「ミッソー中佐、弘人さんの結婚式に出席するんですね」「ああ。招待状が届いている。出席するつもりだ」「私もミッソー中佐と一緒に出席したいわ。弘人さんに言ってくれない？」「言わなくても大丈夫じゃないかな。結婚式場は教会だし、招待客以外にも参加する人がいると思う」「じゃあ参加します。私とミッソー中佐の結婚式の参考にしたいから」「おいおい！」「じゃあ、明日、官舎に迎えに来てくださいね」南大尉は楽しそうにそう言うと、大臣室へ入って行った。

「ミッソー中佐、今度はどこへ行くのですか？」南大尉は心配そうに尋ねた。「パキスタンだ。今回の作戦は少し長くかかるかも知れないな」「早く帰ってください。ミッソー中佐がいないと、私寂しいです」「わかっている。アルカイダとタリバンが協力関係を結んでいる点がやっかいなところだよ」「タリバンがアメリカでのテロを計画していたのは驚きですわ」「ああ。アルカイダと違ってタリバンはパキスタン、アフガニスタンでテロ活動を行って来た。しかし最近はアルカイダと手を結び、アメリカやヨーロッパでもテロを計画している。パキスタンのアルカイダとタリバンを全員抹殺するためには、時間がかかるかも知れないな」

「了解しました。今回の作戦で何人殺せるか楽しみです。報告書にはいつものように殺害した人数を少なめに書いておきます」「頼んだぞ。アフガニスタンへの派遣を政府が発表する前に、アルカイダとタリバンを叩いておかなければならない。自衛隊の損害は出来るだけ少なくしなければならないのだ。ミッソー中佐が携行する武器等は防衛研究所に用意してある。東京の研究所で受領するように」「了解しました！」ミッソー中佐が大臣室を出ると、エレベーター前で大臣の秘書の南大尉が待っていた。

「ミッソー中佐、パキスタンへ潜入してアルカイダやタリバンの情報を収集してくれ。アメリカはパキスタン国内では表立った戦闘行動は実施出来ない。なぜならパキスタン国軍がいて、アルカイダやタリバンの掃討作戦を実施しているからだ。アメリカはアフガニスタン側から、パキスタン国軍と協力して挟撃作戦を実行している。だが山岳地帯にアジトがあるため、効果はイマイチだ。そこでパキスタン側からアフガニスタンへの進路を断って欲しいのだ」

「アフガニスタンだよ。戦闘の最前線に自衛隊を送れと言って来た。血と汗を一緒に流そうと言うお誘いだ。もちろん現行の法律では、自衛隊を最前線に送ることは出来ない。それはアメリカ大統領も良く知っている。知っていながら日本政府に圧力をかけて来たのだ。もし言うことを聞かないなら、アメリカは日本が侵略されても、敵に対して攻撃はしないので、自分で自分の身は守れと言うのだよ」工藤防衛大臣は苦笑いをしながら言った。

「アメリカはどこに自衛隊を派遣せよと言って来たのですか？」ミッソー中佐は難解な問題が持ち上がったと考えていた。インド洋における海上自衛隊の給油活動を、日本が一方的に終了させた後、日本はソマリアの海賊退治にかまけて、国際社会に対してあまり貢献していない。アメリカは給油活動停止の見返りを求めて来たのだった。自衛隊にとって政府の決断は有難迷惑だった。インド洋という安全な場所からアフガニスタンという最前線へ放り込まれることを意味していたからだった。

「その通り。パキスタンの神学校で過激な思想を学んだ若者達がテロ活動を実行している。またパキスタンの山岳地帯にはアルカイダやタリバンが潜伏して、パキスタン、アフガニスタン、イラクでテロ活動を実行している。パキスタン政府やアフガニスタン政府やイラク政府は、彼らと戦っているが、なかなか効果が現れていない。そこでアメリカは日本にもイスラム過激派の殲滅作戦に参加するよう要求して来た」

工藤防衛大臣は続けた。「アメリカはアフガニスタンでの戦争をあまりにも早く終結させ過ぎたのだ。タリバン政府を倒したとはしゃぎ過ぎたのだ。アメリカは最近になってやっとアフガニスタンの重要性を認識して、アフガニスタンへ増派する決定をした。だが、私はこれでは不十分だと考えている」「パキスタンがあるからですね」ミッソー中佐が言った。

「アメリカはイラク占領に失敗した。アメリカ兵士は毎日テロにより殺害されている。アメリカもイラク政府もイラクを統治することは難しいと、やっと悟ったようだ。そもそもアフガニスタンで戦争を始めたアメリカは、アフガニスタンで勝利すると、イラクで戦争を開始した。私はイラクよりアフガニスタンを優先するべきだと思う」

インドネシアのバリ島での掃討作戦を終えると、ミッソー中佐は帰国した。ミッソー中佐が何人殺害したかは、防衛白書にも記載されることはなかった。ミッソー中佐は次の特命を受けた。それが【聖ピアス教団殲滅作戦】だった。工藤防衛大臣はアフガニスタンへミッソー中佐を派遣するにあたり、異例の状況説明を始めた。