【私説・論説室から】東京新聞
鳩山発言の耐えられない軽さ
2010年5月12日

　「確かに、私は愚かな総理かもしれません」。四月二十一日の党首討論。鳩山由紀夫首相が自分を「愚か」と言ったことにはびっくりしたが、もっと驚いたのは、こう続けたことだ。

　「昨年十二月、（沖縄県名護市）辺野古に新たな普天間（飛行場）の移設先を決めていれば、どんなに楽だったか計り知れないが、私はそう思わなかった。愚かだったから、愚直だったからかもしれない」

　「愚か」と「愚直」は違う。これはすり替えだ。首相はこうも言っていた。

　「学べば学ぶにつけ、沖縄に存在する米軍がすべて連携し、抑止力が維持できるという思いに至った」

　ということは、昨年の衆院選で首相が言っていた国外・県外移設は、何も知らずに思い付きで公約していた、ということなのか。

　これも県外移設できなかった失策を隠すためのすり替えなのだろうが、野党時代は知らなかったという言い訳が通るなら、衆院選で信任を得たはずのマニフェストにもデタラメがあるということにならないか。

　首相発言は重い。故大平正芳首相のしゃべり方は「あーうー」が頻繁に入り、もたついた印象があるが、「あーうー」を抜くと、きれいな文章になっていたという。それだけ慎重に言葉を選んでいたのだろう。

　大平首相に関する出版が相次いでいる。生誕百年の節目に加え、首相発言が軽い時代状況と無縁でない気がする。　（豊田洋一）


フォト：新宿御苑（新緑がまぶしい）