◇制御できない心　どこでも「監視」携帯が武器に
　後輩がふざけて交際相手の少女の頭をなでるのを見た瞬間、キレた。「むかつくから出て行くわ」。当時１８歳の高校生だった東京都のアルバイトの男性（２５）は、居酒屋を一人で飛び出した。驚いて追ってきた少女の目の前で、クラクションを鳴らした車の運転手に近づくと、いきなり殴り、首を絞めた。「お前がすきを見せるからだ」「この人がこんな目に遭うのもお前のせいだ」。少女に向かってわめいた。

　「大切な人を守るのが男の仕事。僕の言うことを聞かないと彼女は駄目になると思っていた」と男性は振り返る。１６歳の時から、これまで交際した女性たちとは似たことの繰り返しだった。嫉妬（しっと）心を制御できず「他の男と会っているんじゃないか」と気になって携帯電話で行動を伝えさせた。

　相手に暴力を振るい出したのは１９歳のころ。自分の思い通りにしないと、ささいなことで手を上げた。「また殴ってしまった。最悪だ」。すると女性たちは「そんなことないよ」と言ってくれた。

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　男性は０９年５月から週１回、民間機関「アウェア」（東京）が実施するＤＶ加害者の更生プログラムに通っている。結婚まで考えた女性に暴力を振るったのがきっかけだった。似た経験を持つ男性たちと話し合ううち、自分の行動の一つ一つが恋人間の暴力「デートＤＶ」にあてはまることを知った。

　名古屋市が０８年９〜１１月に市内６３高校と県内７大学の男女を対象にした調査では、デートＤＶの被害経験があると答えたのは女子の約４人に１人。男子でも約８人に１人に被害経験があった。アウェア代表の山口のり子さんは「どこへでも追いかけられる携帯電話が武器となってしまっている」と指摘する。若い世代では「恋人がいる」ことが大きな価値とされ、関係のいびつさに目を向けない当事者も多いという。

　男性の場合、幼少期に父親から激しい暴力を受けていた。「自分がされたことをやっただけ」と明かす。山口さんは「加害者には虐待された経験がある人もいる。男性は幼い時に暴力による支配を学んでしまったのではないか」と分析する。

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　愛知県安城市で０９年３月、元交際相手に暴行して逮捕された元パチンコ店員、佐藤利信被告（３２）も交際中、「今日はどこですか」と携帯メールで女性を監視していた。別れ話を切り出されると自宅で待ち伏せ、女性の顔を殴り、踏みつけた。

　佐藤被告は留置場でノートにつづっていた。「目や顔は大丈夫ですか」「早く○○ちゃんに会いたい」。女性は約２週間後、意識を取り戻すことなく亡くなった。１審で懲役１６年（控訴中）を言い渡された佐藤被告の罪名は「殺人」だった。

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　若い世代に広がるデートＤＶ。ＤＶ防止法は適用されず、当事者が自覚していないことも多い。相手を死亡させるなどの悲劇も起きている問題の「今」を追う。【福島祥】

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　■ことば

　◇デートＤＶ（ドメスティックバイオレンス）
　恋人間の暴力。殴る、けるといった身体的暴力や性的暴力のほか、ばかにする▽メールをチェックする▽会う人間を制限する－－など相手を支配し思い通り動かそうとする言動も含む。ＤＶ防止法は配偶者や内縁関係などの暴力を対象としており、デートＤＶには適用されない。

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毎日新聞　2010年3月26日　中部朝刊