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神話読書会〜女神さまがみてる〜

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  • from: エリスさん

    2015年04月24日 11時33分33秒

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    悠久の時をあなたと・6

    数日後、クロノスとレイアーの為の居城が出来上がり、二人はキュクロープス兄弟も連れて移り住んだ。
    二人の夫婦仲は誰もが羨むほど睦まじく、レイアーに求婚していた兄神たちもこれで完璧に諦めた。そのおかげで、テイアーも晴れてヒュペリーオーンから求婚してもらえたのである。
    自分の子供たちが次々と伴侶を迎えるようになって、安心したガイアは隠居することを決めて、その報告をするためにクロノスとレイアーの居城を訪れた。すると居城の庭園には、ありとあらゆる作物が育っていて、まるでどこかの農家を見るようで、王と王妃の居城らしからぬことに面食らった。
    『そう言えば、クロノスの元の屋敷も庭には野菜ばかり育っていたな......』
    そもそもクロノスは農耕の神である。自らが司(つかさど)る物を研究する為に、我が家の庭で作物を作っていてもおかしくはないのだが、今は万物の父という立場にある。これは少し改めさせねばならないか......と思いながら居所の中に入ると、侍女たちが慌ただしくしているのにまた驚いた。
    「いったいどうしたと言うのだ?」
    ガイアが侍女の一人を呼び止めて聞くと、
    「神王さまが大怪我をなさって、ただいま治療を......」
    「クロノスが!? いったい何があったのだ」
    「それが......プロンテース様とステロペース様が、素手で神王さまをお触りに......」
    「なんじゃと!」
    プロンテースとステロペースは、クロノスがレイアーと楽しそうに庭の畑を耕しているのを見て、兄を取られたと嫉妬し、レイアーからクロノスを取り戻そうと二人してクロノスに抱きついてしまったのである。おかげで、クロノスの腹部と背中には火傷と凍傷が並んで出来上がってしまったのだった。
    ガイアも急いでクロノスの寝室へ向かうと、部屋の中からレイアーの叫び声にも近い声が聞こえて、足を止めた。
    「火傷のところを冷やそうと思うと、すぐ傍に凍傷もあって冷やせないし、かと言って温めることもできないし!」
    レイアーがそう言うと、たしなめるようにクロノスが「レイアー!」と言った。
    ガイアが入口の側から中を伺うと、レイアーが自分の言った言葉で二人の弟を傷つけてしまったことに気付いて、後悔している姿が見えた。
    レイアーはうなだれている弟たちの傍によると、身を屈めて言った。
    「ごめんなさいね。あなた達だってお兄様に怪我を負わせたかったわけではないのに。ただ、私にお兄様を取られたと思って、寂しかったのよね」
    するとプロンテースもステロペースも、首を縦に振って頷いた。
    「本当にごめんなさい。私がいけなかったのね、クロノスを独り占めしてしまったから......私ったら、ついクロノスの傍にいられることが嬉しくて、あなた達を思いやることを忘れてしまったわ。本当に、許してね」
    レイアーは二人の頬に手を触れると、先ずプロンテースに、次にステロペースに頬ずりをした。すると二人も、レイアーの頬に自分の頬を摺り寄せた。
    それだけで、お互いに「ごめんなさい」の気持ちが伝わって来た。
    おかげでレイアーはいいことを思いついた。
    「ねえ? これからは今のを私たちの挨拶にしましょう! お互いに"大好き"って気持ちを伝える挨拶よ。こうやって頬を合わせれば、手なんか使わなくったって、私たちはお互いの気持ちを伝えあえるわ」
    「ああ! いい考えだね!」と、クロノスも言った。「プロンテース、ステロペース、僕にもしておくれ」
    すると二人は笑顔になって、クロノスのベッドに走り寄り、横になっているクロノスの左右から、何度も何度も頬ずりをするのだった。
    収まりがついたところで、ガイアは部屋の中へ入って来た。
    「お邪魔するよ、みんな。ああ、いいよ動かないで。クロノス、それぐらいの怪我なら私が治してやろう」
    ガイアはクロノスの腹部に手を当てると、神力を分け与えた。するとクロノスの自然治癒力の力が増して、みるみるうちに火傷も凍傷も治っていった。だが反対にガイアが体力を消耗して、その場に倒れそうになった。
    咄嗟にレイアーが駆け寄って抱き留めたので、事なきを得たが......その時、レイアーは気付いた。
    「お母様、ご懐妊していらっしゃるの!?」
    ゆったりとした服を着ていたので今まで分からなかったが、抱き留めたそのお腹は、紛れもなく膨らんでいたのである。

    ガイアを客間のベッドに運び、体力を回復させるための神酒(ネクタル)を飲ませると、ガイアの青ざめた表情も元に戻って行った。それでも大事を取ってそのまま横になっていたガイアに、レイアーは尋ねたのだった。
    「お父様との、最後の子供ですのね」
    「そう......クロノスがプロンテース達を助け出しに行っている間、私はウーラノスに気取られぬよう、体で引きつけておいたから......まあ、こうなることは分かっていたことだ。誰も気に病むことはない」
    「......」
    レイアーは返す言葉がなかった。その救出方法は自分も容認したことである。その結果、またガイアが怪物を産む危険性があると分かっていても。
    気に病むな、と言われてもそれは無理なのだろう――と、娘の表情から察したガイアは、にっこり笑って言った。
    「この子はあとひと月もすれば生まれて来よう」
    「ひと月ですか!? 相変わらずお母様の妊娠期間は短いですね」
    「そうであろう? これも大地の女神としての能力だ。それでな、私はこの子を西の果ての静かな所で産みたいと思う。そして、そのまま居つこうと思うのだが......」
    「居つく? お母様、ここからお離れになるの?」
    「そう、つまり隠居だ。後継者に後を譲ったのだ、それも良かろう?」
    「お母様......」
    「神々を産む役目は、もう終わった......後はそなた達、若い世代に任せます。だから、そなたも子を作りなさい」
    するとレイアーは顔を赤らめて、
    「はい......まあ、そのうちに......」
    「そのうちに、とは何です」
    「まだプロンテースもステロペースも幼いので、二人が生まれてきた子に嫉妬を焼かなくてもいいような年齢になるまでは......それにクロノスが、"僕はまだ子供だから、しばらく子作りは遠慮したい"と......」
    「クロノスがそんなことを? それでは、そなた達はまだ......」
    ガイアが言わんとしている事を察して、またレイアーは赤面した。
    「でも、体のつながりがなくても、私たちは幸せですよ」
    「それはそうかもしれないが、仮にもこの国を治める王と王妃がそれでは......プロンテース達が邪魔なら、二人は私が引き取るが?」
    「そういうことではないのです。単純に、クロノスがまだ決心がつかないだけなのです。まだ12歳と言う若さで、体のつながりを覚えてしまったら......お父様のような、欲望の塊になってしまうのではないかと......」
    「ああ......そういうことか......」
    だからプロンテースたちを逃げ口上にして、子作りを避けているのである。
    「そういうことなら、二人の好きにしたらいい。その他の、この国のことは任せましたよ」
    こうしてガイアは西の果てに住まいを移し、そこで怪物ヘカトンテイルを産んだ。このヘカトンテイルは50の頭と100本の腕を持っていて、しかも50の頭はそれぞれに性格が違うため、ガイアも退屈せずに子育てを楽しんでいると言う。
    そしてプロンテースとステロペースは、他の兄弟にくらべて成長が早く、また手先が器用であることも分かったので、居城内に工房を立てて、クロノスの指導の下で農耕具を作ることを仕事とした。人の役に立てる仕事を得たことで、二人の子供らしい嫉妬心もいつの間にかなくなっていったのである。
    そしてクロノスも、身も心も立派な大人に成長を遂げていた。
    クロノスとレイアーは、とうとう本当の夫婦になることを決心したのだった。

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