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神話読書会〜女神さまがみてる〜

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  • from: エリスさん

    2014年12月12日 09時58分51秒

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    女神のおみやげ

    「ただいまァ!」
    片桐枝実子が元気いっぱいに言いながら入ってくると、その社殿の女主人であるエイレイテュイアは、飲み掛けのグラスを口に当てたまま言った。
    「どうしてその姿なの?」
    「ああ! ごめん、忘れてたわ」
    枝実子は途中から日本語ではなくギリシャ語で話し、そして変身を解いた――英雄を守護する神・エリスの姿に戻った彼女は、手に持っていたお土産をエイレイテュイアに差し出した。
    「日本の果物、夏みかんだ。気に入ってもらえるといいのだが」
    「あら、美味しそうな匂い。この子も喜びそう」と、エイレイテュイアはお腹をさすって見せた。エイレイテュイアは妊娠7か月だった。
    そこへ、こちらも妊婦のキオーネーが、手にお茶菓子を持って現れた。
    「まあ、我が君! お帰りなさいませ」
    キオーネーも妊娠7か月。おそらくエイレイテュイアとほぼ同じときに子が産まれるのではないかと言われている。
    「ただいま、キオーネー。そなたにもお土産があるよ。そなたの好きな西瓜......あれ? オーイ、カリステー?」
    エリスが廊下に向かって言うと、のっそりのっそり遅れて入って来たのは、漆黒の馬のカリステーだった。
    「ひどいですよ、ご主人様。荷物の殆どを私に持たせて、ご自分はさっさと行ってしまわれるのですから」
    カリステーの言う通り、彼女の背には荷物がいっぱい乗っていた。
    「悪かったよ、カリステー。つい、一週間ぶりの我が家が嬉しくてね」
    エリスは荷物を降ろしてやりながら謝り、そしてお目当ての物を見つけると、それをキオーネーに渡した。
    「さっそく冷やして、今晩にでも食べよう」
    「ありがとうございます、我が君。今回のご旅行はいかがでしたか?」
    「楽しかったよ。久しぶりの日本だったから。なァ? カリステー?」
    「はい、誠に」と言いながらカリステーは変身し、黒い縞猫の姿・景虎になった。「久しぶりに日本の夏を堪能してきました」
    「日本では景虎の姿だったの?」と、キオーネーが景虎(カリステー)に言うと、
    「はい。日本では馬の姿でいると、行動できる範囲が限られてしまうので。でも猫なら、ご主人様と一緒にいれば、大概のところへ連れて行ってもらえますから」
    「確かにそうね」とキオーネーが答えると、エリスは言った。
    「それより、レーテー達にも土産があるんだ。呼んでもらえないかな?」
    「はい、かしこまりました」
    ――エリスはかなり前から旅行が趣味になっていた。そもそもは自分がギリシアにいると、ゼウスから嫌な仕事(戦争を引き起こすための種を蒔くように言われる)を押し付けられてしまうので、旅行に行くと言っては逃げて、姿をくらましていたのである。それがいつのまにか、本当の趣味になってしまった。
    このエリスの趣味に影響されて、娘のレーテーも旅行をするようになった。
    携帯電話で呼び出されたレーテーは、侍女でありながら恋人のヤマトタケルを伴ってやってきた。
    「おまえたちにピッタリなお土産を買って来たよ」
    エリスがレーテーとタケルに差し出したのは、甚平だった。とは言っても男性が着る物ではなく、若い女性向けに鮮やかな色遣いで、大きな花模様などをあしらったものである。先ず和装に慣れているタケルが着替え終えて、隣室から出てきた。
    普段、男装ばかりしているタケルにとって、こんなに可愛い、そして色遣いも鮮やかな物を着るのは初めてだった。そしてレーテーも、タケルと色違いの華やかな甚平が着られて、満足していた。
    「やはりタケルは女性らしい格好の方が似合うな」
    エリスが言うと、タケルは恥ずかしそうに笑った。
    「恐れ入ります。でもこれは、エリス様のお見立てが良かったからです」
    「謙遜を。私も日本に長くいた身なれば、日本人の美意識は良く心得ている。そなたは、男装よりも本来の姿に戻った方がいい。――それにしても不思議な話だ」
    「何がですか? 母君」と、レーテーが言うと、
    「我が娘が、日本では知らぬ者はいないあの倭建命と恋仲で、しかもその倭建の命が実は女性だったと言うことだ」
    片桐枝実子として生きていたエリスは、日本で文学と共に歴史や神話伝承を研究していた。中でも古事記や日本書紀の世界は得意分野だっただけに、その中のスーパースターの一人に直接会えた喜びはひとしおで、それだけに複雑な思いもあったのだ。
    エリスは向かい側のソファーを手で指し示して、二人を座らせてから、言った。
    「しかし、倭建命が女で、それ故に秘密を抱えていたのだとすれば、確かに辻褄が合うところがある。例えば、そなたの兄だとされる大碓の命――倭建の命は、本名は小碓の命で幼名は男具那(オグナ)だと伝えられているのに、大碓の命には幼名は伝えられていない。それは、本当は大碓の命はそなたの兄ではない――言い換えれば、そなたは本当は大碓の命の弟などではないのに、そなたを男であると主張したいがために、オグナというのは幼名で、本名は小碓の命と言い、大碓の命の双子の弟なのだ、という嘘の伝説を誰かが作り上げたのだろうな」
    「恐らくそれは、武内宿禰(たけしうちのすくね)の仕業ではないかと思います」とタケルが言うと、
    「そなたがそう思うのであれば、間違いはなかろう」と、エリスは微笑んだ。「そして、熊襲建のもとへ女装して潜り込んだこと......そもそも女性なら、閨に呼ばれるほど美しく装えるのは道理だ。今こうして見ているだけでも、そなたはかなりの美人だからな」
    するとレーテーは、「ダメよ、母君」と、タケルに抱きついた。「あげませんからね」
    「娘の恋人を取るほど不自由はしていないよ」
    エリスはおかしそうに笑うと、「そう、それで? そなたが弟橘媛だったって?」
    「そうよ、母君」と、レーテーは言った。「今でも変身できるわ」
    「今はいいよ、今度見せてくれ。それより、本当に和歌を詠んだのか? 海に身投げする時」
    「詠むわけないわ。私、和歌の勉強なんて一度もしていないのですもの」
    弟橘媛は生け贄として走水の海に入る時、倭建の命に対して、
    「相模の野で火に包まれた時、あなたは私の心配をしてくださった」
    という意味の和歌を詠んだとされている。
    「これも宿禰あたりが創作した作り話ですよ」と、タケルは言った。「わたしを英雄に仕立て上げるために、悲劇的な話を加えて盛り上げたのでしょう」
    「では、そなたが死の間際に詠んだ"あおによし"の和歌と言うのは?」
    「あれは死の間際ではなく、熊襲征伐の前に詠んで、ヤマトヒメの叔母上に託したものです」
    「なるほど。それを上手い具合に利用されたわけだな」
    エリスは深く納得して、うんうんと頷いた。
    「そこでだ、タケルに相談なのだが......」
    「なんでしょうか?」
    改めて言われたので、タケルは身が引き締まる思いがした。
    「二人は、ヘーラー王后より結婚を待つように言われたそうだな」
    「そうです、母君」と、レーテーは言った。「タケルがこの国では無職も同然だからって、おばあ様に反対されて、仕方なくタケルは私の侍女ということにしてあるのです」
    「でも、そのヘーラー王后はもういない――今はエイリー(エイレイテュイア)の腹の中で転生の時を待っている」
    1999年のあの日、世界を統治していた神々の多くが、次世代に後を託して、地球を救うために自らの命を犠牲にした。そして今は、自分たちの娘や息子の子供として生まれ変わる準備をしている最中だった。
    「だから今のうちに結婚してしまうといい。私がもう否やは言わせないから。そして職も与えよう」
    「職を? わたしに出来ることでしょうか?」
    タケルが驚いていると、
    「もちろんだ。私の書庫の管理と、執筆の際の資料整理、そして、そなたが知っている真実の歴史を教えてほしい。私はそれを元に創作活動をする。つまりアシスタントだ」
    「アシスタントって......」と、レーテーも疑問に思った。「母君、まだ創作活動をお続けになるの?」
    「ああ、続ける」と、エリスは微笑んだ。「人間界で旅行をしようと思ったら、金が要る。その金を稼ぐには、何か人間界で仕事をしなくてはな。化け狸のように偽札を使うわけにもいかないから」
    そこで景虎がひょいっとエリスの膝の上に乗って、言った。「ご主人様は人間として生きていた時の資産の一部を、如月馨名義で今でも持っているんですよ」
    「キサラギ カオルって......母君から分離した別人格の?」と、レーテーが言うと、
    「そう。如月には了承を得て、彼名義のクレジットカードを持っている。しかし、金は使い続ければいつかは無くなる。だから、稼がなければいけないのだ。そのために、私の執筆した作品を如月の名で出版し、印税をそのクレジットカードの口座に振り込まれるようにするのだ」
    「なるほど......」とタケルが頷くので、エリスは言った。
    「私のアシスタントになってくれるか? そして、娘をもらってくれ」
    「はい......」と、タケルは言ってから、レーテーの方を向いて「いいよね?」と、確認した。
    「いいに決まってるじゃない。私たち、これでやっと結婚できるのよ」
    「でも、エルアーは?」
    「エルアーは大丈夫よ。あの子は正式な妻の地位は望んでいないわ。私たちの傍にいて、私たちの世話が焼ければ幸せなのよ。分を弁えた子よ」
    「そうね......あの子はそういう子ね」
    タケルのその言葉を聞いて、エリスはポンッと手を叩いた。
    「決まりだ。では、明日から早速仕事に来てくれ。結婚式の準備も始めよう」
    こうして、レーテーとタケルは念願の結婚を果たした。結婚式は二人ともウェディングドレスを着ると言う、オリュンポス史上例のない式を挙げた。そして新婚旅行は当然の如く日本へ――その旅行にはエルアーも同行し、あの頃と比べて当然の如く様変わりした日本を縦断し、大いに楽しんだという......。

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