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神話読書会〜女神さまがみてる〜

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  • from: エリスさん

    2012年10月25日 22時27分51秒

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    つないだその手を離さない・3


     「イオーはアルゴス王の娘なんでしょ?」
     アーテーに聞かれて、
     「はい、そうですよ」
     と、イオーは答えた。
     「それで、レシーナーはあなたのお母様なんだよね?」
     「ええ、そうです」
     「だったら、レシーナーはアルゴス王のお后様だよね? 普通なら王宮で皆に大事にされているばすなのに、どうしてわざわざ私の所に通ってきてくれるの?」
     「詳しいことは私も分からないのですが……母は父の正妃ではなく、後宮に住む側室なんです」
     「つまり、お妾さん?」
     二人は一緒に花の冠を作りながら話していた。先刻までアーテーの姉たちもいたのだが、疲れたとか、お腹が空いたとかいう理由で、この場から離れてしまったので、二人っきりになれたこの機会にアーテーは昔から疑問だったことを聞いてみたのである。
     「はい。でも、父には他に妻はいません。母だけです。だから父も、祖父母も母を大事にしてくれています。だから、本来なら後宮から出て来られない身分の母が、自由に外出を許されているのです。ですが、母はあまり自分が表立つのは良くないと思っていて、公式の場には顔を出しません」
     「どうして?」
     「正妃ではないからです。母は正妃になれるような身分の女性ではありません。もともとは臣下の娘でしたから。だからこの先、父が政治的配慮で他国の姫を后として迎えなければならなくなったら、その人が正妃になります。もし本当にそうなった時、正妃になった人との間に軋轢が生まれないように、今から日陰の身として過ごしているのです。そうは言っても、ずっと引き籠っているわけにもいきません。だから、お友達であったアーテー様のお母様との約束を果たして、アーテー様のお世話をさせてもらっているんです」
     「そっか。神々の領域に来ている間の事は、人間たちには伝わらないものね……イオーは、私のお母様・エリスと、レシーナーは友達だって聞いてるのね?」
     「はい。それに……最後にエリス様が母に会いにいらした時、二人はそのような約束をしていましたから。“生まれ変わっても友達でいよう”とか……もっとも、あの時の私はまだ幼かったので、言葉の端々は記憶違いをしているかもしれませんが」
     「そっか……」
     アーテーはちゃんとその所は聞かされていた――エリスとレシーナーが恋人だったことを。それだけじゃなく、姉と兄たちに新しく仕えることになった従者たちがすべて、エリスの元恋人の子供か孫だということも。見た目は幼くても、実際はそれなりの大人であるアーテー達である。正直に話しておいた方が良いとエイレイテュイアが考えたからだ。
     しかし、レシーナーのアルゴス王家での立場はちょっとデリケートなことなので、今まで誰も話さなかったし、アーテーもそれを察して聞こうとはしていなかったのである。
     「でも母は、自分のその立場に満足しているそうなんです。兄などは、良く言っているんですよ。“自分が大人になって、王様になれたら、お母様をもっと日の当たる場所に出して差し上げるんだ”って。でも、母は兄のそんな言葉にはいつも否定的で。“そんな堅苦しいところに居たら、私の楽しみが減ってしまうじゃないの”って――それって、アーテー様のお世話をしていることを言っているんだと思います」
     「そう……なの?」
     自分の所に来るのが楽しい、とレシーナーが言っていることに喜びつつも、そんなことを素直に言うとイオーが気を悪くするかな? と思って言葉を控えた。
     「はい。母はこの社殿に上がって、アーテー様や、エイレイテュイア様たちと接しているのが、とても楽しいのだと思います。アルゴス王妃になってしまったら、それが出来なくなってしまいます。だから、私も母はこのままでいいと思っています――そう思えるのは、兄妹の中で私だけが母と一緒に後宮で暮らしているからなのかもしれませんが」
     「そっか……うん、いいんだよ、レシーナーはそのままで。おかげで、私もイオーとお友達になれたし」
     「はい」と、イオーは嬉しそうに笑った。
     「うん、それじゃ……」
     と、アーテーは出来上がった花の冠を両手に持って……その途端に冠が壊れて、ボロボロになってしまったので泣き顔になった。
     「またやっちゃった……」
     「泣かないでください、アーテー様。私のがあります」
     イオーは綺麗に仕上がってる花の冠を差し出した。
     「うん、じゃあ、それもらっていい?」
     「ハイ!」
     「ありがとう。でも、私が持っちゃ駄目。イオー、一緒に来て」
     アーテーが立ち上がって歩き出したので、イオーも付いて行った。
     「どこへ行くのです?」
     「私のお姉様のところ――マケ―お姉様、最近元気がないの」
     アーテーが花の冠を作っていたのは、マケ―を慰めるためだったのである。
     「お姉様、好きな人がいなくなっちゃったんですって」
     「まあ……亡くなられたのですか?」
     「ううん、そうじゃなくて、実家に帰っちゃったの、エジプトに。ギリシアとは習慣が違うから、合わなかったんだって聞いたけど……」
     「そうなんですか……悲しいですね」
     そんなことを話しているうちに、マケ―の部屋の前に来ると……中から話し声が聞こえてきて、二人は立ち止まった。
     「お許しください、身勝手とお思いでしょうが……」
     少し言葉のイントネーションがずれる話し方をしている――アーテーはすぐにその声の主が誰だか分かって、イオーの腕を掴んで入口から離れさせると、しゃがんで、入口にかかっているカーテンを少し除けて中を覗いた。
     案の定、実家に帰ったはずのクレオが、マケ―と会っていたのだった。
     「国に帰ろうと思い、船に乗りました。でも……船の中でずっと、マケ―様の事ばかり考えてしまいました。忘れようとしても、忘れられず……」
     「受け入れられないって、言ったじゃない……」と、マケ―は言った。「女同士で愛し合うなど、獣にも劣る行為だって……」
     「お許しください! 私が馬鹿でした! つまらぬ偏見で、心が曇っておりました。私もあなた様をお慕いしていましたのに、同性愛は罪だと、そんな詰まらない考え方に縛られてしまって……私が間違っておりました、我が君! どうか、私をあなた様のお傍に……」
     クレオがすべて言い終わる前に、マケ―は彼女を抱きしめていた。
     「いいのね? クレオ。あなたを愛してもいいのね?」
     「はい。私も、あなた様のことが……」
     マケ―はクレオの唇に、情熱的なキスをした。そして……。
     二人が寝台に倒れ込んだあたりから、イオーがアーテーの手を引っ張って、その場から離れた。
     「もうちょっと見ていたかったのに……」
     と、アーテーが口を尖らせるので、
     「駄目ですよ!」と、イオーは言った。「他人の濡れ場を覗き見るなんて、悪趣味です」
     「って、イオーはそうゆうの見た事あるの?」
     「ないですけど!……父と母がキスしてるところ以外は」
     「ベッドのは見た事ないのね?」
     「普通は見ないものでしょう?」
     「私、あるよォ。エリスお母様とエイレイテュイアお母様のを」
     「え!? そうなんですか?」
     ギリシアの家屋は入口に扉がない造りが多いので、他人の情事を覗き見るなど簡単なことなのだが……それはさて置き。
     「そうゆう時のお母様たちって綺麗なんだよォ。もうねェ、色っぽくて悩ましげで、素敵なの……」
     「そう……なんですか?」
     イオーは聞いてて恥ずかしくなってくるのを覚えた。
     「でもね、レーテーお姉様(アーテーの一番上の姉)が言ってた。綺麗なのは女同士だからで、男が混ざると綺麗じゃないんだって」
     「そうゆうものなんですか?」
     「らしいね。だから、私、決めてるんだ。私も大人になったら、レーテーお姉様みたいにお嫁さんをもらう!って」
     どうやらアーテーも偏った恋愛観をもって育ったようだった。

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