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神話読書会〜女神さまがみてる〜

神話読書会〜女神さまがみてる〜>掲示板

公開 メンバー数:11人

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  • from: エリスさん

    2011年02月25日 14時50分09秒

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    「双面邪裂剣(ふたおもて やみを さく つき)・4」
     そんなうちに、先生が入ってくる。
     今日も、提出された作品を先生が読み上げてくれる。
     日高佳奈子(ひだか かなこ)女教師は「今日、職員室の私の机に誰かが置いてったらしいんだけど」と、綴じられた原稿を広げて見せた。
     「これから先ずは読んでみるわね」
     佳奈子女史が眼鏡をかける。
     「タイトルは“露ひかる紫陽花”」
     それを聞いて、私が考えている小説と同じタイトルだ、と枝実子は思った。
     だが、そんなに悠長に構えてはいられなかった。先生が読み始めた途端、ぞっとする出来事が起きたのだ。
     「〔猫の声がする。
      猫の親子連れだった。
      黒虎の父親猫が一声大きく、屋敷の中へ聞こえるように鳴くと、まだ幼い二人の姫君が、「佐音麿(さねまろ)が来たァ!」と庭へ駆け出して行った。
     ―――〕」
     そんな馬鹿なことが……枝実子はそう思わずにはいられなかった。自分が最近、構成を練って、始めの方はすでに書き起こしていたが、卒業制作のために打ち切った作品と、まったく同じもの――出だしの部分、キャラクター名、時代設定、台詞の一つ一つまで同じなのだ。しかも、まだ枝実子が書き進めていない部分は、これから書こうとしていたストーリーである。
     少女時代、憧れてやまなかった女性に仕え、恋の春も修羅も教わった娘――八重姫が、年下の青年に出会って結婚するまでの、平安恋物語。
     こんな物を書くのは、ゼミナール受講者多しといえど、片桐枝実子ひとりしかいなかった。書いた人の名は明かしていなかったが、教室中の生徒が、枝実子が書いたものだと思い込んでいる。――無理もないほど、それは枝実子の書き方そのものの文体だった。
     だが、枝実子のこの作品はまだ未完成で、人に見せた覚えはない。下手をすれば、自分が誰かの作品を盗んだように言われかねない。
     しかし、幸いなことにこの作品はシリーズ物で、同じシリーズの作品をすでに二つ書いて、授業で発表もされたので、オリジナルライターは枝実子(嵐賀エミリー)だと証明され、その非難を受けるのはいま読まれている作品の著者の方だろう。
     それにしても誰が、どうやってこの作品の内容を知り、それも書き進められていない部分まで探って書いたのか。何のために。
     恐怖感。
     まだ誰にも見せたことのない作品を、盗まれた――それとも、偶然? いや、偶然にしては出来すぎている。
     『こんなこと……絶対にありえない!!』
     物語のラストは、枝実子が何日も考えてやっとまとまった、そのままの設定で終わっている。
     言語芸術家としての屈辱感、嫌悪感。
     「誰よ。私の作品を、誰が盗んだ!!」
     そう叫びたかった。だが、そうしたあと、誰かの口から漏れるであろう嘲笑が恐ろしく、またプライドがそれを許さなかった。
     悔しい、と何度も心が泣き叫ぶ。こんな屈辱は、今まで味わったことがない。
     こんな、あってはならないことが……。
     授業が終わって、生徒がだいぶ減ってから、枝実子は身の潔白を立てるために、佳奈子女史の方へ行った。枝実子が行くと、待っていたように女史は言った。
     「誰が書いたのかしら」
     枝実子が聞きたい問いである。
     「先生にも分らないのですか?」
     「あなたの友人の誰かだろうとは予想していたけど。あなた達、同じキャラクターを使ってそれぞれの物語を創ってたでしょう?」
     確かに、眞紀子とつきあっていた頃は、そんなことも面白半分でやっていた。
     「でも、この“雅(みやび)シリーズ”は私個人で書いてきた作品です。たとえ親しい友人とでも、競作しようとは思いません」
     「それを証明することはできて?」
     返事に戸惑う。
     「この文体を見れば、いくらなんでも分かるわよ。これはあなたの書き方よね、エミリー。でも、字は違うし、筆名も違う。しかも、先に出来上がっている。――いくらあなたが、盗まれたものだと主張しても、それを証明するものがなければ、これはあなたの作品ではなく、この人の作品になるのよ」
     佳奈子女史は原稿を枝実子に見せてくれた。――枝実子の男っぽく角張った字とは違い、柔らかな、流れるような筆跡――枝実子の友人にはこんな筆跡の人はいない。そして、ペンネームを見て、また不思議に思った。
     ―――カール 如月―――
     「今日はあなたへの戒(いまし)めよ、エミリー」
     と、佳奈子女史は言った。「相手がどうやって、あなたの作品を盗み見たのか知らないけど、あなた自身にも隙があったからこそ、付け入られたの。たるんでる証拠よ。二度と狙われることのないように……嵐賀エミリーの世界は、嵐賀エミリーにしか描けないのよ」
     枝実子は、力なく返事をするしかなかった。
     

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  • from: エリスさん

    2011年02月18日 15時24分18秒

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    とうとう明日......

     明日、2月19日は、






     私の誕生日です。



     とうとう四十歳になりますOTZ


     やっちゃいました! 彼氏イナイ歴40年!
     文化学院時代に「付き合ってんだか、付き合っていないんだか、良くわかんない微妙な関係」の男子を勘定に入れると、彼氏イナイ歴20年になりますが、それでも長いよ、この枯れ方は.........。




     なので、「恋愛小説発表会・改訂版」の方で、かなりな妄想話を執筆中な私ですが、この先もこんな花の咲かない人生が続くんでしょうね。
     ここはもう、アテーナー 様を見習って尼寺に入るべき??

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  • from: エリスさん

    2011年02月18日 15時18分53秒

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    「双面邪裂剣(ふたおもて やみを さく つき)・3」
     片桐枝実子(かたぎり えみこ)――筆名を嵐賀(あらしが)エミリーと言った。専門学校で言語芸術を専攻している。そのため、卒業論文ならぬ卒業制作も小説を書くことになっていた。授業も小説、詩、戯曲のゼミナールを受講し、他にも古典文学の研究など、およそ文学と名のつくものなら大概教わっていた。
     その日は小説のゼミがあった。昼休みに校外へ出て気分転換をしてきた枝実子は、少し心に余裕ができてきたのか、歩きながら、今週の土曜日に提出する詩の構成を考えていた。
     そんな時だった。もうすぐ学院の門をくぐろうとしていたところで、その門から和服の女性が出てくるのを見かけた。鮮明な藤色の、それ一色のだけの和服。きっと“一つ紋”なのだろう。髪は両端を少し残して一つに束ね上げ、紐も紫色のを長く垂らして結んでいる。学院から出てきたにしては、少し異様だった。だが、枝実子は一目その女性を見ただけで、惹きつけられてしまった。
     『……綺麗な人……』
     校内では見たこともない……だが、どこかで見覚えのあるような、そんな錯覚までおきる。
     その麗人は、枝実子に微笑みかけた。
     ドキッと、胸が高鳴る――この人は、いったい……。
     枝実子は麗人とすれ違った。その瞬間、激しい頭痛に襲われる。咄嗟に頭を抑えた。
     『なに? 今の』
     まだ鈍く頭が痛む。――まるで、稲妻にあったよう。
     振り返ると、和服の麗人はもう遠くの方を歩いていた。
     何が起こったのか分からない――考えている暇もなく、チャイムが鳴って、枝実子は教室へと足を急がせた。


     ゼミの教室に入った途端、枝実子の目に和服の女性の姿が入ってきた。
     「あ、おはよう、エミリーさん」
     友人の鍋島麗子(なべしま かずこ)だった。この専門学校でもファッションセンスのある方で、和服に限らずいろいろな服をコーディネートしてくる。枝実子の友人には、個性的に優れた人が多い。
     枝実子は、麗子の着物に目がいって、返事をするのを忘れていた――茜色の柄のある着物。
     『さっきの人は柄(がら)がなかった……藤の一つ紋……』
     「どうしたの? エミリーさん」
     「……この学校に、藤色の和服着てくる人っていたかしら?」
     「え?」
     和服で登校する生徒は、確かに考えてみれば、この学校に限り珍しくはない。芸能、マスコミ関係の専門学校であるし。だが、無地の和服というのは、華美な感覚を持った生徒の多いここでは、やっぱり異様だ。
     枝実子は先刻のことを麗子に話した。
     「見たことないわねェ、そんな人。こげ茶の人なら二度ほど見たことあるけど。藤色でしょ……? その人、本当にうちの学院の人?」
     「年の頃が私たちぐらいだったから、そうかなって思ったの。でも、麗子さんが知らないんじゃ、ただの通りすがりかな」
     「そうよ、きっと。やァね、そんなことで悩んじゃって……ああ、それより。授業終わったら瑞樹(みずき)さんがカラオケ行こうって」
     「あ、行く行く」
     枝実子がちょうどそう言った時、ドアが開いた。誰かが入ってくる――その気配だけで誰だか分かり、枝実子はハッとした。
     痩身、いや華奢な青年。
     「おはよう、真田さん」
     麗子がその青年に声をかける。枝実子は、振り返ることができなかった。
     「おはよう、鍋島。法学のレポートのことでちょっと聞きたいんだけど、いい?」
     「いいよ。……席はずすわね、エミリーさん」
     麗子が真田光司(さなだ こうじ)と、そのガールフレンドの方へ行く。枝実子はチラッとその方を見た。真田は、枝実子に背を向けるように立っている。――自分の視界に枝実子が入らないように。……真田の枝実子に対する仕打ちは、相変わらず非情だ――復讐、だろうか。
     だが、その代わりガールフレンドの方が枝実子の方を窺うようにしている。
     『そんなに気にしなくてもいいのに。私は真田さんとはなんでもなかったんだから。私より遥かに可愛い、七人目の彼女さん』
     少し気弱なところがあるらしく、真田の過去のガールフレンドたち、勝手に真田に片思いしていた枝実子のような女まで気にかかるのだと、麗子から聞いた。可哀相に、と同情したくなる。相手が真田では仕方ないのかもしれないけど、それぐらい可愛いのに、なぜ自信が持てないのだろう。
     『私なんか、こんな醜い容姿でその人を好きになろうとして……』

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  • from: エリスさん

    2011年02月11日 11時33分09秒

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    と、いうわけで

     始まりました、不和女神エリスが人間として転生していた間の物語「双面邪裂剣」

      ふたおもて やみに さく つき

     と、読みます。「剣」と書いて「つき」と読ませます。
     タイトルの付け方は歌舞伎風にしました.......と書けば、通な人なら「双面」の意味は分ると思います。分からなくても、後々ストーリーの中で解説しますのでお楽しみに。


     この物語はまだ携帯電話も普及していない時代に設定されています。というのも、枝実子が一九九九年の八月に三十五歳で死ぬ(もとい、人間としての修業を終える)ことになっているからです。


     本当に長い作品なので、連載に何カ月費やすか分りません。皆様、気長にお付き合いくださいませ。

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  • from: エリスさん

    2011年02月11日 11時26分37秒

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    「双面邪裂剣(ふたおもて やみを さく つき)・2」

           第1部 ふたつの月
                                 カール如月の手記


     空に浮かぶ月よりも、池に映る月の方が美しい……と、あいつは笑う。手に取ることのできない高処(たかみ)にあるものを、なぜ尊ばなければならぬのかと。
     池に映る月は、小石一つで破られるというのに。
     誠の美を求めれば求めるほど、己(おのれ)が分らなくなる。――この醜い自分が、なぜ生きていられるのか――なぜ生まれてきたのか。
     「この世の美を語れるほど、汝は罪を償ったのか?」
     生まれながらにして罪を背負っていると、あいつはそう囁いて……。


          第1章

     異変は突然起こった。
     新学期になった早々、卒業制作に追い回されて、さすがの枝実子(えみこ)も精神的な疲れが見え始めていた。
     自分にできるのだろうか――やり始めたばかりだというのに、不安は容赦なく押し寄せる。
     『できなくても、やんなきゃなんないけどさ。卒業もかかっていることだし』
     枝実子はそう思ってから、自分自身に嘲笑した。――使命感だけで小説を書こうだなんて、言語芸術家として恥ずべきことだ。だから、彼女にも見放されたんじゃない。
     己の心の醜さに離れていった友人。
     枝美子は図書室へと足を運んだ。資料をもう一度見直さなければ。図書室のドアを開ける――そこで、彼女とすれ違った。
     白いワンピースに、手には白い帽子。ショートカットの髪は少し茶色みがかっていて、それが余計に気品を添えている。見るからに貴婦人の彼女が、冷たく睨みつけて立ち去った。
     『………眞紀子さん………』
     そんなひどい仕打ちをする人じゃなかった――自分がそうさせてしまった。
     他の友人たちからも聞かされる。彼女の口から出る言葉がだんだん冷たく、荒くなったと。
     もうやめて……そう言いたいけれど、口をきくことは許されない。これからもずっと、枝美子は彼女に忌み嫌われ、憎まれ、恨まれ続けるのだろうか。

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  • from: エリスさん

    2011年02月11日 10時13分41秒

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    双面邪裂剣(ふたおもて やみを さく つき)・1

    Olympos神々の御座シリーズ 女神転生編
        双 面 邪 裂 剣


    ――――――開     幕――――――


     冷蔵庫を開けたら、我が物顔で脱臭剤代わりの黒こげパンが寝ていた。
     それを見た途端、私とレイちゃんのお腹の虫がお約束のように鳴る。――書かずとも分るだろうが、他には何も入っていなかったのだ。
     「あれでも食べる? レイちゃん」
     私がそれを指さしながら言うと、その手をそっと抱き寄せながら彼女は答える。
     「冗談はおよしになって、先生」
     近所のパン屋さんは日曜日ということもあってお休み(近所の小学校と高校の生徒向けに開いているお店だから)。食べ物を手に入れるには駅前の商店街へ行くしかないが、そこまで歩いて十分。買い物に二、三分かかるとしても、戻って来るのにまた十分。
     「それだけあれば、原稿が何枚書けることか。……レイちゃん、あなた、締切りは?」
     「明後日です」
     「私なんか明日よ」
     しばらくの沈黙……。
     「書き終わるまで我慢ね」
     「ハイ、先生」
     二人してトボトボ部屋へ戻ろうとすると、背後から声がかかった。
     「お待ちなさい、あんた達!!」
     見ると、いつのまにか私たちの恩師・日高佳奈子(ひだか かなこ)女史が立っていた。
     「佳奈子先生、いつからそこに?」
     私が聞くと、
     「あなた方が冷蔵庫の前でお腹を鳴らしたぐらいからよ。……っとに、そろそろこんな事になってるんじゃないかと様子を見に来れば、師弟そろってなんてお馬鹿なの!」
     「面目ないです……」
     私たちはそろって頭を下げた。
     「貧乏でお金がないっていうなら、冷蔵庫が空っぽでもあたりまえだけど、あなた方は、師匠の方は若手ベストセラー作家、弟子の方も期待の新人で、二人して稼いでるはずじゃないの。それなのに、この体(てい)たらくはナニ!?」
     なんででしょう? と自分でも思ってしまう。何故か、仕事に熱中していると食事をするのも億劫になって、当然食料を買いに行くのも時間が惜しくなってしまうのだ。私は昔からそんなとこがあったから構わないのだが、このごろ弟子のレイちゃん――新條(しんじょう)レイにまで影響してしまっている。故に、二人とも栄養不足でゲッソリ、眼の下には隈(いや、これは寝不足のせいか……)で、とても恋人には見せられない状況だった。
     「とにかく何か食べなさい! 空腹で仕事したって、いい物は書けないでしょう」
     佳奈子女史の言うとおりなのだが、なにしろ時間との戦いなので、二人とも口をつぐんでいると、見かねて佳奈子女史が右手を出した。
     「お金。買ってきてあげるわよ。しょうもない教え子どもね」
     「ありがとうございますゥ!」
     私はなるべく急いで(走れないから普段と大して変わらないが)財布を取ってきた。
     「あの、三日分ぐらいでいいですから」
     「なに言ってるのよ。どうせまた一週間ぐらい外出しないくせに」
     「いえ、三日後には国外にいますので……」
     「ん?」
     「ギリシアへ取材旅行に行くんです。十日間ぐらい……」
     「……あら、そう」
     本当に呆れた顔をなさった女史は、あっそうだ、と言いながら、バッグの中から黄色いパッケージのバランス栄養食を取り出した。
     「これでも食べてなさい。あと二本入ってるから」
     佳奈子女史が行ってしまってから、私たちは中の袋を出して、一本ずつ分け合った。なぜ女史がこんなものを持ち歩いているかというと、彼女もやはり作家以外にも専門学校で講師をしたり、文学賞の審査員をしたりという忙しさに、食事をしている暇がなく、移動中にでも簡単に食べられるように用意しているのである。
     「でもなんか、これだけじゃひもじいですね」
     「我慢よ、レイちゃん。締切り過ぎれば、憧れのギリシアよ」
     「まあ☆」
     ほんのちょっと雰囲気に浸ると、二人とも虚しくなってそれぞれの仕事場に戻った。
     レイちゃんとはもうかれこれ八年の付き合いになる。私が二十二歳の時、佳奈子女史が私の母校の専門学校に入学したばかりの彼女を連れて、このアトリエを訪れたのが切っ掛けだった。佳奈子女史が発掘した彼女は、文学に対する視点も考え方も私に酷似していて、何よりも話甲斐のある質問を投げかけてくるのが気に入ってしまった。だから彼女から「弟子にしてください」と言われて、快く承諾したのだった。それからというもの、私の創作意欲を駆り立てる情報を提供してくれたりと、今ではなくてはならない人物となっている。一緒にここで暮らし始めたのは去年からだった。彼女の恋人――いや、もう婚約者と言えるだろうか、その彼が仲間たちと一緒にアメリカへ渡って、帰ってくるまでの期間をここで過ごすことにしたのである。彼とのことは本当にいろいろとあったらしい。自分が一つ年上という後ろめたさ、彼の母親が実の母親ではなかったこと、それから始まる彼の家庭の事情など、彼女が良くぞ受け入れたものだと感心するほどたくさんの障害があって、ようやく結婚することを決意したのだ。
     いずれ、彼女の物語を書いてみようと思っている。でもその前に、今は自分の物語だ。
     今書いているものは、私が専門学校に在学していた頃のことを思い起こしながら、多少のアレンジを加えて書いている。明日には確実に書き終わらせるところまで進んでいた。
     自分のことを書くのは嫌いではない。だが、羞恥心は当然のごとく沸き起こる。それでも、私は書かなければならならいと思っている。私が体験した出来事は、誰にでも起こりうるものなのだから。そして、自分は絶対に善人だと信じていても、卑劣さ、非情さは並の人間以上に持ち合わせていることを、そのために不幸にしてしまった人たちの多さの分だけ、己(おの)が身(み)から血を流さなければならなかったことも……そして、私の存在がどれだけ危ういものなのかということも、今こそ告白しなければならない。
     では、再び書き始めることにしよう。私が――いいえ、私たちがどんなふうに生き、闘ったかを、物語るために。
     物語は、私――片桐枝実子(かたぎり えみこ)が成人式を終えて、専門学校三年生になった直後から始まる。



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  • from: エリスさん

    2011年02月11日 10時06分50秒

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    「Re:証拠画像 見たくない人は開けないでください。」
    > 証拠の左手です。


    すみません、パソコンからアクセスしている人はクリックしなくても見えちゃうんでしたね。消しておきます。

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  • from: エリスさん

    2011年02月10日 19時24分41秒

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    怪我をしました

     これで三度目ですが、我が家の猫・公太に噛まれました。
     公太の前に司郎と黒羽の小屋掃除をしていたら、この二匹の匂いが私に移っていたらしく、それでも手を洗ってから公太の世話をすれば良かったのに、それをスッカリ忘れて、結果、噛まれました。
     私に噛み付く前に、しきりに私のふくらはぎの匂いを嗅ぐから、変だなっとは思っていたんですが。
     そんなわけで、公太を小屋に連れ戻す間に、右足と、右腕の肘と、左手の指先から手首にかけて、噛み傷と引っ掻き傷ができたので、今日病院に行ってきました。――看護士さんが絶句するほどでした。
     なので今日は入浴禁止で、指もやられているので洗髪もできません。
     明日外出できるか心配です。

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