「ミッソー中佐だよ」弘人が答えた。「ミッソーに会ったの？ミッソーは新型インフルエンザ対策で、朝霞駐屯地にいるはずだわ」ミサが聞いた。「もちろんミッソー中佐に会うことは出来なかった。それで電話で指示を仰いだってわけだよ」「なるほどね。ユーラを持ち出すなんて、ミッソーの考えそうなことだわ」「ミッソー中佐いわく、魔法語通訳を見つけだすのは難しいだろうから、裁判は休廷になるはずだ。そうなったらみさきさんの保釈要求を出して、みさきさんとさっさと結婚しろだって」

ミサ達は防衛省の1階にある喫茶ルームにいた。弘人はコーヒーを飲みながら弁解した。「ユーラちゃん、勝手に名前を出して悪かったね」「弘人兄ちゃん、私びっくりしたよ。魔法ショーなんて聞いてないよ」ユーラが口を尖らせて言った。「弘人さん、言っておくけど、ユーラに魔法を使わせることはしませんから」ミサが言った。「えっ？そうなの？もったいないなあ」「ユーラは普通の小学生として育てるつもりです」「わかった。肝に銘じておくよ」「なにはともあれ、これで検察側は公判が維持出来なくなるわね。弘人さん、誰の入れ知恵なの？」ユキが尋ねた。

なお、要請を受けて陸上自衛隊が処理を行うのは、陸上で発見されたものに限られる。水中で発見されたものや漂着機雷については、海上自衛隊の管轄となり、これは全国的に同一である。また処理に関する行政的な手続きは、必ず警察から自衛隊に要請されることになっている。通常は発見地の警察署から各警察本部に情報が入り、その処分要請を当該管区の方面総監【沖縄では第1混成団長】が受ける形で自衛隊が出動する。

成行裁判長と槍屋検事は、秘密裁判所の法廷の隣にある部屋で、今後の対策を話し合った。「弘人君は全くの素人だから、この裁判は検事側の勝訴となると思っていましたが、予想外に弘人君は手ごわいですね」槍屋検事が言った。「そのことだが、弘人君の背後に誰かいるのではないかね。素人があのような答弁が出来るわけがないのだ」「そうですね。作戦の練り直しが必要かも知れませんね」「やむを得ないだろうな。自衛隊にとって初めての裁判員制度による裁判だ。負けるわけにはいかない」

「弘人君、DVDが10万円とは、べらぼうな値段だな」成行裁判長は不満そうに言った。「裁判長、少しも高くありませんよ。このDVDの後半には魔法語解説が付録としてついていて、おまけにユーラの魔法ショーへ招待されるのです」またまたユーラが驚いた。「えっ？私の魔法ショー？」その時、槍屋検事が言った。「裁判長、弘人君の異議に対して検察側は少し相談したいと思います。休憩を要請いたします」「いいでしょう。本法廷はしばらく休憩に入ります」成行裁判長は木魚を思い切り叩いた。

一般的には信管内部にはバネで作動する撃針があり、この撃針の作動不良によって不発になることが多い。処理の際、万が一、撃針が再び動き出すようなことがあれば不発弾は炸裂することになる。だから不発弾処理は常に命がけのものとなる。

「魔法使いの少女ユーラは、検察側の証人であり弁護側の証人でもあります。故に魔法語通訳を本法廷に要請いたします」弘人はユーラに片目をつぶって見せた。「弘人君、ユーラが魔法使いの少女だと言うのだね。だが、魔法語とはそもそもどんな言葉なのかね？」成行裁判長が尋ねた。「ここにハリポタのDVDがあります。これを見れば魔法語がどんな言葉かお分かりになるはずです。希望者には10万円でDVDを販売いたします」

「弘人君、異議アリと言うことだが、何に対して異議があるのか説明しなさい。まさか私が木魚を叩くことに異議があると言うのではないだろうね？」成行裁判長は皮肉たっぷりに言った。「裁判長、法廷において被告人や証人が外国人である場合、証言の正確を期するため、通訳を法廷に呼ぶのは当たり前ですよね？」弘人は裁判長に向かって言った。「確かに弘人君の言う通りだ。だがこの法廷には外国人はいない。日本人ばかりだよ」「それは違います。証人として呼ばれている少女ユーラは魔法語を話す魔法使いなのです！」法廷内がどよめいた。だが一番驚いたのはユーラだった。「えっ！わ、私？」

こうした不発弾が見つかったときには、扱いを容易にするために信管を抜き取り、ひとまず安全な状態にしなければならない。これを安全化処理といい、不発弾処理というとこれをイメージすることが多い。信管はネジを切って弾薬にはめ込まれているから、これをレンチで緩め手で回して外す。

「異議アリ！」その時、弁護人の弘人が口をはさんだ。成行裁判長は木魚を叩く手を止めた。「弘人君、一体どうしたと言うのかね。今はみさきさんに対する起訴状の朗読が始まったばかりですぞ」成行裁判長は不思議そうに弘人を見た。起訴状の朗読中に、しかも朗読が始まって数分しか経過しないのに、弁護人が裁判を止めたのは前代未聞だった。