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神話読書会〜女神さまがみてる〜

神話読書会〜女神さまがみてる〜>掲示板

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  • from: エリスさん

    2009年01月30日 14時45分41秒

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    「封印が解ける日・6」


     ペイオウスが言ったとおり、それから二年の間アドーニスの転生はなかった。
     アドーニスは霊体のまま冥界で生活し、いろんな国の書物を読みあさって知識を身につけることに専念した。
     その間、一九九九年の夏を迎え、エリスが日本から帰国し、それと同時に世界は滅亡の危機に瀕した。
     しかしそれもエリスが育てた「宿命の女人」とその支持者とともに回避され、汚染された地球も、世界各地の神王がその身を犠牲にすることで浄化された――そのおかげで、人類は滅亡の危機があった記憶すら浄化されてしまったのである。

     オリュンポスではゼウス亡きあと、新しい神王としてアテーナーが即位した。その伴侶にはヘーパイストスが選ばれ、二人は晴れて念願の夫婦となれたのである。
     その頃のオリュンポスはベビーラッシュだった。神王であるアテーナーを始め、エイレイテュイアとキオーネー、アルテミスまでもが懐妊していた。
     「おそらく、あの聖戦で亡くなられた神々が再生しようとしているのよ」
     と、アテーナーは姉妹たちの前で言ったことがあった。「私には分かるの。このお腹の中にいる子は、間違いなく我らが父・ゼウスよ」
     「実は私もそんな感じが」
     そう言ったのはエイレイテュイアだった。「おそらく私の中にいるのは、お母様――ヘーラー女神だわ」
     「亡くなられた皆様は、それぞれ自分たちの娘の子供として再生しようとしているのですね」
     と、アルテミスも言った。「そう言われると、私もこの子が母・レートーのような気がしてきました」
     「そうなると……」
     両性具有の神として転生したエリスは、第二妃であるキオーネーの肩に手をおいて、言った。「子供を産まなくなったわたしの代わりに、キオーネーが我が母・ニュクスを産んでくれるのかな?」
     「そんな、恐れ多い……」と、キオーネーは両手を握り合わせた。「でもそうなら、きっと無事にお産み申し上げますわ」
     その場にはペルセポネーもいたのだが、自分だけ子供を授かっていない寂しさから、何も言うことができなかった。
     その数日後のことである……。
     新しき王の誕生祭が開かれ、王宮にオリュンポス中の神々が集まった。
     冥界の王であるハーデースとペルセポネーも当然招かれた。アドーニスにも招待状が届いたが、まだ実体もない霊である彼は丁重に辞退した。
     宴の間には、さすがにベビーラッシュだったせいで、赤ん坊を連れて出席する女神が多く見られた。赤ん坊といっても神の子である。すでに言葉を話す子までいて、立派に社交界デビューを果たしていた。
     ペルセポネーのもとにも、そういった赤ん坊たちが母親に抱かれて挨拶にきた。その子たちがみな可愛くて、ペルセポネーは嬉しそうに、また羨ましそうにその子たちを覗き込むのだった。
     そこへ、一人の男神が妻をつれて現れた。
     「ご機嫌よう、ペルセポネー様」
     酒の神ディオニューソスだった。
     「まあ、ディオニューソス、ご機嫌よう。あなたもお子様を連れていらっしゃったのね」
     ペルセポネーが言うとおり、元は精霊であったという妻の腕の中には、産着にくるまれた赤ん坊がいた。
     「はい。我が息子・クレースを見てやってくださいませんか。わたしの赤ん坊のころに良く似ていると、皆がそう言うのです」
     「まあ、どれどれ……」
     ペルセポネーはその赤ん坊の顔を覗き込んで、ドキッとした。
     『……この子を……知っている』
     ペルセポネーの動揺を感じたハーデースは、しまった! と思った。が、もう遅い。
     ペルセポネーの中で何かがほつれ始めてしまっていた。
     「……知ってる……見たことがあるわ、私は、この子を……」
     立っていられなくなり、膝が折れてしまう前に、ディオニューソスはペルセポネーを抱きとめた。
     「思い出していただけましたか?」
     と、ディオニューソスは言った。
     「よせ!」
     ハーデースの制止など、無意味だった。
     「思い出していただけましたか……母上」
     ディオニューソスの言葉で、ペルセポネーはすべてを思い出してしまった。
     「あなたは……ザクレウス……」

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  • from: エリスさん

    2009年01月30日 12時28分36秒

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    「封印が解ける日・5」


     就寝時間になり、ハーデースとペルセポネーは夫婦の寝室に、アドーニスも自分の部屋へと戻った。
     そしてアドーニスは、内線電話の役目をする水鏡を使って、ハーデースの側近であるペイオウスを呼び寄せた。
     「ホットミルクを持ってきて」
     「畏まりました」
     侍女にでも頼めばいいことを、わざわざ自分に頼むところをみると、何か他にも用事があるのだな……と察したペイオウスは、ホットミルクを作るとすぐにアドーニスの部屋へと行った。
     思ったとおり、アドーニスは夜着にも着替えずにソファーに座っていた。
     「ここに座って。聞きたいことがあるんだ」
     「ご両親には聞かせたくないお話でございますね、アドーニス様」
     「さすがはペイオウス。話が早いね」
     「恐れ入ります」
     ペイオウスはホットミルクをアドーニスの前に置いてから、アドーニスとは斜向かいになるソファーに腰かけた。
     「僕はつねづね思っていたんだ。ペルセポネーお母様の実子として生まれてくる運命を持っているのは、僕しかいないって」
     アドーニスはホットミルクに一口だけ口をつけてから、そう言った。
     その言葉に、ペイオウスも頷いた。
     「それは、お傍に仕えております我々も思うところでございます」
     「でも、僕はいつまでたってもお母様のお腹の中に入れない……どうしてだと思う?」
     「それは……」
     答えに詰まっていると、アドーニスはフッと笑いかけて、言った。
     「お母様が、未だに処女だからじゃないの?」
     「……お気づきでございましたか」
     「もう千年だよ、僕がお二人の養子になってから。うすうすは気づくさ。でも、はっきりと確信が持てたのは、遠藤章吉になってからだよ」
     アドーニスは、今度はホットミルクを二口ほど飲んでから、カップをテーブルに戻した。
     「日本という国は面白いところでね、もともとが多神教の国だったからか、いろんな国の神や仏が伝わってきていたんだ。二つの宗教のいいところだけを取って新しい宗教を作ったりとかね、とにかくなんでもありで。おかげで、いろんな国の神話の書籍が読めたんだよ。その中には当然のように、ギリシアの神話――僕たちのことが描かれていた」
     「どんな風に描かれていましたか?」
     「さまざまに……嘘みたいな本当の話とか、完全に辻褄の合わない話とか……僕のことは、悲劇の美少年として描かれていたかな。アプロディーテー様の恋人として。僕がどんなにお母様とお父様に愛されていたか、なんてことは割愛もいいところだ」
     「まあ、愚かな人間の書く書物ですから」
     「そうだろうね。お二人のことなんか、お父様が、まだ幼いお母様を略奪して妻にしたような書き方をされていたよ」
     「間違いも甚だしいですな」
     「じゃあ、これも嘘かな? ……お母様が、実父であるゼウス神王との間にザクレウスという御子を儲けた、って話は」
     「……そんな話まで……」
     驚愕しているペイオウスの顔を見て、アドーニスは悲しげに微笑んだ。
     「その話は、本当なんだね」
     「はい……」
     ペイオウスは、ペルセポネーがゼウスに暴行されて罪の子を孕み、それによって正気を失ったことや、正気に戻すためにエリスとその兄・ヒュプノスがペルセポネーの記憶を封印したこと、そしてカナトスの泉によって処女に戻ったことなどを話した。
     「なるほど、そうゆう背景があったのか。それじゃお母様は、子供を作ること自体を知らないんだね。それじゃ、さっきお母様が口走った〈共寝〉なんて言葉は……」
     「おそらく、ただの添い寝のことだと思っておられます」
     「どうりで。これで納得がいったよ。お母様がいつまでも少女のような容姿をしているわけも、なにもかも。それじゃいつまでたっても、僕はお二人の実子になれないわけだ」
     アドーニスはそう言うと、軽く笑ってから溜め息をついた。
     「……良かった」
     「は? なにがでございますか?」
     「いや、ちょっと疑っていたんだ。書物に書かれている神話は、実際に僕が見聞きしたものと違うということは分かってた。だから、お母様が実父と不義の関係にあったなんて、絶対に信じたくはなかった。でも、ペイオウスからちゃんと真実を聞かせてもらって、お母様がお父様を裏切っていないって分かって、やっと本当に安心したよ。……分かればさ、僕もいつまでも待とうって気になるし」
     「アドーニス様……わたしは、もしかすると近いうちに〈その日〉が来るのではないかと思っているのです」
     「〈その日〉が?」
     「はい。実は……いつもなら、アドーニス様は三日と経たないうちに次の転生先へ行かれるところなのですが、今回は、次の転生まで二年もあるのです」
     「二年も? 本当に?」
     「その間に、なにかあるのではないかと……わたしの勝手な憶測ですが」
     「へえ……」
     アドーニスは、残りのホットミルクを一気に飲み干した。
     「その憶測、当たることを願ってるよ。じゃあ、もう寝るね」
     アドーニスはそう言って、カップをペイオウスに手渡した。
     「はい、おやすみなさいませ、アドーニス様」
     アドーニスはペイオウスが部屋から退出するのを、手を振りながら見送った。

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  • from: エリスさん

    2009年01月23日 14時56分03秒

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    「封印が解ける日・4」
     そんな二人のやりとりを見ていて、ハーデースが笑った。
     「いいじゃないか、ペルセポネー。感じ方は人それぞれ。愛情表現もまたしかりだ。親子だからと言って何もかも同じでなくてはならないってことはないよ」
     「それもそうですわね、あなた。アドーニス、もう一口ちょうだい」
     「はい、喜んで」と、アドーニスはまたフォークにお肉を刺して、ペルセポネーの口の中へ入れてあげた。
     「それにしても、あんなに嫌いだったトマトを、今回の人生では良く食べられるようになったものだな」
     とハーデースが感心しながら言うと、アドーニスは悲しそうな笑顔を見せた。
     「好き嫌いなど言っていられなかったのですよ。戦争で」
     アドーニスが遠藤章吉として生きていた日本では、一九〇四年――章吉が四歳のころには日露戦争が勃発している。その後も第一次・第二次世界大戦と、四十五歳まで戦争続きの日本で生き延びてきたのである。
     「戦争が終わっても、すぐには豊かになれません。食糧難の日本で、好き嫌いなど言っていられる余裕はなかった。明日の食料を確保するのも難しい世の中だったんです」
     「そう……」
     ペルセポネーは胸が詰まるような思いで聞いていた。
     「でも幸い、僕は遠藤家の長男として生まれ、しかも極度の近眼だったので、徴兵は免れました。あんな世の中にいたのに、誰も殺さずに済んだことは幸運以外のなにものでもありません。……もしかして、お父様のご加護があったのですか?」
     その問いに、ハーデースは首を振った。
     「他国にいるそなたに、わたしの加護など及ばないよ。確かに、日本の冥界の神である伊邪那美の命(いざなみ の みこと)殿にお願いしたことはあるが、その時かの女神は〈神にゆかりのある御子だからといって、その子だけ特別扱いはいたしません〉と、わたしをたしなめたよ。だから、そなたが戦乱の世に人を殺さずに済んだということは、それはそなた自身の功徳だ」
     「本当ね。あなたがちゃんと天寿を全うできて良かったわ、アドーニス。私もあの戦争の時は、あなたが心配でたまらなかった。あなたが、悲惨な世界に蝕(むしば)まれて、身も心も汚れてしまうのではないかと」
     「もう二度とごめんですよ、戦争は。早く地球から戦争なんて愚かなモノがなくなってくれることを願います」
     「まったくだ……まあ、暗い話はそのくらいにして」
     と、ハーデースは咳ばらいをした。「なにか楽しい思い出はないのかな? それこそ、恋の話とか」
     「恋ですか?」
     「そうそう!」と、ペルセポネーは思い出したように言った。「あなた、アプロディーテーのように嫌な女に口説かれていたことがあったでしょ? あの尻軽女に変なことはされなかったの?」
     「ああ、あの十八の頃に出会った美人の後家さんのことですね。大丈夫ですよ。確かにしつこい女でしたけど、僕にはもうその頃には許嫁者(いいなずけ)がいましたからね。僕が何かする前に、その許嫁者の実家の方で圧力をかけてくれたみたいで、どこかに消えてしまいましたよ。その後、無事に僕は許嫁者と結婚して、夫婦仲は円満でした」
     「そう! 良かったわ」
     ペルセポネーが安堵している横で、アドーニスは何か思い出したらしく、プッと笑った。
     「どうかしたの?」
     「いえ、ちょっと思い出したことがあって。僕のひ孫たちはみんな本を読むのが好きで、ときどき集まっては本の議論をしていたんですよ。その議論の中に、先ほどお母様が言っていた事と同じ言葉が出てきたんです」
     「あら? なに?」
     「アプロディーテーのように嫌な女――実際は〈ヴィーナスのように嫌な女〉と言っていたんですが。なんでも、ひ孫が愛読している作家のエッセイに、そうゆう一文があったそうで。特定の恋人がいるにも関わらず、誰とでもデートするような貞操観念のない女性に対して、侮蔑的に言った言葉なんだそうです。それを読んでひ孫がこう言ったんですよ。〈ヴィーナスに譬えた時点で、それは侮蔑の言葉ではなく褒め言葉にならないか〉って」
     「まあ、普通はそう解釈するでしょうね。アプロディーテー――イギリス語でヴィーナスは、美の女神。美しい女性の形容詞として使われるのが最もですものね。でも……アプロディーテーの本性を知っている者は、そうはとらない」
     ペルセポネーが言うと、ハーデースも頷いてこう言った。
     「その、ひ孫が愛読していた作家とは誰なんだ?」
     「お二人がご存知かどうか……。嵐賀エミリーという日本のライトノベル作家ですよ」
     「あら!」と、ペルセポネーが驚いた。「それはエリスのことよ!」
     「え!? エリスって、あの不和女神のエリス様ですか?」
     「そうよ。罪を償うために人間となった彼女は、あなたと同じ日本人として生まれて、片桐枝実子――ペンネームを嵐賀エミリーとなって、小説家として生きているの。エリスが言ったのなら、その言葉は間違いなく侮蔑的言葉だわ」
     「エリスはアレースの親友でありヘーパイストスとも親交があった。アプロディーテーの貞節の無さには昔から眉をひそめていたからな」
     「そうだったんですか……」
     「あの人は本当にどうかしているのよ」と、ペルセポネーは言った。「愛する夫がいるのに、見目好い男の子を見つけるとすぐに傍に呼び寄せて。あんまりひどいから、私、忠告したことがあるのよ。そうしたらあの人ね、〈別に共寝をしてるわけじゃないからいいじゃない〉って言ったのよ。そうゆう問題じゃないでしょ?」
     ペルセポネーのこの言葉に、アドーニスとハーデースはちょっと慎重になった。
     返答次第ではペルセポネーが平静でいられなくなる、それぐらい危険な言葉を口にしたのに、当のペルセポネーはそれが分かっていないようだった。

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  • from: エリスさん

    2009年01月23日 12時25分31秒

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    「封印が解ける日・3」
     西暦1999年の春。アドーニスにとってこれが何度目の帰郷になるか、もう覚えてもいられなかった。
     ただ今回の、日本人・遠藤章吉としての人生が九十九年とかなり長かったこともあり、アドーニスは以前の記憶を手繰り寄せるのに少し時間が欲しいからと、夕食の時間になるまで自分の部屋で一人になることを望んだ。
     自身も長い眠りの間に記憶があやふやになった経験を持っていたペルセポネーは、アドーニスの気持ちを察して、自分がしたいとおりにさせてあげた。
     早くアドーニスと話がしたい気持ちを抑えながら、ペルセポネーは自ら夕食の準備をした。そうしているうちに、ハーデースも今日の任務を終えて食卓に現れ、アドーニスもすっきりした面持ちで部屋から出てきた。
     「さあ、食事にしましょ!」
     ハーデースとペルセポネーはいつも隣り合った席に座る。
     そしてアドーニスは、ペルセポネーの斜向かいに座った。
     普通は向かい合って食事をするものだと思うのだが、この家族はちょっと変わっていた。なぜなら……。
     「ハイ、あなた。アーンして」
     ペルセポネーがその細い指でつまんだパンの切れ端を、ハーデースの口元に近づける。すると、ハーデースは「アーン」と言いながら口をあけ、食べさせてもらうのだ。
     「次は君の番だよ。何がいい?」
     「杏のヨーグルト添え」
     「杏だね」
     ハーデースは杏を一切れ取ると、それに少しだけヨーグルトを付けて、ペルセポネーの口の中に入れてあげた。
     そんなイチャイチャがしばらく続いているのを見て、アドーニスは言った。
     「お二人は相変わらずなんですね」
     「相変わらずも何も」と、ペルセポネーは笑った。「私たちは結婚する前からこんな感じだったのよ。変わりようがないわ」
     すると、ハーデースも言った。「これがわたし達の夫婦仲の秘訣なんだよ、アドーニス。そなただって、自分の両親が仲睦まじいのは嬉しいだろ?」
     「嬉しいですよ。でも、お二人がいつもそうやってお互いに食べさせあっているので、我が家の食卓は肉や魚より、先に果物とパンが無くなってしまうんですよね。僕はデザートは最後に食べたいものだから」
     「だって、お肉やお魚は素手で食べるのに適していないのですもの」
     ペルセポネーがそう言うので、アドーニスは微笑むと、自分のフォークにお肉を刺して、
     「ハイ、お母様。アーン!」と、差し出した。
     「あら、いただきます」
     ペルセポネーは喜んでそれを食べさせてもらった。
     「ね? なにも素手でなくても、こうやってフォークや箸で相手の口に運んであげればいいんですよ」
     「もう、分かっていないわね、アドーニス。素手で差し上げることに意味があるのに。ホラ、アドーニス」
     ペルセポネーはサラダの中からプチトマトを摘まんで、アドーニスの口の中に入れてあげた。
     「おいしい?」
     「おいしいです、お母様」
     「ホラ! 素手であげた方が、あなたも嫌いなトマトをおいしく感じられるじゃないの」
     「ああ! 残念でした。僕はもうトマトが嫌いじゃなくなったんですよ。日本にいる間に食べられるようになったんです」
     「あら、つまらない……」

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  • from: エリスさん

    2009年01月23日 11時44分08秒

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    「ご報告 続き」
     新風舎で出版したときに誤植になってしまったところも、ちゃんと修正されています。

     そして、値段もお求め易くなりました。

     写真の下になっているのが「新風舎版 罪ゆえに天駆け地に帰す」
     上が「文芸社版 罪ゆえに天駆け地に帰す」
     ちょっとだけ安くなってるでしょ? 千円でおつりが出ます(^-^)


     実際に店頭に並ぶのは3月になってからですが、予約はもうできますので、皆様よろしくお願いします。


     「罪ゆえに天駆け地に帰す」
    著 者・淮莉須 部琉(エリス ベル)
    発行所・文芸社
    3月15日発売予定

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  • from: エリスさん

    2009年01月23日 11時34分40秒

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    ご報告

     出版社の倒産により絶版に追い込まれた私の著作「罪ゆえに天駆け地に帰す」ですが.....。


     このたび、文芸社さんから再版されることになりました(^O^)/

     今朝このように、見本として我が家にも届きました。
     我が家に届いた25冊は、著者である私が好きなように使っていい本なので、

     私の知り合いの方で欲しい人がいたら、言ってね。届けますんで(^◇^)


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  • from: エリスさん

    2009年01月16日 15時50分49秒

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    「新連載を始めたばかりだというのに...。」
     すみません。

     もう一個の「恋愛小説発表会・改訂版http://www.c-player.com/ac64813/message  ac64813@circle」は更新したんですが、

     こちらは今日は休載しますm(_ _)m
     午前中、仕事だったもんですから、今日はあまり時間がなくて。
     来週は丸一日お休みなんで、こんなことがないようにします。

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  • from: エリスさん

    2009年01月09日 14時05分17秒

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    新連載を始めました。

     2007.11.06に発表した「アドーニスの伝説」を覚えていますか?
     一年以上も前の作品の続編を書こうなど、無謀なのは分かっています。読者の皆さんはもう忘れてしまっているかもしれませんしね。
     でも書きたかったんです。なぜか.....。

     ペルセポネーとハーデースって、手に持った食べ物をお互いに「お口アーン」して食べさせてあげるって設定にしてあるんですけど、それを最近――先月ですけど、私自身がある人にやってあげたことで、またこの二人の夫婦仲が書きたくなったんです。

     先月そんなことがなければ、またエリス女神の百合ネタ書くつもりだったんですけどね。

     え? 誰にやってあげたのかって?.......もう一個の小説サークルで私が「雪割草くん」って呼んでる子にですよ(*^_^*)
     まあ、淡い恋の記念ってやつですか。しばらくそんな楽しいこともないと思いますが、この年増にはorz


     そんなわけで、「アドーニスの伝説」をお忘れになってしまった皆さんは、2007年11月6日までさかのぼっていただきまして、再読お願いします。

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    2009年01月09日 13時52分23秒

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    「封印が解ける日・2」


     冥界の王ハーデースが住む居城は、三つの川が流れる畔にあった。
     番犬のケルベロスはその近くまでアドーニスとペルセポネーを送り届けると、アドーニスの腰のあたりに体を摺り寄せてから、また自分の仕事に戻って行った。
     「ありがとね、ケロちゃん。また後で遊びに行くよ」
     「ワホン!」
     怪物で知られるケルベロスだが、飼い主とその家族には忠実な優しい犬だった。
     居城に入ると、先ずハーデースの側近のペイオウスが待っていた。
     「お帰りなさいまし、アドーニス様。九十九年ぶりでございますね」
     「ただいま、ペイオウス。お父様は?」
     「あいにく、まだお仕事が忙しくて。でも、夕食の時間にはお戻りになりますよ」
     「それじゃ、仕事場に顔を見に行っては駄目かな?」
     「おお、そうしてくださいますか。きっとお喜びになります」
     「じゃあ、行っちゃお」
     つい昨日まで九十九歳の老人だったと言うのに、すっかり少年に戻っているアドーニスだった。
     ハーデースの書斎は居城の一番奥にあった。アドーニスがノックしてから中に入ると、そこでハーデースは電話を片手にパソコンと格闘していた。
     「そうそう、百八歳で明日死ぬ老婆を、二十日後にインドの死者の国に送り届けてくれ。次はインドの農家の娘に生まれ変わる予定だからな。そうだ、よろしく頼むぞ」
     ハーデースはそう言って電話を切ってから、パソコンのキーを弾いて何事が入力した。
     「うん、これで良しっと」
     と、エンターキーを押したところで、アドーニスは声をかけた。
     「お忙しそうですね、お父様」
     その声にハーデースは振り返り、途端に笑顔になった。
     「アドーニス! 無事に帰ってきたか!」
     ハーデースは息子のそばに寄ると、しっかりと抱きしめるのだった。
     「お帰り、アドーニス。日本での九十九年間はどうだった?」
     「ハイ、お父様。充実した人生でした。途中、戦争などもあって辛い時期もありましたが」
     「おお。あの時期はわたしもペルセポネーも心配したものだったよ。しかし、最近の日本は平和だったろ?」
     「ハイ。なにしろ面白かったですよ。それにしても……」
     アドーニスはハーデースの腕から離れると、書斎を見渡した。
     「オリュンポスも随分近代化されたのですねェ……」
     電話とパソコンだけではなく、テレビもビデオもDVDまで置いてあった。
     「神界もいつまでも神秘なだけの世界ではいられなくてな」

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  • from: エリスさん

    2009年01月09日 12時13分50秒

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    封印が解ける日・1

     ここはどこだろう?
     気がついたら彼は、そこを歩いていた――洞窟は緩やかな下り坂になっていて、壁面にロウソクが立てられているおかげに真っ暗ではないが、心もとない。
     『どうしてわたしは、こんなところを歩いているんだろう?』
     彼は記憶の糸を手繰り寄せながら、それでも歩くことをやめなかった。
     『そうだ、わたしは死んだのだ……』
     九十九歳の誕生日をあと三日で迎えられると、家族に励まされていたものを、老いとともに衰弱していく体をどうすることもできなかった。
     それでも、自分は不幸ではなかった。三人の息子とその嫁、孫と曾孫、玄孫(やしゃご)までいくと何十人いるか覚えていられないほどの親族に看取られて、自分は死を迎えた。まるで釈迦のようだ、と満足もできる。
     『それじゃわたしは、あの世へ行こうとしているのか? はて、三途の川への道筋はこんなだったか? 聞いていた話と違うような』
     しばらく歩いていると、道端に何かがうずくまっているのが見えた。
     よく見ると動物のようだった。さらによく見ると、それには三つの頭があり、尾は背びれのついた竜のような形をしていた。
     一瞬恐ろしく思ったが、しかしすぐに彼は懐かしさに襲われた。
     『見覚えがある……なんだろう? 見るからに怪物なのに、少しも恐くない。それどころか……』
     近づいて、その頭を撫でたくなってくる。
     ずうっと見つめていたからだろうか、その怪物が彼に気づいて、眠っていた体を起こした。
     そして、怪物は嬉しそうに「ワホン!」と鳴いて見せた。
     「ああ、やっぱり……わたし達は――僕達は友達だよね」
     彼は一瞬にして若返り、十二歳ぐらいの少年の姿になった。
     怪物は彼に駆け寄ると、真ん中の頭を彼の足に擦りよせてきた。
     彼もそんな怪物の頭を撫でているうちに、思い出した。
     「そうだ! ケロちゃんだ! おまえは僕の友達、ケルベロスだよね! そして僕は……僕の名前は!」
     その時だった。
     「アドーニスゥ!」
     奥から雲に乗った女性が飛んでくるのが見えた。
     いつまでも少女のような愛らしい面立ちの女性を、彼はすぐに思い出した。
     「お母様! ペルセポネーお母様!」
     その女性――女神ペルセポネーは雲から飛び降りると、愛する息子である彼を抱きしめた。
     「お帰りなさい、アドーニス」

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