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神話読書会〜女神さまがみてる〜

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  • from: エリスさん

    2014年11月07日 11時26分39秒

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    伝説異聞のそのまた異聞・2

    レーテーの姉妹――エリスの娘たちに人間の側近が付けられているのには、訳があった。
    「エイレイテュイア母君の一人息子のエロースは、もともとはエリス母君の第3子で、私の弟になるの。そのエロースは、15歳で体の成長が止まるって、幼いころから言われていたのね」
    レーテーがタケルに説明したことは、こうだった――そのエロースが人間の娘と恋をし、結婚すると、それまで子供の姿をしていたエロースがみるみる成長し、今では20歳前の青年ぐらいになっていたのである。
    そもそも神族は人間と比べて、体の成長が早い。それなのに、初めはエロースだけが体の成長が遅れる不運に見舞われているのかと思われていたのに、レーテー達も次第に成長が遅れだし、第5子のマケ―から下の子たちは完全に子供の姿のまま成長が止まってしまった。
    そこでヘーラーとエイレイテュイアが話し合って、エロースに倣(なら)って人間を傍に付けてみよう、ということになったのである。もしかしたら、傍にいる人間の成長に触発されるのかもしれないと。
    「でも、それだけじゃ足りなかったのよ。人間を傍に置くだけではなく、恋も――性的興味も覚えさせないと、体はいつまでたっても子供のままなんだわ」
    「なるほど......」と、タケルは言った。「ところで、一つだけ疑問があるんだけど、聞いていい?」
    「なぁに?」
    「この社殿には警護している兵士以外に男がいないみたいなんだけど、君の弟たちはどこにいるの?」
    「先ず、長男のリーモス(第2子)はもう独立して、別の社殿で暮らしてるわ。次男のポノス(第3子)は今、人間に化けて人間界で修行中なの。帰ってきたらリーモスと同居するって言ってたわ。三男のネイコス(第8子)と四男のプセウドス(第9子)は、叔父のヒュプノスに引き取られたの。リーモスとポノスが居なくなったら、アルゴス社殿は女ばかりだから、何かと厄介になるかもしれないからって」
    「そうなの。確かに、男の子の成長には男親が傍にいた方がいいでしょうね。例え実父じゃなくても」
    「そうみたいね。それで、妹たちに話を戻すけど......」
    レーテーは思いついた計画を、タケルの耳元で囁いた。
    「......うまく行かなかったら、単に恥ずかしいだけじゃないの」
    「大丈夫よ、うまくいくし。それに......楽しいわよ、きっと」

    三女のマケ―(第5子)は夜の星を眺めながら散歩をするのが好きだった。
    散歩と言っても社殿の中庭と裏庭だけで、社殿の外に出るのは怖いのでやめていた。最近はもっぱら側近として仕えるようになったエジプト人のクレオを連れている。
    「今日の夜空も綺麗だねェ。一片の雲もないから、星が全部見えるわ」
    「はい、まことに......」
    「ホラ、あれが白鳥座だよ」
    「ハクチョウザ? とは?」
    「星が描く絵のことだよ。いい? あの星とあの星を線でつないで......」
    マケ―が説明する為に立ち止まったのは、ちょうど噴水のところだった。クレオも一緒に星空を見上げ、マケ―の説明を聞きながら、そこに浮かぶ星の絵を思い浮かべた。
    そんな時だった。
    どこからか、甘い声が聞こえてきた......マケーにはそれが、姉のレーテーの声であるとすぐに察しがついた。しかし、こんな声を出しているところなど聞いたことがない。
    マケ―は声の主の姿を探した。そして、その場所を知るとともに、見てはならないものを見たと察して、クレオの手を引っ張って、一緒に噴水の影に隠れた。
    レーテーは、噴水の向こうの東屋にいた。倭国から連れて帰って来たという側近と一緒に――ほとんど何も着ていない姿で、絡み合っている。
    『姉君ったら、こんなところで......でも......』
    艶めかしくも美しかった。こんな姉を見るのは初めてで、いつまでも見ていたくなる。
    マケ―は自分の体が熱くなっていくのを感じた。すると......。
    「マケ―様......そのお姿は......」
    クレオが驚くのも無理はない。先刻まで10歳にも満たない少女の姿をしていたマケ―が、すっかりと大人の体に成長していたのである。
    「どうしたんだろ、私......姉君みたいになりたいって思っていたら、こんな......」
    「お綺麗ですよ、マケ―様。レーテー様よりずっと」
    「ホント? クレオ」
    二人はお互いの手を握り合った。
    「はい。初めてお会いした時から思っておりました。マケ―様はきっと、大人になったら美人になられるだろうと。そして今、想像以上の美女がここにおられます」
    「嬉しい......クレオにそう思ってもらえるのが、一番嬉しい」
    マケ―はクレオを抱きしめて、キスをした。そして......。
    「いけません、マケ―様......」
    密かに抵抗して見せるクレオを、マケ―は押し倒した。
    「お願い、今だけ......今だけだから......」
    「......はい。今だけ、でしたら......」
    クレオは体から力を抜いた......。

    「うまく行ったみたいね......」
    東屋の中にいたレーテーは、噴水の向こう側にいる妹たちの様子を察して、ひそひそ声でタケルに言った。
    「恥ずかしい思いをした甲斐があったかな」
    タケルはそう言いながら袴を履こうとして......何かに気付いて手を止めた。
    「恥ずかしいのなんて、初めのうちだけだったでしょ?......どうかしたの?」
    「他にも見ている人がいる」
    タケルが指差した方向――東屋の囲いの隙間から向こうを見ると、植え込みの中に誰かがいた。
    エルアーだった。二人に気付かれたことを知ると、恥ずかしそうに走り去っていた。
    「その問題があったな」と、タケルは言った。「レーテー、彼女のことを側女にしないといけなかったんだよね」
    「そう、なんだけど......どうしよう......」
    レーテーは起き上がると、服を着始めた。
    「私、タケルだけで満足なんだけどな......」
    「その言葉は嬉しいけど、エルアーをあんな風にしてしまった君は、責任を取らないといけないよ」
    「そう、よねェ......」
    先刻までの幸福感が、どんよりと曇ったものに変わっていく。
    仕方なく、タケルはレーテーを抱き上げて、部屋まで運んでやらなくてはならなかった。
    「わたしが一肌脱いであげるわ」
    「どうするの?」
    「とにかく任せて」
    タケルはそう言いつつも、自分の恋人に他の女をあてがわなくてはいけない状況に、複雑な思いを抱いていた。

    その日はレーテーが冥界に出仕することになっていて(出仕したところで仕事などないのだが)、タケルはアルゴス社殿で留守番となった。
    少しはこの国のことを勉強しようと思ったタケルは、書庫から本を借りてきて、レーテーの部屋で読んでいた。エルアーが来たのはそんな時だった。
    「恐れ入ります、タケル様。袴を縫うのに分からないところがありましたので、見せていただきたいのですが......」
    「ああ、いいよ」
    タケルは本を置いて立ち上がると、袴を脱いだ。
    タケルの足が露わになったので、エルアーは代わりに膝掛けを差し出した。
    「どうぞ、私が調べ終わるまで、掛けていらしてください」
    「ありがとう。どうせなら、そなたもここに裁縫道具を持ち込んで、ここで縫ったらどう?」
    「いいえ!そんな......」
    ゆうべ、あんな所をみてしまったばかりである。流石に長時間タケルと二人っきりになるのは恥ずかしいのだろう。だが、タケルには話したいこともある。
    「お願い、わたしの話し相手をして」
    タケルは男口調を止め、レーテーといる時のように素の自分を見せてみた。すると、
    「畏まりました」
    と、エルアーは頬を赤らめながら答え、すぐに侍女部屋から裁縫道具を取って来た。

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