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弥生の河に言の葉が流れる

弥生の河に言の葉が流れる>掲示板

公開 メンバー数:7人

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  • from: yumiさん

    2010年07月04日 12時29分04秒

    icon

    特別企画!?始動

    5000人突破記念キャラクター対談(?)
    友梨(ゆうり)以下:友
    智里(ちさと)以下:智
    美波(みなみ)以下:美
    昌獅(まさし)以下:昌
    勇真(ゆうま)以下:勇
    涼太(りょうた)以下:涼  とさせて頂きます。


    友:「5000人突破記念」
    智:「特別企画」
    美:「キャラクター対談!?」
    友:「先ずは自己紹介しましょうか?」
    智:「まあ、それが先決でしょ」
    美:「うん、そうだね」
    友:「まずは私、高田(たかだ)友梨、高校三年です」
    智:「高田友梨の妹の智里、高校一年」
    美:「え〜と、友梨お姉ちゃんと智里お姉ちゃんの妹の美波、中学校二年です」
    ――シーン――
    「「「………。」」」
    友:「ほら次、さっさとしないと、作者がめんどくさがって、中止しちゃうじゃない!?」
    友梨近くにいた昌獅を抓る。
    昌獅、痛みで顔を顰め、そして小さく溜息を吐く。
    昌「(別に中止してもいいじゃねえか、めんどくせぇ……)日部(にちべ)昌獅、高三」
    勇真、苦笑を浮かべる
    勇:「三村(みむら)勇真大学二年」
    涼:「………」
    美波、涼太の服の裾を引っ張る。
    美:「ほら、リョウくん、自己紹介」
    涼:「(……無防備に近付くなよ……、つーか、ぜってい、こいつオレを男だと思ってないよな……は〜…)月前(つきまえ)涼太、中一」
    美:「よくできました」
    美波、満面の笑みを浮かべ、涼太の頭を撫でる。
    涼太、嫌そうに顔を顰める。
    涼:「(子ども扱いかよ!?)止めろよな!!」
    涼太、美波の手を払い除ける。
    美:「あ……。」
    涼:「(だから、そんな顔すんな!!)ふんっ!」
    涼太、意地になってそっぽを向く、その顔は赤かった。
    涼:「っ――!?うっせ――っ!!!」
    「「「「………………(可哀想に…合掌)」」」」
    友:「え〜と、ではさっそくお答えしましょう!」
    友梨箱に手を伸ばす。――スカッ――
    友「………………あれ?」
    昌:「どうした?」
    友:「無い……あ、あった」

    《特に質問がないので、勝手にやってください。バーイ作者》

    「「「「「「………」」」」」」
    昌:「何だよ、これ」
    昌獅、唸る。
    友:「え〜と……取り敢えず、誕生日、やっとく?」

    Q:皆さんの誕生日はいつですか?

    A:
    友:「私は前に答えたと思うけど、もう一度言います3月27日で〜す」
    智:「1月5日」
    美:「そっけないね、智里お姉ちゃん…」
    智:「煩い、さっさと、終わらせてほかの事がしたいの、ほら、美波も答える」
    美:「1月15日です、元成人の日で〜す」
    昌:「9月20日」
    勇:「4月19日だな」
    涼:「………7月20日」
    美:「あ、誕生日が近いね、パーティしようよ」
    涼:「(だから、言いたくなかったんだよ)めんどくさい」
    美:「え〜!誕生日だよ?」
    涼:「別にどうでもいい」
    ヒラヒラと紙が空から降ってきた。
    美波、紙を拾い上げる。

    《涼太の誕生日頃に彼の誕生日祝いの小説を書く予定です、他の人たちのも用意するので、そのつもりで。バーイ作者》

    美:「だって」
    涼:「〜〜〜〜〜っ(もう言い返す気力も無い)」
    友:「え〜と、次の質問!!」

    Q:携帯の色は?

    A:
    友:「私はアレが用意した青色の携帯だけ」
    智:「お姉ちゃんと一緒の機種で、白」
    美:「あたしは勇真さんから頂いたので、オレンジ色、夕日のような色で、すごく綺麗なんだよ」
    智:「はいはい」
    涼:「オレが先に言った方がいいな、オレはまだ携帯を持っていないが、どこかで、昌獅から携帯を借りる、それは緑だと、作者から聞いている」
    美:「……リョウくんとは、まだ、再会してないもんね…」
    美波、悲しげに顔を歪ませる。
    涼:「泣くなよ?」
    昌:「…………俺はシルバー(元からの持ち物)」
    勇:「おれは黒。これで以上かな?」
    友:「はい」

    友:「ここまで、ありがとうございました。作者に代わってお礼を言わせていただきます。
     今回の5000人突破は皆様の御陰でできたので、嬉しいです。
     本編はまだまだ、問題が山積みですが、皆の力を合わせて乗り越えていきたいです。
     10000人突破記念のやる事はまだ、ちゃんとは決まっていませんので、書いていただければ、反映できると思います。
     それと、もしよろしければ、お気に入りのキャラクターがあれば送ってください、作者がキャラクター投票をしたいようです。え〜と…なんだったかな…(友梨、紙を見る)
     あ、あった、月初めに集計して、そして、人気のあるキャラクターの出番を増やしたいです…もし、他のキャラクターに票があって、友梨ちゃんに無い場合は、友梨ちゃんの出番を削ります…え〜〜〜〜〜!?
     うそ、それ困る!……あ〜皆様、どうか、私の出番を増やすように、投票してください!!!
     ……遅れましたが、これからも、「弥生の河に言の葉が流れる」をよろしくお願いします。」

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from: yumiさん

2011年04月23日 10時18分59秒

icon

「特別企画!?」
誕生日:勇真

「あっ!勇真(ゆうま)さん!!」

 元気欲手を振っているのは、昔付き合っていた彼女の弟の恋人で、仲間である高田友梨(たかだゆうり)だった。

「お誕生日、おめでとうございます。」

 満面の笑みを浮かべる少女に勇真は微笑み返す。

「ありがとう。」
「あの、これ、私と妹たちからのプレゼントです。」

 友梨はそう言って小さな包み紙を渡す。

「いいのかい?」
「はい、勇真さんにはいつもお世話になっていますから。」
「ありはとうね、友梨ちゃん。」
「いいえ、お礼の言葉は妹にも言っておきますね。」
「ああ、頼むね。」

 言葉を聞いていなければ間違いなく仲睦まじい恋人同士に見えるので、彼女たちの関係を知らない人たちは勘違いを起こしているようだ。

「なあ、あれって三村(みむら)じゃねぇか?」
「何時の間に彼女なんかつくったんだ?」
「へぇ、結構可愛いな。」
「……。」

 その会話を横で聞いていた、とある人物はワザと音を立て、大声を出す。

「友梨!」
「あっ、昌獅(まさし)。」
「お前も今日学校だったんだな。」

 二人はのんびりと微笑み、音を立てた昌獅を見た。

「…………友梨、こっちに来い。」
「えっ?」

 訳の分からない友梨は首を傾げているが、勇真は何か感づいたのか苦笑している。

「ほら、友梨ちゃん行っておいで。」
「あ、あの、勇真さん、私もう授業がないので、よければ、一緒に言って欲しい所があるんです。」
「えっ?昌獅は?」
「昌獅とは一緒に行けない場所なんです。」
「……。」

 勇真は不思議に思ったが、友梨の真剣な目を見て断れなかった。

「分かった、おれもこの後用事がないから、構わないよ。」
「ありがとうございます。」

 友梨は頭を下げ、昌獅の元に向かった。
 昌獅は文句を友梨に言うが、友梨は微笑んで、それをかわしていた。



「友梨ちゃん。」
「勇真さん。」

 友梨と昌獅が向かった場所は墓地だった。

「ここは……。」
「ごめんなさい、勇真さんも心に傷を負っているとは分かっているんですけど、それでも、私場所を知らなかったので……。」
「いや、久し振りにナツに会っても構わないから…。」
「優しいですね。」

 友梨は目を細める。その顔は一人の大人の女性のもののように思えた。

「奈津美(なつみ)さん、こんにちは。」

 まるで友梨は奈津美を知っているような口調なので、勇真はほんの少し目を見張った。

「ありがとうございます。私は貴女がいてくれたから、今の昌獅と出会う事が出来たと思います。それに、勇真さんともで会わせていただきありがとうございます。」
「友梨ちゃん。」
「私はこの二人と出会えて、本当に幸せです。だから、安心してください。」

 友梨は穏やかな笑みを浮かべた。

「昌獅は私が守ります。」
「……。」
「勇真さんや皆も守ります。だから、奈津美さん、安心してください。私は貴女が守りたかったもの、大切にしたかったものを守ります。」
「……友梨ちゃん。」

 出会った頃はまだ少女のようだった友梨も成長しているような気がして、勇真はほんの少しばかり寂しく思った。

――ありがとう、友梨ちゃん。

 ふっと風が吹き、奈津美の声が二人の耳に届いた気がした。

――勇真、誕生日おめでとう。幸せになってね。

「ナツ?」

――友梨ちゃん、昌獅と勇真をよろしくね。

「はい。」

 友梨は不思議に思わないのか笑みを浮かべ、幻聴にも近い奈津美声を受け止めていた。

「………私が出来る限りの事をいたします。」
「………友梨ちゃん。」

 勇真の声が震えているが、友梨は気付かない振りをした。

「何ですか、勇真さん?」
「ありがとう……。」
「いいえ、私は勇真さんに無理を言って連れてきてもらったのですから、お礼を言うのは私の方ですよ。」
「……昌獅は本当に良い彼女を持ったね。」

 友梨は一瞬目を見開いたが、すぐに笑みを浮かべた。

「昌獅が良い彼女を持ったんじゃなくて、私が良い彼氏を持ったんですよ?勇真さん。」
「……そうかな?」
「そうですよ。」

 立ち上がった友梨はスカートについた砂を払う。

「多分、昌獅が私に告白しなければ、私は自分の気持ちに気付かなかった。だから、私は自分にはもったないない程素敵な彼氏が出来たんです。」

 のろける友梨に勇真は笑みを深くする。

「友梨ちゃん、君は今幸せかい?」

 勇真の質問に友梨は今まで見せた笑みの中で一番綺麗で、そして、幸せそうな笑みを浮かべたのだった。

「勿論です。私の側に色々な人が居て笑ってくれている。そんな私が不幸せのはずがありませんよ。」
「そうか。」

 勇真は目を細める。

「ねえ、勇真さん。」
「何かな?」
「勇真さんは今幸せですか?」

 友梨に同じ質問をされ、勇真は言葉を詰まらせる。
 今までの自分ならば、きっと「幸せになってはいけない」と思っていただろう。
 だけど、今は違った……。

「ああ、幸せだよ。」
「よかった。」

 友梨は本当に嬉しそうに目を細め、そっと蒼穹を見上げた。

「奈津美さん、いつか必ず、昌獅とここに来ますね。その時には私と昌獅の子どもがいても、驚かないで下さいね。」

 勇真は友梨の言葉に目を見張った。
 季節は必ず移り変わる。
 そして、人は変わる。
 いつかきっと、奈津美と過ごした思い出が、笑って思い出す時が必ず来るような気がした。

あとがき:勇真さんの誕生日で一応この特別企画(?)を終わらせていただきます。
もし、イベント事で何か見たいものがありましたら、リクエストとして載せるかもしれません。
五月に入ればこのサークルも丁度一年なので、感慨深いです。

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from: yumiさん

2011年04月19日 09時58分48秒

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「特別企画!?」
エープリールフール

「ねぇ、昌獅(まさし)。」
「何だよ、友梨(ゆうり)。」

 昌獅の部屋に遊びにきていた友梨は満面の笑みを浮かべ、爆弾を落す。

「別れて。」
「………………………………。」

 顔を強張らせる昌獅に友梨は心の中ではほくそ笑みながら、外側では今にも泣き出しそうな顔をした。

「私……好きな人ができたの……。」
「…………………………誰だ?」

 低い声音に、友梨は本能的にヤバイと思った。

「えっ、昌獅??」

 友梨はマジマジと昌獅を見た。彼は先程から表情を変えていないが、その目は確実に殺気を帯びている。

「…誰だ?」
「あ、あの……。」

 友梨は思わず後退り、その後退した分だけ昌獅はその距離を詰め、必然的に友梨は壁に追い遣られる。

「誰だ?」
「……あの、昌獅さん?」

 友梨は顔を引き攣らせ、今日はエープリールフールだから…、と言いたいのだが、恐怖の所為か声がこれ以上でない。

「………教えてくれないのか?」
「……。」
「そんじゃ、言いたくなるようにさせようか?」

 昌獅はゆっくりとその男性独特な手で友梨の頬を撫でた。
 友梨の背筋から冷たい汗が流れ落ちる。

「い…や……。」
「無理だ……。」

 昌獅のいつもよりも低い声に友梨は肩を震わせる。

「怯えても……む…だ…だ……。」

 急に昌獅の手が止まった事に不思議に思いながら、友梨はゆっくりと顔を上げた。
 その時、何故か昌獅外気を呑む音がして、マジマジと昌獅の目を見た瞬間理解した。
 何故、彼が止まったのか、それは友梨が泣いたからである。

「………ごめんなさい…。」
「……。」

 昌獅はそっと友梨の頬から己の手を退けた。

「…ごめんなさい…ごめんなさい…。」

 昌獅は己の熱が徐々に引いていくのを感じながら、友梨を見下ろした。

「……悪い…。」

 昌獅は己の手を傷つけるように握り拳を作り、そっぽを向く。

「……まさ…し…ごめ…ん。」
「……。」
「さっきの……うそ…なの……。」
「……………………へ?」

 昌獅は素っ頓狂な声を出し、友梨をまじまじと見た。

「好きな人は…昌獅だけ……だよ…。ごめんなさい…嘘ついて……。」
「…本当にか?」

 昌獅は瞬きをして、ゆっくりと友梨に手を伸ばす。

「エープリールフールだから……嘘吐いて…みたかったの…ごめん。」
「……はぁ。」

 昌獅は深々と溜息を吐いて、友梨を抱きしめた。

「頼むから、そんな嘘だけは止めてくれ…心臓に悪い……。」
「ごめんなさい。」

 友梨は今後エープリールフールで嘘を吐かない事を心の中で決心した。

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マナ

from: yumiさん

2011年04月15日 10時38分14秒

icon

「特別企画!?」
誕生日:友梨

 自分が生まれた日、それはとても大切だけど、年をとるごとになんだか虚しく感じる。

「お姉ちゃん?」

 ふっと外を見ていた友梨(ゆうり)に智里(ちさと)が声をかけてきた。

「何?智里。」
「何時化た顔しているの?」
「さあね。」
「……誕生日なのにそんな顔していいの?」
「……私の誕生日であるけど、今日は母さんの方のおじいちゃんが死んだ日よ。」
「……。」

 智里は眉間に皺を寄せた。

「それがどうしたって言うのよ?」
「……ん、不思議なものだな…って。」

 友梨の言いたい意味が分からないのか、智里は更に眉間の皺を深くさせる。

「人は生まれて、死んでいく。それが当たり前なのに、自分の誕生日に身内がなくなると忘れられないものになるのね。」
「……湿った話しね。」
「そう?」
「ええ、春だと言うのにこんなに湿っていいのかしらね。」
「……。」
「と言う事で。」

 唐突に智里は満面の笑みを浮かべる。友梨はその笑みを見て何故だか危険だと思った。

「出て行きなさい!」
「ふあっ!」

 行き成り蹴られ、友梨は部屋の外へと追い出された。

「な、何なのよ…一体……。」

 友梨は蹴られた部位を押さえ、涙目になる。

「う…痛い……。」

 そんな時、友梨の耳にインターホンの音が聞こえた。

「誰?」

 そう呟いた友梨は慌てて下に行き誰が来たのか確かめる。

「はい。」
『友梨か?』

 声を聞いてそれが誰だか分かった友梨の顔に自然と笑みが浮かぶ。

「そうよ、違ったらどうするの?」
『そん時はそん時。』
「もう、そっち行くね。」
『ん。』

 短い返事に友梨はクスリと笑い、外へと向かった。

「昌獅(まさし)!」
「おう。」

 片手を挙げ、昌獅は口角を上げ笑った。

「どうしたの?唐突に?」
「どうしたのって、お前…今日誕生日なんだろ?」
「えっ…あ、うん。」

 友梨は昌獅が自分の誕生日を覚えていてくれたのが信じられないのか、何度か瞬きをした。

「お前、失礼な事を考えていないか?」
「えっ?どんな……?」

 やや図星だったので友梨は視線を泳がせた。因みにそれを見た昌獅は深々と溜息を吐いたのだった。

「たとえば、俺がお前の誕生日を知らなかった、忘れていた、という類のもんだよ。」
「うっ…あははは……。」

 笑って誤魔化す友梨に昌獅はもう一度溜息を吐く。

「お前な……。」
「だ、だって……。」
「まあ、いい、時間あるんだろ?」
「う、うん。」
「ついて来いよ。」

 友梨の前を歩き始める昌獅に友梨はその隣を歩き始める。

「なあ、友梨。」
「何?」
「お前さ、不安なのか?」
「えっ?」

 唐突な質問に友梨は足を止めた。

「どうして……?」
「最近のお前さ、上の空時が多いから。」
「……。」

 家の中ではぼんやりする事が増えたから気をつけないといけないと思ったのにも拘らず、まさか、昌獅が気付いているとは友梨は思っても見なかった。

「な、何で?」
「……見てれば分かる。」

 溜息と共に吐き出された言葉に友梨は顔を真っ赤に染める。

「う〜……。」
「んで、何が不安なんだ?」
「色々……。」

 昌獅は友梨の言葉を黙って待つ。

「大学生活うまくいくのかな、とか、このまま昌獅とうまくやっていけるのかな、とか、新しい友だちが出来るかな、とか……。」
「支えてやるよ。」
「でも……。」
「お前が不安なら俺が支える。お前が泣くのならいつでも胸を貸す、お前が怒りたいのならその言葉を聞いてやる。だから、側にいてくれ。」
「昌獅。」

 友梨は頭の中では理解しているが、どうしても、性格の所為か大っぴらに甘える事が出来ないでいた。そして、それが、数ヵ月後後悔することになる。
 しかし、それは友梨も昌獅も知らない事だ。

「友梨。」
「……。」
「………俺はお前とならうまくやっていけると思う。」
「昌獅……。」
「だから、俺との関係だけは絶対に信じてくれ。」
「……何が起こっても?」

 友梨の瞳に初めて不安が宿った、いつもならうまく隠せていた不安が顕になり、昌獅はホッとする。

「何が起こっても。」
「……絶対に?」
「絶対に。」
「……たとえば、私が記憶喪失になっても?」
「ああ、俺はお前を信じるし、お前は俺を信じろ。」
「……無理だよ。」
「無理じゃない。」

 はっきりとした声が友梨の心を震わせる。

「俺はお前が好きだから、お前だけが大切だから、こうしてここにいる。たとえ何が起こってもそれだけは変わらないからな。」
「……。」

 友梨のその双眸から涙が零れる。

「馬鹿昌獅……。」
「友梨?」
「期待しちゃうじゃない……。」
「期待しろよ。」

 昌獅はそっと友梨を抱きしめる。

「俺はお前の側にいるから。」
「……昌獅。」
「今も、これからも………。」
「ありがとう……。」

 友梨は昌獅の胸に自分を預けた。
 しばらくそうしていると、いやに視線を感じた。

「……。」
「……。」

 友梨と昌獅は同時に顔を上げ、そして、周囲の人たちが自分たちを見ている事に気付き火を噴くような勢いで顔を赤く染めた。

「ま、昌獅。」
「…ヤベ…外だと言う事忘れてた。」
「ど、どうする?」
「…逃げるしかないだろう!」

 昌獅は友梨の手を掴み、そして、当初の目的の場所へと全力で駆けた。

「…はぁ…はぁ……。」
「悪い、大丈夫か?」

 息の荒い友梨を気遣う昌獅は彼女ほど息が荒くなかった。

「だい…じょうぶ…。」

 昌獅はポケットに手を突っ込み、ハンカチを出した。

「えっ?」

 ハンカチと共に紙の包み紙が見え、友梨は軽く目を見張った。

「昌獅…これ……。」
「やべっ…。」
「もしかして……。」
「あ〜〜〜。」

 友梨は末の妹よりも鈍感ではないので、昌獅の包み紙が何か理解した。

「……誕生日、おめでとう。生まれてきて…、俺に出会ってくれてありがとう。」
「…昌獅。」
「……受け取ってくれるか?」
「うん。」

 友梨は満面の笑みを浮かべ、昌獅からそれを受け取った。

「開けていい?」
「今ここでか?」
「駄目?」

 昌獅はあまりいい顔をしないが、それでも、友梨のお願いに弱いのか、溜息を吐いてしぶしぶ了承した。

「ありがとう。」

 友梨は中身を取り出すと、それはブレスレットだった。

「うわっ!嬉しい。」

 本心からの声に昌獅は愛おしそうに目を細める。

「気にいったか?」
「ええ、ありがとう。でも、これ高くなかった?」
「さあな。」
「……もう、天然石って高いんだよ?」

 そう、友梨が受け取ったブレスレットは天然石のブレスレットだった。
 友梨が分かるのでも、水晶、真珠、翡翠のような石…など、本当に綺麗な石ばかりだった。

「大切にしてくれよな。」
「……ありがとう、昌獅。」

 友梨はお礼の意味で、そっと背伸びをして、昌獅の頬に口付けをした。

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マナ

from: yumiさん

2011年04月10日 14時13分54秒

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「特別企画!?」
ホワイトデー(リビング編)

「遅いな〜。」
「そうだな…。(まあ、どうせ、昌獅(まさし)が友梨(ゆうり)先輩を引き止めているんだろうがな…)」
「リョウくん。」
「何だよ?」

 涼太(りょうた)は視線だけを美波(みなみ)に向けた。

「どうして、昌獅さんと一緒にいたの?」
「……。」

 今日が何の日か分かっているのならば、かなり早く理解するだろうが、この鈍感娘は今日は何の日か理解していないようだった。

「お前な……。」
「ふえっ?」
「……。」

 もっとムード的にマシならば、と涼太は思うがこれ以上長引けばあまりよろしい展開は期待できないと思っているのか、彼は鞄から小さな包みを美波の方に向ける。

「ほら。」
「何??」
「受け取れ。」

 言葉の少ない涼太に美波は首を傾げながら包みを受け取った。

「……ありがとう?」
「……。」

 何故疑問符をつけるんだ、と頭を抱えたくなった涼太だったが、一先ずそれを渡せたからよしとすることにした。

「…開けていい?」
「好きにしろ。」

 涼太はそっぽを向くが、その頬は微かに赤く染まっていた。

「うん。」

 美波は嬉しそうに包みを開け、そして、感嘆の声を上げる。

「可愛い!!」

 涼太が美波に送ったものは花束を抱えた可愛らしい熊のキーホルダーだった。

「いいの?リョウくん!!」
「ああ、オレが持っていても意味ないからな。」
「ありがとう!……でも、何で?今日は誰の誕生日でも、お祝いの日でもないのに?」
「……お前な…。」

 本気で呆れる涼太に美波は首を傾げる。

「ホワイトデーだ。」
「えっ?でも、リョウくん、チョコもくれたよ?」
「お前からチョコ貰ったからその返しだ。」
「えっ、あたし何も用意していないよ!!」

 顔を青くさせる美波に涼太は柔らかく微笑んだ。

「別にいいんだよ、オレがお前に贈りたかっただけなんだからな。」
「でも……。」

 戸惑いを隠せないでいる美波に涼太は笑みを深める。

「お前が喜んでくれたんなら、それで十分お返しになる。それとも、気にいらなかったか?」

 美波は涼太の言葉に大きく首を横に振った。

「それならいいじゃないか。」
「……来年。」
「はあ?」
「来年はちゃんとあげるから。」

 涼太は腹を抱えて笑った。唐突の事に美波はキョトンとするが、あまりの涼太の笑いように怒り出した。
 涼太は嬉しかった、来年も自分が側にいる事を信じてくれる美波が、それだけで救われた気がした。

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マナ

from: yumiさん

2011年04月05日 12時45分55秒

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「特別企画!?」
ホワイトデー(台所編)

「友梨(ゆうり)。」
「あっ、やっぱり来たんだ、昌獅(まさし)。」

 友梨は昌獅の行動を読んでいたのか、特に驚いた様子はなかった。

「やっぱり、涼太(りょうた)くんと美波(みなみ)をセットにした方が良いよね?」
「だな、と言っても、涼太がチャンスに気付けばだけどな。」
「大丈夫よ。」

 友梨は慣れた手つきでコーヒーを淹れその匂いに笑みを零す。

「涼太くんって度胸もあるし、頭の回転も速いもの。」
「だけどな。」
「うん、相手が悪いよね……。」

 涼太が好きになったのが普通の少女だったらこんな苦労をしなくてもすんだだろうが、残念ながら彼が好きになったのは超がつく程天然の美波だったのだ。

「私の妹ながら、どうして気付かないのかしらね?」
「……。」

 昌獅は友梨を一瞥し、そっと心の中でこう呟いた。

(自分の事に関して鈍感なのはお前も一緒だ、つーか、好意を持った奴くらい簡単に分かるだろうが、それがどうなって、良い人なんだよ……。)

 どうやら友梨も自分の事に関しては鈍感のようで、昌獅はその害虫を彼女に寄せ付けないために必死になっているようだ。
 彼女の場合、幼い頃にブスとか可愛くないとか言われ続けた所為で、どうしても、自分を好きでいる人は物好きなのだと思ってしまう節があるようだった。

「昌獅。」
「ん?」
「退いてくれる、そこに紅茶のティパックがあるから。」
「あっ、悪い。」
「ん〜。」

 友梨は昌獅に退いてもらった事でアップルティの箱を取り出す。

「…友梨。」
「何?」
「絶対振り向くなよ?」
「?……分かんないけど、別に良いわよ?」

 よっぽど変な事をしでかさないのならば、友梨は昌獅の唐突な行為を許している。たまに度が過ぎた事があるので、その時は友梨の鉄拳が飛ぶのは……まあ、愛嬌だろう。

「……。」

 友梨が作業をしているとふっと、頭上から銀色に光る華奢な鎖が見えた。

「えっ……。」
「バレンタインデーのお返しだ。」

 友梨の首元にそっと四つ葉の形をしたシルバーの型にそっと青い石が添えられるように嵌められたペンダントが落ちる。その石は青玉(サファイア)で昌獅の誕生石だ。

「あっ……。」

 友梨はふっとクリスマスの日に言った言葉を思い出し、それを昌獅も覚えていたのだと理解したとたん、友梨の頬に一粒の涙が零れる。

「ゆ、友梨!」

 唐突に涙を零した友梨に昌獅は慌てた。その姿が可笑しくて友梨は思わず泣きながら笑った。

「心配しないで、嬉しいの。」
「友梨。」

 昌獅は後ろから友梨を抱きしめた。

「ありがとう。」
「………愛してる、友梨。」

 言ってから照れくさくなったのか、昌獅は顔を真っ赤にさせる。そして、友梨に見られないにもかかわらず、そっぽを向いた。

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マナ

from: yumiさん

2011年04月04日 11時41分23秒

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「特別企画!?」
ホワイトデー(始まり)

「うむむ…。」
「……行くんじゃねぇのかよ?」

 唸る昌獅(まさし)は自分の手に持ったものを睨みつけ、それを見ている涼太(りょうた)は小さく肩を竦め、高田(たかだ)家の前にいた。

「行く、だが、インターホンを押して、魔王が行き成り出たらどうするんだ。」
「……。」
「俺はまだ死にたくないぞ。」
「同感だが、何時までももめてたら日が暮れるぞ。」
「だがな!」

 昌獅が思いっきり壁に手を突いた瞬間インターホンが鳴った。

「「あっ……。」」
『はい、どちらさまですか?』
「…友梨(ゆうり)?」
『えっ?昌獅??』

 運が良かったのか、インターホンに出たのは友梨だった。

「ああ、今いいか?」
『あっ、うん、大丈夫だよ。』
「あの……。」

 遠慮がちに涼太が間に入った。

『あら、涼太くんも一緒なのね。』
「はい。」
『それじゃ、あの子も呼んでくるわね。』
「えっ!」
『その為に来たんでしょ?二人とも。』
「「……。」」

 どうやら友梨はお見通しだったようだ。

『あっ、そうそう、智里(ちさと)いないから、上がって頂戴。』
「いいのか?」
『外よりも、中が良いでしょ?』
「まあ、そうだな。」
『それじゃ、私は美波(みなみ)を呼んで来るから、リビングで待ってて。』
「オッケー。」

 昌獅は慣れた手つきで門扉を開け、堂々と友梨たちの家に足を向けた。

「お、おい…良いのかよ!」
「ん、友梨が大丈夫だと言ったからな。」
「って、お前なんでそんなに慣れてんだよ!」
「何でって何度も来た事があるからな。」
「マジかよ……。」
「ん、俺たち一応受験生だったからよく互いの家に行って勉強会をしてたからな。」

 昌獅が言うように彼は何度か高田家に来た事があり、今では自分の家のように間取りを覚えているほどだ。

「同じ学年でよかったな。」
「ん?」

 恨みがましそうな声音に昌獅はゆっくりと振り向くと、涼太は睨むように昌獅を見ていた。

「何だよ?」
「違う学年だったら、確実勉強会なんか出来ないよな?」
「……。」
「しかも、年上の方が勉強できないなんて、どうすんだよ……。」

 涼太にはどうやら苦悩する事があるようで、昌獅は思わず不憫に思ってしまった。

「教えたらどうだ?」
「やった、美波が落ち込んだ。」
「……。」

 昌獅は本気で涼太を不憫に思い、片手を伸ばし玄関の扉のノブを握り、もう片方の手は頭を掻いていた。

「頑張れよ。」
「うっせ……、幸せボケしているテメェに言われたくねぇ。」
「……かなり重症だな。」
「そう思うんだったら、放って置いてくれ。」
「……。」

 昌獅は小さく肩を竦め、そのまま玄関の扉を開ける。

「邪魔するぞ。」
「お邪魔します。」

 二人のうち一人はまるで自分の家のように入っていくが、もう片方は気後れしているのか声がいつもより小さい。

「こっちだ。」

 誘導する昌獅に涼太は苛立ちにも似た目で睨みつけているが、昌獅はその視線に気付かない。

「もう、遅い。」
「リョウくん、こんにちは。」

 もう既にリビングにいた友梨と美波がそれぞの相手に対して自分の言葉を言う。

「悪い。」
「もう…、紅茶?コーヒー?」
「コーヒー、ブラックな。」
「オッケー、涼太くんは?」
「えっ?」
「コーヒーで良いよな?」
「えっ、ああ…はい……。」

 友梨と昌獅のペースについていけない涼太は困惑しているようだった。

「それじゃ、少し待ってね。」
「ん。」
「あ、お姉ちゃん、私アップルティ。」
「分かってる、分かってる。」

 友梨は片手をヒラヒラと揺らし、台所に入っていく。

「あっ、四人分じゃ、手伝った方がいいよな?」

 昌獅は唐突にそう言い、立ち上がる。
 残された二人と、台所の二人は一体どうなるのやら……。

*台所編・リビング編に続く*

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マナ

from: yumiさん

2011年03月03日 15時57分23秒

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「特別企画!?」
ひな祭り

 鼻歌を歌う美波(みなみ)を見ながら、涼太(りょうた)はつまらなそうな顔をする。

「なあ…。」
「ん?」
「クリームがついてる。」
「ふえ?」

 涼太は美波の顔に付いていた生クリームを拭い、それを己の口に持っていく。

「うえ…あま…。」
「え〜、おいしいよ?」
「あっそ。」

 素っ気ない事を言う涼太に美波はニッコリと微笑む。

「それにしても、ひな祭りだけのケーキ美味しいっ!」
「よかったな。」
「…涼太くん、ごめんね。」

 げんなりと疲れている涼太に席は違うが、それでもかなり近い位置にいた友梨(ゆうり)が謝る。

「いえ、…友梨先輩の所為じゃないです…。」
「……。」
「昌獅(まさし)、このくらいで妬かないでくれ…マジで恐えから…。」

 物凄い形相で睨みつけてくる昌獅に涼太は顔を引き攣らせる。

「それにしても……。」
「何なんだよ?」

 溜息を吐く友梨に昌獅は眉間に皺を寄せる。

「何か、涼太くんと昌獅似てきたんじゃない?」
「はあっ!」
「……んなわけねぇ。」
「だって、眉間に皺を寄せるし、何か口調までに似ている気がするし…あっ、行動も似てきたかも。」

 驚く涼太とげんなりとする昌獅に友梨は口元に指を当てながら言う。

「一番似ているのは嫉妬深いところかな?」
「「……。」」

 昌獅と涼太は互いの顔を見合わせる。その表情は強張っている。

「確かに、昌獅は嫉妬深いが…。」
「何を、てえぇの方だろうが。」
「……あ〜、やっぱり似てるわね〜。」
「「……。」」

 昌獅と涼太は互いの顔を見て、これ以上何も言わないと誓う。

「ふぅ…、さっさと雛人形仕舞わないとね〜。」
「何でだ?」
「えっ?そりゃ、自分はともかく美波には早くお嫁にいって欲しいもの。ね?涼太くん。」
「なっ!」

 友梨の言葉に涼太は顔を真っ赤にする。

「雛人形って早く仕舞わないと行き遅れるんだって。」
「へ〜、まあ、友梨は別にいいんじゃねぇか?」

 ニヤリと笑う昌獅に友梨はじろりと睨んだ。

「昌獅!」
「何だよ?お前と結婚するのは俺だろ?」
「……それまでに愛想つかされないといいな。」

 友梨がふつふつと怒るのを横目に見ながら涼太はそう呟いた。
 そして、一分後屍となった昌獅がいたような、いないような……。
 その事実を知るのは伸した友梨とそれを見ていた涼太だけだった。
 因みに美波はケーキを食べるのに必死で見ていなかったそうだ。

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マナ

from: yumiさん

2011年02月14日 11時35分36秒

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「特別企画!?」
バレンタイン(涼太→美波)

 戦日和だな…、と暢気に涼太(りょうた)は窓の向こうの空を見上げ、頬杖をつきながら溜息を一つ吐いた。

「お〜い、月前(つきまえ)。」
「……。」
「無視すんなよ。」

 悪友が自分の目の前で手を振るものだから、涼太は溜息を更に一つ吐いた。

「そんなに溜息ばかり吐いていると幸せも逃げるぞ。」
「……。」
「お前、いいのかよ。」
「……。」
「あの可愛い先輩……名前は…そうだ美波(みなみ)先輩!」

 涼太は悪友を鋭い眼で睨みつけ、そして、地を這うような声を出す。

「あいつの名前をその汚らしい口でいうな……。」
「げっ………。(こいつ本気でオレを殺そうとしている!)」
「……。」

 まだ怒りの炎をその瞳に宿らしている涼太だったが、不意に下を見た。
 因みに涼太の席は窓側の真ん中の位置で、空を見る事もグラウンドを見る事もできる。

「あいつ……。」

 涼太は急に席を立った。

「お、おい…授業始まるぞ?」
「ふける、適当に誤魔化しとけ。」

 お願いではなく命令口調の涼太に悪友は唖然とした。

「ま、待てよ。」
「……。」

 涼太はあっさりと走って行ってしまった。

「あ〜、本当に美波先輩の事になると、必死だな……、つか、あの二人何時の間に知り合ったんだ?」

 悪友の最もな疑問に答えるものはここには居なかった。



 美波は花壇の前にしゃがみ込み、ニッコリと花に微笑みかける。

「今年も綺麗に咲いたね。」
「高田(たかだ)さん!」
「ふえ?」

 美波は不思議そうに首を傾げ、声をかけてきた人を見た。

「………???」

 見覚えがあるような、ないような人だった。彼は美波のクラスメートなのだが、美波はあまり男子生徒と仲がいいという訳じゃないので、彼が誰だか分からなかった。

「あの、これ受け取ってください!」

 綺麗にラッピングされた箱を差し出され、美波はキョトンとした。

「……。」
「……。」

 沈黙が二人の間に落ちる。

「え〜と。」
「おい、美波!」

 丁度良いタイミングで涼太が現れ、美波はホッと息を吐いた。

「リョウくん。」
「……。」

 涼太は美波にチョコを渡そうとした人物を睨みつける。相手の方は突然現れた存在に目を見張っている。

「こいつに、何のようだ?」
「え、あ……。」

 どう見ても年下の少年に睨まれた男は慌てる。

「あ、あの、これ、受け取った方がいいですか?」
「……。」
「はい!」

 美波の何とも言えない助け舟に、涼太は顔を引き攣らせ、男は顔を輝かせる。

「ありがとうございます、義理でも嬉しいです。」
「……。」
「……はあ…。」

 涼太は友梨(ゆうり)が言った事を本当にやらかす美波に溜息を一つ吐き、硬直している可哀想な男を一瞥した。

「美波。」
「何?」
「こい。」
「ふえっ!」

 突然涼太に手を引かれた美波は礼儀正しいのか、涼太に引っ張れながらもチョコを渡してくれた男に礼を述べたのだった。

「……。」

 涼太はそれを面白くないと思いながらも、美波を引っ張る。

「りょ、リョウくん!」
「何だよ。」
「聞きたいのはこっちだよ!」
「あっそ。」

 涼太はどんどん人気の少ない中庭の方へと足を向ける。

「ねぇ、リョウくん。」
「んあ?」
「ホワイトデーのお返し何がいいかな?」
「……。」

 涼太の眉間に皺が寄る。

「放っておけ。」
「でも……。」
「どうせ、何処の誰かも分からねぇ奴からも受け取ったんだろ!」
「ふあ……凄いよく分かったね。」

 手放しに喜ぶ美波に涼太は脱力した。

「…お前な……。(普通、図星指されたんなら嬉しそうじゃなく、せめて、ギクリとかやってくれ…オレマジで…何でこいつがいいんだろう……)」
「リョウくん?」
「何でもねぇ…。」
「そう?」

 涼太は中庭の日当たりの言い場所まで美波を連れてくると、足を止めた。

「…リョウくん。」
「何だよ。」
「授業始まるよ?」
「……。」

 妙な所で真面目な美波に涼太は溜息を吐きたくなる。

「お前んとこはどうなんだよ?」
「あたし?あたしの所は自習だよ?」
「……あっそ。」

 チャイムが鳴り、美波の顔に焦りが見える。

「リョウくん!チャイム鳴ったよ!」
「あ〜そうだな。」
「何でそんなに暢気なの!!」
「別に一回くらいサボってもいいだろうが……。」

 涼太は溜息を一つ吐き、美波に小さな箱を投げる。

「ふえ?」

 唐突の事だったので、美波が取り落とすかと思ったが、涼太のコントロールがうまいからか、美波の手に見事に箱が納まった。

「リョウくん?」
「バレンタインのチョコ。」
「え?」
「いらないか?」
「いいの?」

 涼太はそっぽを向き、美波からじゃ彼の顔が見られないので、彼が顔を赤くさせているなんて夢にも思っていなかった。

「いいんだよ、お前が受け取らなかったらゴミ箱行きだ!」
「え〜、折角のチョコが可哀想だよ!」

 微妙に頬を膨らませる美波に涼太はそっと熱の引いた顔を向けた。

「なあ。」
「何?」
「お前は好きな奴…つーか、本命はいるのか?」
「……う〜ん、好きな人はいっぱい居るよ?」
「――っ!」

 美波の想像もしていなかった言葉に涼太は凍りつく。

「友梨お姉ちゃんに、昌獅(まさし)さん、勇真(ゆうま)さんに、ちょっと恐いけど、智里(ちさと)お姉ちゃん、後はね〜〜〜。」
「分かった…身内とか友だちが好きなんだな?」
「うん、勿論リョウくんも好きだよ!」

 涼太は美波に好きだと言ってもらえたのに、微妙な気持ちになった。

「そうか……。」
「うん。」

 笑顔を見せる美波に涼太はこれ以上何も言えなかった。

「まあ、今回はこれだけでいいか……。」

 特に新展開もなかったが、相手が美波だから中々進まない事くらい涼太も痛いほど理解していた。

「んじゃ、オレは用が済んだから、お前も教室に行けよ。」
「あっ、待って」
「んあ?」

 さっさと行こうとする涼太の腕を掴み、涼太は怪訝な顔で美波を見た。

「あの、これ。」
「……。」

 明らかに手作りですという包みに涼太は一瞬喜びを感じるが、すぐに彼女の言葉に愕然とする。

「いつもお世話になっているし、大切な弟に上げるのも当然でしょ?」
「…………………オレはお前の弟じゃねぇ…。」

 力なく言う涼太の言葉など美波の耳には入っていない。

「後で感想聞かせてね?」
「……ああ。」

 先程と違い美波の方が先にさって行き、涼太は呆然と立ち尽くしながら、自分の手に握られている包みを一瞥した。

「これが…本命ならどれだけ嬉しいんだろうな…。」

 涼太は少し焦げ付いているチョコレートを口に入れ、顔を顰める。

「苦い……。」

 美波の愛情はたっぷりと入っていそうだが、それは「弟」としてなので、涼太にはとてつもなく苦く感じたのだった。

「オレは……本命なのにな……。」

 ズルズルとその場に座り込む涼太はそっと顔を上げた。

「あ〜、本当に嫌なくらい晴れ渡ってやがる……。」

 本日は晴天、しかし、涼太の心は天気とは裏腹にどんよりとした曇りだった。

「来年、賭けてみるか。」

 来年こそは絶対に本命として美波にチョコを渡そうとするけなげな少年がここに一人いた。
 来年の結末は誰も知らない――。

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マナ

from: yumiさん

2011年02月14日 11時30分37秒

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「特別企画!?」
バレンタイン(昌獅×友梨)

「友梨(ゆうり)!」

 友梨は待ち合わせの間読んでいた単行本を閉じ、ニッコリと微笑んだ。

「……げっ。」

 昌獅(まさし)は友梨の笑みを見て、ギクリと体を強張らせた。

「……昌獅?」
「……。」
「先に言う事あるんじゃない???」
「悪い、遅れた。」
「ふ〜ん。」

 ニッコリと微笑んでいる友梨の纏う空気は真っ黒で、しかも渦を巻いている。

「どうして、と訊きたいけど、その格好を見れば分かるわ。」
「……。」

 友梨が言う通り、昌獅の格好を見れば、鈍感な美波(みなみ)は気付かないだろうが、勇真(ゆうま)や智里(ちさと)、涼太(りょうた)ならば察する事ができるだろう。
 彼の服は皺がよっており、しかも所々に泥や葉っぱをつけている。

「私なんかといるよりも、別の娘と遊んだら良かったんじゃない?」
「友梨!」

 昌獅は必死の形相で何とか立去ろうとする友梨を引き止めた。

「……ゆう…り?」
「……ばか…。」

 先程までは気付かなかったが、友梨はどうやら泣くのを我慢していたようで、今は目の端に涙が薄っすらと浮かんでいた。

「ばか……。」
「……。」
「私がどんな思いで待ってたと思うのよ……。」
「……。」
「…電話が来るまで…事故にあったんじゃないかとか…本当に心配してたんだよ……。」

 彼女は約束の十五分前にはついていて、そして、三十分は待ったのに彼は来なかった。
 今までそんな事は一度だってなかった、なのにも拘らず、彼は来ず、友梨は事故に遭ったんじゃないかと一人青い顔をしていた。
 そして、約束の時間から四十五分は待った友梨は昌獅には悪いと思いながらも、この場所から離れようとした時、電話がかかってきたのだ。

『昌獅!』
『悪い、遅れる!』
『事故なの?』
『いや、違うが……。』
『きゃああああっこっちよ!』
『待ってください!』
『げっ…、悪い、友梨!』

 昌獅の慌てたような声と共に電話は切られ、友梨は何がなんだか分からなかった。

『………昌獅?』

 先程電話の向こうから女性独特な黄色の声が聞こえた。そこから友梨は一つの結論を導き出してしまった。

『…………最低。』

 友梨はふつふつと沸き起こる怒りを覚えながら、それでも、昌獅に会おうとしたのは見上げた根性だと誰もが思うだろう。
 そして、友梨はやって来た昌獅に先程のような行動に出たのだった。

「悪い…友梨。」

 取り敢えず謝る昌獅だが、どうやら謝っただけでは友梨の怒りは溶けそうにない。

「知らない!」
「友梨!」

 今にも立去りそうになる友梨に昌獅は引きとめようと手を伸ばした瞬間、彼はあの事件から鋭くなった勘が働く。

「な――。」

 にするの!と友梨が怒鳴ろうとした瞬間、昌獅は友梨の手を掴み、そして、彼女が声を出さないように口を塞いだ。

「静かに……。」

 耳元で囁かれ、友梨は目を白黒させる。
 そして、しばらくして、彼がこんな事をした理由を察した。

「何処にいったの!」
「あっちじゃない!」
「いえ、こっちよ!」

 どうやら昌獅を探す女性の群れが友梨の目に映る。
 友梨は昌獅を睨みつけようと、彼の方に顔を向けると、真っ青になった彼の顔が見えた。

「……。」

 可哀想なほど真っ青な昌獅の顔に友梨は彼女たちの好意は昌獅にとって、メチャクチャいらないものだと理解した。

(仕方ないか……。)

 友梨は自分の中のつまらない嫉妬の所為で彼を困らせてはいけないと思った。

「昌獅。」
「……。」

 昌獅は下を見て友梨の目とぶつかる。

「こっちよ。」

 友梨は何とか昌獅の手から逃れ、彼の手を引いて走り出す。
 人気の少ない道を走り、そして、彼とよく来る川原にやってくる。

「もう大丈夫よ。」
「……友梨。」
「しかたないわね、昌獅の不可抗力のようだし。」
「友梨。」

 昌獅はホッとしたかのように息を吐いた。

「それにしても、やっぱり貴方ってもてるのね。」
「……。」
「何で私みたいなブスと付き合うのか、本当に不思議だわ……。」
「友梨。」

 自分を卑下する彼女の悪いくせに昌獅は眉間に皺を寄せた。

「ねぇ、昌獅。」
「別れるとかだったら絶対に聞かないからな。」
「?」

 何で唐突にそんな話になるのかと友梨は首を傾げそうになった。

「別に、言わないわよ。貴方は別れたい訳?」
「そんな訳あるか!」

 怒鳴る昌獅に友梨はけろりとした表情をした。

「そうよね。」
「……。」
「もし、私と別れたいんだったら、貴方は優しいから私が傷つかないような言葉を選ぼうとするわよね……。」

 友梨は何を思ったのか、寂しそうな表情をした。

「貴方は優しいから。」
「俺が優しいのは――。」

 昌獅は友梨の手を引き、友梨は勢いよく昌獅の胸にぶつかるのだが、昌獅はびくともしなかった。

「お前だけだよ。」

 昌獅はそう言うと、そっと友梨の顔に自分の顔を近づけようとした。しかし――。

「いだっ!」
「何をするのよ!」

 顔を真っ赤に染める友梨と左の頬を押さえる昌獅。
 どうやらキスをしようとした昌獅に対し、友梨は平手を喰らわせたようだ。

「何ってキス。」
「馬鹿!馬鹿!馬鹿!」

 友梨は容赦なく昌獅を殴り始める。

「いくら人気がなくたって、ここでするなんて可笑しいわよ!」
「だがな……。」

 昌獅は最後にいつ口付けしたのかと考え、そして、肩を落とす。

「また、お預けかよ。」
「当然。」

 友梨が胸を張るので、昌獅はまた当分の間彼女に口付けできないと思った。

「なんてね。」

 不意打ちだった。
 友梨はそっと背伸びをして、昌獅の唇に自分の唇を押し当てた。
 それは軽く触れるだけのものだったが、友梨にしたらそれだけで十分火を噴くくらい恥ずかしかった。

「バレンタインだから特別よ。」
「友梨。」

 昌獅の顔に喜色を浮かぶ。

「好きだからな。」
「私も……。」

 友梨はそっと目を伏せ、恥ずかしそうにしている。

「……あの…。」
「ん?」

 昌獅に狼みたいな耳と尻尾がまるで生えているように、見えるような気がする友梨は自分の貞操に危機に彼の注意を逸らすために、手作りのプレゼントを押し付ける。

「受け取ってくれる?」

 友梨はしかめっ面を浮かべていた。ただその顔は真っ赤に染まっている。
 昌獅はそんな友梨を可愛いと思った。

「受け取るさ。」
「よかった。」

 昌獅は少しくらいいいかと、友梨に顔を近づけるが、何かを察知した友梨は昌獅からするりと離れてしまう。

「…………。」

 やり場のない手を見つめ、昌獅は固まった。

「そういえば、涼太(りょうた)くんはちゃんと美波(みなみ)に渡せたのかな?」
「……おい。」

 昌獅はやや低めの声を出すが、友梨は気付いていないのか、それとも気付いていて敢えて無視しているのかは彼には分からなかった。

「だって、涼太くんが報われないのは可哀想じゃない!」

 ビシリと指を突きつけられ、昌獅は深く溜息を吐いた。

「分かった、分かった。」

 昌獅だって大切な弟分が想い人と付き合えればいい、と思っている。
 だが、相手は友梨以上の天然で鈍感な少女なのだ。

「そんじゃ、あいつの為に恋愛に効くお守りでも買ってやるか?」
「それはいいね。」
「そんじゃ、行くか。」

 昌獅は友梨の手を引いて折角のデートが神社に行く事になってしまい、微かに顔を引き攣らせるが、ついでに厄除けでも買っていこうかと考えるのだった。

「友梨。」
「何?」

 笑顔で振り返る友梨の唇に昌獅は一瞬だけ触れた。

「――っ!」

 驚いた友梨は本日二回目の平手を昌獅に食らわし、ついでに昌獅は約一ヶ月の間キス禁止令を出されてしまったのだった。

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from: yumiさん

2011年02月13日 16時27分31秒

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「特別企画!?」
バレンタイン前日

「友梨(ゆうり)先輩本当にありがとうございます。」
「いいのよ、私も今年は手作りするつもりだったし。」

 頭を深々と下げる涼太(りょうた)に友梨は微笑を浮かべる。

「昌獅(まさし)ですか?」
「そうよ、今まで好きな人がいなかったからバレンタインデーなんてただの他人事のお祭りだとしか思っていなかったけど、こう作るとなると大変ね。」
「そうですね、オレもこれほど面倒だとは思わなかった。」
「でも、涼太くんは筋が良いよ。」
「そうですか?」
「うん、私なんてクッキー焼くのがまだ得意だから、ココアクッキーとチョコチップクッキーの二つだけど、涼太くんはトリュフでしょ?」
「まあ、定番だし。」

 涼太はまさか定番のトリュフがかなり手間取るとは思っても見なかった。
 だが、彼は手先が器用なのか、かなり綺麗にまん丸なトリュフチョコが出来ていた。

「それにしても……。」
「どうしたんですか?」
「ん?」

 急に机にうつ伏した友梨に涼太は首を傾げる。

「う…ん〜、あのさ、聞いた話なんだけど、昌獅って人気があるみたいなの。」
「……(なんとまあ、物好きな)。」
「で、昨年なんてかなりのチョコ貰ったみたいなの。……私のチョコレートなんて受け取ってもらえないよね。」
「……そうでもないと思いますよ。」
「えっ?」
「友梨先輩たちはもう登校しなくてもいいんですよね?」
「うん、テストも終わったし。」

 友梨たち三年が登校するのは卒業式の練習と本番だけだ。だから、昌獅と友梨はバレンタインの日にデートをする約束になっているのだ。

「友梨先輩はまだ良いですよ。オレなんて学校だし。」
「あはは……。」

 友梨は乾いた笑いを浮かべた。

「今年は何か知らないけど、回りの連中から逆チョコだ〜!と張り切ってる奴がいるし……。」
「……。」
「美波(みなみ)は何かお世話になった人にチョコをあげるんだ、って張り切っているし……。」

 段々暗くなっていく涼太に友梨は優しく頭を撫でた。

「大丈夫よ。」
「友梨先輩?」
「あの子の場合、知らない人から貰っても義理だとしか思わないわ。」
「………。」

 友梨の言葉に涼太は「ああ、確かにあいつならそう思うだろうな。」と思わず思ってしまった。

「だから、知っている涼太くんなら多分大丈夫よ!押して、押して押しまくれば!」
「友梨先輩……。」
「本当に大丈夫よ、美波と友だちでも男の子は皆智里(ちさと)に排除されてたから、間違いなく涼太くんが有利だから。」
「……。」

 先程さらりと恐ろしい言葉が聞こえた気がした涼太は乾いた笑みを浮かべた。

「さ〜て、ラッピングしようか?」
「はい。」

 友梨は青色を基調としたラッピングをして、涼太は黄色を基調とした凝ったラッピングをしたのだった。
 明日が決戦、さて、勝利を掴むのは誰だ!?

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マナ

from: yumiさん

2011年02月04日 10時52分27秒

icon

「特別企画!?」
節分

「……この面子で節分……。」
「う〜ん。」

 昌獅(まさし)が思わずぼやくと、友梨は苦笑を漏らした。

「え、え〜と、取り敢えず、豆まきはしないんだから、いいんじゃない?」
「そうじゃないと困る。」

 眉間に皺を寄せる昌獅を見て、友梨はさらに顔を引き攣らせた。

「絶対、豆まきをする時、適任者じゃなく、確実俺か涼太(りょうた)がその役を務めなきゃならんだろうからな……。」
「昌獅…。」
「あら、適任者って誰の事かしら?」

 友梨が昌獅の言葉に何か言おうとしたっ瞬間、彼女の横から彼女の妹が現れ、昌獅と友梨の表情が凍りついた。

「げっ…高田(たかだ)妹その一。」
「智里(ちさと)……。」
「ふ〜ん、げっ、何か言うんですか、ヘタレは。」
「ぐっ……。」

 昌獅は何か言い換えそうかと一瞬考えるが、そんな事をすれば間違いなく彼女のマシンガンのような言葉が彼を貫くだろう。

「ち、智里。」
「何かしら、お姉ちゃん?」
「え〜と、巻寿司の準備は終わったの?」
「勿論よ。」
「そうなんだ……。」
「そうよ――、所で昌獅さん?」
「……。」
「先程の適任者とは誰の事を指しているのかしら?」
「……。」

 昌獅は智里からそっと目を離そうとするが、智里は逃さない。

「……ふふふ…、折角だから、豆まきもします?」
「げっ…。」
「勿論、鬼は昌獅さんでお願いします。力いっぱい豆を撒きましょうか?」

 昌獅は思った、絶対に鬼役は自分じゃなく、この目の前に居る恐ろしい少女がやった方が良いんじゃないかと。

「……遠慮する。」
「まあ、遠慮する事ないのに……。」
「ち、智里!」

 友梨は彼氏である昌獅の命を守るために、智里の気を引こうとした。

「何かしら?お姉ちゃん?」
「あ、あのさ、今年の恵方って何だったけ?」
「…誤魔化すのならもっと、もっと別の事にしたら?」
「な、何の事?」

 声が裏返っている姉に智里は溜息を零した。

「南南東よ。」
「あっ、そうだったね、あははは……。」
「白々しい。」
「友梨、助けてもらっといてなんだが、かなり苦しいぞ……。」

 二人から同情の眼差しを貰った友梨はカッと怒りの所為か顔を真っ赤にさせた。

「もう!」
「まあ、いいわ、お姉ちゃんたちそろそろ食べましょうか?」
「そうね。」

 こうして、豆まきのない節分が開始され、今回は平和的に終わったのだった。

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マナ

from: yumiさん

2011年01月15日 12時05分51秒

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「特別企画!?」
誕生日:美波

「おい、美波(みなみ)。」
「うにゅ〜、まだ寝かせて…お姉ちゃん……。」
「誰がお前の姉ちゃんだっ!」
「ふにゅっ?」

 耳元で怒鳴られ、美波の頭が徐々に澄んでいく。

「リョウくん?」
「…やっと起きたか。」
「………………。」

 美波はまだ寝ぼけているのか、とろりとした目で涼太(りょうた)を見詰め、そして、次の瞬間――。

「きゃああああああああああああああっ!」
「なっ!」

 悲鳴を上げる美波に涼太は思わず体を強張らせた。

「黙れよっ!」

 涼太は慌てて美波の口を塞ぎ、思わず出入り口を確認した。

「……。」

 幸いにも怖れていた事態にはなりそうにもなかったので、涼太は知らず知らずのうちに強張っていた体から力を抜く。

「………。」
「…?」

 異様に静かな美波に涼太は不思議に思って、下を見た。

「わっ!悪い!」
「……。」

 涼太は美波の口だけを手で覆っているつもりだったが、どうやら、美波の鼻まで覆っていたので彼女は呼吸が出来なくなっていた。

「だ、大丈夫か?」
「……はあ、はあ……。」

 息の荒い美波に涼太は冷や汗をだらだらと流す。

「…み、美波?」
「リョウくん……。」

 珍しく低い声を出す美波に涼太は体を強張らせた。

「な、何だ?」
「何でここにいるの?」
「……。」
「何でっ!」

 涼太が言葉を詰まらせていると、彼にとっては救いの女神が現れた。

「な〜に、朝っぱらから叫んでいるのよ?」
「友梨(ゆうり)先輩…。」
「友梨お姉ちゃん。」

 二人の視線はドアに凭れかかる友梨に向けられる。

「美波、あんた忘れてる?今日涼太くんと出かけるんでしょうが。」
「ふえっ?」
「……因みに、今十一時、約束よりも一時間半ほど遅刻ですが?」
「……っ!」

 徐々に真っ青になっていく美波とホッと息を吐く涼太を見ながら友梨は肩を竦めた。

「私も出かけるから、さっさと準備してちょうだい。」
「お姉ちゃんも?」
「ん、ついでに、智里(ちさと)もよ、ってあの子はもう既に出ているけど。」

 どうやら智里が出てこなかったのは留守にしていたようで、涼太は心からホッとしたのだった。

「さて、涼太くん。」
「はい?」
「さっさと部屋から出る、いれておいてなんだけど、さすがに妹の着替えを見せるほど、私は優しくないから。」
「――っ!」

 涼太の顔が真っ赤になり、友梨はクスクスと笑い出す。

「冗談よ、半分は。」
「……。」

 何処から何処までは本気なのか冗談なのか涼太には分からなかったが、それでも、体は勝手に美波の部屋から出た。

「涼太くん。」
「何ですか?」
「今日は美波の事、よろしくね?」
「……はい。」

 涼太ははにかんだように微笑み、友梨は彼なら美波の面倒を引き受けてくれると確信してしまい、微かに哀れみの念を覚えてしまう。



 美波の身支度が終わり、そして、友梨もまた出かけ、二人は街へと向かった。
 そして、涼太はここでかなりの気力を使い果たしてしまう。
 道行く人の視線や、こそこそと聞こえる話し声。
 それらは間違いなく二人に向けられている。

「リョウくん!」

 涼太の感じる視線など一切感じていない美波は暢気に手を振っている。

「おう……。」

 涼太は両手に持った紙袋を持ち直し、そして、美波の元に行くのと同時に、彼女を見ている複数の男性を睨みつける。

「……。」
「リョウくん?」
「ん、何でもねぇよ。」

 美波の心配そうな視線に気付いた涼太は小さく肩を竦めた。

「あっ!」

 急に声を上げる美波に涼太はギョッとして、彼女を見詰める。

「お姉ちゃんだ……。」

 涼太はその呟きを聞き、どちらの姉だと反射的に首をめぐらせた。もし、友梨ならば大丈夫だが、智里ならば間違いなく嫌味の一つや二つ言われる事間違いなしだ。

「……。」

 涼太は美波の指す姉を見て、ホッと息を吐いた。
 美波が見つけた姉とは友梨の方で、彼女は今昌獅(まさし)の隣で微笑んでいる。
 それは本当に楽しそうなカップルで、涼太は思わず羨ましいと思った。
 自分と美波では間違いなく、十中八九姉弟と間違えられるだろう、それは涼太の身長がやや彼女より低い事や何かと美波がお姉さんぶって行動するからだ。
 だけど、友梨と昌獅は違う、二人は何処からどう見てもお似合いのカップルだった。
 優しく微笑む友梨と彼女を守ろうとする姿勢を崩さない昌獅は、漫画とかでよくありそうなお似合いのカップルのように涼太は思えた。

「羨ましいな。」
「――っ!」

 涼太は思わず自分の考えが口に出てしまったのかと思い、口を塞いだが、よくよく考えれば、声は少女のもので、しかも、隣から聞こえてきたものだった。

「……み、美波?」
「あっ、ごめんね、つい、お姉ちゃんたちを見てて羨ましいな、と思っちゃって。」
「……。」
「あたしもね、彼氏とか欲しいな、とか思うんだけど、中々いい人がいなくって。」
「――っ!」

 涼太は美波の言葉に驚きつつも、冷静な部分ではやはり自分は男として見られていないのかと思った。

「……ああ、あたしを好きなってくれる人はいるかな〜。」

 冗談のような本気なような言葉に涼太は自分の気持ちを美波にぶつけてみようと思った。

「なあ、美波。」
「何?」
「オレはお前が好きだ。」
「……。」

 美波は一瞬何を言われたのか分からなかったようだが、すぐに、嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとう。」
「……。」

 涼太は美波の返事が是か非か分からなかった。

「嬉しかったよ。」
「……。」
「ありがとうね、お姉さんとしてでも好きと言ってもらえて。」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」

 絶句する涼太に美波は更に追い討ちをかける。

「あたしもリョウくんの事弟として好きだよ。」
「……。」

 涼太は膝をつきたくなった。
 自分でもかなりストレートに決めたと思ったのにもかかわらず、美波のはじき出した答えは涼太の予想を遙かに超えていた。

「ちょっと待ってね、お姉ちゃん達を呼んでくるね。」

 美波はそう言い残し、涼太を置いていってしまった。
 置いていかれた涼太は完全に戦意喪失してしまい、人込みだというのに地面に手を付き、本気で落ち込んでいたのだった。



「お姉ちゃん!」
「えっ!美波?」

 唐突に呼ばれた友梨は美波の姿を見て驚いた。

「どうしてここに?」
「お買い物だよ。」
「……。」

 友梨は苦笑を浮かべながら横にいる昌獅が徐々に機嫌を悪くしている事の気付いていたが、今大事なのは美波と一緒にいるはずの涼太だ。

「涼太くんは?」
「あっち、あれ……何処だろう。」
「……。」

 友梨は指された場所を見て、そして、落ち込む涼太を見て哀れに思った。因みに友梨の近くにいた昌獅もそれを見てしまい、自分の怒りを引っ込めてしまった。

「…友梨、俺あいつ拾ってくる。」
「うん、よろしくね。」
「ん。」

 昌獅は良太を拾いに行き、友梨は美波と向き合った。

「あれ、美波、顔赤いわよ?」
「ふえ?」

 美波の頬は友梨が指摘したように赤かった、それは冷たさで赤くなったよりは何か赤面しているような赤さだった。
 もし、友梨が先程の涼太たちの遣り取りを聞いていたのならば、間違いなく涼太に吉報を知らせる事が出来ただろうが、残念ながら、先程の会話を聞いていなかった友梨には美波の顔を赤くさせる理由など分からなかった。
 涼太の気持ちが伝わるのかはいつになるか、それは誰にも分からない事だが、確実に美波の中で何かが動き出している事は間違いないだろう。

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マナ

from: yumiさん

2011年01月10日 12時47分12秒

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「特別企画!?」
成人式:勇真

 おれは仲の良かった友人たちに囲まれ、笑っている。
 ほんの少し前まではきっと笑えていなかっただろう。
 それも、これも、あの事件の御陰かもしれない。

 昌獅(まさし)とは前までと違い、そんなにぎすぎすとした関係ではなくなり、前よりも仲良くなったと思う。

 高田(たかだ)家の友梨(ゆうり)ちゃん、智里(ちさと)ちゃん、美波(みなみ)ちゃんたちの御陰で笑えるようになり、そして、昌獅と仲良くなる事が出来た切っ掛けとも言えるかもしれない。

 そして、後から入ってきて、今では昌獅と同じく弟のように思える涼太(りょうた)もおれの笑顔を取り戻すきっかけかもしれない。

 だけど、ふとした瞬間に笑みが消える事がある。
 それは、あいつを…奈津美(なつみ)を思い出した時だ――。
 もし、彼女が共に居れば、おれは昌獅とぎすぎすした関係ではなかった、それと同時に、今のような弟のような感じはしなかっただろう。
 それはあいつも、昌獅も同じだろう、昌獅はきっと彼女が生きていても、おれとの係わりを持とうとせず、心を閉ざしたままかもしれない。
 いや…、友梨ちゃんがいれば、そんな事にはならないかもしれない……。
 だけど、奈津美が生きていれば、何となくだが、友梨ちゃんたちには出会わなかった気がする。
 それは、運命なのか、それとも、偶然なのか……。
 まあ、それは空想でしかない……。
 お前は、奈津美は死んでしまった。それが現実で、どうしようもない真実だ。

 なあ、奈津美、お前は幸せだったか?
 昔のおれなら、きっとお前が不幸だと決め付けていただろう。
 おれの所為でお前を死なせてしまった。
 そうしないと、おれは生きていけなかった。
 だけど、今は違う――。

 おれには仲間がいる。
 穏やかな日常がおれを様々な色に染める。
 ……いつか、おれはお前を忘れてしまう気がして恐いんだ。
 お前は笑って許してくれるか?
 ……もし、これを昌獅に訊いたら睨むだろうな。
 友梨ちゃんなら、きっと否定する。
 お前を知っているのはこの二人だけだ……。

 なあ、ナツ、奈津美、お前は幸せか?
 おれは何時までもお前だけを想っていたいだけど、時間がそれを変えるかもしれない、その時、お前は許してくれるか?
……おれは今でもお前が好きだよ。だけど、何かが変わりつつあるんだ。

 すまない。

 ありがとう。

 いつまでも、お前を忘れたくないよ。

 この言葉がお前の元に届くはずが無いのにな……。
 だけど、今日だけはこうして胸の中で呟く。
 今日は、おれも…お前も成人して、こうして昔の仲間と再会し、笑っていられる。
 だから、今日ばかりは亡くなったお前とも会えそうな気がする。
 なあ、ナツ……。
 お前は今、幸せか?
 おれは変わるだろうが、お前は変わりそうもないな、だけど、お前との過去は記憶はいつまでも、お前と共にありたいと思う。

 最後に、ナツ…、奈津美、愛してる。
 最初で、最後の「愛してる」だ。

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マナ

from: yumiさん

2011年01月06日 10時37分57秒

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「特別企画!?」
智里:誕生日

「何でわたしがこんな場所まで来なくてはならないの?」

 智里(ちさと)は眉間に皺を寄せ、そんな事を言った。

「しょうがないでしょ、勇真(ゆうま)さんが誘ってくれたんだよ?」
「……。」

 隣にいる姉の友梨(ゆうり)に智里は冷めた目で睨んできた。

「……それに、あんたの誕生日じゃん、楽しもうよ?」
「……。」
「……ち、智里?」
「……ふう。」

 智里は急に息を吐いた。

「なっ、何?」
「お姉ちゃんも暇ね?」
「へっ?」
「だって、わたしと一緒に来たでしょ?」
「う、うん。」

 勇真は友梨や美波(みなみ)、涼太(りょうた)、昌獅(まさし)、そして、本日誕生日である智里を今日水族館に誘ったのだが、美波は風邪をひき、涼太は美波が来ないならばと断ったのだ。

「本当に暇人ね。」

 呆れ声の智里に友梨は思わず半眼になる。

「……あんた、性格悪いわね。」
「あら、それは褒め言葉?」
「……。」
「性悪女。」
「ふふふ。」

 悪口を言われているのに満面の笑みすら浮かべる智里に、友梨はげんなりする。

「ストップ。」

 友梨が何か口にしようとした瞬間、誰かに口をふさがれた。

「ふがっ(誰っ)?」
「俺だよ。」
「ふぁふぁふぃ(昌獅)。」

 友梨が振り返るとそこには自分の彼氏である昌獅の姿があった。

「よっ。」
「ひょっ(よっ)、ひゃひゃひふぇふぇふぇふぉうふぁ(じゃないでしょうが)!」
「別に良いだろうが?」
「ふぉふふぁ〜ふぃ(よくな〜い)!」

 仲の良い二人の姿に自分の誕生日までこんなものを見なくてはならないなのか、智里はげんなりとした。

「ごめん、遅れてしまったね。」

 登場した勇真に智里は珍しく感情を表に出す。

「よかったわ、こんなバカップルと一人でいろと言われたら、拷問でしかないわ。」
「ははは…ごめんね。」

 自分が誘ったのだからと勇真は謝るが、智里はそれを気に食わなかった。

「直ぐに謝らないで下さい!」
「えっ?」
「イラつきます。」
「ああ、分かったよ。」

 すぐに納得してしまった勇真はただ頷いた。

「さてと、そろそろ入らないと時間がもったいないね。」
「ええ。」
「昌獅、友梨ちゃん。」
「ふぇ(え)?」
「ちっ……。」

 未だに口をふさがれる友梨が振り返り、昌獅は舌打ちをした。

「そろそろ行こうか。」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」

 急に足に痛みが走り、昌獅は友梨から手を離した。

「ゆ…友梨。」

 そう、彼の足を踏んだたのは口を塞がれていた友梨だった。

「あんたが悪いんでしょうが!」

 顔を真っ赤にさせながら怒る友梨はさっさと勇真と智里の元にいき、中に入っていく。



「うわっ!可愛いっ!」
「……。」

 友梨は手放しで優雅に泳ぐ名も知らない魚を見て喜び横で、それを見た智里の表情がやや和んだ。

「智里!可愛いね。」
「そうね。」

 この二人の少女の横にそれぞれ青年が二人いる。

「……こんなのの何処がいいんだよ?」
「あら、可愛いじゃない!」

 面白くなさそうに言う昌獅に友梨は満面の笑みで答えた。

「……友梨。」
「何?」
「……勇真さん。」
「ん?」
「この二人を置いてどっかに行きましょう。」
「えっ?」

 智里は勇真の腕を掴み、姉である友梨たちから離れていこうとする。

「いいのかい?」

 友梨たちから随分離れた所で聞くと、智里は小さく肩を竦めた。

「自分の誕生日なのに姉ののろけに付き合うなんてアホらしいわ。」
「……。」
「まあ、お姉ちゃんが楽しんでいるのなら、それでいいけど。」

 勇真は一瞬自分が友梨たちを誘ったのは間違いだと思ったのだが、智里の言葉を聞いてやはり誘ってよかったと思った。

「何か見たいのはあるのかな?」
「そうね。」

 智里は手元にあるパンフレットを見て、ある一点で釘付けになる。

「智里ちゃん?」
「……。」

 勇真は不思議に思いながら智里が見ている所を見て微笑を浮かべた。

「ああ、それか、行ってみるかい?」
「……。」

 智里はやや気まずげに、だけど、しっかりと首を縦に振った。



「……。」

 無言だが、確かに智里が喜んでいる事に勇真は気付いていた。
 彼らが今見ているのはこの水族館の名物であるショーであった、イルカなどがそれぞれの特技を見せ、観客を喜ばせている。
 そして、喜ぶ人は智里も例外じゃなかったが、表情をあまり変えない智里が喜んでいるとは並の人には分からないだろうが、智里の姉妹の友梨や美波、そして、彼女の事を良く知っている勇真や昌獅、涼太には分かるだろう。

「智里ちゃん。」
「何かしら?」
「お誕生日おめでとう。」
「……。」

 勇真の言葉に智里の目が微かに見張られる。

「……。」
「つまらないものだけど受け取ってもらえるかな?」

 勇真が差し出したのは売店で置いていたイルカのぬいぐるみだった。

「……。」

 じっと智里がぬいぐるみを見るものだから、勇真は知らず知らずのうちに体を強張らせていた。

「……ありがとうございます。」

 智里が礼を言って受け取ったので勇真はこっそりと溜息を吐いた。
 後から友梨から聞いたのだが、智里は結構可愛い物好きで、子犬や子猫、イルカやペンギンなどかなりの可愛い物好きなのだ。
 だから、勇真が渡したものは正解だったのかもしれない。
 こうして、智里の誕生日は平穏に終わったのだった。

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from: yumiさん

2010年12月28日 09時54分44秒

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「特別企画!?」
正月

「寒〜い。」
「本当ね。」
「智里(ちさと)全然寒そうじゃないわね。」

 着物姿の少女たち、会話順で言えば美波(みなみ)、智里、友梨(ゆうり)が二人の少年と一人の青年を待っていた。

「おっ、早いな。」
「ごめんね、待たせてしまって。」
「……。」

 コートを着込む三人はそれぞれの行動をした、一人は呆れ顔の友梨に近付き、一人は女性人に頭を下げ、残る一人は美波を見て真っ赤な顔で固まった。

「もう、昌獅(まさし)遅いわよ!」
「悪い、悪い。」
「もう!」

 そっぽを向く友梨に昌獅は彼女の耳元で囁いた。

「そんな剥れてたら、美人が台無しだぞ?」
「なっ!」

 友梨は顔を真っ赤にさせ、思わず後退りをしようとするが、昌獅が彼女を逃すはずがなく、彼は彼女の手首をしっかりと掴んでいた。

「逃げんなよ。」

 嬉嬉とする昌獅を冷めた目で見ている智里は隣に立つ勇真(ゆうま)を睨んだ。

「どうして遅れたんですか?」
「いや……新年早々渋滞に巻き込まれた。」
「……歩いてくれば良かったのではないのですか?」
「まあ、そうかもね。」

 苦笑を浮かべる勇真に智里は深々と溜息を吐く。

「まあ、貴方たちが今日奢ってくれるのなら、勘弁してあげるわ。」
「……。」

 勇真はそんな事で言いのならと思いながら笑みを浮かべた。
 さて、硬直している涼太といえば……。

「リョウくん?」
「み、みな…み。」

 辛うじて喋れるようになっているが、表情は硬い。

「大丈夫?寒いの?」
「……。」

 涼太は相変わらずの美波のボケに自分が固まった事が馬鹿らしく思った。

「大丈夫だ。」
「そう?」
「ん。」
「あのね、あのね。」

 美波は嬉しそうに涼太の服を掴み、その宝石のように鮮やかに輝く瞳、紅潮する頬に薄っすらと施した淡いピンクのファンデーションと、彼女の小さな唇を彩る口紅に涼太は再び体が火照るように熱くなった。

「おばあちゃんが着付けてくれたの。」
「へえ……。」
「どう?似合うかな?」

 美波は無邪気にその場でクルリと回った。
 似合う、彼女の着ている着物は薄紅色の着物柄は梅の花で帯びは水仙を思わせる黄色、そして、伊達襟は金色だ。

「………似合うんじゃないか?」
「もう、もっちょっと言う言葉があるでしょ!?」

 頬を膨らませる美波に涼太は本気で困ったような顔をした。

「……美波。」

 涼太にとっては救世主がその時現れた。

「涼太くんを困らせちゃ駄目じゃない。」
「友梨お姉ちゃん……。」

 しゅんと顔を曇らせる美波に友梨は苦笑を浮かべる。

「そろそろ、お参りに行きましょうか?」
「ふえ?」
「さっきから、呼んでたのに気付かなかったの?」
「……。」
「……。」

 呼ばれていた事に気付かなかった二人は顔を見合わせ、そして、友梨を見た。
 友梨は紅の着物を着ていた、柄は牡丹のように花弁の多い花で、帯びは深い緑、そして、伊達襟は金の混じった緑色だった。

「ほら、そろそろ行かないと智里が怒るわよ?」
「あっ!」
「……。」

 美波は単純に驚いたような顔をして、涼太はあの性格を思い出し、苦々しそうな表情を浮かべた。

「それじゃ、行きましょう。」
「は〜い。」
「ん。」

 三人は智里たちが待つ場所に向かって歩き出した。



 六人はお参りをすませ、勇真、昌獅、涼太、智里は配られていた甘酒に手を出し、友梨、美波はそこで貰ったお茶を飲んでいた。

「これからどうする?」
「さあ。」
「あっ!あたしお御籤したい!」
「いいわね。」

 友梨もすぐさま同意し、一行はお御籤を引く事になった。
 さてさて、それぞれの運はいかほどか。
 先ず始めに籤を引いたのは美波で、彼女は恐る恐るというように紙を見た。

「……。」

 次は涼太で彼は特にやる気が無いのか、紙を受け取るとさっと目を通した。
 涼太の後は友梨だった、彼女は二人の様子を苦笑しながら見詰め、気楽に籤を引き始めた。

「……早くして。」

 智里の不満そうな声に友梨は顔を引き攣らせた。

「直ぐ退くわよ。」
「……。」

 友梨は智里に木でできたそれを渡す。

「……。」

 智里は軽く振ってからあっさりとした動作で、籤を引き終わり、近くにいた昌獅に渡した。
 昌獅は自分もやるのかという顔をしたが、智里の睨みに近い視線を受け、しぶしぶ籤を引き始める。

「……ん。」
「ありがとう。」

 昌獅は勇真にさっさとそれを渡し、友梨の隣に立つ。
 そして、勇真が引き終わると、全員の結果が分かった。
 喜んだり、無表情だったり、苦笑を浮かべたり、悲惨な顔した者もいた。

「やった!大吉だ。」
「俺もだな。」

 今にも飛び跳ねそうな美波と特に何も感じていないのか、昌獅は淡々と言った。

「おれは中吉だな。」
「オレは吉だ。」
「ふ〜ん、わたしは小吉よ。」
「……。」

 ただ一人何も言わないものがいた、その者の隣にいた人がヒョウイと彼女の紙を覗き込み、目を見張る。

「大凶なんてもんが…本当にあるなんてな。」
「昌獅……。」

 そう滅多に出ない、というか、先ず一生に大凶なんて見る人は少ないはずなのに、その少ない分類に入ってしまったのは友梨だった。

「……そう落ち込むなよ。」

 昌獅はポンと頭を叩いた。

「……。」
「別に今がどん底でも明日には浮上してるかもしれないじゃないか。」
「……そうよね、誰かさんが大吉だからそんな事言えるんだよね。」
「……。」

 完全に拗ねている友梨に昌獅は苦笑を浮かべ、他の面々はそろりそろりと二人を放ってどこかに行こうとする。

「ねえ、リョウくん?」
「何だよ。」

 声を潜め二人は話す。

「いいの?」
「いいんだよ、どうせ、あそこにいたって当て馬だ。」
「当て馬?」
「……意味が分からんならいい。」

 残された友梨はそっぽを向き、昌獅は困ったかのように苦笑を浮かべ続ける。

「……友梨。」
「何よ!」

 トゲトゲした友梨の言葉に昌獅はそっと彼女の髪を撫でる。

「どうせ、今年も俺たちは一緒だろ?」
「……。」
「だったら、大吉と大凶をあわせて吉くらいになるんじゃないか?」
「昌獅が損するわよ?」
「別に大丈夫だ。」
「………。」
「お前がいれば最悪の事態じゃないからな。」
「……そんな事を言ってるから、損するのよ。」
「本当の事だ。」
「……こんなくだらない事に落ち込んでいる私が馬鹿みたい。」

 友梨は晴れやかな笑みを浮かべる。

「昌獅。」
「ん?」
「取り敢えず、ありがとう。」

 昌獅はその言葉を聞き、微かに目を見張った。

「もし、何かあったらお願いね。」
「ああ。」

 昌獅は目を細め、そっと、友梨を抱き寄せようとする。

「……駄目。」

 友梨は眉間に皺を寄せ、昌獅に静止の言葉をかける。

「何でだよ。」
「公衆の面前で何をするのよ。」

 そうここはまだ神社で人が多いのだ。

「ほら、智里たちにおいつかないと。」

 友梨はあっさりと昌獅の魔の手から逃れ、さっさと別の所に移動し始めた。それを見ていた昌獅は溜息を吐き、不意に笑った。

「今年もよろしくな、友梨。」

 新しい年が明け、彼女たちの新しい一年が始まった。

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from: yumiさん

2010年12月28日 09時50分52秒

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「特別企画!?」
大晦日

「もう…。」

 友梨(ゆうり)は嘆息しながらも、それでも、目はとても優しげで、そっと、寝ている美波(みなみ)と涼太(りょうた)に毛布を掛けた。

「友梨?」
「へ?」

 友梨は自分のほかにまだ誰かが起きているとは思ってもみなかったので、驚きながら振り返るとそこには昌獅(まさし)がいた。

「何だ、昌獅か。」
「何だとは何だよ。」
「ごめん、まさか起きてるとは思っても見なかったの。」
「……こんな状況で寝れるほど俺は図太くないぞ。」
「へ?」
「……。」

 小首を傾げる友梨に昌獅は彼女に気付かれないように溜息を吐いた。

「何でもねぇよ。」
「……。」
「それにしても、面倒見が良いな。」
「そう?」
「ああ、お前の妹その一だったら、絶対に放って置かれてたぞ。」
「あはは…智里(ちさと)なら、そうしそうね。」
「……だよな。」

 空笑いをする友梨と恐ろしそうに肩を竦める昌獅は、それぞれに智里を思い浮かべていた。

「よくおばさんが許してくれたな。」
「うん、お母さんは昌獅の事を信用しているみたい。」
「……。」

 昌獅は複雑そうな顔をした。
 彼女たちが今いるのは昌獅の家だった、彼の家族が丁度温泉旅行に行くので、昌獅は駄目元で友梨に家に来るか尋ねた。

「うん、いいよ。」

 友梨の返事は二つ返事で、昌獅の方がうろたえたのだった。

「お、お前…、本気で分かってるのか?」

 昌獅の言葉に友梨は首を傾げた。

「何が?」
「……あ〜、お前はそういう奴だよな。」

 昌獅は呆れながらそう言うが、目はとても優しかった。
 だが、次の瞬間、昌獅の表情が凍りついた。

「何の話かしら?」

 いつの間にか気配を消してやって来た智里(ちさと)に友梨はキョトンと首を傾げ、昌獅は冷や汗をダラダラと掻いていた。

「た、高田妹……。」
「…わたしの前で堂々とお姉ちゃんを誘わないでくれる?」
「……。」

 昌獅は不味いと思ったが、それでも今友梨の彼氏をやっているので、妹にどうこう言われる筋合いはないんだと思い、自分を奮い立たせる。

「何か都合でも悪いのか?」
「まあ。」

 反撃が来るとは思ってもいなかったのか、智里は珍しく目を見張った。昌獅はしてやったりと思い笑ったが、相手が悪かった。

「………お姉ちゃん。」
「何?」
「行くのなら、美波や涼太くんを誘ったら?」
「何で?」
「嫌なの?」

 智里の纏う空気が一気に凍えるような冷たさになった。

「あ、ああ、誘うかな〜。」
「……。」

 友梨は視線を智里から外し、昌獅は苦々しい思いで唇を噛んだ。
「ふふふ、それがいいわよ。」
「……。」

 智里が立去り、友梨と昌獅はぐったりとした。

「ごめんね。」
「いや、構わない。」
「……あの子あの一件から絶対に強くなったわ。」
「………ああ、そうだな、あいつに勝てる奴がいたら、俺無条件で尊敬しそう。」
「私も……。」

 二人は疲れきった笑みを浮かべながら、こうして、年末の約束をしたのだった。

「お前の親御さんが心配しなくても、お前の妹が心配したんだな。」
「えっ?」
「何でもねえよ。」
「そう?」

 友梨はいま一つ意味が分かっていないのか、首を傾げている。
 因みに昌獅は智里が言いたい意味を痛いほど理解していた。
 それは、「お姉ちゃんに変な事をすれば、命はないわよ。まあ、美波たちがいる前じゃ、変な事どころかキスだって危ないかしらね?」と悪魔の笑いつきで、昌獅の耳に聞こえた気がしたのだ。

「ねえ、昌獅。」
「ん?」
「去年は何をして年を越した?」
「寝てた。」

 昌獅の返事を聞いた友梨は苦笑を漏らした。

「そういう友梨は?」
「私、私……も、寝てたな〜。」
「……人の事は笑えないじゃないか。」

 器用に片眉だけを昌獅は吊り上げた。

「あはは、だって〜、特に見る番組もなかったし。」
「紅白は見ないのかよ?」
「う〜ん、最初だけ、最後の方は頭がボーとなってきて寝ちゃった。」
「ふーん、そうか。」

 自分でふっといて、昌獅は特に感心なさそうにそう言った。

「もう、自分からふっといたんでしょうが。」

 友梨は慣れているのかクスクスと笑いながら、そっと、近くにある涼太の髪を優しい手つきで梳き始めた。

「……。」
「うわっ…涼太くんの髪さらさら…手入れしているのかしら?」

 友梨は一人涼太の髪を楽しんでいるが、自分を無視されている昌獅は面白くないのか顔が段々不機嫌なものへと変化した。

「友梨。」
「ん〜?」

 適当に相槌を打つ友梨に昌獅はとうとう切れた。

「こっち向けっ!」
「へっ!」

 涼太の頭を撫でていた手を掴まれた上に引っ張られた友梨はバランスを崩して昌獅の胸に顔をぶつけた。

「いった〜い!」

 友梨は空いた手で顔を押さえ、恨みがましく昌獅を見上げた。

「昌獅。」
「お前が悪いんだろうが。」
「何でよ?」
「そいつに構って俺の相手をしてくれない。」

 ようやく友梨は昌獅が拗ねているのだと気付いた。

「ふっ……。」
「何だよ?」
「ふふふ……そうか、そうか、昌獅はやきもちを妬いているのね〜。」
「……うっせ〜。」

 昌獅は顔を赤くさせ友梨から顔を背けた。

「真っ赤〜。」
「……。」
「本当に昌獅って、やきもち妬きね。」
「……。」

 本当はやきもち妬きというよりは嫉妬深いのだが、友梨はその事に気付いていない。
 ふと、彼女の耳に鐘の音が聞こえ始めた。

「あっ、除夜の鐘?」
「んあ?もう、こんな時間か。」

 昌獅は時間を確認して、そして、こんな時間まで起きていたのかと改めて時間の進みの早さを感じる。

「こいつらどうする?」
「そうね、ここで寝かすのもね。」
「お前の妹その二なら構わないが、涼太はな〜。」
「酷いわね、昌獅。」

 呆れる友梨に昌獅は肩を竦める。

「どうせ、こいつは男だ、何処で寝かしても構わないだろう。」
「……構うって。……ってあれ?」
「どうした?」

 友梨は美波のある一点を見て、凍りついた。そして、それに気付いた昌獅は苦笑を漏らす。

「これじゃ、運べないな。」
「うん……。」

 美波は涼太の服の裾をしっかりと握り締めており、無理矢理剥がすのは可哀想に思った。

「まさか、美波がね〜。」
「んあ?」
「ほら、涼太くんが美波を好きなのって結構皆知っているでしょ?」
「まあな、あいつ分かりやすいしな。」
「そうでしょ、なのに今回は美波が涼太くんの服の裾を掴んでいたのよね〜、やっと報われるのかしら〜?」

 嬉しそうに言う友梨に昌獅は苦笑する。

「さあな。」
「……もう、もう少しくらいいい言葉が有るんじゃない?」
「例えば?」
「例えば?……思いつかないけど…。」
「そうだよな〜。」
「……ねえ、昌獅。」

 友梨は満面の笑みを浮かべ、そっと昌獅を抱きしめた。

「ありがとう。」
「……。」
「私と出会ってくれて、私の側にいてくれて。」
「友梨……。」

 昌獅はそっと目を瞑った。

「こっちこそ、ありがとうな。」

 互いが互いの存在に感謝しながら怒涛の一年は終わった、来年は穏やかに過ごしたいと二人は思った。

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from: yumiさん

2010年12月22日 16時35分32秒

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「特別企画!?」
おまけ3

「リョウくん!」

 名を呼ばれ、涼太(りょうた)が振り返ると、そこには先程別れた少女がいた。

「美波(みなみ)。」

 涼太はどうして美波がこっちに来たのか分からなかった、ただ一瞬自分でも情けなくなる事を考え自己嫌悪に陥る。
 それは「自分より年下の少年を送るのは自分の役目だ。」と美波が言いそうな事だった。
 涼太は美波に弟のように扱われる事が度々あり、その度彼は「自分は男だ」とか「年下だと甘く見るな!」などと思っているが、こうして、美波と一緒に入れるのも事実なので実際口には出来なかったし、それに、それを言えば、間違いなく美波は泣くだろう……。

「お前な……。」
「あのね!」

 溜息を吐く涼太に美波は真っ赤な顔で真っ赤な包み紙を差し出した。

「これ、受け取って!」
「……。」

 涼太は驚きのあまり、固まった。

「………。」
「………。」

 真っ赤な顔をして俯く美波と石像のように固まる涼太は時が止まったかのようにそのままの動作のまま沈黙を保った。

「――っ!」

 我に返ったのは涼太だった、彼は一瞬殺気を感じ、我に返った。

「いいのか?」

 涼太はと惑いがちに言うと、美波は顔を上げ満面の笑みを向ける。

「うん、だって、ずっとお世話になっているから!」
「…そうか。」

 涼太はようやく笑みを浮かべ、美波から包みを受け取った。

「開けてもいいか?」
「うん!」

 涼太は美波から許可を得、そして、包みを開け、再び固まった。

「これ…は?」

 ねずみ色のそれが涼太の目に映る。

「うん、腹巻だよ!」
「……。」
「リョウくんって、お腹出して寝てそうだから。」
「……。」

 もし、この時彼が正気だったら「オレはちっこいガキか!」と怒鳴っていただろうが、残念ながら精神的ダメージが大きいのか涼太は立ち直りそうになかった。

「……。」
「美波、いい加減に帰ってきなさい。」

 いつの間にか美波を迎えに来た(こっそり覗き見をして涼太の反応を堪能した)智里(ちさと)が美波に声を掛ける。

「あっ、うん、それじゃ、リョウくん、またね。」

 明るい声で美波はお別れの言葉を言い、そして、涼太を振り返らず、そのまま智里と共に家に帰って行ったのだった。
 そして、一人残された涼太は手にねずみ色の腹巻を持ち呆然と立ち尽くしている所を友梨(ゆうり)と昌獅(まさし)に発見され、彼が正気に帰るまで十分はあった。
 その後、涼太は昌獅に送られ、トボトボと帰路についた。
その姿はあまりにも哀れで昌獅は帰り道彼に励ましの言葉を言い、家に帰った友梨はどうしてあの時、美波に別の色の毛糸で、別のものを編むように言わなかったのか自分を恨んだ。
 因みにねずみ色の腹巻になったのは…ある魔王の言葉に囁かれていたからで、作ったものは涼太が仕方なく毎年のように着けるのは美波に向ける愛情があったからだった。
 こうして、それぞれのクリスマスは幕を閉じた。

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from: yumiさん

2010年12月22日 16時34分22秒

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「特別企画!?」
おまけ2

「智里(ちさと)ちゃん、機嫌悪いね…。」

 呆れたような声音を出す勇真(ゆうま)は車の運転をしながらこっそり苦笑をした。

「あら、送り狼って言葉を知っています?」
「なっ!」

 唐突な言葉に勇真は危うくブレーキを踏みかけた。幸いにも少し揺れただけですんだのだが、それを承知する智里ではなかった。

「…しっかり運転してください。」
「……智里お姉ちゃん?」

 冷たい目で見る智里の横に座る美波(みなみ)が首を傾げる。

「送り狼って?」
「それは――。」
「待て、美波、そんなん聞くな!知らなくても大丈夫だ。」

 勇真の隣に座る涼太(りょうた)が慌てて美波を止めた。

「え〜。」
「いいんだ。」
「……。」

 美波はどこか不服そうに顔を顰めているが、取り敢えずこれ以上は聞かれないと思い涼太はホッと胸を下ろす。

「…昌獅さんが、もし…お姉ちゃんに手を出したのなら、ふふふ。」

 黒い笑みを浮かべる智里に気づいたのは前の座席に座る二人だけだった。

(昌獅、ご愁傷様。)
(昌獅、頼むから友梨先輩に手を出さないでくれ、下手をすると美波を守る壁が高くなる!)

 一人はハンドルを握りながら合唱し、もう一人は頭を抱えながら唸っていた。
 そうこうする内に勇真は智里と美波の家の前に着いた。

「ありがとう、勇真さん。」
「ありがとうございます。」

 簡単に礼を言う智里と、しっかりと頭を下げる美波は車から降りた。
 そして、もう一人、降りた人物がいた。

「えっ?涼太、君もかい?」
「ん、歩いて帰るよ。」
「そうかい?送るけど?」
「どうせ、男二人なんて虚しいだけだし、オレが嫌だ。」
「そうか。」

 苦笑を漏らす勇真に涼太はさっさと歩き始める。
 その時、美波は一瞬躊躇した、だけど、智里が彼女の背を押し、彼女は何かを決めたのか涼太を追った。

「へえ?」
「意外ですか?」

 驚きの声を漏らす勇真に智里は目を細め、冷ややかに微笑んでいた。

「う、うん、まあ……。」
「ただ単に、あの子が渡すものを受け取る、涼太の顔を見たいと思ったのですよ。」

 クスクスと笑う智里の頭に黒い触角と、触角と同じ尻尾が生えているように思えた、それは例えるなら悪魔のような…ものだった。

「だってあの子が作っていたものは―――何ですよ?」

 勇真はそのプレゼントを聞き、目を見張った。

「…それは…。」
「それはありませんよね?普通プレゼントに選ぶ訳ないものですよね?」

 完全に悪魔になりきっている智里の横で勇真は心から涼太に哀れみの念を送っていた。

「まあ、どんなものでも喜んでもらえそうだから、どのような反応をするかしらね?」
「……。」

 さてさて、悪魔と青年はクリスマスだというのに、そのような雰囲気を発してはおらず、それどころか、少女の方は邪悪な気を発していたのだった。

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from: yumiさん

2010年12月22日 16時33分06秒

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「特別企画!?」
おまけ1

 友梨(ゆうり)はいつものように昌獅(まさし)に体を預け、彼の運転するバイクに乗っていた。

「ねえ、昌獅。」
「ん?」
「こっち私の家じゃないわよ。」
「知ってる。」

 昌獅がそう平然というものだから友梨は呆気にとられた。

「もう、それじゃ、どうするって言うのよ!」
「ほんの少しくらい寄り道しても大丈夫だろ、俺がいるんだからな。」
「……。」

 友梨は一瞬「あんたといる方が危険よ!」と思ったが、流石にこれを言って折角のクリスマスが台無しなるのは避けたかった。

「もう……。」
「安心しろ、直ぐ着く。」

 昌獅がそう言って五分後、彼はバイクを止め、降りる友梨に手を貸した。

「ここ?」
「ん。」
「……すごい…。」

 昌獅が連れてきたのは、彼女達が住んでいる山地帯の坂の上だった。
 視界いっぱいに光の海が広がっている。
 赤や青…黄色や緑…まるで宝石を訪仏させる色合いだ。

「赤は赤玉(ルビー)、青は青玉(サファイア)、黄色は黄玉(トパーズ)、緑は翠玉(エメラルド)みたい……。」
「友梨は何色が好きだ?」
「う〜ん、基本的には白や青が好き。」
「基本的?」
「うん、こうしてみると、それぞれの色のいいところが見えるから、全部の色が好きよ。」
「そうか。」

 昌獅の首には昨日彼女が渡した暁色のマフラーが巻かれていた。

「……なあ、友梨。」
「何?」
「いつか、お前に宝石をあげるなら、どんなんがいい?」

 真剣な目つきの昌獅に友梨は目を見張る。

「え、え、え……それは、どんな意味?」
「結婚…は早いよな、婚約指輪か…、でも、そこまで思い意味じゃないし……。」

 昌獅は眉間に皺を寄せて考えているが、友梨にとっては未来(さき)を約束する印のように思えた。

「……ねえ、昌獅。」
「ん?」
「私はサファイアがいい、そして、貴方はアクアマリンか珊瑚、ブラッドストーンのどれかにして?」
「どうしてだ?」
「私の誕生石はアクアマリン、珊瑚、ブラッドストーンと言われているし、貴方の誕生石がサファイアだから。」
「…いいのか?」
「うん、私って結構独占欲があると思うから、いいよ?」

 友梨の言葉に昌獅は笑みを向ける。

「俺には負けると思うが?」
「そうかもね。」

 クスクスと笑う友梨は昌獅の腕に自分の腕を絡めた。

「それと、指輪じゃなく、それはネックレスにして?」
「どうしてだ?」
「指輪ずっとしている自信が無いの、落としそうだし……。」
「そうか、確かに指輪はまだ早いな。」

 二人は未来へと約束を交わし、どちらともなく目を閉じそっと口付けを落とした。

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from: yumiさん

2010年12月22日 16時31分51秒

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「特別企画!?」
クリスマス(後編)

「お姉ちゃん、そろそろゲームをしましょうか。」
「あ、うん。」
「それぞれ用意したプレゼントを今からそれぞれの場所に隠してください。」
「しつも〜ん。」

 勢いよく手を上げる美波(みなみ)に智里(ちさと)は嫌な顔をする。

「智里、そんな顔しないの。何?美波。」
「隠す場所はどんなとこでもいいの?」
「何処でもじゃないよ、取り敢えず、お風呂場やトイレ、それに勇真(ゆうま)さんの自室以外ならどこでもいいよ。」
「う〜む。」
「涼太(りょうた)くんは質問ある?」
「ないです。」
「そう、それじゃ、十分後に、ここに戻ってくる事、よ〜い、スタートっ!」

 そして、各自思い思いの場所にそれぞれのプレゼントを置きにいった。

〜十分後〜

「ふ〜、分かるかな?」
「……また、変な所に置いたのか?」
「まさか、そんな訳ないじゃない。昌獅(まさし)はどうなのよ。」
「少なくともお前よりまともだと思う、友梨(ゆうり)。」
「なっ――ー。」
「はい、はい、痴話げんかは他所でやってね。」
「ち、ち……。」
「痴話げんかと言いたいのか、智里と言いたいのか分からないけど、そろそろ、ゲーム説明の二回目始めるわよ。」
「う、うん…。」

 智里はそっと周りを見渡した。

「皆いるわね。それじゃ、年少ペアがまず探してから、その五分後私とお姉ちゃん、そして、その五分後に昌獅さん、勇真さんが探してくださいね。」
「プレゼントを見つけたら、すぐにこのリビングに戻ってきてね。もし、二個以上見つけても最初の一個だけね。」
「まあ、被らないように置いたんだから、それはないんじゃない?」
「そうかもしれないけど、一応言っといても問題は無いでしょ?」
「そうね。」
「それじゃ、美波、涼太くん、スタート。」
「行ってきます〜。」
「……。」

 美波は軽い足取りで探して行くが、涼太はどこかしぶしぶだった。

「あの二人は誰のに当たるかな?」
「さあ。」

 肩を竦める智里をチラリと見た友梨は腕時計を見下ろした。

*美波・涼太*

「何処かな〜?」

 ゴミ箱を開けてみる美波に涼太は少し呆れた。

「おい、おい、そんなとこには誰も隠さねえだろう。」
「え〜、そうかな?」
「……お前はまさか、そんなところに隠したんじゃ…。」
「それはないよ〜、変なリョウくん。」

 涼太は一瞬本気で突っ込もうとしたが、視界の端に何か青いものが見えた気がした。

「?」
「どうしたの?」
「……。」

 涼太はつかつかと歩いていき、そして、置物の隙間で隠れていたモノを取り出した。

「ふあ、リョウくんすごい。」

 手放しで美波は褒めるが、涼太はそれを取った途端ひやりと悪寒のようなものを感じた。

「……。」
「リョウくん?」
「……何でもない。」

 微かに涼太の顔が青くなっていたが、美波はその事に気付かない。

「美波、まだ、一緒に居とくか?」

 本当なら涼太は一度リビングに戻らないといけないが、それよりも、美波がドジを踏まないかと心配になった涼太は一応尋ねた。

「いいの?」
「ああ。」

 美波が嬉しそうな表情をし、涼太はそっと目を細めた。

「それじゃ、探すか。」
「うん。」

*友梨・智里*

「あ〜、何で智里がそこにいるのよ。」
「しょうがないでしょ、向こうに行けば絶対に熱いに決まっているから。」
「……確かに…、あの子たちって傍から見てたら恋人同士に見えるよね…。」
「でも、あの子が鈍いから、涼太くんは本当に大変よね。」
「うん、うん。」
「まあ、熱いといえば、お姉ちゃんたちも相当よね。」
「へ?」

 友梨は智里の言葉に目を丸くさせた。

「……やっぱり気付いていないのね。」
「……えーと、智里さん、どういう意味でしょうか?」
「そのまんまよ、美波たちほどじゃないけど、お姉ちゃんたちも十分にお熱いわよ。」
「……マジ?」
「マジもマジ、大マジよ。」

 友梨は微妙にショックを受け、よろめいた。
 そして、近くにあったクローゼットに辺り、その上のギリギリに置かれていたそれは友梨の頭目指して落ちてきた。

「いたっ〜!」
「…煩い。」

 友梨の大声に智里は顔を顰めた。

「う〜…本当に痛いのよ。」
「よかったわね、棚から牡丹餅ならぬ、クローゼットからプレゼントよ。」

 智里は冷めた目でそういうが、友梨としてはもっと穏やかに言って欲しかった。

「何恨めしそうな顔をしているの?さっさと戻れば?」
「……分かったわよ。」

 友梨がトボトボリビングに向かって直ぐに智里もプレゼントを発見したのだった。

*昌獅・勇真*

「面倒臭い。」
「そう言うなよ。」

 仏頂面で適当にそこら辺を探す昌獅と微かに楽しんでいる勇真はどう見ても対照的だった。

「……確か、友梨はこの辺に隠してたな。」
「……。」

 勇真は呆れた目で昌獅を見ていた。

「智里ちゃんに怒られるよ。」
「どうせ、他の連中が見つけてなかったら、俺かお前かになるんだ、別に問題ねえだろ。」
「……。」

 これも独占欲というのかと、勇真は思わず天井を見上げた。

「………………誰かな?」

 天井に貼り付けられた箱に勇真は呆れていた。
 そして、その間に昌獅は目当ての友梨のプレゼントを見つけた。

「そんじゃ、戻るとするか。」
「……はあ、アレはおれが取らないといけないのか。」

 勇真は一人肩を落とし、脚立をとりに行った。



 そして、全員が揃ったのは開始されて一時間だった。因みに一番遅かったのは美波と涼太だった。

「見つかったのね、遅かったから心配したよ。」
「……遅いわよ。」
「……。」
「お疲れ、涼太くん。」

 嬉しそうな美波と疲れきった顔をした涼太にそれぞれの言葉がかけられた。

「さ〜て、皆さん空けましょうか!」

 友梨はそう言って自分の包みを開けていった。

「うわっ!写真立てだ、綺麗な青……。」
「それはオレのです。……げっ…。」
「ゲッとは何かしら、とても素敵でしょ?呪い道具一式。」
「……。」

 智里以外の皆様から、涼太は合掌されました。

「あっおれのはコップか……。」

 勇真は話をそらせるため、自分の包みを開け中に入っているなんとも渋めのコップに苦笑を漏らす。

「あっ、それあたしです。」
「…渋い趣味だな…俺のはへ〜、万年筆かいいな。」
「あっ!それ昌獅に当たったんだ〜。」
「ふえ……。」

 今にも泣き出しそうな声に皆は驚く。ただ、それを仕掛けた犯人だけはしまったと言う顔をした。

「うわっ…これ、私だったら引く…。」

 友梨も美波と同じ嫌悪の顔をして、その人物はさらに顔を引き攣らせる。

「昌獅さん?」
「…悪い。」

 昌獅が持って来たものは髑髏のブレスレットだった。彼は隠す場所がかなり高い位置に置いたので男にあたると思いこんでおり、問題ないと思っていた。

「美波、交換……できねえな。」
「うん。」

 涼太は親切で取り替えることを申し出ようとしたが、残念ながら呪う道具一式など美波に渡せる訳などないのだった。

「仕方ないわね。」

 智里は自分のあけていない包みを美波に押し付け、そして、髑髏のブレスレットを変わりに貰う。

「いいの?」
「ええ、どうせ、勇真さんが選んだものだからかなりましでしょ?」
「ありがとう。」

 美波はうきうきしながら若草色の包みを開け始めた。

「うわ〜。」

 感嘆の声を出した美波が取り出したのは、包みと同じ鮮やかな若草色のマフラーだった。

「へえ、綺麗な色ね。」
「うん、嫌味が無いわ。」

 二人の姉妹が若草色のマフラーを褒めた。

「ん?ああ、もうこんな時間かよ。」
「あっ、本当だ……もう九時だ。」
「それじゃ、お開きね。」

 友梨や智里だけならば、間違いなくお開きではなかっただろうが美波や涼太はまだ中学生なので、流石に遅くまでは無理だった。
 こうして、楽しい祭りに幕が閉じたのだった。

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