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神話読書会〜女神さまがみてる〜

神話読書会〜女神さまがみてる〜>掲示板

公開 メンバー数:11人

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  • from: エリスさん

    2015年07月24日 11時38分10秒

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    悠久の時をあなたと・12

    ガイアが案内した部屋には、中央に石を積み上げて作った大が台があって、その上に子供の頭ほどの大きさの黒い岩があった。
    「プロンテースとステロペースを呼んだのは、これを見てもらいたかったからだ」
    ガイアにそう言われて、二人は少し遠巻きにその岩を眺め......険しい顔をした。
    「何なのです? その岩は」
    レイアーが歩み寄り岩に触ろうとすると、「ウホ!!(触らないで!!)」とプロンテースが言った。咄嗟にレイアーは手を止めたが、更にガイアが後ろに下がらせた。
    「不用意に触るものではない。どんな危険があるか分からぬのに」
    「お母様、これは?」
    「今日、岩山で見つけて来たのだ――いや、見つけさせられた、と言うべきか」
    ガイアは、誰かの声に導かれてこの岩を見つけた経緯を話した。そして、手にした途端に岩に秘められた力を感じて、危険と判断し、なるべく触らぬようにするためにこの部屋に隔離したのだった。
    「これは鉄鉱石だ」とガイアは言った。「この岩から鉄が取れる。が、その鉄はただの鉄ではない」
    「では、どんな鉄が取れるのですか?」
    レイアーが聞くと、
    「触れたものから力を吸い取る――つまり魔力を持った鉄が生まれるのだ」
    「そんなものが......」
    「もし、この鉄で剣を作り、その剣で神を刺せば......」
    「え?」
    ガイアの言葉に驚いているレイアーから離れ、ガイアは部屋の隅に置いてあった椅子に腰かけた。
    「そなた達も知っておろう。我々神族は不老不死――つまり死ぬことはない。だが、この体から神力をすべて失えば、この体を保っていられずに消滅する。それを"死"とするならば、その時こそ......クロノスを悪夢から解放してやれるのだ」
    「お母様!? なんてことを!」
    「私とて、こんなことは言いたくない!」
    ガイアは目頭を手で覆いながら叫んだ。「だが、ウーラノスの呪いが......私では到底解くことのできぬほど強い呪いが、クロノスにまとわりついている以上、クロノスを救うにはこれしか方法がないのだ」
    「お母様が無理でも、お母様よりも先にお生まれになった神々なら......」
    「カオス(混沌)姉様とエレボス(闇)兄様にはとうに相談した! ニュクス(夜)には夜中に直接クロノスを診てもらって、それでも駄目だと判断されたのだ。すでに万策は尽きている!」
    「そんな......」
    レイアーはガイアの元へ行き、跪くと母の膝に縋り付いた。
    「嫌です! クロノスを殺すなんて、そんなことは駄目です!」
    「私とて! 誰が好き好んで我が子を殺したいものですか。ですが、もうそれしか、あの子を救える方法はないのです......」
    「私が! 私がクロノスの慰み者になります。あの人が悪夢を見たら、私がこの身でお慰めして......」
    「まだ分からぬのか!」
    ガイアはレイアーの両肩を握り締め、自分の顔をしっかりと見させた。
    「慰めるだけでは駄目なのだ! その結果そなたが懐妊し、子供が生まれれば、クロノスはまたその子を喰らうことになる。その度に、クロノスがどんなに苦しむことになるか!」
    分からないわけではない。それでも、レイアーはクロノスを失いたくなくて、何度も首を左右に振って見せ、
    「嫌です! 駄目です!」
    を繰り返した。すると、ガイアがしっかりとレイアーの頭を両手で押さえた。
    「良く見ていなさい!」
    ガイアはレイアーの額に自分の額を重ね、自分が覗いたクロノスの悪夢をレイアーにも見せた。
    クロノスに似た少年たちが、クロノスに剣を振り下ろした。クロノスは倒れ大量の血を流したが、それでも死ぬことはなく、少年たちに手を差し延べて命乞いをするのだが、その手をも少年の一人が切り落とした。それを合図にしたかのように少年たちがクロノスの体を切り刻んでいく。それでもクロノスは死ねずに、切り離された手は指を動かし、足もジタバタともがいていた。少年たちはその動いている指をも切り落とした。切りに切って、やがて細かい肉片になるまで切り刻んだが、それでもクロノスは死ねずに、痛みと苦しみで肉片一つ一つがもがいていた。――ここまで見たレイアーはすでに発狂しそうだったが、それでもガイアは手を離してはくれなかった。――そして少年たちは、動き回る肉片を足で踏みつけ、骨も岩を打ち付けて粉塵になるまで粉々にしたのだった。一面は原型を留めなくなった挽肉と血の海になった。それでも、細胞の一つ一つがまだ動いているのが分かった。
    そこまで見せて、ガイアはレイアーを放してやった。
    レイアーは、目を見開いたまま放心状態になっていた。しばらく経ってもそのままだったので、ガイアはレイアーの頬を叩いて正気に戻させた。
    「分かりましたか? クロノスは毎夜、あのような悪夢を見させられているのです。死にたくても、不老不死ゆえに、あんな姿になっても死ねないのです。ならば、あの子を楽にしてやるためには、不老不死の力を抜いてやるしかない......」
    ガイアの言葉に、レイアーはもう泣き叫ぶしかなかった。
    自分では救えない――こんなに愛しているのに、愛だけではなんの救いにもならないことを悟るしかなかった。
    「プロンテース、ステロペース」と、ガイアは言った。「そなた達にこの鉄鉱石を託します。この鉄鉱石から、クロノスのために剣を作っておくれ」
    二人は頷くと、レイアーの隣に跪いた。そしてプロンテースが言った――覚悟を決めるために、自分たちにもクロノスの悪夢を見せてほしい、と。
    ガイアはその願いを聞き届け、二人にも見せてやるのだった。

    鉄鉱石はステロペースが他の岩ごと持ち上げて持ち帰った。これをプロンテースの熱気を使って抽出するわけだが、それにはかなりのコツと日数を要した。二人にとっても神力を奪われかねない危険な代物であるからだ。
    その間、レイアーはガイアのもとで子供を産む準備を進めていた。

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  • from: エリスさん

    2015年07月17日 12時06分08秒

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    悠久の時をあなたと・11

    その日、ガイアは何かに呼ばれている気がして、岩山を歩いていた。
    草木もまばらにしか生えていない岩山である。木の一本でもあれば、その木霊(こだま)が呼んでいるのかと予想もつくが、それすらない場所である。ガイアは警戒しながらも、未知なるものへの関心に心を躍らせてもいた。
    やがて、しばらく歩いていると、山の頂上についた。すると、自分を呼んでいる声がますます大きくなった。
    そこには、黒光りする岩が一つ落ちていた。
    それを拾え! と、声は言っていた。
    ガイアがその岩を手にすると、聞こえていた声が止んだ。
    「これは......」
    ガイアはその岩に異様な力を感じた。

    一方その頃、レイアーは庭園でクロノスと会っていた。
    クロノスは野菜畑の世話をしながら、なるべくレイアーを見ないようにしていた。そして、レイアーの身体から発せられる百合の花に似た香りを嗅ぐたびに、駆け寄って抱きしめたいのを必死に堪えていた。
    「しばしのお暇をいただきたいのです」
    レイアーがそう言うと、クロノスは胸が締め付けられるような痛みを感じた。
    「わたしと別れたいと言うのか?」
    「違います!」
    と、レイアーはつい口走ってしまい、手で口を覆った。そして気持ちを落ち着かせてから手をどけて、言った。
    「本当に、しばらくの間だけお暇をいただきたいのです。しばらく、一人になりたいのです」
    「一人に? 母上の元にも行かず?」
    「......はい」
    クロノスはレイアーの言葉の端々から、彼女の本心を感じた。それは決して自分への裏切りではなく、ましてや自分に飽きたわけでもない。我が子を喰らうという残虐無比なことをした自分に対して、レイアーは憐れみこそすれ、憎む気持ちは微塵もないのだ。それでも自分から離れようと言うのなら、それは余程の事情なのである。
    「分かった......君の好きにするといいよ」
    クロノスはそう言うと、スコップやカマの入ったバケツを手に立ち上がった。
    「身を寄せるところが決まったら......そうだな、プロンテースとステロペースにだけは知らせてやってくれ。心配するだろうから」
    クロノスがそのまま行ってしまおうとすると、レイアーは追いかけて、彼の背を抱き留めた。
    「お願い! 最後にもう一度! あなたの温もりに触れさせて!」
    レイアーはクロノスを振り向かせると、彼の肩にしがみ付いた。
    耐えられずに、クロノスもレイアーの唇にキスをした。
    何度も何度も唇が引き合い、呼吸が乱れてきても、二人は互いの欲望を堪えられなかった。そして、レイアーが自ら肩留めを外して服を脱ごうとすると、その手をクロノスが止めた。
    「それだけは......それだけは駄目だッ」
    「クロノス............」
    クロノスはレイアーから離れると、言った。
    「元気で......せめて、わたしから離れている間は、心安らかでいてくれ」
    「......ええ、クロノス。あなたもお健(すこ)やかでいて......」
    クロノスが見えなくなるまで、涙ぐんでいたレイアーだったが、意を決して涙を拭うと、居城の出口へと向かった。するとそこには、プロンテースとステロペースがいて、彼らが作った空飛ぶ乗り物も用意されていた。
    「ウホ、ウホホ......」
    プロンテースが「母上に呼ばれたので、途中まで送ります」と言うので、
    「ありがとう。ちょうど私もお母様にご挨拶がしたかったから、一緒に乗せて行って」
    と、レイアーは乗り物に乗り込んだ。プロンテース達が作った乗り物とは、今で言えば気球だった。ただ、籠は上下に二つ連なっていた。というのも、上の籠には熱気と冷気を操りながら運転するプロンテース達が乗り、下の籠にお客さんを乗せるためである。プロンテース達と一緒に他の人も乗せてしまうと、二人の能力で火傷や凍傷を負わせてしまう危険があるからだった。
    気球でしばしの空中旅行を楽しんだ一行は、思ったよりも早く最果ての地に着いた。
    「ごめんね、二人とも。実は私の目的地もここだったの。クロノスには私がお母様のところに居るっていうのは、内緒にしておいてね」
    「ウホホ(心得た)!」と、二人は返事をした。
    そこへガイアが現れた。
    「いらっしゃい、レイアー。キュクロープスの二人も良く来てくれました」
    ガイアの表情の険しさから、レイアーは言い知れぬ不安を感じた。
    ガイアはいったい、何のためにプロンテースとステロペースを呼んだのだろうか......?

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  • from: エリスさん

    2015年07月10日 11時06分42秒

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    悠久の時をあなたと・10

    寝室を別にしたクロノスとレイアーだったが、クロノスの悪夢が終わったわけではなかった。
    クロノスは毎夜の如く悪夢を見ては、悲鳴を上げながら跳ね起きるのだった。その悲鳴を聞きつけて、レイアーも飛び起きてクロノスの寝室へ駆けつけるのだが、寝室のドアは固く閉ざされて、中へ入ることができなかった。
    「クロノス! 中に入れて!」
    レイアーはドアを何度も何度も叩きながら、クロノスの名を呼んだ。だがクロノスは恐怖に声を震わせながらも、彼女を拒絶した。
    「駄目だ! レイアー、入って来るな! 君が入ってきたら、またわたしは、恐怖を忘れたいがために君を抱いてしまう!」
    「それでいいのよ!」と、レイアーは言った。「あなたが、ほんの少しでも恐怖を忘れられるなら、私を慰み者にして!」
    「駄目だ!!」と、クロノスは凛として言った。「もう君に、悲しい思いをさせたくないんだ!」
    「クロノス......あなただけを苦しみの闇に閉じ込めておけと言うの?」
    そんな夜が幾夜も続いた......。
    智恵の女神メーティスがレイアーのもとに行儀見習いとして参上するようになったのは、ちょうどその頃だった。実年齢は4歳だが、見た目はすでに17、8歳ぐらいに成長していた。レイアーの弟妹であるオーケアノスとテーテュースとの間に生まれた娘である。
    メーティスは初めてクロノスを遠くから見かけた時、一緒にいたレイアーに言った。
    「どうして神王の胃の中で、小さな男神と女神が連なって、胃壁にしがみ付いているのですか?」
    この言葉に驚いたレイアーは、メーティスを人気のないところへ連れ行き、先ほどの言葉の意味を聞いた。
    「意味も何も、そのまま申し上げました。陛下の胃の中で、小さな男神と女神がしがみ付いているのです。必死に胃液の中に落ちないようにと、頑張っているのでしょう」
    「あなたにはそれが見えるの?」
    「はい。私にはわずかですが、透視能力があるのです。......それから......」
    「なに?」
    「王后様も懐妊しておられますね?」
    え!? っと驚いたレイアーは「まさか!」と叫んだ。
    「間違いないと思います。王后様のお腹の中から、別の神力を感じるのです」
    そんなはずはない――自分はクロノスと臥所を共にしていない。だから妊娠できるはずがないのだ。しかし、メーティスの特殊能力を信じたい気持ちもあったレイアーは、すぐに母・ガイアのもとへ相談に言った。
    ガイアもレイアーの腹に直接手を触れて、中に新しい命が宿りつつあることを知った。
    「なるほど......そうゆうことか」
    ガイアはため息を付きつつ言った。「レイアー、そなたはやはり、私に一番似ているのかもしれない」
    「どうゆうことです?」
    「そなたも知っていると思うが、私はウーラノスと結婚する前は、一人で子供を作り産んでいたのだ。それが大地の女神として私に与えられた能力――単身出産能力です」
    「単身出産!?」
    レイアーはクロノスに会いたい、触れたい、という気持ちが折り重なって、想像で子供を作ったのである。人間だったなら「想像妊娠」で済むところだが、女神は想像を現実にしてしまう力を持っている。クロノスの対策はまったく無駄で終わったのだった。
    「今度こそ、子供を無事に産ませましょう」
    ガイアは、レイアーにこの最果てに移ってくるように勧めた。
    「クロノスには行き先を告げるでないぞ。とにかく、王宮を出るのだ!」
    「クロノスと別れろと言うのですか?」
    「子供が産まれるまでの間だけだ。幸い、クロノスはそなたが妊娠したことなど知らぬ。想像もできないであろう、臥所を共にしていなかったのであれば! だから何とでも理由を付けて、子供が産まれるまでクロノスから身を隠すのだ!」
    子供が産まれるまで約10か月間――その間だけなら、クロノスと会えなくても我慢できる。――そう思ったレイアーは、決心した。
    「分かりました。しばらく、お母様のもとにご厄介になります」

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