国民宿舎のチェック・インは午後４時からだった。ミッソー中佐が時計を見ると、４時５分前だった。その時、受け付けに一人の男性客が来て、チェック・インを済ませ、鍵を受け取った。「ん？」ミッソー中佐は椅子から立ち上がると、つかつかと受け付けへ行き、女性従業員に言った。「君、おかしいではないか。私にはチェック・インは４時からだと言っておきながら、さっきの客は４時前に鍵を受け取ったぜ。私の部屋の鍵を出しなさい」女性従業員はあわてて鍵を出した。「常連客か何か知らないが、融通をきかせるなら公平にやることだよ」ミッソー中佐はそう言うと、エレベーターへ向かった。

横須賀軍港をひそかに出港したステルス潜水艦エンペラーは、玄海灘にある志賀島の沖合で、消息を絶った輸送ヘリコプターを待っていた。志賀島は蒙古襲来の島として、また金印が発見された島として有名である。ミッソー中佐は一度だけ志賀島に行ったことがある。国民宿舎のすぐ前は海岸になっていて、南国を思わせるヤシの木が植えられている。ミッソー中佐が国民宿舎の入口を入り、受け付けで名前を言うと、少し時間が早かったらしく、ロビーで待つよう言われた。ロビーでコーヒーを飲んでいると、他の宿泊客もやって来た。

かもめ島の西大佐は、オレオレ詐欺の犯人の最後の一人の口に89式小銃の銃口を突っ込んで言った。「さあ！いつものようにオレオレと言って見ろ。はっきり聞き取れたら命は助けてやる」男は懸命にオレオレと言ったつもりだったが、口の中の銃口が邪魔して、うまく言えなかった。「ダメだ！ダメだ！何を言っているのかわからない」西大佐は小銃を連射モードに切り替えると、引き金を引いた。あたりに男の鮮血が飛び散り、男は後ろへ倒れた。西大佐は半長靴で男の顔を踏み付けると、タバコを出して火をつけた。その時、西大佐の自衛隊無線に南大尉から連絡が入った。呉の自衛隊病院を飛び立ったCH-47JA輸送ヘリが瀬戸内海で消息を絶ったという連絡だった。

陸上自衛隊が迅速・広域に展開する部隊の指揮統制や情報の伝送、航空・海上自衛隊との連絡調整のために通信を確保する器材のひとつ。衛星を中継した音声、データ通信に使用される。

主に低高度で飛行する航空機やヘリコプターを全周にわたって連続監視を行い、観測・取得した目標の情報を迅速・継続的に師団対空情報処理システムなどへ伝送する機能を持つレーダー。師団高射特科連隊／大隊に装備される。

「山吹大佐、このヘリはどこへ向かっているのですか？」甲斐軍曹は9mm拳銃をホルスターにしまいながら尋ねた。「我々はインド洋で給油活動を実施している補給艦へ向かう。特別警備隊の隊員が活躍する場所としては最適だろう」「なるほど。補給艦に対するテロ活動を抑止する訓練を受けた隊員達ですからね」輸送ヘリが瀬戸内海上空で消息を絶った事実は、直ちに工藤防衛大臣に報告された。「やはり、やったな」工藤大臣は苦笑しながら南大尉に言った。「大臣は矢吹海上幕僚長が隊員達をかもめ島へ移送しないのをご存じだったのですか？」南大尉は驚いて言った。「知っていた。と言うより予想していたと言った方が正確だ。矢吹海上幕僚長の顔色を見てわかったのだ」

ミッソー中佐（防衛省テロ特命課のエース隊員。バリ島から帰国後、聖ピアス教団の潜入を命じられる）

ミサ（ミッソー中佐の恋人。ミッソー中佐が龍に飲まれて死亡したと思っている）

ユキ（ミサの妹。現在は二児の母親である）

押田天光（イリュージョニスト。ミッソー中佐に頼まれて龍神池でミッソー中佐が龍に飲まれるイリュージョンをミサに見せる）

工藤大将（防衛省大臣。ミッソー中佐に聖ピアス教団へ潜入を命じる。タカ派の国会議員で工藤派の代表）

南大尉（ミッソー中佐の教え子で女性自衛官ワック隊長）

橘警部（公安警察の警部で工藤大臣の運転手。トーマスに内部情報を漏らす）

綾瀬菜緒（公安警察の警部。聖ピアス教団に潜入するが行方不明になる）

加藤中佐（埼玉入間基地司令）

トーマス（聖ピアス教団の教祖。国家テロを計画していて、アルカイダとも関係を持つ。催眠術を使う）

アンナ（教団のナンバー2でトーマスの姉。超能力者）

ユーラ（ハンネの森の番人。アンナの部下で、まだ小学生の女の子だが、不思議な魔法を使う。両親を教団に殺害される）

林プラント長（毒ガス製造の責任者）

森プラント長（炭そ菌製造の責任者）

弘人（現在のミサの恋人）

純子（ミサに聖ピアス教団へ入ることを熱心にすすめる）

隆志（純子の恋人。二人はラブラブ）

麻里子（トーマスの命令でミサの食事に薬物を混入する）

デビル中佐（横須賀にある自衛隊少年学校校長。ミッソー中佐とは同期入隊である。いじめをした生徒を受け入れる）

西大佐（かもめ島の指揮官。ハッカー達に死のサバイバルツアーを体験させる）

隼大佐（朝霞駐屯地司令）

みう（毎時新聞の女性記者）

ケンジ（東軍のリーダー）

京子（西軍のリーダー）

西島軍曹（スクール・アーミー。京子とラブラブになる）

ダンディ中佐（防衛研究所所長）

エイジ（東軍ケンジの斥候）

セイジ（東軍ケンジの第2斥候）

陽子（西軍京子の斥候）

みさき（若い女性信者。弘人に飛行船のある場所を教える）

透（トンネルの入口を警備している信者。みさきの恋人）

アパッチ少尉（戦闘ヘリアパッチの操縦士）

入江少佐(陸上自衛隊朝霞駐屯地の第1中隊長)

鬼道大佐（陸上自衛隊朝霞駐屯地の連隊長）

緑豆大臣（環境大臣及び鯨肉愛好会会長）

犬塚少佐（陸上自衛隊朝霞駐屯地の第2中隊長）

槍草【やりぐさ】議員（最大野党、横槍党の次期防衛大臣）

貫通党首（横槍党の党首）

暗闇少尉（あたごの当直士官）

善光寺中佐（長野駐屯地所属でミッソー中佐とは同期入隊）

マッハ部長（毎時新聞社、社会部部長）

泉川（日本軍の元中隊長）

今村（日本軍の元小隊長）

松尾（日本軍の元上等兵）

椿厚生労働大臣（末期高齢者医療保険の発案者）

轟警視庁長官（風魔一族に襲撃される）

弓ヶ浜大佐（米子駐屯地司令）

李少佐（北朝鮮工作員員）

金工作員（北朝鮮工作員・ミッソー中佐に殺害される）

伊賀（さいたま市スポーツ振興課課長）

あい、はな、ぽにょ子（伊賀忍者のくノ一）

成瀬警部（さいたま中央署の失踪人係）

舞（気まぐれスポーツの女性記者）

中山大佐（朝霞駐屯地の警務隊の隊長）

山吹大佐（CH-47JA輸送ヘリコプターの機長・操縦士）

田井少佐（CH-47JA輸送ヘリコプターの護送責任者）

甲斐軍曹（CH-47JA輸送ヘリコプターの機上整備員）

CH-47JA輸送ヘリコプターに16個の棺桶が積み込まれ、ヘリはかもめ島を目指して飛び立った。ヘリが瀬戸内海上空に達した時、護送の責任者である田井少佐はヘリの異常に気付いた。「山吹大佐、ヘリの進行方向が違うようだが…」田井少佐は機長であり操縦士の山吹大佐に言った。「田井少佐、静かにしてもらおうか」機上整備員の甲斐軍曹が9mm拳銃を田井少佐の喉元に突き付けた。「な、何をする！」甲斐軍曹は操縦士席の後ろにある乗降用タラップを開くと、田井少佐をそこから海へ突き落とした。「ワーー！」田井少佐の叫び声は、ヘリの回転翼FWDフォワードローターブレードの音に掻き消された。

呉の自衛隊病院へ16人の特別警備隊員が搬送されたのは、工藤防衛大臣が矢吹海上幕僚長と会談を終えた1時間後だった。数人の隊員は拘束されるのを拒否し暴れたが、医官が麻酔剤を打って静かにさせた。呉の自衛隊病院の死体霊安室では白の棺桶が運び込まれていた。医官は棺桶の最後の釘を打ち終えると、流れ落ちる汗を拭った。それから棺桶のフタを叩きながら言った。「かもめ島まで生きていてくれよ」自衛隊病院のヘリポートではCH-47JA輸送ヘリコプターが待機していた。

「矢吹幕僚長も知っての通り、かもめ島へ送られて生きて帰った者はいない。西大佐は硫黄島の指揮官だった西少佐の息子さんだ。西大佐はかもめ島を硫黄島と呼んでいるが、近隣の島民は獄門島と呼んで、誰も近づかない。ほとぼりがさめるまで、教官と15人をかもめ島へ匿うことにした。彼らも現部隊に留まるのは居心地が悪かろう」「彼らの生命は保証されるのですね？」「それは西大佐の判断次第だ。私にもわからない」「抹殺される可能性も否定出来ないと？」「その通り。彼らを自衛隊病院へ入院させ、柩に入れてかもめ島へ送るのだ。いいな」「わかりました」