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from: わかさん
2010/02/20 05:52:37
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見事な「仕事人」
筆洗
東京新聞2010年2月19日
布施(ふせ)には三施があるという。金や物を与える「財施」、仏法や知識を与える「法施」、それに人間の不安を取り除く「無畏施(むいせ)」
▼かなり前になるが、哲学者梅原猛さんが本紙コラムに書いていた。医師や宗教家の行いだけでなく、俳優や芸人が、<人々の人生を楽しくすることもまた、広い意味の無畏施の行に属すると私は思う>と
▼俳優の藤田まことさんが亡くなった。どれほど愛された役者だったかは「当たり役」の多さで知れる。『はぐれ刑事純情派』の安浦刑事、『剣客商売』の秋山小兵衛…。そして、何といっても『必殺』シリーズの中村主水
▼家では嫁姑(しゅうとめ)にいびられ、勤め先の奉行所ではヘマばかり。だが、裏稼業になると颯爽(さっそう)たる“仕事”ぶり。それを矛盾なく一人の人物に共存させた藤田さんの演技あって、初めて造形され得たヒーロー像だったと思う
▼実は、梅原さんが広義の無畏施の例に挙げていたのが、藤田さん。大阪芸人の時代からよく舞台を観(み)ており<めったにテレビドラマをみない私も彼の主演するドラマはよくみている>。つまり、と梅原さんは書いている。<藤田まことは私を四十年間楽しませるという布施の行を行ったのである>
▼その無畏施に感謝したいファンは多かろう。借金苦の時も、病に苦しんだ晩年も、仕事への意欲は失わなかった。役者としても、見事な「仕事人」だった。
過日の伊豆では菜の花は、満開でした。
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