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神話読書会〜女神さまがみてる〜

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  • from: エリスさん

    2015年06月26日 11時40分51秒

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    悠久の時をあなたと・9

    レイアーが懐妊したことを知ったガイアは、すぐさま庭園に産小屋を作り始めた。今回のは、前回のに比べても数倍頑丈で、最近になって発見された鋼をキュクロープス兄弟が格子戸にしたのだった。いくら正気を失ったクロノスでも、破壊できそうにないぐらい頑丈だったそうである。
    そして、その日はやって来た。
    産気づいたレイアーはすぐに産屋に運ばれた。そしてガイア自らが助産をし、さらに産屋の周りを屈強の兵士たちが取り囲んだ。
    その甲斐あって、レイアーは二人の男の子を出産した。片方は済んだ海のような青い瞳で、残る一人は月の無い夜空のように澄んだ黒い瞳で、どちらも成長するのが楽しみなぐらい、生まれながらに容姿が整っていた。特に夜空の瞳を持つ赤ん坊は、クロノスにそっくりだった。
    今日はクロノスが外で暴れている様子はない――無事に子供を産むことが出来たのだ――そう思えたのは一瞬の儚い夢だった。
    壁がミシッと音を立てると、あっという間に壁が崩れ、そこに正気を失ったクロノスが立っていた。
    「レイアー! 逃げなさい!」
    ガイアの言葉に弾かれるように、レイアーは二人の赤ん坊を抱きかかえた。だが逃げ出せなかった。一瞬でガイアを気絶させたクロノスは、レイアーの......いや、赤ん坊の前に立ちはだかったのである。
    「クロノス、止めて!!」
    レイアーは必死の抵抗をしたが、先ず青い目の赤ん坊を奪い取られてしまう。それでも、レイアーは死に物狂いでクロノスの手首を掴んで、赤ん坊を口に入れさせまいとした。
    「やめて、お願いだから、クロノス! せっかく生まれてきた私たちの子よ」
    だがレイアーの声はクロノスに届かなかった。クロノスは奇声を発すると、これでもか! という力でレイアーを叩きのめし、赤ん坊を奪い取った。
    脳震盪を起こして意識が失われようとしている時、レイアーは夜空の瞳の赤ん坊も奪い取らたのを感じた。
    レイアーが意識を取り戻したのは、自室のベッドの中だった。既に赤ん坊たちはクロノスの胃に納められた後で、レイアーをここまで運んできたガイアも、左目のあたりに大きな痣を作っていた。
    「クロノスは?」
    レイアーの問いに、ガイアはため息を付いてから、「自分の部屋よ」と答えた。
    「また、記憶を失っているの?」
    「どうであろう......まだ話してはいない」
    「では、私が話してきます」と、レイアーがベッドから出ようとすると、
    「まだ寝ていなくてはならぬ。そなたも頭部にダメージを受けているのだ」
    「でも、私でなくては、あの人のことは分からないわ」
    「もう、よしなさい!」
    ガイアは泣きながら娘を引き留めた。「もう......クロノスと別れなさい」
    「お母様!?」
    「このままでは、そなたはいつまでたっても母親にはなれぬ! 私の後継者として、次世代に繋ぐ子を産み育てなければならないというのに、次から次へとクロノスに食われてしまう。とんでもない話です! だからもう、あなたはクロノスと別れて、新しい婿を迎え、この世界の女王として、死んでいった子たちを新しく生み直すのです」
    ガイアの言葉に、レイアーは何度も何度も頭を左右に振った。
    「私はこの世界の女王になりたいわけではありません。私はクロノスの妻で居たいのです。クロノスのことを、神王として相応しくないと仰せなら、私も一緒に王后の座を降ります」
    そう言い切ったレイアーは、ガイアの制止も聞かずにクロノスの部屋へ行った。
    クロノスは、目を覚ましていた。そしてベッドに横たわったまま、じっと自分の手を目の前に翳していた。
    「クロノス、気が付いていたのね」
    レイアーは言いながら歩み寄って行った。「良かったわ。具合はどう?」
    するとクロノスはゆっくりと視線をレイアーに向けた。――そして、言った。
    「わたしだったんだな?」
    「え?」
    「子供たちを......殺していたのは、わたしだったんだな?」
    ずっと見ていたクロノスの手首には、必死にレイアーが引き留めた時の指の跡が残っていた。
    「わたしが殺していたんだ! いったいどうやって? わたしはどうやって子供たちを殺した!」
    レイアーが何も言えずにいると、クロノスは自分の喉に違和感を感じて、手を当てた。
    「......飲みこんだのか?」
    クロノスが出した答えに、レイアーはもう泣くことしかできなかった。
    「そうなんだな? わたしは、我が子を飲みこんで、殺したのだな!」
    「あなたのせいじゃない!」と、レイアーはやっとの思いで口を開いた。「あなたに呪いをかけたお父様――ウーラノスが、すべてやらせたのよ!」
    「違う! そうじゃない!」
    クロノスはガバッと起き上がった。「父上はわたしに悪夢を見せただけ......悪夢でわたしを苦しめただけで、その悪夢を真に受けて子供たちを殺したのは、わたしの心の弱さだ! しかもわたしは、そのことをずっと忘れていたなんて......」
    「クロノス、違うわ。お願い、私の話をよく聞いて」
    レイアーは震えているクロノスの体を抱きしめながら、話した。
    「あなたは被害者なの。すべてはウーラノスの仕業(しわざ)――あなたに悪夢を見せて、恐怖であなたを操っていたの。そうでなかったら、誰が好き好んで我が子を飲みこんだりするものですか! だから、あなたは何も悪くないのよ」
    だが、そんな言葉でクロノスが納得するわけがなかった。
    「ごめんよ、レイアー......」
    クロノスはレイアーの腕を優しく離した。
    「ごめん......それでも、わたしはわたしが許せないよ」
    「クロノス......」
    泣きつづけるクロノスを、抱きしめてあげたいのに、クロノスから発せられる空気がそれを拒絶していた。
    その日から、二人は寝室を分けることになった。

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  • from: エリスさん

    2015年06月05日 09時50分30秒

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    悠久の時をあなたと・8

    レイアーの出産の翌日、クロノスは庭園の中央に祭壇をつくり、様々な花を捧げた。
    「ヘスティア―と名付けたよ」
    クロノスは花を捧げ終ると、隣にいたレイアーに言った。
    「死んでいたとは言え、生まれてきた子はわたし達の初めての娘――本来なら"宇宙の意志"に仕えるべき斎王(巫女)となっていたはずだった。丁重に供養して、またわたし達の娘として生まれ変わってもらおう」
    「はい、あなた......」
    クロノスは娘が死産だったと言う、レイアーの嘘を信じている。その遺体もないことに疑問も持たずに......それは、真実から目を背けようとするクロノスの心の弱さからなるものなのだろうか?
    それでもいい――と、レイアーは思った。真実を知ってクロノスの心が壊れてしまうぐらいなら。
    そして、その夜――。
    レイアーはクロノスと一緒のベッドに眠っていて、突然のクロノスの悲鳴で目が覚めた。
    見るとクロノスが飛び起きていて、頭を抱えながら震えていた。
    「あなた、大丈夫?」
    レイアーはクロノスの背を摩りながら声を掛けた。すると、クロノスはレイアーに抱きついてきた。
    「レイアー、忘れさせてくれ!」
    「え!? クロノス!?」
    突然の行動にレイアーは戸惑ったが、クロノスにされるままに押し倒され、夜着をはぎ取られた。
    「クロノス、待って! このままだと......」
    子供ができてしまう――と、言おうとした口を、クロノスにキスで塞がれてしまう。
    それに、言い訳など出来るはずもない。子供を作れないという理由を、クロノスに話したらそれだけでクロノスは壊れてしまうのだ。
    『お母様、駄目......私、クロノスを拒めない......』
    それからというもの、クロノスは悪夢を見るたびに、レイアーの魅惑的な肢体に溺れるようになった。そして三カ月後、レイアーに懐妊の兆しが現れた。
    ガイアはそれを聞いて訪ねてきたが、レイアーを責めたりはしなかった。
    「そなたがクロノスを拒絶できるわけがない......分かっていたことでした。こうなったからには、次こそは無事に子供が産まれて来れるように、考慮するしかありません」
    ガイアはレイアーの出産に備えて、庭園の隅に頑丈な産屋を建てはじめた。その中にレイアーと助産師だけが入れるようにして、他は何人たりとも入れぬようにしたのだが......。
    7か月後、いよいよレイアーが産気づいて、産屋に籠った。お産は順調に進み、レイアーは双子の女の子を出産したのだった。が......産屋の外から騒がしい声が聞こえ、そしてあっという間に産屋の壁が壊された。
    壊したのはクロノスだった。その向こうに怪我をして倒れている従者や侍女たちの姿が見える。ガイアまで......。
    そして、クロノスの表情は正気ではなかった。そもそも、かなり頑丈に作られた壁を瞬時に壊せるほど怪力でもない彼に、こんなことが出来ること事態が尋常ではないのだ。
    「クロノス! やめてェ!!」
    レイアーの叫びもむなしく、双子の赤子はクロノスに飲みこまれてしまったのである。
    その途端、クロノスは気を失って倒れた。そして、目を覚ました時には、自分がしたことなど、何も覚えてはいなかったのである。
    レイアーはまた、子供は死産だったとクロノスに嘘をついた。クロノスは心から悲しみ、そしてまた祭壇に花を捧げるのだった。
    「ヘーラーとデーメーテール、という名を付けたよ。大丈夫、きっとこの子たちもすぐに生まれ変わってきてくれるよ。ね? レイアー」
    クロノスの言葉に悲しみを押さえられないレイアーは、それでも落ち着きを保って、言った。
    「あなた、しばらく子供を作るのはやめましょう」
    「......なぜ?」
    「きっと、こんなに死産が続いてしまうのは、私の体が未成熟だからです。私が子供を産むのに耐えられる体ではないから、死産になるのです。だから、しばらく子供を作るのはやめましょう」
    「......君の体が未成熟だなんて、とても思えないよ。むしろ、原因はわたしではないだろうか」
    クロノスのその言葉にドキッとしたレイアーだったが、クロノスは自分がしたことを自覚していたわけではなかった。
    「わたしの体がまだ未成熟なのだ。だから、わたしの種を受け取っても、君の体の中で子供が育ちきれないのだと思う。だから死んで生まれてくるんだ。......そうだね、しばらく子供を作るのはやめよう。わたしの体が完璧な大人の体になるまで」
    しかし、クロノスの悪夢はそれからも毎夜の如く続き、その度に彼はレイアーの体で恐怖を忘れようとした。そんな時の彼に、ちゃんとした避妊など出来るはずもなかった。
    レイアーは再び懐妊したのだった。

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