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神話読書会〜女神さまがみてる〜

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  • from: エリスさん

    2013年02月22日 14時32分11秒

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    白鳥伝説異聞・1

    不和女神エリスが精進潔斎に入って2年後の事。エリスの長女である忘却の女神レーテーは、冥界にある忘却の川の管理人になった。
    これはレーテーの司る物が「忘却」だったこと、そしてエリスが精進潔斎に入る時に同行し、エリスが忘却の川の水を飲むときに手助けをしたことも合わさって、冥界の王妃ペルセポネーから勧められたのである。
    とは言え、忘却の川はあえて管理すべき川ではなかった。生まれ変わるに当たり、前世の記憶を消すために川の水を飲むだけなので、別に悪用されることもなく、ただそこに流れていればいい。だからこの「管理人」という役職は、単なる名目に過ぎなかった。
    「エイレイテュイアから聞いたのよ。弟や妹の世話から解放されたら、やることがなくなって呆けてしまってる事が多くなったって」
    と、ペルセポネーは言った。「だから、なにかお仕事をあげた方がいいかなっと思って」
    「ありがとうございます......」と、レーテーは言った。「でも、このお仕事もやることがないのですよね?」
    現にこうしてお茶にお呼ばれしているし......と、レーテーは思った。川の畔の管理小屋でぼうっとしていたところ、ペルセポネー自らが呼びに来て、こうして王宮のペルセポネーの部屋でお茶とお菓子を振る舞われているのであった。
    「まあ、そうね。その分、趣味を楽しむ時間が増えるわよ」
    「趣味......ですか?」
    言われて見ると、レーテーにはたまに本を読む以外に趣味がなかった。それが、何もやることがなくて怠惰な生活を送る原因になってしまっているのである。
    「今まで下の弟妹(きょうだい)達の世話ばかりしていたから、仕方ないわ。だから、これから趣味を探せばいいのよ。だけど、ただ趣味に興じてるだけでは単なる遊び人になってしまうから、名目だけでも仕事を持った方がいいでしょ? それで、忘却の川の管理人になることを勧めたの」
    「ペルセポネー様は、どうしてそんなに私に親切にしてくださるのですか?」
    今まで交流があったわけではない。エイレイテュイアとは姉妹と言うこともあって親しくしているようだが、それが直接レーテーと関係するわけではないだろう。レーテーの当然な疑問に、ペルセポネーは笑顔で返した。
    「あなたの御母君のエリスには、とてもお世話になったのよ。私は、その時の事を忘れてしまっているようなのだけど、何となく分かるの。あなたも、それに係わっているのではなくて?」
    そう言われて、レーテーも思い出した――自分がまだ少女だったころ、エリスとその兄・ヒュプノスに連れられて、どこかの隠れ家に連れて行かれた。そこには十カ月も眠ったまま間になっていたペルセポネーがいて、彼女を起こすために、夜の女神の血を引く自分たち三人が力を合わせ、エリスをペルセポネーの潜在意識に入り込ませたのだった。そして、ペルセポネーの悲惨な記憶を消し、彼女を眠りから起こしたのである――その時のことを、ペルセポネーは言っているのだ。
    「覚えていない恩義のために、私の事を?」
    「そうでなくても、私はあなたの御母君のエリスとも仲が良かったのよ。私があまり自分のテリトリーから出ないから、殆ど水晶球(テレビ電話のような通信機)でしか話さないけど、彼女が旅行に行くと良くお土産をいただいたりしたわ」
    「そうだったんですか......」
    「そうだわ! 旅行!」
    ペルセポネーは何か思いついたらしく、ポンッと手を叩いた。「旅行に行ってみたら? あなたの御母君も旅行が好きなのよ、知ってるでしょ?」
    「はい、確かに......」
    エリスの仕事である不和――戦争を引き起こす切っ掛けは、そうしょっちゅうある物ではなかった。殆どが暇な毎日だったので、好きな時にいろんな国を旅行していたのである。エリスが愛用していた前開きの夜着も、大陸の東の方で手に入れたと言っていた。
    実は何度かレーテーも「一緒に行こう」とエリスに誘われていたのだが、その度に弟妹の世話を理由に断っていたのである。本心は、行ったこともない外国になど行くのが怖かったからなのだが。
    ペルセポネーにそのことを話すと、
    「あら、勿体ないことをしていたのね。それなら尚の事、自分を成長させるためよ。どこか行っていらっしゃいな。この冥界はね、世界中の死者の国とつながりがあるのよ。行ってみたい国があれば、そちらの国の死者の国に連絡を取って、あなたの面倒をみてもらうわよ」
    「そうですね......」
    そんなことを言われても、レーテーにはまったく見当がつかない。
    ちょうどそこへ、エジプトの女神から、ペルセポネーに通信が入った。
    ペルセポネーが席を外して女王と話をしている間、一人待たされているレーテーのもとに、少年がお茶のお代わりを運んできた。
    「どうぞ、オリーブティーです」
    少年がポットを手に言うと、レーテーも「ありがとう」とカップを差し出した。
    「あなたはここの小姓?」
    「いいえ」と、少年は笑った。「僕はここの王と王妃の息子ですよ」
    「息子?――ああ! あの裁判の時の!」
    その昔、ペルセポネーと美の女神アプロディーテーとの間で、少年を取り合って裁判を行ったことがあった。その様子をレーテーはもちろん、オリュンポス中の神々が見守ったのである。そもそもはアプロディーテーが見つけてきた人間の赤ん坊だったが、子供の世話を面倒に思ったアプロディーテーがペルセポネーに預け、そのまま放置していた。その間、ペルセポネーと夫のハーデースはまるで我が子のようにその子を育て、少年も二人を両親だと信じて疑わなかったのであるが、少年が成長すると突然アプロディーテーが現れて、その子を返すように要求してきたのである。
    それで神々の王ゼウスが裁判官となって、少年の今後を決めたのである。すなわち一年を三等分し、三分の一は少年の自由、三分の一は冥界、残る三分の一はアプロディーテーのもとで暮らすようにと。
    ゼウスの裁断なので、納得は行かなくてもペルセポネーもハーデースも従うしかなかった。そして少年は、アプロディーテーのもとに居る時に不慮の死を遂げたのである。
    「そう、死者となったおかげで、ずっと冥界にいられるようになったのね」
    と、レーテーが言うと、
    「いいえ、ずっとではないですよ」
    と、少年――アドーニスは言った。「死者となったことで、いろいろな国に転生することになりました。つい最近まではエジプトにいて、そこで寿命を終えたので帰って来たんです」
    「ヘェー、そうなんだ......他にはどこに?」
    「その前はどこか冷たい海の底の、貝になってました」
    「貝? あの、食べる貝?」
    「ええ。必ずしも人間に転生できるわけではないらしいですね。でも、貝になるのもいい経験でしたよ」
    「ヘェ~.........」
    そんなうちにペルセポネーが戻ってきた。
    「あら、アドーニス。お茶のお代わり持ってきてくれたの?」
    「はい、お母様。お母様もお飲みになるでしょ?」
    「ありがとう、いただくわ。......話が中断してしまってごめんなさいね、レーテー」
    「いいえ、ペルセポネー様」
    「でもね、おかげでエジプトのイシスにあなたのことを頼むことが出来たわ」
    「イシス?」
    「エジプトは天上の神と死者の神の境目が曖昧でね、イシスも天上にいながら死者の領域も携わっている女神なの。人間たちには呪術使いとして知られているわね。私とは古くからの友人なのよ」
    「はあ......」
    「それでね、あなたの旅行先にエジプトはどうかと思って、今イシスにお願いしてみたの。彼女は快く引き受けてくれたのだけど......どうかしら?」
    「はい......そうですね......」
    まだちょっと怖いけど、アドーニスも「面白い物がいっぱいありますよ」と勧めてくれるし、何より、尊敬する母・エリスに近付くためにも、母の趣味を体験するのも良いかもしれない、という思いが沸き起こった。
    「行きます、私。エジプトに!」
    こうして、レーテーは一カ月ほどエジプトを旅することになったのである。

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