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弥生の河に言の葉が流れる

弥生の河に言の葉が流れる>掲示板

公開 メンバー数:7人

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from: yumiさん

2010年08月04日 14時18分18秒

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お嬢様の危険な日常・執事の憂鬱

1(?)「………チサト〜。」少女は堆く積みあがった書類の山の辛うじて空いているスペースにうつ伏した。「……何?お姉さま。」冷ややかな視線を送るもう一人

1(?)
「………チサト〜。」

 少女は堆く積みあがった書類の山の辛うじて空いているスペースにうつ伏した。

「……何?お姉さま。」

 冷ややかな視線を送るもう一人の少女は羽ペンをすらすらと滑らし、書き終わった書類を置いていく。

「早くしませんと、何時まで経っても終わりませんわよ。」
「でも〜……。」
「でも、だってもありません。」
「……。」
「お姉さまがしなくては何時まで経ってもこの書類はなくならないのですよ。」
「……。」

 お姉さまと呼ばれた少女――ユウリは小さく溜息を吐き、口先を尖らせた。

「……私だって好きでこんな事したくないのに…。」
「それは、お姉さまがタカダ家の御当主なのですから仕方がありませんわ。」

 しれっと言う、羽ペンを走らせる少女――チサトは急に手を止めた。

「もうこんな時間ですか。」
「へ?」

 ユウリが不思議そうに首を傾げた途端、この部屋の唯一の出入り口であるドアからノックが聞こえた。

「どうぞ。」

 静かな声でチサトが促すと、中に二人の男性が入って来た。

「お嬢様方、お茶の時間です。」
「そう、ユーマ、わたしは外で飲みたいから、悪いけどもってきてもらえる?」
「分かりました、チサトお嬢様。」
「ち、チサト?」
「それでは、お姉さま、また後でお会いしましょうね。」

 優雅な動きでチサトはさっさとユーマを連れて外に出て行った。

「………。」

 残されたユウリともう一人の執事――マサシは互いに顔を見合そうとはしなかった。

「……お嬢様。」

 マサシの完全な棒読みにユウリは溜息を吐いた。

「敬語とか苦手なんでしょ、二人だし、別にいいんじゃない?」

 ユウリはきっとチサトがワザと二人を置いていったと思っている、それは彼女の読みどおり当たっているが、その事はきっと彼女は知りたくもないだろう。

「そうだな、お前の妹もそう思ってあいつを連れって行ったんだろうしな。」
「……。」
「それにしても、よくこんなにも溜めたな。」

 マサシはユウリの机の上に乗る書類を見て、呆れたような溜息を吐いた。

「溜めたんじゃない、今日届けられた分よ!」

 ユウリはマサシを睨みつけ、そして、机の上に再びうつ伏せる。

「ほら、手伝ってやるから紙を寄こせ。」
「……。」

 ユウリはマサシの目の前に紙の束を置き、彼はそれ見た途端苦笑を漏らした。

「容赦ないな。」
「軽いものでしょ?」
「違いないが、それでも、手加減しろよ。」

 ユウリとマサシは口を動かしながらも、手も同時に動かし、先程チサトが手伝った時よりも早く二人は書類を片付けていった。

「……ねぇマサシ。」
「ん?」
「お客さんが来たみたいね。」
「ああ、そうだな。」

 ユウリとマサシは同時にペンを机の上に置き、立ち上がる。

「……私は書類を片付けるより、こっちを片付ける方が性に合っているのにな。」
「仕方ないだろ、お前は長女なんだしな。」
「一体誰が決めたのかしら、長女が後を継ぐって決まり。」
「さあな。」
「有能順だったら、私じゃなくチサトがなっているはずなのに。」
「諦めろよな。」

 マサシはいつの間にか手には剣を持っていて、それを持っていない反対の手でユウリの頭を撫でた。

「そりゃさ、仕方ないと思うよ。」
「それなら、諦めろよ。」
「……。」
「何だ?まだ何か言いたいのか?」
「うん。」

 素直に頷くユウリにマサシは苦笑を漏らす。

「言ってみろよ。」
「さっき、こっちを片付けるほうが性に合っているって言ったけど、仕事場で片付けるのだけは勘弁したかったわ。」
「ああ、同感だな。」
「どうする?移動する?」
「もう遅い。」

 マサシのその言葉とともに窓ガラスが割れた。

「ああ、掃除が大変なのに。」
「そうだな、あとでリョウタにでも任せるか。」
「貴方が片付けなさいよ。」
「俺は戦う、ユーマはチサトお嬢様を守っている、あいつは遊んでいる。」
「あら、ミナミを守るのは遊んでいるって言うの?」
「ああ。」

 敵が居るというのにも拘らず雑談を続ける二人に敵の方が怯んでしまっている。

「おい…。」
「ミナミを守るのは重要な役目よ。」
「まあ、そうだが、優先順位はお前が先だろ?次期当主さんよ。」
「もう、好きで当主になる訳じゃないって言っているでしょうが。」
「おい、貴様ら、こっちを無視するな!!」

 いい加減敵の方が痺れを切らしたのか、怒鳴ってきた。

「本当に、今回の刺客は短気ね。」
「同感。」
「こんなんじゃ、あっさり勝てそう?私の執事さん?」
「ああ、俺のお嬢様。」

 クスクスと笑うユウリにマサシは冗談めかして言うが、瞳は本気だった。

「さて、ゲーム・スタート。」

 ユウリのその言葉と同時に、ユウリとマサシは同時に床を蹴った。

「な、何!」

 何処からどう見てもか弱い女性と、寡黙そうな男性は非戦闘員にしか見えなく、だけど、二人の動きはどう見ても訓練を受けた手練の動きだった。
 敵は全員を合わせても四人、ユウリはそのうちの一人に回し蹴りを喰らわせた。

「何っ!」

 男は何とか蹴りをガードするが、ユウリは続いて邪魔なドレスの裾を持ち上げ、その下に隠していたナイフを抜き取った。

「ユウリ、そんなところに武器を隠すなと――。」
「あら、丸見えの所に隠すよりは警戒心を与えなくて丁度いいのよ。」
「……。」

 女としての嗜みは何処に行ったと、マサシの顔に書かれているが、ユウリはそれを軽く無視する。

「さ〜て、何分で片付ける?」
「三分。」
「分かったわ。」

 ユウリは笑みを浮かべた瞬間、一気に敵に切りかかった。
 その動きはどう考えてもドレスを着た女性の動きじゃなかった。

「それにしても、こんな意外な事にダンスの練習が役立つなんてね。」

 ユウリは優雅なステップを踏むようにドレスの裾を捌ききった。

「練習しといてよかっただろ?」
「ええ、ありがとうね、マサシ。」

 ユウリは最近まではどうもダンスが苦手で――といっても貴族が踊るようなワルツなどが苦手で、町の娘たちが踊るような気さくなダンスは得意だったりする――そして、苦手なダンスの方はマサシに教わり、最近では姉妹の中で一番うまかったミナミよりもかなり上達していた。

「さて、後二人。」

 マサシの方も手馴れているのか、あっという間に一人を気絶させ、二人目と剣を交えていた。

「私もやらないとね。」

 ユウリは笑みを浮かべ、残る一人に向かって床を蹴った。

「くっ……。」

 最後の一人はユウリが思っていたよりも強く、ユウリのナイフは全て防がれてしまう、しかも、悪い事にユウリの息が上がり始めていた。

「もう終わりか、お嬢さん。」
「まだ、まだっ!」

 刹那、強がりを言うユウリはとうとう壁際に追い詰められてしまった。

「く……。」
「ゲーム・オーバーだ。」

 男がそう言うと持っていた剣をユウリに向かって振り下ろした。

「――っ!」
「……。」

 しかし、男の刃がユウリを切りつける事はなかった、何故ならユウリの手には飾り用だとはいえ確かに剣を握っていたのだ。
 実はユウリは先程壁際に追い遣られたのはワザとだった。壁際には装飾用の剣が飾られており、ナイフしか持って居ないユウリには丁度いい武器だったのだ。

「これで、五分かしら?」
「いいや、俺たちの勝ちだ。」

 マサシの声がユウリの問いに答えた。そして、次の瞬間ユウリと戦っていた男の体が大きく傾いだ。

「……もう、マサシったら。」
「……片付けたんだから、文句言わねぇの。」
「だって〜……。」

 ユウリは微かに文句を言い、だけど、その目は笑っていた。

「そんじゃ、場所移動して、茶でも飲むか?」
「ええ、そうね。」

 ユウリが頷くとマサシは持って来たワゴンをそのまま押していく。

「天気がいいから、外にする?」
「そうだな。」

 ユウリはくるりと振り返り、そして、冷め切った目で刺客たちを見た。

「ゲーム・オーバー。」
「……。」

 まだ男たちは意識があるのか、悔しげに顔を歪ませた。

「私は誰にもやられる訳には参りません。もし、今度貴方がたの主が私たち姉妹を襲えというのなら、貴方がたの主ともども潰しに参ります。」
「ついでに今ならてめえらの腕の一本や二本折ってやってもいいぞ。」

 物騒なことを言う主従コンビに刺客たちは最後の力を振り絞って逃げ出していった。

「……。」
「……。」
「本当によかったのか?」
「何が?」
「あいつらを逃がした事が。」
「あ〜、その事?」

 ユウリは笑みを浮かべ、う〜ん、と言いながら背伸びをする。

「いいの、いいの、どうせ何処の刺客か分かってるし。」
「まあな。」

 マサシも大体予想がついているのか頷いた。

「お人よし。」
「私はいくらでも襲われてもいいのよ。」
「……。」
「だけど、チサトやミナミには手を出してほしくないから。」
「まあ、お前が妹思いなのはガキの頃から知っているが、たまには俺ら執事を頼れよ。」

 ポンと頭を叩かれ、ユウリは一瞬ぽかんと間抜け顔で呆けるが、すぐにクスクスと笑い出した。

「なんだよ。」
「だって、執事の仕事はそんな事まで入ってないよ。」
「俺らは特別だろ?」
「ふふふ、そうね。」

 ユウリはくるりとその場で回り、淡くマサシに微笑んだ。

「それじゃ、私の執事さん、これからもよろしくお願いしますね。」
「ああ、守ってやるよ。」

 ユウリはまるで女神のように慈愛で満ちた微笑みをマサシに送る。
 それはまるで、自分の唯一の例えば半身、伴侶、恋人、そして、片思いの相手でも見るように優しく、そして、何処となく切ない笑みにも感じた。

「あの言葉は言ってくれないのね。」

 ユウリの言葉はあまりに弱弱しく、本来なら誰の耳にも届いていないはずだったが、彼の耳にはしっかりと聞こえていた。

「その言葉は、まだ言えないさ。」
「えっ……。」
「でも、ちゃんと言ってやるよ。」
「……いつ?」
「分からないが、俺が一人前になって、そんで、お前が当主になる前には絶対言う。」
「マサシ……。」
「だから、待ってくれるか?」
「うん…待つよ。」

 こうして、二人の約束は交わされて、そして、彼の言葉道理になったのかは、彼らだけしか知らない。

あとがき:10000人突破記念の小説です。お嬢様(友梨・智里・美波)と執事(昌獅・勇真・涼太)が繰り広げるストーリーですが、美波と涼太は名前だけしか出ていませんね……。
こちらの小説は拍手をしていただかないと続きを書く予定はありません。
お手数ですが、よろしくお願いします。
次回は20000人突破に向けて頑張りたいです!?

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マナ

from: yumiさん

2010年09月25日 11時37分44秒

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「お嬢様の危険な日常・執事の憂鬱」
・8・

「……あの馬鹿…。」
「チサト…。」

 頭を抱えるチサトに姉のユウリは軽く睨んだ。

「リョウタくんがいるんなら、大丈夫だと思うけど…。」
「申し訳ありません、お嬢様方…。」

 マサシはかなり怒りを殺した表情でそう言った。

「マサシ…。」
「……。」

 心配そうな表情なユウリにマサシはそっぽを向く。

「…はー…、お姉様、お姉様はしばらくマサシと一緒に居てください、わたしが表に出ます。」
「チサト…。」
「その方がよろしいでしょ。」
「ありがとう…。」

 ユウリは弱弱しく微笑んで、執務室から出て行った。その時、入れ替わりにユーマが入って来たのでチサトはスッと目を細めた。

「あら、もう来たの?」
「はい。」
「意外に早かったようね。」
「そうですね、後数時間はかかるかと思いました。」
「そうね。」

 チサトは同意し、ユーマに手を伸ばす。

「どうぞ、こちらです。」

 ユーマは盆の上に載せられた手紙とペーパーナイフをチサトに手渡す。

「………………ふっふふふ…。」

 手紙にざっと目を通したチサトは急に笑い出した。

「……。」
「ユーマ。」
「何でしょう、お嬢様。」
「すぐさま、六百万円を用意して。」
「分かりました。」

 ユーマは特に何も言う事がないと思ったのか、すぐに返事をした。

「そうそう、そのトランクはお姉様にお渡してくださいね。」
「…いいのですか?」
「勿論ですよ。タカダ家の者に手を出した落とし前は、わたしかお姉様がやるのよ。」
「……友梨お嬢様と智里お嬢様のお間違いではないでしょうか?」
「あら、言うようになったわね、ユーマ。」

 ギラギラと肉食動物のように瞳を輝かせるチサトにユーマは小さく溜息を漏らした。

「手加減はしてあげてください。」
「あら、敵と判断した人間には容赦はしないのよ。」
「……。」
「だって、わたしの身内に手を出した時点で死刑と同類、でも、人を殺すなんてそんな堂々とするのはわたしの流儀に反しますしね。」

 ふふふ、と笑うチサトは黒かった。

「まあ、毒草を後ほどお送りするから、それが、わたしの仕返し、なんと軽い事でしょう…。でも、お姉様が代わりに報復してくださいますよね?」

 楽しげに微笑むチサトだが、目は笑っていない。

「さて、早く用意してくださいね。ユーマ。」
「分かりました。」

 ユーマはようやく部屋から出て行き、その瞬間にチサトのまとう空気が一変する。

「………あんな小物に掴まるだなんて…。」

 チサトは容赦なく殺気を放つ。

「減棒…決定ね。ユーマ、マサシ、リョウタ。」

 チサトは近くにあった紙と羽ペンを持ち殴り書くように羽ペンを動かす。

「……………まあ、リョウタは仕方がないか…、相手は複数だと聞くし…、でも、わたしたちを守ると言うのなら、それなりの成果を見せて欲しいわ。」

 チサトは外を睨みつける。

「わたしたちは常に狙われている。」

 ずっと昔から…。

「いつ、いかなる時も、死と隣り合わせ。」

 物心つく前から…わたしたちは――。

「それを守ると言うのなら、貴方がたも命を懸けなさいよ。」

 戦士だった。

「さて、わたしはお姉様の為に煙幕でも作りましょうか。」

 チサトはスッといつもの表情に戻る。

「わたしたちは、わたしは…、わたしたちの家族を守る…。」

 チサトが立ち上がるのと同時にノックが聞こえた。

「誰?」
「チサト?私ユウリよ。」
「お姉様?」

 先程出て行ったユウリにチサトは不思議そうに言った。

「入るよ?」
「どうぞ。」
「……。」

 ユウリはほんの少し戸惑いがちに入ってくるが、その目は真直ぐにチサトを捉えていた。

「お姉様どうされたのですか?」
「ミナミの場所が分かったのね。」
「ええ。」
「チサト、大丈夫?」
「何がでしょうか、お姉様。」

 ユウリは微かに悲しげに顔を歪めた。

「ごめんね。」
「……訳が分かりませんわ。」
「…あんたばっかりに、押し付けてごめんね…。」
「……今回はお姉様だけの所為ではありませんわ。」
「それでも……。」

 ユウリは微かに目を伏せた。

「いつも負担を背負っているのはチサトだから。」
「……。」
「だから、たまにでいいの、弱音を吐いて。」
「……吐いても、事態は変わりません。」
「そうかもしれないね。」

 ユウリは穏やかに微笑み、チサトの頭を軽く撫でた。

「だけどね、胸に仕舞い込むのはとても苦しい事よ、だから、たまには私に見せてもいいのよ。私は貴女の姉だから……。」
「お姉様…。」
「チサトは良くやっているわ。」
「……。」

 チサトは歯を喰いしばり泣かないが、それでも、ユウリはほんの少し彼女の心が軽くなった事を悟った。

「無理をしてはダメよ。」
「ええ、分かっていますよ。わたしが、わたしたちが倒れれば意味がありませんものね。」

あとがき:何と美しい姉妹愛…でもチサトは黒い…。黒すぎるよ〜。何でこんな子になってしまったの〜!?

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マナ