと思っていた。

    「なぁ、有華莉。」
    「何?」
    「オレはさ、「さよなら」という言葉が嫌いなんだ。」

     唐突な言葉に有華莉は目を見張る。

    「だってさ、もう会えないような気がする。それなら「またね」とか「また明日」とかの方が次に会える気がするんだ。」
    「うん…。」
    「だけどな…オレは一度だけさよならの言葉を言った事があるんだ。」
    「……。」

     有華莉は首を小さく傾げ、洸太の言葉を待つ。

    「それは病気にかかっていたオレに対してだ。」
    「あっ…。」
    「もう、病気にはかからない、元気になるから、よくない自分とはさよならしたかったんだ。」
    「……。」
    「だから、有華莉もさ、明日は自分の悪いところとさよなら、しような。」
    「洸太くん。」

     洸太の言葉に有華莉は肩を震わせた。

    「ごめんね…。」
    「謝られるより、笑っていてくれ。」
    「洸太くん。」
    「オレ、有華莉が笑っているのが好きなんだ。」
    「……。」

     洸太の言葉に有華莉は微笑んだ。

    「ありがとう。」

     洸太と出会えた事が有華莉にとって強い力となり、その力は洸太と顔を合わすたび、話すたびに大きくなったが、それと同時に不安も生まれた。
     だから、もう会わない方がいいと思った。だけど、違った、会わない方が不安が大きくなり、地に足がついていないそんな不安を覚えた。

    「ありがとう。」

     有華莉はもう一度洸太にお礼を言った、自分を救ってくれた大きな存在に有華莉は心からの感謝の言葉を胸のうちでも囁く。

    「有華莉、明日は学校休むから…。」

     洸太の言葉に有華莉は首を横に振った。

    「十分だよ。」
    「…だが…。」
    「それなら、今のあたしに「さよなら」して。」
    「……。」
    「今の弱気で病気に負けそうなあたしに…洸太くんから「さよなら」をして、そしたら、負けないように頑張るから。」

     洸太は頷き、そっと、有華莉の頬を包み。
     彼女の唇に己のものを押し付ける。

    「――っ!」

     まさかキスをされるとは思っても見なかった有華莉は大きく目を見開いた。

    「こ、洸太くんっ!」

     口付けは一瞬だったが、有華莉には長くも感じ、己の唇を押さえた。

    「な、何で……。」
    「言葉にしたくなかったんだ、だから、それの代わり。」
    「別の事にしてよっ!」

     顔を真っ赤にさせて怒鳴る有華莉に洸太はニヤリと笑った。有華莉は知らないがどこか彼の兄を思わせる笑みを浮かべたのだ。

    「元気が出るおまじないつきでいいじゃねぇか。」
    「良くないっ!」

     有華莉はあまりにも彼が手馴れているような気がしたので、自分以外の子にもやってあげた事があるのではないかと、不安になる。

    「お前何か勘違いしていないか?」

     有華莉の表情から何か読み取ったのか、洸太は呆れた表情をした。

    「言っておくが、これがオレのファーストキスだぞ。」
    「えっ!」
    「……。」

     やはり、そんな事を考えていたのかと、洸太は胡乱な目つきで彼女を見た。

    「オレは好きでもない奴にキスをするほど女好きじゃないからな。」
    「……。」
    「お前はオレにとって特別だ……。」

     洸太は有華莉に手を差し出す。

    「風が冷たくなってきたから、病室に戻ろう。」
    「うん。」

     有華莉はその暖かな手を取り、病室に戻っていった。

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  • from: yumiさん

    2012/02/23 14:40:39

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    「ダークネス・ゲーム」
    〜第十一章〜・128・

    「あんたっていう人はっ!」
    「何だとっ!」

     言い争う二人の背後に二人はそれぞれ立った。

    「は〜い、ストップ。」
    「友梨(ゆうり)先輩落ち着いてください。」

     勇真(ゆうま)は昌獅(まさし)を取り押さえ、涼太(りょうた)は身長差がかなりあったが、何とか友梨を取り押さえる事が出来た。

    「……。」

     昌獅は勇真をジロリと睨むが、友梨は我に返ったのか、罰が悪そうな顔をした。

    「ごめんなさい。」
    「いや、大丈夫だよ。」
    「そうですよ、原因は昌獅ですから。」
    「……でも。」

     勇真も涼太も友梨が悪いとは思っていない、どちらかというか昌獅の方が悪いと思っている。

    「そんなに気にするんなら名誉挽回すればいいんじゃないかな?」
    「そうですね…。」

     勇真の言葉にもともと責任感の強い友梨は頷いた。
     一方、昌獅は面白くないのか仏頂面だった。

    「………おい、てめぇら。」
    「それじゃ、行きましょうか。」

     低い声を出す昌獅を無視して友梨は明るい声を出した。

    「昌獅、無駄だぞ。」
    「うっせーっ!」

     涼太の呟きに昌獅は怒鳴る。

    「何でてめぇらは俺の邪魔をするんだよっ!」
    「……昌獅が友梨ちゃんを引き止めるから悪いんだよ。」
    「そうだ、さっさと終わらせたいのにこんな所で堂々と喧嘩するなんて時間の無駄だ。」
    「……。」

     二人の言葉に昌獅は黙り込むが、どこか面白くないのか、眉間に皺を寄せている。

    「後で覚えていろよ。」
    「……。」
    「……。」

     昌獅の言葉に勇真と涼太は顔を見合わせ、肩を小さく竦めた。

    「こんな奴のどこがいいんだろうな、友梨先輩は。」
    「まあ、人の好みはそれぞれだしね。」
    「そもそも、友梨先輩は勇真の方が好きだったのに、何処を間違って昌獅になったんだろうな。」
    「……友梨ちゃんの場合はどちらかと言えば、はじめから昌獅を意識していたよ?」
    「……マジか?」
    「ああ、ただ尊敬とかそういう感情を好きという事で、おれを見ていただけだしね。」
    「ふ〜ん、つまり憧れを恋愛だと思っていたと?」
    「そうだね。」

     二人の言葉の言葉に昌獅の眉間の皺は限界まで増えているが、二人は気づいていないのか、まだまだ話しそうだった。

    「本当に昌獅の何処がいいんだか。」
    「そうだね。」
    「おい、てめぇら――。」

     我慢の限界で二人に突っかかろうとした昌獅だったが一人の少女の言葉で押し黙る。

    「そこの三人、置いていくわよ。」
    「あっ、ごめんね。」
    「すみません。」
    「……。」

     友梨の言葉で三人はいつの間にか三人の少女がかなり遠い場所まで行った事に気づき慌てて追いかけた。

    あとがき:久しぶりのあとがきですね、さてさて、本来なら『さよなら』のかわりシリーズを完結させるべきなのですが、今回は良い(?)お知らせがあり、こうして書かせてもらっています。
    ついこの間、十二万人を突破しました。
    皆様のお陰でここまでやってこれたと思います。今後ともよろしくお願いいたします。

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  • from: yumiさん

    2012/02/21 11:29:02

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    「『さよなら』のかわりに―口付けを―」
     それから、洸太(こうた)は宣言どおり毎日有華莉(ゆかり)の元に通った。
     有華莉の腕と洸太の腕には洸太が作ったみさんがが揺れている。

    「洸太くん、大丈夫なの?」
    「何がだよ。」

     洸太はりんごの皮むきをしながら顔を上げる。始めはがたがただったがお菓子作りのお陰でかなり洸太の腕前が上がった。

    「宿題とか。」
    「宿題は休みに入る前に片付けた。」
    「えっ?」
    「前から色々言われているのに、休みで片付けなくてもいいだろう。」
    「そうかもしれないけど。」
    「だから、お前が心配する事はないよ。」

     洸太はりんごを切り分け、りんごを皿に乗せた。

    「ほら、食えよ。」
    「……洸太くん、あたしを太らせる気?」
    「もともと痩せているんだ、少しくらい食っても大丈夫だよ。」

     有華莉は洸太の言葉に眉を寄せた。

    「それでも、女の子はいつも綺麗でいたいんです。」
    「それじゃ、退院したらダイエットに協力してやるよ。」
    「………。」

     最近洸太はこういった約束を取り付ける。まるで、有華莉に生きる理由を与えるように。

    「ねぇ、洸太くん。」

     真剣な声音の有華莉に洸太は顔を上げた。

    「あたし、来週手術をするの。」
    「……。」

     洸太はじっと有華莉を見つめる。

    「来週から、学校でしょ?だから、来なくていいよ。」
    「……いつ手術なんだ?」
    「……。」

     黙りこむ有華莉に洸太は溜息を吐く。

    「オレはお前が元気になるまで通う。」
    「来ないでっ!」

     叫ぶように言う有華莉に洸太は目を見張る。

    「来ないで…お願いだから……。」

     震える有華莉に洸太は無力な自分に怒りを覚えた。

    「明日から…来ないで……。」

     懇願する有華莉に洸太は頷きたくなかったが、頷かざるを得なかった。

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  • from: yumiさん

    2012/02/20 13:08:30

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    「『さよなら』のかわりに―口付けを―」
     洸太(こうた)はトボトボと歩きながら、空を見上げる。

    「あんな形で知りたくはなかったな……。」

     洸太は有華莉(ゆかり)の母親が今にも崩れそうなのを理解していたが、それでも、もっと気丈に彼女と接して欲しいと思った。
     そうじゃなければ彼女は不安になり、そして、母もまた落ち込むという悪循環に陥ってしまう。
     今は有華莉が自分を誤魔化すために、笑み顔を浮かべているが、それでも、このままで行けば彼女はまず助からないだろう。
     それほど、洸太の目には彼女が生きる気力が欠けているようだった。

    「オレが何とかできればいいんだけど。」

     洸太は溜息を一つ吐いて、彼女に自分ができる事を考える。

    「……取り敢えず…今日も秀香(しゅうか)さんの所に行って相談しよう。」

     女心をいまいち理解していない洸太は兄の彼女である秀香に頼るしか、道はなかった。
     そして、落ち込んだ顔で訪れた洸太に秀香は驚きながらも、洸太の相談に乗った。

    「…そっか。」

     秀香には有華莉が手術を怖がっている事を伝え、そして、生きる気力が損なわれているのではないかと、簡潔に話した。

    「洸太くんはその子が好きなんだね。」
    「なっ!」

     秀香の言葉に洸太は顔を真っ赤にする。

    「う〜ん、付き合うようになったら、私に相談しない方がいいかもね。」
    「何でですか?」
    「あの人を思い出してよ。」
    「……。」

     あの人と言われ、洸太の脳裏に浮かんだのは己の兄の姿だった。
     そして、納得する。

    「あいつは嫉妬するような奴じゃないと思うが、うん、気をつけます。」
    「うん、それにしても、征義(まさよし)さんは間違いなく嫉妬深いよね。」
    「つーか、独占欲が異常じゃねぇかよ。」

     二人して頭を抱えた。

    「……話戻そうか。」
    「そうですね。」
    「そうね、願いが叶うといえば「みさんが」って言うのがあるけど、手作りしてみる。」
    「難しいんじゃ…。」
    「凝ったのは難しいけど、簡単なのは結構楽に出来るよ。」
    「…お願いします。」
    「みさんがって、ずっとつけてて、そのみさんが、が切れると願いが叶うといわれているんだよ。」
    「……。」
    「二つ作ろうか?」
    「えっ?」
    「洸太くんとその未来の彼女さんの分。」
    「み、未来って……。」
    「洸太くんの話を聞いていると、可能性はゼロじゃないと思うよ。」

     秀香の言葉に洸太は考え込む。

    「本当にですか?」
    「うん、やっぱり弱みを見せるのって、心を許した人じゃないと出来ないと思うの。」
    「……。」
    「見知らぬ人に愚痴は言うけど、やっぱり心の奥底にある感情って心を許した人じゃないと話せないな。」
    「……。」
    「大丈夫よ、きっと。」

     何の根拠もないのに、そんな事を言う秀香に洸太は笑みを浮かべる。

    「秀香さんを信じるよ。」
    「私じゃなくて彼女さんだと思うけどね。」

     クスクスと笑い、秀香はみさんがに必要な道具を用意した。

    「それじゃ、始めましょうか。」

     洸太はこの後時間を掛けて二本のみさんがと、明日の見舞いの品であるゼリーを作り上げたのだった。

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  • from: yumiさん

    2012/02/19 12:45:25

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    「『さよなら』のかわりに―口付けを―」
     有華莉(ゆかり)は一人病室に戻ると、項垂れる母の姿があった。

    「お母さん。」
    「有華莉。」
    「ごめんね、行き成り出て行って。」
    「ううん、お母さんも悪かったわ。」
    「あたし、手術ちゃんと受けるから。」

     有華莉の言葉に母は目を見開いた。

    「あたしは死なない、洸太(こうた)くんの言葉を待つって決めたから。」
    「……あの子のお陰?」

     母はまるで眩しい太陽を見るように目を細めた。

    「うん、洸太くんが励ましてくれたから。」
    「そう、……後でお礼を言わないとね。」
    「うん。」

     有華莉は頷くと、ふと机の上に箱がある事に気づく。

    「これ。」
    「それ、あの子が持ってきたようよ。」
    「何だろう…。」

     有華莉が箱を開けると、少し形の崩れたシュークリームが二つ並んでいた。

    「シュークリーム……。」
    「手作りかしら?」

     有華莉は母の言葉に答えず、一口それをかじった。
     口の中にクリームの甘さが広がり、そのあまりの優しさに涙がこみ上げてきた。

    「有華莉?」
    「美味しい……。」
    「……。」

     涙を零しながらシュークリームを食べる有華莉を見て、あの少年が娘にとって大切な人なのだと母は静かに悟った。

    「後でお礼を言わないとね。」
    「うん…。」

     有華莉は微笑み、そして、外を見た。

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  • from: yumiさん

    2012/02/16 14:04:03

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    「『さよなら』のかわりに―口付けを―」
    「そんな事があったの?」

     信じられない事を聞いた有華莉(ゆかり)は大きく目を見開いていた。

    「ああ、マジであん時のオレはガキだった、外で遊びたい、皆で走り回りたい、体育をしたい、プールをしたい、色々なところに行きたい。そんな事を考えて、オレは生き残った。」
    「……。」
    「有華莉は何をしたい?」
    「あたしは……。」

     有華莉は目を瞑り、そして、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

    「分からないよ…。」
    「有華莉。」
    「だって……、だって…。」
    「それじゃ、有華莉が手術に成功したなら、オレはお前に言いたい事がある。お前は驚くかもしれない、拒絶するかもしれない、だけど、絶対にお前が成功すれば、オレはお前に言おう。」
    「……何よ、それ。」
    「まだ、秘密。」
    「……。」

     洸太(こうた)はそっと、有華莉の頬を包み込む。
    「なぁ、お前はメル友の奴と会いたいか?」
    「えっ?」
    「元気になれば会いに行きける、学校に行ければ、新しい友達が出来る。元気になればそんだけ、お前は色んな事が出来るんだ。」
    「……。」
    「今したい事が思いつかなければ、それでいい、だけど、頼むから手術の前から生きる事を諦めないでくれ、それだけで、いくら成功率の高い手術でも成功率が下がってしまうから。」

     洸太の言葉に有華莉は自分が死ぬ事ばかり考えていた事に思い至る。
     自分が死ぬなんて周りから思わせたくないから明るく振舞い、そして、影で泣いていた。

    「………影で泣くなよ。」
    「洸…太…くん。」
    「オレが側にいる。」

     洸太は自分の胸に有華莉を押し付けた。

    「洸太くん、洸太くん……。」

     有華莉はあふれ出した涙を止めず、洸太に抱きつきながら泣き出した。
     ひとしきり泣いた有華莉が顔を上げた頃には彼女の目は赤くなっていた。

    「たくさん泣いたな。」
    「……洸太くんが悪いんだ。」
    「そうかもしれないけど、すっきりしただろ?」
    「うん。」

     有華莉は頷き、洸太を見上げた。

    「ありがとう、洸太くん。」
    「いや、オレは何もしてねぇよ。」
    「ううん、洸太くんがいてくれたから、あたしは今笑えるんだよ。」

     有華莉はそう言いながら笑みを浮かべた。

    「毎日来るから…。」
    「うん。」
    「もし、手術の日が決まってもちゃんと来るから…。」
    「うん…。」

     洸太はそっと有華莉に小指を差し出した。

    「洸太くん?」
    「ガキくさいかもしれないけどな?」

     有華莉はクスリと笑い、洸太の小指に自分の小指を絡めた。

    「ゆびきりげんまん。」
    「うそついたら。」
    「はりせんぼんの〜ます。」
    「「ゆびきった。」」

     まるで子どもに戻ったかのように二人は楽しそうに指切りをした。

    「それじゃ、明日な。」
    「うん。」

     洸太は軽く手を上げ、有華莉はその後姿を見送った。

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  • from: yumiさん

    2012/02/14 11:50:28

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    「『さよなら』のかわりに―口付けを―」
     洸太(こうた)はその昔、幼い身で手術をしなければならなかった、心臓が弱く、手術しなければ長くは生きられないと言われたからだ。
     その時、洸太は怖くて、毎晩、毎晩病院の枕を濡らした。
     そんな時、兄である征義(まさよし)が洸太を支えてくれた。
     両親は忙しく三日に一回顔を合わせれば十分だったが、征義だけが学校帰りから面会時間ギリギリまで一緒にいてくれた。

    「おにいちゃん。」
    「今日も来たぞ。」
    「……ぼく…ずっと、ここにいるのかな……?」

     洸太の言葉に征義は顔を顰める。

    「馬鹿な事を言うなよ。」
    「だって……。」
    「大丈夫だ、お医者様を信じろよ。」
    「う…ん……。」
    「なあ、もし心臓が元気になったら、何をしたい?」
    「……みんなで、おそとをかけまわりたい。」
    「そうか。」
    「あとね、あとね、しょうがっこうにはいって、プールでおよぎたい。」
    「大丈夫だ、絶対に治って全部叶えような。」
    「おにいちゃん。」

     征義の言葉に洸太は強く思った。
     絶対に治して、したい、事をするのだと。
     そして、後に知る、その手術の成功の確率がかなり低かった事を、それを征義が知っていた事を――。
     当時の征義はきっとどうすれば、洸太が生きたい、と強く思うのか考えたのだろう、だから、洸太が元気になってからしたい事を訊いたのだ。
     それが彼に生きる気力を生ませるために。

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