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弥生の河に言の葉が流れる

弥生の河に言の葉が流れる>掲示板

公開 メンバー数:7人

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from: yumiさん

2011年10月18日 12時10分39秒

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『さよなら』のかわりに―貝殻を―

去年の夏、沙梨(さり)は大切な人を失った。彼は優しく強く、だけど、呆気なく亡くなってしまった。沙梨は叔父夫婦と従妹の綾(あや)とその義弟である誠(まこ

 去年の夏、沙梨(さり)は大切な人を失った。
 彼は優しく強く、だけど、呆気なく亡くなってしまった。
 沙梨は叔父夫婦と従妹の綾(あや)とその義弟である誠(まこと)と一緒に、彼を失った海岸に遊びに来ている。

「…沙梨…本当に大丈夫?」

 事情を知っている綾は心配そうに沙梨の顔を覗き込んだ。

「大丈夫よ。」
「……。」

 少し顔色の悪い沙梨に綾は心配になる。

「……おい、綾っ!」
「…ほら、呼んでいるから行っていいわ。」
「……。」

 綾はまだ何か言いたげだったが、義弟であり、今では恋人である誠に呼ばれ、しぶしぶ綾は彼女から離れていった。

「…………。」

 沙梨はジッと海を見る。
 その目は悲しみに満ちていて、彼女ほどの美女がいるというのに誰も声をかけようとはしなかった。
「………さん…。」
 沙梨は亡くなったその人の名を呟いた。
「…どうして、私を置いて逝ったんですか?」
 物悲しい声が風に乗って、空へと消えた。

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from: yumiさん

2011年10月24日 11時17分34秒

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「『さよなら』のかわりに―貝殻を―」
「広人(ひろと)さん?」
「あっ、沙梨(さり)さん。」

 広人が最後の小さなお客にカキ氷を渡し終えた瞬間、沙梨に声を掛けられた。

「お忙しそうですね。」
「ああ、でも、少し暇が出来そうだから、休憩が取れそうだ。」

 快活そうに笑う広人につられ、沙梨も微笑む。

「そうですか、少し時間いいですか?」
「うん、ちょっと待ってて。」

 広人は中に入り、店長に休憩を取る旨を伝え、着けていたエプロンを外し、沙梨の所まで急ぐ。

「お待たせ。」
「ふふふ、そこまで急がなくてもいいのに。」

 口元を隠しながら笑う沙梨に広人は苦笑する。

「急がないと、休みが逃げるからね。」
「そうなんですか?」
「ああ、今は人が空いているから休憩が取れやすいけど、人が多かったらまず無理だ。」
「成程です。」
「沙梨さん、従姉妹の子は?」
「丁度岩場の所にいますよ。」

 広人は何となくあの少女の近くにあの少年が付き添っているような気がして、笑みを漏らす。

「一人じゃないよね?」
「ええ、綾(あや)の近くには誠(まこと)くんもいますよ。」
「……。」

 広人は何となくだが、引っ掛かりを覚えた。ただ、その違和感が何なのか気づかなかった。
 沙梨は聡いのか、広人の表情を読み、説明する。

「綾と誠くんは義理の姉弟なんです。」
「そう言えば…。」

 弟の誠が意味深の言葉を発していた事を思い出し、手を叩く。

「綾を生んだ母親は綾が幼い時になくなったんです、その後再婚して、誠くんと姉弟となったんです。」
「成程……。」
「綾の亡くなった母親と私の母親が姉妹だったので、綾とは従姉妹同士になるんです。」
「俺なんかが聞いていいのかい?」

 かなり深い家庭内事情に、広人は戸惑うが、沙梨は笑みを浮かべ続けた。

「いいんです、ですけど、一つ忠告がありますね。」
「……。」

 沙梨の言葉に広人は息を呑んだ。

「綾には手を出さないでください、ついでに、誠くんをからかわないでください。」
「……別にしないけど……。」

 広人が気になっているのは目の前にいる沙梨なので、他の二人をどうこうしようとは、全く考えていなかったので、少し呆れた顔をした。

「ふふふ、ごめんなさい、大学生だから、高校生なんか興味ないと思いますが、一応です。」
「……。」

 広人は複雑そうな顔で笑った。
 別に彼自身好きになった人の年齢などあまり深くは考えないが、それでも、年は近い方がいいと思っている。
 それに目の前にいる少女も高校生なので、彼女が言うように「高校生に」興味がない訳ではないのだ。

「あの二人…、恋人同士なんです。」
「えっ……?」

 沙梨の言った意味が一瞬分からず、広人は素っ頓狂な声を出す。

「驚きますよね。」
「えっ、まぁ……。」
「綾自身もついこの間まで、彼を弟としか見ていなかったんですけど、一人の男性と意識した時から、付き合っているんです。」
「……どちらが先に?」
「誠くんです。」

 広人は少年を思い出し、確かにあの少年ならありえるような面構えをしていた、と心中で呟いた。

「あの二人が付き合って、私ほっとしたんです。」
「……。」
「沙梨さん?」
「誠くんなら、綾を置いていったりしないから……。」

 寂しげな横顔に、広人は何があるのかと眉を顰めた。

「すみません、暗い事を言って。」
「いや……。」
「私たち明日の昼に帰るんです。」
「……。」

 広人は瞠目して、マジマジと沙梨を見た。彼女との別れがそんなにも近いだなんて彼はそんな事を考えた事がなかったのだ。

「ですから、本当にありがとうございます。」

 丁寧に頭を下げる沙梨に広人は拒絶されているように感じた。

「さようなら。」

 去っていく沙梨に手を伸ばすが、彼はその背中を追いかける権利など無かった。
 その姿を少年と少女は黙ってみていた。

「あ〜あ、何で追いかけないのかな……。」
「追いかけにくいに決まっているさ……、嫌われたくないし、追いかけて拒絶されたら、きっと立ち直れないからな。」
「…自論?」
「ああ、俺も綾に対してそうだった、距離を変に詰めたら逃げられるんじゃないかとかなり冷や冷やした。」
「……。」

 綾は決まり悪いのかそっぽを向く。

「別に責めてなんかないからな。」
「分かっているよ。誠は意地悪ならもっと意地悪だモン。」
「…んな訳あるか。」

 顔を顰める誠に綾は頬を膨らませる。

「本当の事だもん。」
「………なぁ、手助けするのか?」
「そのつもり、だって、もう悲しい顔の沙梨を見たくないもの。」
「……。」

 誠は沙梨にとっての大切な人が亡くなった事を詳しくは知らない、だけど、綾はその全てを知っていたのだ。

「わたしは沙梨には幸せになって欲しいもの。」
「まぁ、綾が世話になってるしな。」

 誠は服についた砂を払い、綾に手を差し出す。

「んじゃ、行くぞ、時間が無いしな。」
「うん。」

 綾は満面の笑みを浮かべ、誠の手を取った。

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