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神話読書会〜女神さまがみてる〜

神話読書会〜女神さまがみてる〜>掲示板

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  • from: エリスさん

    2006年09月17日 17時43分58秒

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    約束・1

    アテーナイにそびえ建つ社殿、その名も処女神宮(パルテノーン)
    アルテミス(当時4歳)は、初めてそれを見て、あまりの立派さに、しばし見惚れてしまった。
    一緒に付いてきた乳母のメルクーターも、
    「凄いところでございますねェ」
    と言ったきり、口をあんぐりと開けてしまった。
    「……帰ろうか?」
    つい、アルテミスの口から出た言葉に、
    「そうですね」とメルクーターが簡単に言ってしまったのも、そんなわけで心ここにあらずだったからだ。
    しかし我に返ったメルクーターは、首を勢い良く左右に振って、言った。
    「いけません、君様(「主人」のこと。きみさま)。せっかくのアテーナー様からのご招待なんですから!」
    「うん……そうだよね」
    先日、4歳にして、オリュンポス社殿デビュー(社交界デビューだと思ってください)したアルテミスは、そこで異母姉にあたるアテーナーと知り合って、こう言われたのだ。
    「私の社殿にいらっしゃいな。お近付きの印に、いいものをあげる」
    とっても綺麗なお姉様! お優しいお姉様! だから、もっと仲良くしてもらいたくて、今日の招待をお受けしたのだが。
    「こんな立派な社殿に住んでいるなんて、思わなかったのよ」
    「さすがに、神王陛下の御長女なだけありますね。気後れする気持ちはわかりますが……」

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コメント: 全45件

from: エリスさん

2006年11月23日 15時40分59秒

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「Re:エリスさん」
ありがとうございます、嬉しいです!
では、がんばって更新します!
次の短篇は、
「生け贄って、やっぱり食べるのかなァ?」
という、突発的は疑問からできたストーリーです。

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from: サクヤさん

2006年11月23日 08時37分09秒

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「Re:エリスさん」
エリスさん、エリスさんが今からされないといけない事は、もしかしたら、何かを書かなくてはいけない事かもしれませんね(^-^)
仕事や主婦業はいつでも、誰にでも出来ますが、物を書く事は、いつでも、誰でも出来る事ではありません。

エリスさん、一ファンとして、応援してますp(^^)q

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from: エリスさん

2006年11月22日 14時11分02秒

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「Re:エリスさん」
ごめんなさい、まだ報告していないことがありました。
実は、仕事を解雇されたんです。なので今は主婦に戻ってます。
今まで「校正」の仕事を主にやっていたのですが、
新しい会社は、校正の仕事は三割ぐらい、あとの七割は手作業でした。
その手作業をしている時に、社長の目からは「危なっかしくて見てられない」と写ったそうで、
「試用期間でもあったことだし、今のうちに新しい仕事を見つけなさい」
と、言われてしまいました(>_<)
そんなわけで、母の遺品を整理したり、私室の模様替えをしながら、新しい仕事を探してます。

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from: サクヤさん

2006年11月22日 13時39分02秒

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「エリスさん」
次回作も楽しみにしていますね☆

エリスさんの文章は読みやすくて、楽しみながら勉強させていただいてます♪

お仕事もされているのですから、ゆっくり休んで下さいね(*^_^*)

更新は私には遅くありませんので、エリスさんのペースで十分ですよ☆

では、短篇、未発表ともにお待ちしてま〜す☆

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from: エリスさん

2006年11月21日 17時54分11秒

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「Re:エリスさん、お疲れ様でした」
ありがとうございます。
労いの言葉が私には励みになります。
次回作は、短篇を一本書いてから、同人誌に載せたものを転載しようと思います。
同人誌と言っても、販売はしてません。ワープロで出力したものにペーパーパンチで穴を空け、手縫いで製本したもので、学校の友人や職場の皆さんで回し読みしてもらってたんです(^o^;
だからほとんど「未発表」と言えます。

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from: サクヤさん

2006年11月21日 12時59分08秒

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「エリスさん、お疲れ様でした」
楽しく読ませていただきました。
お忙しい中ありがとうございました。
更新、楽しみにしています☆

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from: エリスさん

2006年11月21日 12時32分16秒

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「Re:約束・39」
「約束」これにて終了です。
進行が遅すぎてスミマセンでしたm(__)m

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from: エリスさん

2006年11月21日 12時30分04秒

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「約束・39」
「そうですねェ、父親とも相談しなければなりませんが……おそらく、反対はしないでしょう」
アテーナーの言葉に、ケクロプス王は喜んで平伏した。
「よろしくお願いいたしまする」
この後、エリクトニオスが成人するのを待って、ケクロプス王は彼に王位を譲った。
エリクトニオスがどういった王になったか、その治世は伝わっていないが、アテーナー女神に愛されて育ったことだけは確かである。

                      終

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from: エリスさん

2006年11月21日 11時55分53秒

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「約束・38」
突拍子もない申し出に、アテーナーは威厳などそっちのけで驚いてしまった。
この当時、後継ぎのいない王家では、王女に婿を取らせるよりも、神にゆかりのある人物を養子に迎えて王位を継いでもらうことの方が、一族の栄誉とされていた。その為、男神が宿泊なさる時などは、王女や果ては王妃が夜伽を勤めるなどざらにあったという。運良く御落胤をいただければ、その子を後継ぎにする為である。
アテーナイの守護神は女神であるアテーナーであるから、アテーナーの御子など望んでも無理、と諦めていたケクロプス王だったが、それが思いもかけないところから「アテーナーの子」が現われた。これは逃す手はない。

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from: エリスさん

2006年11月17日 15時34分03秒

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「約束・37」
アテーナーは早速、アテーナイ王家の三人の王女を呼び寄せた。
アグラウロス、ヘルセー、パンドロソスの三人である。
「私が斎王の勤めをしている間だけ、この子の面倒を任せたいの」と、アテーナーは言った「やってくれますね、おまえ達」
「では! 私たちは養育係ということですね!」
末娘のパンドロソスは感嘆しながらそう言った。
すると、長女のアグラウロスも言った。
「そのような光栄なお役目、私どもに賜りくださいまして、ありがとうございます」
「誠心誠意つくしまして、ご養育いたしまする」と、次女のヘルセーも答えた。
さてそこには、三人の王女の父・ケクロプス王も来ていた。王女たちが呼び出されたので「なにか粗相でもしでかしたか!?」と心配になり、ついてきたのである。しかしケクロプスは乳児用ベッドに寝かされている子供を見て、すぐにそうではないことに気づいた。それどころか、愛らしい子供の寝顔に見入ってしまい、もうとりこになっていたのである。
そんなケクロプス王が、目から一滴の涙をこぼした。これに驚いたアテーナーは、
「どうしたのですか? 王」と声をかけた。
「申し訳ございません」と、ケクロプスは平伏した「この御子様を拝謁しておりましたら、つい、亡くなりました王子のことを思い出しまして」
「ああ……そなたの跡取り王子は確か、赤ん坊の時に……」
「はい。この御子様ぐらいの時に、病で亡くなりました。ですので、つい……本当に申し訳ございません。このような不吉なことを申しまして」
「良いのです。私も、エリクトニオスに出会ってからは、親の気持ちがわかるようになりました。子を失うということは、わが身を斬られるより辛いことなのでしょう」
「はい、それはもう……」
その時、ケクロプスは何かを思いついて、アテーナーに顔を向けた。
「アテーナー様! この御子様は、神としてお育ていたしますか?」
「いいえ。神と呼ぶには神力が足りません。普通の人間として生きる方が、この子のためだと思うわ」
「でしたら、なにとぞなにとぞ! 我が跡継ぎにしてくださいませ!」
「ええ!?」

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from: エリスさん

2006年11月12日 14時54分57秒

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「約束・36」
「ところで、おじ様方」と、アテーナーは外へ出た「こんなに朝早くから、お散歩ですの? それにこの乳母車、ヘーパイストス様のお手製ですね。おじ様方でも扱えるように、取っ手が長くなっていますのね」
そう、手から炎まで出せるプロンテースと、氷点下まで低い冷気を発するステロペースの手では、誰かに触ろうものなら火傷・凍傷になりかねない。それを配慮して、この乳母車は取っ手を長ァくして、赤ん坊に熱気も冷気も当たらないようにしてあるのである。
「でも、お散歩ならサミアがいるでしょうに、どうしてお二方が?」
アテーナーの問いに、ステロペースが懐から手紙を出し、それを長ァい箸でつまんでアテーナーに渡した――これも冷気対策である。
その手紙は、ヘーパイストスからだった。
アテーナーは読み始めて、驚いた。
「まあ、サミアがぎっくり腰!」
すると、「うほほ(仮病だよ)」とプロンテースが言った。
「仮病?」
「うほほ、うほほほ、うほほうほ」(坊やをそなたに譲るための口実に、サミアが一芝居うったのさ)
「うほほほ、うほォ、うほほ」(ヘーパイストスもその事は気づいているがね)
「まあ……」
アテーナーは手紙を読み進めた。
《――そんなわけで、エリクトニオスの面倒を見られる人がいなくなってしまった。そこで勝手なお願いだが、君が代わりに面倒を見てもらえないだろうか。ガイアとの約束もあることだし、君なら、立派に息子を育ててくれるのではないかと思う。
 親愛ならパラス・アテーネー殿。どうかこのわがままを聞いてほしい。
 わが息子・エリクトニオスの将来を、君に預けさせてくれ。そして、たまには顔を見に行くことを許してほしい……》
『……ヘース様に逢える……』
そう思った瞬間、アテーナーの頬が紅潮した。
なんて願ってもない申し出だろう。エリクトニオスを育てる喜びと、愛しい人に逢える口実が一度にきてしまった!
アテーナーが乙女らしいときめきに我を忘れてしまっているのに気づいたキュクロープス兄弟は、「わほ!」と声をかけることで、自分たちの存在を思い出させた。
「あ、ごめんなさい、おじ様方。ヘース様に、たしかに承りましたとお伝えください」
「うほほ、うほ」(ああ、伝えるよ)
「うほほほほほ、うほ」(ワシらも、たまには会いに来ていいかな?)
「ええ! もちろんですわ! お二方にとっても孫のようなものですもの。ぜひ会いにきてください!」
こうして、エリクトニオスは処女神宮(パルテノーン)に引き取られることになった。

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from: エリスさん

2006年11月12日 14時32分28秒

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「約束・35」
エリクトニオスは日に日に可愛く、元気に成長していた。アテーナーにも懐いて、もしかしたら自分の母親だと思っているのでは? と思われる行動も見られた。そんな時は一層愛しくて、アテーナーは早くこの子を引き取りたいと思うのだった。
そんな二人の様子を、ヘーパイストスはサミアやキュクロープス兄弟から聞かされていた……。
――ある日のことだった。アテーナーが朝の祈りの勤めをしていると、外から侍女たちのけたたましい悲鳴が聞こえ、その悲鳴でアテーナーもびっくりした。
「どうしたの!? なにごと!」
アテーナーは祈りの間から飛び出して、悲鳴のした方へ走って行った。すると、入り口付近で腰を抜かした侍女が二人、へなへなと動けなくなった体をバタつかせていた。
「あ、あ、ご主人様……ば、ば、バケ……」
「何を言っているの、しっかりなさい!」
アテーナーが一喝すると、外から「うほ!」と声がした。
見れば、長ァい柄のついた乳母車に赤ん坊のエリクトニオスを乗せて、キュクロープス兄弟が待っていた。
「まあ、おじ様方!」
と、アテーナーが喜んだのも束の間。何故この侍女たちが腰を抜かしているのかに気づいた彼女は、烈火のごとく怒った。
「この無礼者めがァ!!!!! こちらのお方は、私の敬愛する大叔父・キュクロープスのお二方よ! それを、化け物呼ばわりとはァ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
アテーナーの怒りのオーラが炎と化して、二人の侍女に覆いかぶろうとしたその瞬間、ステロペースがその手から冷気を飛ばして、その炎を消してしまった。
「うほうほ、うほほほほ」(怒ることはない。ワシらはそんなことは慣れているよ)
「おじ様、なんてお優しいお言葉……」とアテーナーは感嘆して、二人の侍女に言った。「わかったでしょ? こんなにお優しい方なのよ。さあ、謝りなさい」
二人の侍女も、よくよく見ていてそれが分かったので、ちゃんと正座をして謝った。
「お許しください、キュクロープスのお二方」
その言葉に、兄弟はニコニコと笑ってみせた。

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from: エリスさん

2006年11月10日 15時48分50秒

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「約束・34」
そこでステロペースがアテーナーの方へ行って、言った。
「うほぉ、うほぉ。うほほ」(今はヘーパイストスも難しいことを考えられる精神状態ではないから、ここはワシ達に任せてくれぬか? 悪いようにはしないから)
「はい、おじ様」と、アテーナーは言った「今日はこれで……お邪魔をいたしました」
「うほほ」(気をつけてお帰り)
アテーナーは、退出の際にもう一度ヘーパイストスのことを見た。
ヘーパイストスもアテーナーに視線を送っていた。が、すぐに背けてしまった。
今はもう、以前のように親しくできない二人だった。

それから、二ヶ月がたった。
結局、ガイアの子はサミアが養育することになったが、アテーナーもヘーパイストスがいない時を見計らって様子を見に行ったりしていた。

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from: エリスさん

2006年11月10日 15時40分43秒

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「約束・33」
アテーナーは祭壇に横たえられたガイアの傍に寄ると、その穏やかな死に顔を眺めた。
これで幸せだったのだろうか? ……恐らく、ガイアにとってはそうだったのだろう。そう思うと、アテーナーの目から涙がこみ上げてきた。
思わず、右手がガイアの頬を撫でようと伸びていた。それを制するように、肩に留まっていた蝶が飛んできて、アテーナーの指に留まった。
『……わかってるわよ』
アテーナーはそう思って、手を引っ込めた。――死者に触らない、というのが《宇宙の意志》との約束だったのだ。
そして、ここにはもっと大事な「約束」を果たすために来た。そのことに気づいたのは、ガイアの祖母・サミアだった。
サミアは、赤ん坊を抱いたままアテーナーのもとへいき、跪(ひざまず)いた。
「パラス・アテーネー様でいらっしゃいますね。孫のガイアからお話は伺っております。この御子がガイアが産み落としましたヘーパイストス様の御子・エリクトニオス様でいらっしゃいます」
「まあ、この子が……」
「はい。どうぞ……」と、サミアは赤ん坊を差し出した「この御子は、今日からあなた様の御子でございます」
「オイ!」とヘーパイストスは叫んだ「それはどういうことだ!」
「ガイアと、こちらの女神様との間に交わされた約束なのでございます」
サミアは二人の約束のことをヘーパイストスに説明した。そして、
「私も初めは戸惑いました。けれど、この婆もそう長くは生きてはおれませぬ。そうなった後、誰がこの御子をお育てすることができましょうや。キュクロープスのお二方ですか? それはご無理というもの。ですから、ガイアは信頼できる方にご養育をお願いしたのでございます」
「……勝手だよ、みんな……」とヘーパイストスは言った「そんな大事なこと、僕がいない時に決めてしまって……。パラス、君が斎王になった時だってそうだ。僕はいつだって蚊帳の外。仲間はずれはもうたくさんだ!」
するとプロンテースは、今度は思いっきり相手のおでこに自分のおでこを打ちつけた。
「イタッ、なにするんだよ、おじさん」
「うほほ! うほうほ! うほうほうほほ!」(子供のときのゼウスの「継子いじめ」のことを、いつまでも言うんじゃない! それに、アテーナーが斎王になったのも、本人の意志ではなかった。仕方がなかったことなんだ!)
「だって……」
ヘーパイストスは勢いを失って、呟くように言った。
「今は、サミアがいるんだから、預けなくても……」

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from: エリスさん

2006年11月10日 15時15分45秒

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「約束・32」
ヘーパイストスはすっかり生気を失って、そう言った。
「ガイアは決して丈夫な体ではなかった。子供なんか産めるはずがなかったのに、彼女の望みどおり産ませてしまった。本当は、堕胎させるべきだったんだ。だから……僕が殺したも同然だ」
見た目は大人であっても、ヘーパイストスはまだ15歳の少年である。こんな時、弱気になってしまうのは仕方ないのかもしれない。それでも、プロンテースは力づける為に近づくと、自分のおでこでヘーパイストスのおでこを軽く叩いた。
「うほ、うほほほ、うほうほ」(ガイアはお前を愛していたから、お前の子を産みたかったのだ。それが、ガイアが生きてきた証になる)
「……おじさん……」
「うほほ、うほォ……」(ガイアの尊い覚悟を、わたしたちは受け入れなければならないのだよ)
「……おじさん!」
ヘーパイストスが抱きついてきたので、プロンテースは自分の腕を自分の背中に回した。うっかりヘーパイストスを抱きしめて火傷を負わせないための配慮である。
プロンテースは、ヘーパイストスの頬に自分の頬を摺り寄せることで、彼を慰めた。
――アテーナーが訪れたのは、そんな時だった。
「……お弔いに、参りました」
「パ……いや、アテーナー殿。どうしてここへ?」
ヘーパイストスは、アテーナーとガイアが知り合いだとは知らなかったので、不審に思ってそう聞いた。
「お久しぶりです、ヘース様。キュクロープスのおじ様方もご無沙汰を致しております。……ガイアとは、一度お会いしているのです」
「ガイアと!?」
「ええ……そして、私たちは友人になりました」
アテーナーは、祭壇へと歩み寄った。

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from: エリスさん

2006年11月05日 11時58分51秒

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「約束・31」
一方キュクロープス兄弟は、子供用ベッド(ヘーパイストスの手作り)に寝かされている赤ん坊の顔を覗き込んでいた。
キュクロープス兄弟は女神のガイアが最後に産んだ子供で、いわゆる「異形の神」である。しかし恐ろしいのは姿形だけで、実に愛敬のある二人だった。一つしか目が無いゴリラ、と想像してもらえれば幸いである。
先ず、兄のプロンテースが赤ん坊の頬に触りたくなって、そうっと手を差し伸べると、赤ん坊はプロンテースの手から発せられる熱気で熱がって、泣きだしてしまった。
それでプロンテースが慌てて手を引っ込め、代わりに弟のステロペースが手を差し伸べると、その手から発せられる冷気で落ち着いて泣き止んだのだが、今度は寒すぎてまた泣きだしてしまった。
「うほうほ…」
「うほぉ…」
二人は子供に触れない自分達を嘆いた。
するとそこへ、ガイアの祖母・サミアが来て、言った。
「まあまあ、お二方とも。お仕事には無くてはならないその御手も、子供をあやすには向いていらっしゃらないとは、難儀なことでございましょう」
そうして、サミアは赤ん坊を抱き上げると、二人の方へ近付けた。
「ささ、この婆がお抱き申し上げておりますから、存分にお孫さまの顔を御覧なさいませ」(正確には孫ではないが)
すると赤ん坊の方でもしっかりとキュクロープス兄弟の顔を見ていて、そしてしばらくすると、機嫌良く笑いだした。
それを見て、キュクロープス兄弟も喜んだのだった。
ヘーパイストスが呟いたのは、そんな時だった。
「……僕のせいだ……」

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from: エリスさん

2006年11月05日 10時54分18秒

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「約束・30」


ガイアの家では、彼女の友人達が集まって、弔いに来ていた。が、今は神であるヘーパイストスとキュクロープス兄弟が来ているので、皆、祭壇のある部屋からは退いて、居間に集まってガイアの思い出話をしているのだった。
ガイアの祭壇の前では、ヘーパイストスが生気を失って、ぼうっとしていた。

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from: エリスさん

2006年11月03日 14時23分57秒

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「約束・29」
「《宇宙(そら)》……」
「わたしは、アテーナーのそうゆう心根を気に入って斎王に指名したのです。ここで引き下がるようなら、わたしは斎王(みこ)を軽蔑していたことでしょう」
アテーナーはその言葉を聞いて、天を仰いだ。
「では、《宇宙(そら)》、行ってもいいのですね?」
「ただし斎王(みこ)、約束してください。直接、死者には触れぬこと。いいですね?」
「はい! ありがとうございます!」
「クラリアー」と《宇宙の意志》は言った「斎王(みこ)に白い衣装を出してあげなさい」
「御意のままに」
クラリアーはアテーナーの着替えを手伝った。そして、
「私もお供いたします」と、蝶に姿を変えて、アテーナーの左肩に留まるのだった。
「なるほどね。そうやって私を見張っていたわけね」

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from: エリスさん

2006年11月02日 16時31分37秒

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「約束・28」
アテーナーは宝物庫から飛び出すと、自分の部屋へと戻り、衣装ケースを漁りだした。
喪服を探していたのである。ガイアが死んだのは紛れもない事実だ。華美な衣装で訪ねていけるはずがない。
だが、それを咎めたのたクラリアーだった。
「いったい何をしておいでです」
「喪服を探しているのよ。あなた、知らない?」
「そんなもの、あるはずがございません」
「……え?」
「恐れ多くも、あなた様は斎王であらせられます。そんな御方が、人の死の穢れに触れられるとお思いですか? ですから、喪服など初めから用意してはおりません」
「そんな……それじゃ、親類が身罷られても(死んでも)葬儀には出てはいけないと言うの?」
「当然でございます。その前に、あなた様のご親類は皆様〈不死〉でいらっしゃいますから、葬儀そのものが存在いたしません」
「でも! 私の友人が亡くなったのよ! 友として葬儀に参列するのは当たり前のことよ!」
「斎王(みこ)様!! お立場を弁えなさいませ!」と、クラリアーは強くたしなめた。「あなた様は、このオリュンポスの平安を祈願するという大事な役目を負っておられる〈斎王〉なのですよ! たかが人間の死ごときで、穢れに触れるなど以ての外!!」
「たかがですって……そう、クラリアー、あなたは誰が身罷ったのか、知っているのね」
「恐れながら、あなた様の行動は常に把握していなければなりませんので……」
アテーナーがガイアに会いに行ったことも全て、密かに付いて行って知っていたクラリアーだった。流石はヘスティアーから下賜された側近だけある。
だが、アテーナーも負けてはいなかった。
「たかが人間じゃない! 私にとって、命をかけて約束をした大事な〈友〉なのよ! 私は、友を裏切りたくない!」
「なんと言われましょうとも、あなた様は常に清く美しくあらねばならない存在。絶対に汚されてはならないのです!」
「クラリアー!!」
そんな時だった。天から声が聞こえたのは。
「もう良い、クラリアー。斎王(みこ)の好きにさせてあげなさい」
《宇宙の意志》の声だった……。

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from: エリスさん

2006年10月29日 14時36分59秒

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「約束・27」
「なにを突然!?」と、アテーナーは驚いた。
「真剣な話です。私は、長くは生きられません。私の母が私を産んだときのように、私もこの子を産むときは、命と引き換えになるでしょう」
確かにそうかもしれないが……アテーナーは反論できなかった。
「そうなった時、誰が生まれてきた子を養育してくださるのでしょう。祖母はもう高齢ですし、ヘーパイストス様は危険なお仕事をなさっています。仕事場に子供を連れて行くわけにはいきません。同じ理由でキュクロープスのお二方も無理……ヘーパイストス様が他の女性をお傍に置かないかぎり、この子を養育してくれる方はいないのです。だからと言って、あのヘーパイストス様が他の女性などお傍に置くと思いますか?」
「……無理でしょうね」
おそらくガイアを恋人にしたのだって、アテーナーの面影を求めてのことに違いない。それはガイア自身も百も承知なのだ。だからガイアがいなくなってしまったら、ヘーパイストスはまた寂しい独身生活に戻るのだろう。そうなったら……。
「ですから、パラス様にお願いしたいのです。あなた様なら、この子をちゃんと養育してくださる。そうでございましょう? この子は、ヘーパイストス様の御子でもあるのですから」
愛する男性の子供----それだけでも、引き取って育てる価値はある。そのうえアテーナーは、ガイアのことをもう他人とは思えなくなっていた。
そう、このまま誰か違う女が引き取って育てる、などという話が持ち上がりでもしたら、自分は絶対にそれを阻止することだろう。
「わかったわ」と、アテーナーは言った「万が一、あなたがこの子を置いて冥府へ旅立つことがあったら、私がこの子を養育します。これは、処女神宮の守護神パラス・アテーネーが生涯をかけて誓った約束です」
「処女神宮……では、あなたは……」
ガイアはその時はじめて、「パラス」が「アテーナー」だと知った。----ヘーパイストスとの別離も納得がいったのである。
「でも、ガイア、忘れないでね」
アテーナーはガイアの右手をしっかりと握り締めながら、言った。
「子供は無事に生んで、あなたが育てるのよ。それが一番いいのだから、先ず、あなた自身が丈夫になることを考えてね」

----それから、三ヶ月がたっていたのである。

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