｢気がついた時は体中びしょ濡れだったわ。裕子は水際に立っていたけど、周りはすっごい爆裂音と阿鼻叫喚！時空座標を調べたら、なんと、1944年6月6日、ノルマンディ・オマハビーチってなてたわ。まさにＤ－ＤＡＹの日にこのオーバーロード作戦で最も犠牲の大きかった上陸地点に着座しちゃったのね。第2次世界大戦のクライマックスに飛びこんじゃったのね。大勢のアメリカの兵隊さんたちがこの水際から上がれずに密集して釘づけにされていたの。その中へ、情け容赦もなくドイツ守備隊の砲弾や機銃弾や小銃弾が撃ち込まれていたわ。ここで3000人余りの人が命を失ったんだって。｣

｢ボブと２人、戦艦ノースカロライナの艦載水偵キングフィッシャーに乗り込んでカタパルトから発進したわ。最初は時速450km位で暫く戦艦の上空を旋回していたけど、急に北東へ針路をとり、急加速したの。体にかかる重力は急激に増し、５Ｇ程度になった時、裕子は失神しちゃった。気がついた時は既にカオス空間に放り出されていたわ。どの時空間に到達するかは、空間の場の変動と運に任せるしかないのね。｣

｢Mr.ウォーレンは時空間飛行士を紹介してくれたわ。でも、なんとその人はボブだったのよ。以前にミステロイドから北ビルマに不時着した長本人でもあるし、そこから助けてくれた人でもあるのよ。懐かしかったわ。戦艦ノースカロライナの艦尾のカタパルト上に搭載されてる水上偵察機・キングフィッシャーが今回の時空航機なんだって。ボブは、今度こそは精度高く裕子を送ってやるって言ってたわ。多分、第２次世界大戦の真っただ中だろうけれどだって。｣

｢この戦艦ノースカロライナは基準排水量が35,000ｔで、40.6cm砲９門、12.7cm副砲20門、40mm対空ボフォース砲60門搭載で最大戦速が27ノット出せる、その後のアメリカ戦艦のプロトタイプになった艦なの。今では第2次世界大戦における死者のメモリアルになっているんだって。でもこの艦はソロモンの戦いが激化している頃、1942年9月15日にエスピリッサント島沖でイ号19潜の雷撃に会い、6か月の長い修理期間を経て再び前線へ復帰するんだけど、ほとんど作戦には寄与してなかったみたいね。デザインはいたってシンプルで、日本の戦艦とは全然違う積み木細工みたいな感じね。
この前で、国際時空間管理会社の北米支社長のMr.ウォーレンが待っていたわ。そして、裕子の仕事始めはここから始まる、って言ったわ。だけどおおむね20世紀には行くはずだけど、何年のどこへ行くのかは特定できないので、成り行き任せで到着した時空をルポの仕事の第1号にしてくれたまえ、だって。なんかいい加減というか、心もとないというか、まあやるっきゃないのね。
でもMr.ウォーレン、そのお手手は何ですか！？｣

｢ボンドさんとのミッションが終わって、久しぶりに京都の我が家に帰ったら、国際時空間管理会社からの採用通知が届いていたの。なんでも、時空間フリールポライターに内定されたんだって。早速ＵＳノースカロライナのウイルミントンまで出頭するようにって書いてあったわ。よっぽどなことがないとテレポーションは禁じられてるので、飛行機で行くことにしたわ。先ずデトロイトまで飛んで、ミッドウエー・エアラインのプロペラ機に乗り換えて、ダーラム経由でたどり着いたわ。何と21時間もかかったのよ。そして指定されたケープ・フェー河のＸ地点へ行ったわ。そこには第2次大戦に使われた戦艦ノースカロライナが当時の外観のままで係留されてたわ。
この戦艦は近代高速戦艦の草分けで、太平洋戦争勃発の年1941年4月に就役したんだって。｣