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from: わかさん
2011/04/13 05:37:36
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うたのちから
【コラム】
筆洗
2011年4月12日 東京新聞
♪兎(うさぎ)追いしかの山 小鮒(ぶな)釣りしかの川 夢は今もめぐりて 忘れがたきふるさと…。世界三大テノールの一人、プラシド・ドミンゴさん(70)が美しい日本語で歌い始めると、東京・渋谷のNHKホールを埋めた約三千六百人の唱和する声が広がった
▼原発事故のニュースは海外メディアでも大きく伝えられ、来日を中止するアーティストが相次ぐ中、ドミンゴさんは十日からの日本公演を予定通り始めた
▼周囲には心配する声もあった。共演予定のソプラノ歌手も直前で来日を拒否した。それでもドミンゴさんは、アジア地区のプロデューサーとの信頼関係から、迷うことなく来日したという
▼一九八五年のメキシコ地震で、親類を亡くしたドミンゴさんが被災地への祈りを込め、アンコールで歌った「ふるさと」。泣きながら歌う人も多く、音楽が持つ底力を実感した
▼きのうは東日本大震災から一カ月だった。あの日から時が止まり、曜日の感覚を失っている被災者に節目などないだろう。本紙夕刊にあった「勝手に区切るなよ」という声に胸を突かれた
▼暗い避難所のラジオからアンパンマンのテーマ曲が流れると、子どもたちの顔がぱっと明るくなるという。元気に歌う子どもたちは大人たちを勇気づけている。歌なんて、まだ…という被災者が多いかもしれない。口ずさめる日は必ず来る。そう願わずにいられない。
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