「何で私が乗組員の答弁書まで作成しないといけないのよ！」南大尉は工藤大臣の隣にある自分の仕事場で、答弁書を机に叩きつけた。それから海上自衛隊横須賀軍港に入港中のイージス艦あたごの当直士官である暗闇少尉を電話で呼び出した。「防衛省の南大尉です」「南大尉、このたびはお世話になります！」「暗闇少尉、私はあなたのお世話なんかしたくないのよ。わかってる？」「はあ」「はあじゃないわよ。どうして見張りを厳重にしなかったのよ！どうせろくでもないことを妄想してたんでしょ」「そんなことはありません」「じゃあ居眠りでもしてたの？」暗闇少尉はとんだとばっちりを食うことになった。

南大尉の計画ではミッソー中佐と北朝鮮へ同行潜入し、拉致被害者の救出にあたると共に、二人で寝食を一緒にすることにより、ミサに向けられているミッソー中佐の視線を自分に向けさせるつもりだった。ところがイージス艦と漁船の衝突事故が起こり、工藤大臣以下、防衛省の幹部自衛官及びイージス艦あたごの乗組員が国会に証人として喚問されることになり、その答弁書を南大尉が作成することになった。そのため工藤大臣は南大尉の同行を中止にしたのである。

化学科部隊は特殊武器（毒ガスなどの有毒化学剤、放射性物質など）の検知や汚染状況の偵察などの情報活動、人員、装備品、あるいは汚染地域そのものの除染（汚染を取り除くこと）活動に従事する専門の部隊で、化学防護車や除染車など各種の化学防護器材を装備している。

私がヘリで市内を旋回していると、デパートの屋上で救助を待っている多くの人々を発見した。私はヘリを屋上に着陸させた。
「皆さん、女性と子供を優先的に乗せます。一度に１０名までです。必ず迎えに来ますからあわてないで下さい」
私はヘリを離陸させると、岡山市北区役所に設置された災害対策本部へ向かい、屋上のヘリポートで被災者を下ろした。

南大尉はミッソー中佐が北朝鮮にいる拉致被害者を救出するため防衛省を出て行ってから、毎日憂鬱な生活を送っていた。工藤防衛大臣はいち早く南大尉の変化に気付いた。「南大尉、ミッソー中佐から連絡はあったか？」工藤防衛大臣が尋ねた。「まだ何も連絡はありません」「今頃は水島港にいるかも知れないな」「さあ。どうでしょう。実家が岡山市内ですから実家にいるかも知れませんね」工藤大臣は話題がミッソー中佐のことになると、南大尉の顔に生き生きとした表情が現れることに気付いていた。そのためミッソー中佐の話を持ち出したのである。

「私はどうなるの？」みさきは不安な表情を浮かべて尋ねた。「我々はみさきさんに危害を加えるつもりはない。ここに住んで我々の恋人として生活してもらいたいのだ。もちろん一人では不安だろう。あと何人か女性を拉致して来るので、仲良くやってもらいたい。みさきさんは今夜は私とベッドを共にすることになる。いいな」「そんな…」「どうか我々老人の願いを聞いてくれ。決して悪いようにはしないからな」一方トーマスは、みさきの失踪を警察に届け出ることも出来ず、純子の来るのを待っていた。

化学科職種の隊員は、この化学科部隊を構成するほか、各方面総監部や師団司令部などに所属して、テロ対策等についての指導的役割も果たしている。

私は被災者をヘリで救助する一方、絵美のことを考えていた。シェルターには水も食料も十分あったから、その点は心配なかった。だが、絵美は淋しがりやである。一人でずいぶん淋しい思いをしているに違いなかった。絵美の彼氏を殺害した事実は消えなかった。絵美が私を許してくれるか、早く確かめたかった。

「みさきさん、我々三人は硫黄島で戦って来た。大日本帝国という国のために命を賭けて戦闘を続けたのだ。硫黄島は玉砕したが、三人は抵抗を止めず、地獄の戦闘を生き残り、日本へ引き揚げて来た。だが日本政府は我々を末期高齢者と決めつけ、ひどい差別をしている。我々はそれに我慢ならなかった。椿大臣と轟警視長官を襲撃したのは我々だ」「あなたがたが襲撃したんですか？」みさきは驚いた。「そうだ。当初の我々の目的は達成された。保険料の天引きはなくなり、恩給も二倍になった。あとは女性がそばにいれば言うことはない」

「みさきさん、気がついたようだね」泉川が言った。ここはミサとユーラが住むマンションのとある一室…。みさきは両手首を縛られて、ベッドに寝かされていた。三人の男がみさきを見ていた。泉川と今村と松尾である。「あなたたちは！どうしてこんなことをするの！」みさきは三人を睨みつけた。「怒った顔もかわいいよ。実はここにいる松尾が、みさきさんに惚れたんだ。それでちと手荒い方法だが、みさきさんに来て貰ったというわけなんだ」泉川はみさきの太ももをなでながら言った。