｢裕子たちはこんな格好のまま渡良瀬川の源流伝いに上流へ歩かされていったわ。すると精錬所が対岸にあったわ。もうこの銅山は操業停止しているはずなのに、まだ盛んに排煙が出ていたわ。これって亜硫酸ガスかしら。何でまだ煙が出ているの？｣

｢このがたがた橋は木造で、床にはところどころ穴があいてるの。またこの床はところどころ腐ってるみたいで、メリメリって音がするのよ。ここには鉱石運搬用のバケットコンベアーだけじゃなくって、石臼のような破砕装置もあったわ。何をクラッシュするのかしら。バケットの中には鉱石に混じって頭蓋骨があったような気がしたわ。
裕子たち、動作が緩慢で逃げられようは無いと判断したのか、奴等はサバイバルナイフをしまい、素手でまたチョメチョメを始めたわ。｣

｢だけどこんな格好で歩けったってなかなかうまくいかないわ。こんながたが橋、すっごく揺れるし、直ぐバランスを崩してこけそうになるのよ。でも奴等、結構気が長くって、別に急げとも言わないの。昌夫さんと私、脚の支点が25cmくらい違うから、掛け声をかけ合って脚を動かしてもなかなかちゃんと歩けないわ。｣

｢裕子たちが降ろされた足尾本山駅には乗客扱いの施設は全く無かったけど、なんかの鉱石を貨物列車に載せる大々的な設備があったわ。でも今にも崩れ堕ちそうな、まるで廃墟みたいな施設だった。いったいこれで何をしてるんだろう。奴等はまたサバイバルナイフを振りかざして、裕子たちを指示通り歩くように脅してきたわ。｣

｢足尾本山駅は正味ドンズマリ。これ以上レールは無いの。列車は車止めのぎりぎりで止まったわ。そして、鉱石積み込み用のホームに降ろされたの。渡良瀬川源流の直ぐ傍にある、まるで廃屋みたいな駅だったわ。こんな背中合わせの格好で歩くのって、とっても大変。何と言っても脚長の差がクリティカルなのね。股の付け根まで密着させて縛られてるから、同じスタンスに足を広げるのが一苦労なの。25cmくらい股の位置が違うのね。｣

｢列車は備前楯山の山裾を通り過ぎたわ。この辺りは硫黄臭が立ち込めていて、全山丸裸なの。裕子たちはソロソロッと乗降口まで歩かされたわ。歩くって言っても、こんな風に縛られているんだから、かにの横這いみたい。脚の長さが極端に違うから、なかなかうまくいかないの。｣

｢この辺りは足尾銅山の施設と工夫たちの住宅ばかりになったわ。この銅山は江戸時代の末期に開発され、明治時代の富国強兵を支えた近代鉱山だそうだけど、一方で足尾鉱毒といって日本での公害第一号に認定されたところでもあり、渡良瀬川流域一帯の稲を枯らせたり、抗議した村落を官憲の力で弾圧・壊滅させたり、下流域に砒素を撒き散らしたり、いろんな暗黒の歴史を紡いできたいわく付きの場所なんだって。この鉱山一帯も、精錬所から排出する硫黄酸化物の煙によって、山が丸裸になっていたわ。カナリヤ教団はそんな暗い山里にアジトを構えたのね。｣

｢列車は一方的登り勾配を足尾本山貨物駅へ向かってゆっくり力行していったわ。この辺りから山に草木が消え去り、殺伐とした景色になってきたの。足尾銅山の精錬所からでるSOｘリッチな排煙によってみんな枯れちゃったんだって。家々のトタン屋根も硫酸の雨で直ぐ穴があいちゃうもんだから、コールタールをたっぷり塗ってるわ。密閉された列車の車内では、限られたフリータイムを満喫するように、カナリア教団の奴等は裕子の腰部を弄ってるわ。昌夫さんはまた沈黙しちゃった。｣

｢列車はようやく間藤駅を発車したわ。でもこの足尾線は客扱いはこの間藤駅までで、これから先、足尾本山までの一駅区間は足尾銅山関係の貨物だけのはずで、気動車は行かないことになってるけど、ハイジャック車は別なのね。奴等は更に裕子のボトムトップに2本のロープを入れてきたわ。そして、まるで裕子の股位置のマーカーみたいに、後ろの昌夫さんのお腹付近をそれぞれ１周させて縛り上げたの。やつらの縛り方は単に裕子たちを拘束するのが目的じゃあないみたいね。背比べの柱の傷みたいに、えらく裕子の脚長を強調してくれてるみたい。｣

｢間藤の駅ではどういう訳か列車は停車したわ。そしてこ1時間発車しなかった。勿論駅のホームで止まっていた訳でなく、機関支区設備のヤードの中でのことだけど。どうも何かの時間調整をしてるみたい。だんだんやつらの本音が分かってきたわ。つまり、グルに裕子を引き渡しちゃうと、もう自分たちの意のままにならないから、今のうちに遊んどこうという腹なのね。それにしても凝った縛り方をするものね。両脚一緒に縛らないで片脚づつ縛ってるのよ。歩かせ易いためかな。でも裕子の膝の上のほうにあるこの紐は何かしら？ ひょっとして昌夫さんの股の付け根なの？｣