【社説】
日本経済と大震災　底力を発揮する時だ
2011年3月18日 東京新聞

　日本経済は東日本大震災で大きな試練に立っている。政府と民間企業は危機的状況を克服し総力を挙げて国民の暮らしをしっかりと安定させてほしい。

　世界の金融市場はまったく気が抜けない。巨大地震にうちひしがれている間もなく、円相場は十七日のシドニー外国為替市場で一ドル＝七六円台前半の戦後最高値を更新した。東京市場も一時、同七八円台と最高値をつけた。

　本来ならば大震災で日本売りのはずだが、安全資産としての根強い円需要に加え、震災復興で円需要がさらに増えるとみて投機筋が動いた。

◆「阪神」を超える被害
　円高が長期化すれば輸出企業の業績は悪化する。大震災で日本株が売られていた中でさらに円高が進んだため、東京株式市場の平均株価は再び九〇〇〇円台を割り込んだ。アジアや欧米市場でも株価は下落しており、世界同時株安の引き金になった。

　大地震発生から一週間たっても被害額は不明なほど甚大だ。

　ある証券会社の試算では一九九五年一月に発生した阪神・淡路大震災の一・六倍の十六兆円に達するという。同震災は神戸市を中心に六千四百人余の犠牲者と、約十兆円の経済的損失をもたらした。東日本大震災は被害範囲が桁違いに広い。道路や鉄道などの被害も深刻だから被害額は阪神大震災をはるかに上回ろう。

　別の試算では実質国内総生産（ＧＤＰ）に与える影響として、この一〜三月期に年率換算で０・２５〜０・５％押し下げ、四〜六月期は０・５〜１・０％と下げ幅が拡大するという。

　こうした直接的被害に加え、東京電力福島第一原子力発電所の事故で電力不足問題が浮上した。今週から「計画停電」が首都圏を中心に始まり、長期化する可能性が出てきた。

◆輸出と観光に大打撃
　復興需要があるとしても、これも経済活動にマイナスとなり、回復基調が続く景気に重い足かせとなりそうだ。

　より深刻なのは、福島第一原発が依然として危機的状況から抜け出せていないことだ。

　想定外の大地震と大津波が押し寄せてきたとはいえ、一挙に安全システムが崩壊した。四つの原子炉で水素爆発や火災、格納容器損傷といった重大事故が次々に発生した。現在、冷却のための注水作業が懸命に行われているが、放射性物質が周囲に拡散して危険な状態が続いている。

　海外諸国では放射能汚染に対して極めて厳しい姿勢をとるのが通例だ。早速、中国や韓国などで日本からの輸入製品、とくに食品・食材への監視を強め始めた。農産物輸出は政府の新成長戦略でも大幅拡大を取り上げているが、足元から崩されかねない状況だ。

　外国人観光客の誘致も難しくなろう。ドイツのルフトハンザ航空は成田空港に発着する定期便の運航を停止して、関西空港または中部空港に振り向けるという。欧米各国は日本に滞在する同国人に対して、東京などから退避するよう求めている。

　政府の観光立国推進基本計画では、訪日外国人を二〇二〇年に二千五百万人まで増やす目標を掲げている。今回の事故で将来目標の達成はますます難しくなろう。

◆予算成立と生産再開を
　このままでは日本経済は奈落の底に沈んでしまう。国民はそんな不安に包まれている。今こそ政府と経済界はそれぞれがなし得ることを全力で取り組む時機だ。

　政府は、国会で審議中の一一年度予算案を本年度内に成立させる。予算関連法案も野党の協力を得て早期に成立させなければならない。そのためには野党側が反対している子ども手当の積み増しや高速道路無料化費用など、歳出予算の大幅修正を受け入れることを考えるべきだ。

　震災後に操業を停止している企業は、復旧から復興に向けた取り組みを早急に確立すべきだ。

　トヨタ自動車は二十二日まで国内の組み立てラインを止めているほか、日産自動車やスズキなども操業を停止している。新日本製鉄釜石製鉄所では自動車タイヤ用線材の生産が、住友金属工業鹿島製鉄所は自動車用鋼板などの製造が止まっている。また日立製作所は発電所関連の工場が、東芝も子会社の半導体工場が停止中だ。現場の復旧作業は簡単ではないが、生産再開が遅れれば遅れるほど経済は回復しない。

　その際、必要な設備や人材の確保に資金を惜しんではならない。輸出企業を中心に巨額の内部留保があり、この三月期決算も過去の好調さを反映して余裕がある。今春闘でも定期昇給と一時金増額の回答を出している。安定した労使関係を生かして事業の継続と発展に総力を挙げるべきである。