｢この奇襲部隊の指揮官、ハワード大隊長は小柄な方だけど、とっても笑顔が素敵な人だったわ。戦闘が一段落ついた直後に、気さくにインタビューに応じてくれたわ。彼が受けた命令は、このペガサス橋とちょっと先のオルヌ川にある橋を夜中に確保占領し、スオード海岸に上陸する第1陣のコマンド部隊が侵攻してくるまでの約12時間確保することって言うことなんだけど、180人の少人数で敵地のど真ん中に居座るんだから、凄い度胸ね。この先の森には多分2万人位のドイツ兵の大部隊が集合して、この橋を奪回するか爆破しようとしているはずだってハワード少佐は言ってたわ。｣

｢彼らが突撃を開始してからたったの15分間でペガサス橋を制圧しちゃったわ。ドイツ軍の守備隊はよっぽどあわてたのね。攻撃側は攻撃するところを選べるけど、守備側はどこを攻められるか分かんないから、大変なのよね。全体をリスク管理していないといけないけど、緊張感がいつまでも続くわけないしね。ドイツ守備兵は信号弾を発射して本隊に連絡しようとしたんだけど、その信号弾が運悪く鉄橋のアーチに当たっちゃって、中天に舞い上がらなかったの。そんな訳で、援軍が来ないうちに占領できたのね。｣

｢彼らはグライダーから這い出すと、1分間と置かずに突撃していったわ。目標はカーン運河に架かるペガサス橋。ステンマーク自動小銃を腰だめで連射しつつ全速力で走っていったわ。河岸のいくつかの壕から機関銃が撃たれていたけど、暗闇なのでほとんど当たってなかったみたい。そんな壕に手榴弾を片っ端から放り投げていったわ。ドイツの守備隊は怖かったでしょうね。｣

｢裕子が追っていたグライダーはなんと、ドイツ軍が厳重に防備しているカーン運河に架かっているペガサス橋から50メートルと離れていないところへ着陸したの。でも当然胴体着陸だから、結構凄い音がしたわ。それでもドイツ兵は起きてくる気配が無かったわ。後で聞いた話だけど、この辺りは撃墜された連合軍の爆撃機がしょっちゅう落ちてくるので、ほとんど気に掛けなくなっちゃっていたんだって。英国の第6空挺師団はノルマンディ上陸作戦の東側面援護のためにランヴィル付近一帯に降下したんだけれど、このときハワード少佐率いるオックスフォードシャー&バッキンガムシャー軽歩兵連隊第2大隊D中隊180名は特別奇襲部隊としてスオード海岸に近接した2つの橋を確保するために、真っ先に降下したんだって。｣