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恋愛小説発表会〜時にはノンジャンルで〜

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  • from: エリスさん

    2010年12月24日 14時30分03秒

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    年内はこれにて終了です

     というわけで、今年の小説アップは今日が最後です。
     皆さんも年の瀬で忙しいと思いますが、私も本職の映画館スタッフの仕事が超多忙になるので、許してください。
     でも、小説ではなく雑談ぐらいはまだ書くと思いますので、その時はまた読んでやってください。

     今年も残り一週間。
     読者の皆様もお体には重々気をつけて、新年を迎えてください。


     それでは、また(^O^)/

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  • from: エリスさん

    2010年12月24日 14時22分58秒

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    「夢のまたユメ・5」
     「年とかあまり関係ないと思うけどね」とぐっさんは言った。「とはいえ、売店スタッフは有り難がってたけどね」
     「ありがたい?」と百合香は聞いた。「どうゆうこと?」
     「それまでの小田切さん(ナミの彼女)って、仕事にやる気がなくて、なんかゆっくりゆっくりやってるし、定時になったら後片付けもしないで帰っちゃうような人だったんだって。でも、ナミと付き合い始めてから、人が変わったように働き者になったんだって」
     それを聞いて全員が感心した。
     「すごい、ナミが変えたんだ」
     とユノンが言うので、百合香も言った。
     「まあ、ナミは人一倍働く子だから、感化されるよね」
     「う〜ん、っていうか……」とぐっさんは言った。「そういう仕事にだらしないところを見られると、ナミに嫌われると思ってんじゃないかなァ。ナミって、小田切さんのどこを好きになったのか、イマイチ理解できないんだよね」
     だからカヨさんが言った。「若くて可愛いところじゃない?」
     「見た目だけ?」
     「でなければ、私たちには見えない良さが、彼女にはあるんじゃないの。リリィはそこらへん聞いてないの?」
     カヨさんに言われて、百合香は思い出そうと努めたが……。
     「そういえば、聞いたことがないです。ナミって、そういうノロケ話はしないもんで」
     百合香としても、どうしてナミほどの真面目な子が、あんなパッと見ヤンキー風の子を好きになったのか理解できなかったのだが、どう悩んだところで、どうせ自分とは両想いになれないのだからと考えないようにしていたのだった。



     家に帰ると、勢いよく走って出迎えてくれる子がいる。
     「みにゃあ(^o^)」
     愛猫の姫蝶(きちょう)だった。アメリカンショートヘアーのブラウンタビーの女の子、5歳である。
     「ただいま、キィちゃん。いい子にしてた?」
     「みにゃあお」
     「すぐご飯にするから、もうちょっと待っててね」
     百合香は部屋に入って、すぐに部屋着に着替えると、二階のベランダへ行って洗濯物を取り込み、そのまま同じ階にある仏間へ行って、仏壇の扉を開いて鈴を鳴らして手を合わせた。
     「お母さん、ただいま」
     仏壇の中には5年前に死んだ母の写真が飾られている。
     そして感傷に浸っている暇もなく、取り込んだ洗濯物をもって一階の自分の部屋に籠ごと置いてきて、すぐさま台所へと入った。そこには姫蝶が待っていた。
     百合香が夕飯を作っている間、姫蝶はキッチンの椅子の上にごろ寝をしながら待っているか、自分の部屋(元は母親の部屋だったのを、ネコ用に模様替えした)と台所の間をいったりきたりしているのだが、今日は百合香が立っている横にチョコンと座って待っていた。
     「キィちゃん、そこにいると、お姉ちゃんが動いたときに踏んじゃうよ」
     「みにゃあ」
     「ん? いいの?」
     猫は飼い主が悲しい目にあうと、本能で察して慰めようとするそうだが……。
     『私、ナミが小田切さんと一緒にいるのを見て、やっぱり悲しいとか思ったのかな?』
     自分のことなのに、よく分らない……。
     百合香は作り終わった夕飯のうち、兄の分を冷蔵庫にしまうと、自分の分はサランラップをかけて、テーブルに置きっぱなしにした。
     「はい、次はキィちゃんのね」
     百合香が歩き出すと、姫蝶も付いてくる。――姫蝶の食器を洗って、猫缶とドライフードを入れて、いつも食べている場所に置いてあげる。それを姫蝶が食べ始めたら、百合香も自分の食事を始めるのだった。
     家に帰ったらすぐに夕飯なのだから、外でお茶会など開かなくてもいいのではないかと思われるだろうが、それはそれ。お茶会は同僚とのコミュニケーションのためであり、空腹を満たすまではいかないのだ。とはいえ、多少食べてはきているので、百合香の夕飯は兄の分に比べてかなり少量である。すぐに食べ終えると、百合香は自分の部屋のコタツに入って、家計簿をつけ始めた。
     しばらくすると姫蝶も入ってくる。
     「キィちゃん、食べ終わった?」
     「みにゃあ(^o^)」
     姫蝶はそう返事をすると、百合香の右わきにぴったりとくっついてゴロ寝をした。そんな姫蝶の頭を二、三回撫でてやると、また家計簿の方に集中する。
     携帯電話が鳴ったのは、ちょうど家計簿を閉じたときだった。
     コミュニティーサイトからのメールだった。
     〈ユリアスさんに個人レターが届きました〉
     そう書いてあったので、コミュニティーサイトにアクセスしてみると、確かに百合香の小説ブログのメンバーから個人レター(サイト経由で届けられるメールのようなもの)が届いていた。
     ルーシーからだった。
     「チャットしない?」
     と、一言だけ書いてあった。なので、百合香も返事をした。
     「する。」
     そうして携帯電話を閉じて、炬燵に置きっぱなしにしておいたノートパソコンを開いた。
     ルーシーとは土曜日と日曜日にチャットで会話をすることが多い。平日は忙しいらしいので、百合香のようなパートタイマーでもなければ学生でもなく、普通に働いている社会人なのだろう。ネット仲間は直接会えるわけではないので、想像してみるしかない。
     「もしかしたら、ルーシーさんってユノンなのかな?」と思って、ユノンに聞いてみたことがあったのだが、
     「私じゃないよ。私のハンネ(ハンドルネーム)はこれだもん」
     と、ユノンは携帯電話の画面メモ機能を開いて、コミュニティーサイトにアクセスする際の「ログインボタン」を見せた。このボタンをクリックするだけでサイトにつながるのだが、ユノンのそれには「ゆのさんのログインページ」と書いてあった。百合香も携帯からアクセスする時は、画面メモに登録されているログインボタンからアクセスするのだが、百合香のには「ユリアスさんのログインページ」と書かれていて、あとはまったく同じデザインだった。個々によってハンドルネームだけ入れ替わるように作られているのだ。
     だからユノンとルーシーは別人ということなのだが……だが、会話をすればするほど、百合香は「ルーシーさんは私が知ってる人の中にいるんじゃないかな?」と思ってしまうのだ。
     ――チャットはすぐに始まった。
     〔今日も映画館は大変だったの?〕
     ルーシーがそう言ってきたので、百合香は答えた。
     「うん、大変だった。でも、今日より今度の水曜日の方が大変かも」
     〔どうして?〕
     「ヤマトが始まるから」
     〔ああ! キムタクの! うわァ、頑張ってね(^.^)/~~~〕

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  • from: エリスさん

    2010年12月17日 14時56分29秒

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    「夢のまたユメ・4」


     「なんで武蔵屋なんだよォ! 駅前のデニーズにしようよ!」
     と、ジョージは子供みたいにごねた。
     「おだまり。私が和菓子が食べたいんだから、武蔵屋に決定なの」
     「そんな女しか行かないところ、俺ついていけないじゃんか!」
     そんなわけでジョージが同行しなくなったので……。
     「有田さんを連れてきちゃいました」
     と、ユノンが有田さんの背中を押しながら言った。
     なのでフロアのベテラン女性陣――百合香とぐっさんと、今日はお休みを取っていた主任の門倉香世子(かどくら かよこ)、通称カヨさんは拍手をした。
     「ナイス人選よ、ユノン」
     百合香が言うと、有田はすぐさま頭を下げた。
     「今日は本当にありがとうございました!」
     「ああ、いいのいいの。こうゆうことは良くあることなんだから。ほら、座って座って」
     みんなでテーブルに着くと、メイドさんに来てもらって、それぞれ注文した。――百合香はあんみつとアイスダージリンティーを頼んだ。
     「このお店は、この町で唯一、メイドさんがご奉仕してくれる店だから大好きよ」
     と百合香が言うと、ユノンは言った。
     「ユリアスはメイド大好きだもんね」
     なのでカヨさんが言った。「最近は秋葉原行ってなさそうだけど?」
     「うん、忙しくて行けない。行きたい(-.-)」
     「う〜ん、冬休み終わるまではお預けだろうね」
     「ですよね……」
     そこで「あのォ〜」と有田が口を開いた。「冬休みって、そんなに凄いんですか?」
     なのでぐっさんがあっけらかんと答えた。「うん、すごいよ」
     「まあ、人気作が目白押しだからね」と百合香は言った。「18日になったら仮面ライダーのオーズ&Wでしょ。あとはシュレックに、23日からイナズマイレブンとウルトラマン」
     「最後の忠臣蔵も来そうだよね。あと、ディズニーのトロン・レガシーでしょ……」とカヨさんは指折り数えつつ言った。「とにかく半端ないから、覚悟しといてね。今日はリリィと沢口さんが助けてくれたんでしょ? でも、次は自分でちゃんとできるようになっておこうね」
     「あっ、はい!」
     と、有田が緊張したところで、お茶とスイーツが運ばれてきた。
     「いやでもさ」とぐっさんが言った。「今日みたいなお客さんは、かなり久しぶりな感じだよね。しばらくこうゆうの無かったんだけど」
     「こうゆうって?」とカヨさんが聞くと、
     「うん? チケットない子にも3Dメガネ貸せってやつ。以前はいっぱい居たけどさ」
     「そうね」と百合香も言った。「アナウンスで言うようになってから減ったかな」
     「そうなんですか?」と有田が聞くと、
     「そうなの」とユノンが答えた。「今日のこととほとんど似たパターンがぐっさんのときにありましたよね」
     「うん、あったあった。でもあの時はもっとひどいよ。そのチケットの無かったお子さん、七歳だったの」
     「七歳!?」と有田は驚いた。「五歳もサバ読んでたんですか?」
     「サバ読んでたというより、親御さんが無知だったのよ」と百合香が言った。「私も途中からそのお客さんの接客についたんだけどさ」
     「先ず」と、ぐっさんは話し出した。「見た感じ小学生の子供だったんで、当然チケットは三人分あると思って、チケットの枚数を確認させてもらったのね。そしたら大人二枚しかないから、〈恐れ入りますが、お子さんの分のチケットは……〉って聞いたら、父親の方が〈子供だからチケットないのは当然だろ?〉なんて言い出したんだ。だからチケットのないお子様には貸し出していないことを説明したら、怒り出しちゃって。そんなことチケット買った時に説明されてないって……だからさ、子供さんにそっと聞いたんだよ。〈僕、お歳いくつ?〉って。そしたら七歳だって答えたから、私もつい驚いちゃって。で、父親がますます怒って聞くのよ。〈うちの子の年なんか関係ないだろ〉って。だから言ったの。〈無料でご鑑賞できるのは二歳までなんですが〉って。そしたら父親も言い淀んで……そこへちょうどリリィが通りかかったんだよね」
     「そうそう」と百合香は答えた。「私が通った時、母親の方が〈ちょっと偉い人が来た〉と思ったんでしょうね、バイトにしては老けてるし(^O^) それで私のことを呼び止めて、〈子供って有料なんですか!?〉って言うから、ぐっさんから簡単に事情を聴いて、母親にこう聞き返したの。〈坊ちゃんは二歳でいらっしゃるんですか?〉って。そしたら母親が黙ってしまうから、構わず説明を進めたの。〈二歳までの、幼稚園に上がる前のお子様は、親御さんのお膝の上でご鑑賞いただく場合は無料ですが、お一人で座らせたい場合は三歳からの幼児料金である九百円をお支払いただきます。そして3D作品の場合、無料のお子様には3Dメガネの貸し出しを行っておりませんが、どうしても3Dメガネを借りたい場合は、3Dの幼児料金をお支払いいただければ、お貸出ししております〉って」
     「リリィったら本当にこんな堅苦しい説明の仕方したからね」
     とぐっさんが言うと、有田は感嘆した。
     「で、そのお客さんどうしたんですか?」
     「その場でマネージャー(映画館の正社員。百合香たちの上司)に連絡して、幼児料金を払ってもらったよ」
     「小学生料金じゃなくて?」
     「そこまでマネージャーに説明するとややこしいことになるから、あくまでお膝の上のお子様でメガネを使いたかったお客さん、ということで話を通したんだよ」
     とぐっさんが説明し終わったところで百合香が補足した。
     「その親御さん、子供は何歳でもタダだと思ってたらしいのよね」
     「いるんですね……そうゆう人」
     「あと、私が接客したのは、子供が四人いる夫婦で、一番下の子が二歳だったからチケット買わないでいたら、案の定、メガネ配布の私のところにたどりついたところで、貸してもらえないと知って激怒された。だから幼児料金を払えば……って説明したら、母親が口を滑らしたのよね」
     「え? なんて?」
     「〈だったら初めから真ん中の席を買ったのよ! この子がいるから通路側の席を買ったのに!〉って……確認してみたらね、その家族が買ったチケットって、通路側の一番端の席を飛ばして、二個目から五人分買ってたの。その一番端の席は誰も買っていなかったのに」
     「どうゆうことですか?」
     「つまり、後から来たお客が席を選ぶ時に、いくら通路側でもその隣に五人家族が並んで座ってたら、遠慮して他の席を選ぶじゃない? その心理を利用して、わざと端っこの席を飛ばしと買ったのよ。そうすれば、その席は上映中ずっと空いたまま。空いているんだから、チケットのない二歳の子供が座っていても、誰も文句を言わないでしょ?」
     「ああ!」と有田も納得した。
     なのでカヨさんが言った。「でもズルイことをすると後でしっぺ返しがくるものなのよ。とは言えね、あまりにもそうゆうことが重なったんで、チケットスタッフを信用してないわけじゃないけど、フロアとしても対策を練ったのよ。それが、場内アナウンスでそのことを案内してしまう方法」
     「ああ、だから3Dメガネを貸せないアナウンスだけ、手書きの原稿なんですね」
     有田がそう言ったころ、百合香は眼の端に何か動くものを感じて、店の窓の方を見た。――ナミこと池波優典が大きく手を振っていた。交際中の彼女も一緒にいる。
     なので、百合香も手を振り返してやった。それに気づいたぐっさんが、
     「なに? どうしたのリリィ」
     「ん? ナミだよ。ホラ」
     「ああ、ナミだ!」
     なのでみんなで手を振ってあげた。――ナミが行き過ぎてしまうと、ユノンが百合香に言った。
     「その後どうなの?」
     「なにが?」
     「ナミのこと。好きだったんじゃないの?」
     「好きっていうか……気に入ってるんだよ。弟みたいなもの」
     「向こうもそんな感じかもね」とカヨさんが言った。「リリィのこと、お姉ちゃんみたいに慕ってるんだと思うよ。でも、彼女は別に作る……」
     「それでいいわよ。私じゃ歳が離れすぎだし」

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  • from: エリスさん

    2010年12月15日 11時11分35秒

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    水曜なのに来ています

     今日は仕事が午後からなので、この間の埋め合わせに更新しに来ました。
     まだ序章もいいとこですね。もう少し書かないと百合香がどんな人間なのか分りかねるところ。
     次はもうちょっと長く書けるといいなァ.....。

     

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  • from: エリスさん

    2010年12月15日 11時04分18秒

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    「夢のまたユメ・3」
     百合香と沢口さんは急いでその場所へ駆けつけた。
     「どうかなさいましたか? お客様」
     と百合香が尋ねると、その客は怒りの形相のまま百合香の方を向いた。
     「この女がメガネ貸さねェって言うんだよ!」
     百合香はすぐにこの客の連れを確認した――奥さんらしい女性と、幼稚園児ぐらいの、チャイルドシートを手に持った子供が一人……。
     「恐れ入りますが、チケットの枚数を確認させてもらえますか?」
     「ホラ! ちゃんとあるよ!」
     客は百合香の目の前にチケットを押し出すように見せた。そのチケットは一般(大人)が2枚だった。
     「失礼いたしました。それでは、チケット2枚分で3Dメガネは2個お渡しいたします」
     と百合香は言って、新人スタッフの横にあるケースから3Dメガネを二つ出そうとすると、
     「だからなんでそうなるんだよ! この子は2歳だから無料なんだろ。だからチケットがないだけで、見るのは一緒なんだからこの子の分もメガネ貸せよ!」
     どう見ても2歳より大きい――と、百合香は思ったがそこは耐えて、こう説明した。
     「恐れ入ります。それは通常上映の作品の場合で、3D作品の場合は、親御様のお膝の上でご鑑賞なさる小さなお子様には、メガネの貸し出しをおこなっておりません」
     「はあ? あんたまで何言ってんだよ!」
     ここまでのやり取りを見て、沢口さんは少しその場から離れて、トランシーバーで上司に連絡を入れた。
     「8番シアター前です。3D料金のことでご理解いただけなかったお客様から、今お怒りを受けてます」
     〈了解。8番シアターって言うと、この時間は有田さんが担当してるね。誰かそばについてあげてるの?〉
     「はい、宝生さんがお客様にご説明しています」
     〈了解です。こちらも監視カメラから確認しました。このまま様子見てるけど、宝生さんでも説得できなかった場合はもう一度連絡ください〉
     「わかりました」
     このシーバーのやり取りは百合香の耳のイヤホンにも入っていた(シーバーの受信電波が一つしかないので、全員が同じ会話を聞くことになる)。その間、百合香も客にどうして無料鑑賞の子供には3Dメガネを貸せないのか、がんばって説明した――要は、3Dメガネが大変高価なものだから、なのである。
     「それにですね、今まで小さなお子様が3Dメガネをかけて映画をご鑑賞されていたところ、具合を悪くされるお子様が何人もおいでになりまして。それで、まだ体が小さすぎるお子様には3Dメガネは大変危険なものなのではないかと心配もございまして、それでこのような規則がつくられたのです」
     「なんだよ、そりゃ……」
     客である父親は、納得はしたくないのだろうが、先刻よりは落ち着いたような口ぶりになってきた。
     そのうちに、シアターの中から本編上映直前に流れる「盗撮防止のお知らせ」の音楽が聞こえてきた。
     すると母親の方が夫にこう言った。
     「もういいわよ、あんた。映画始まっちゃう。今日はアタシのメガネをこの子に貸すから」
     「……おう、そうだな」
     父親の方はまだ面白くなさそうな表情をしていたが、メガネを受け取ると中に入って行った。
     しばらくそのままでいた百合香たちは、客が戻ってくる様子がないのを見定めて、溜息をついた。すると、先刻の上司からシーバーが入った。
     〈宝生さん、シーバー取れますか?〉
     「はい、宝生です」
     〈さっきのお客さんは大丈夫そうですか?〉
     「はい、あまり納得はされていないようでしたが、奥様がなんとか収めてくださいまして」
     〈了解です。それじゃ、上映終了後にまたなにかアクションがあるといけないので、注意しておいてください〉
     「了解です」
     百合香はシーバーを切ると、新人スタッフの有田に言った。
     「もう上映始まったから、3Dメガネは入場口に運んで。遅れて入ってくるお客様がいるといけないから……」
     と、話しているうちに、百合香は有田が震えていることに気づいた。なので、彼女の手を掴んで、軽くポンポンっと叩きながら言った。
     「もう大丈夫よ、怖かったね」
     「はい……ありがとうございました」
     まだ二十歳そこそこの若い女の子が、凄みの利いた男から怒鳴られれば、怖くないはずがない。きっと相手もそれを分かっていただろう。大声を出せば大概なんとかなる――そういう品の悪い男がなんと多いことか。百合香も三十九年の人生経験で嫌というほど見てきたことだ。
     さて、ようやく従業員エリアにたどり着いた百合香と沢口さんは、床に座り込んで3Dメガネを消毒拭きしていた二人の女性スタッフに迎えられた。
     「お疲れェ〜、大変そうだったね」
     「でもユリアスなら、なんとかなったんでしょ?」
     初めに言ったのが山口冴美(やまぐち さえみ)。通称ぐっさん。次に言ったのが田野倉由乃(たのくら ゆの)。通称ユノン。このユノンだけが百合香のことを「ユリアス」と呼んでいた。というのも、彼女は百合香のネット小説の読者でもあるのだ。
     「なんとかなったと言うよりは……」と言いながら、百合香はユノンの隣に座ってメガネ拭き用のクロスを手にした。「奥さんが引っ込めてくれた感じ。あんまり追及すると、自分ちの息子が二歳じゃないのがバレると思ったんじゃないかな」
     「ああ、二歳じゃなかったの?」
     とぐっさんが聞くので、代わりに沢口さんが答えた。
     「うちの娘も二歳だけど、うちの子よりずっと大きかったわよ」
     「それに……」と百合香は言ってから「あっ、ぐっさん。消毒液とって」
     「はいよッ」
     「それに、あの坊やチャイルドシート持ってたのよね。チャイルドシートって言うのは、子供が一人で座席に座るときに、座高が低いとスクリーンが見えないから、それを補うために座席に乗せて使うものじゃない」
     「うん、リリィ。そんな説明しなくても私ら全員わかってるよ」
     「そうだけど。だからさ、親御さんの膝の上で見るんだったらチャイルドシートはいらないはずじゃない?」
     「ってことは、空いてる席に一人で座る気満々だったわけね。そりゃズルイわ」
     「だから」と沢口さんも言った。「そういうことを指摘されるのが嫌で、向こうが引いてくれたんだと思うの」
     なのでユノンは言った。「じゃあ、もう何も言ってこないよ」
     「だァね。問題ない! ところで話し変わるけど、今日はどこでお茶する?」
     ぐっさんの言葉に、
     「本当にガラリと話を変えたわね」と百合香は突っ込んだ。「そうね、今日はかなり疲れたから、甘いものが食べたいわ。それも餡子もの」
     「じゃあ和菓子系で……武蔵屋にしよう。沢口さんも行きます?」
     「行きたいけど、今日はうちの子が熱出してて、母に任せてきてるから」
     「あら、残念」
     「じゃあ、あとは適当に声をかけて……」
     と、百合香が言った時、シーバー連絡が入った。
     「フロアの宝生さん、シーバー取れますか?」
     ジョージの声だった。
     「はい、宝生です」
     「すいません、迷子さんがいるんですけど、ぜんぜん泣きやまなくて……」
     「はァ〜い、今行きまァす」
     まだまだ仕事は終わりそうもなかった。

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  • from: エリスさん

    2010年12月10日 09時42分21秒

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    静養中。。。

     毎度のことで本当にすみません。
     ここしばらく喉の調子がおかしかったのですが、今朝はとくに悪く(うがいをしても痰が取りきれない)、呼吸をするたびヒューヒューと音をたてるので、今日は外出を控えることにしました。
     食料とうがい薬だけは買いに出ないといけないので、その買い物だけは行きます。なので亀有周辺で私を見かけても、
     「嘘つき! 元気じゃん」
     とか、思わないでね。

     そんなわけで、今日は休載しますm(__)m

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  • from: エリスさん

    2010年12月03日 13時51分58秒

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    「夢のまたユメ・2」


            第1章 現実の中の日常


     「10番シアターへ、清掃時間残り2分です」
     百合香がトランシーバーで連絡を入れると、向こうから返事が戻ってくる。
     「了解です!」
     その返事を聞き、百合香はマイクを手にして、ロビーにいるお客にアナウンスをした。
     「お客様にご案内申し上げます。ご入場は上映開始時刻の約10分前でございます。入場開始のアナウンスまで……」
     いましばらくお待ちくださいませ、と言おうとしているところに、子供を連れた三十代ぐらいの女性が百合香にチケットを見せながら駆け寄ってくる。そのチケットの内容を確認した百合香は、
     「恐れ入ります、お客様。こちらはただいま清掃中でございまして、もうしばらくお待ちください」
     「え? まだなの?」
     「はい、恐れ入ります」
     と、説明している間にも、他の客が入ってこようとする。
     「恐れ入ります、お客様。こちらはまだ清掃中でございまして……」
     どうしてアナウンスを聞いてくれないんだか……と、百合香は心の中で落胆する。ちゃんとアナウンスを聞いていれば、まだ入れる時間ではないことぐらい分かるはずなのだが。
     そのうちに、10番シアターの清掃スタッフからシーバー連絡が入る。
     「入場口へ、10番清掃終了です!」
     「了解です」と百合香が言うと、奥の方から箒を持って走ってきた男性スタッフが、その箒を通路の脇に置き、百合香の前に立った。
     「OKです、リリィさん」
     「よし、行くよ!」と彼に言った百合香は、シーバーのスイッチを押して言った。「10番入場します。手の空いたフロアスタッフからもぎり(入場口でチケットの半券を切る係)のヘルプお願いします」
     そして百合香はアナウンス用のマイクにスイッチを入れた。
     「お客様にご案内申し上げます」
     その言葉を発するとすぐに、客が百合香の方に集まってくる。そして差し出されたチケットを、代わりに百合香の前に立った男性スタッフが受け取ってもぎりを開始した。
     「大変長らくお待たせいたしました。13時50分より10番シアターで上映の、《ハリーポッターと死の秘宝 Part.1 日本語吹替版》の入場を開始いたします……」
     この後もアナウンスで「入場に対しての注意事項」などをしゃべるのだが、大概聞いてもらえないものだった。なにしろ、300人以上の客がロビーに溢れかえっていて、早く映画が見たい一心で、みなシアターへ急いでいるのである。
     ロビーの客が全員シアターに入るのは、おおよそ8分後ぐらいである。
     「映写室お願いします。10番シアター《ハリポタ吹替》上映開始2分前です」
     百合香がシーバー連絡を入れたころ、ようやくロビーが静まり返った。
     その場にいたフロアスタッフは、みんなしてため息をついた。
     「半端ねェ、ハリポタ……」
     「これで3Dだったら死亡フラグ立ってるよ」
     「いや、3Dじゃなくても、もうすでに……」
     と百合香は言いながら、ハンカチタオルで汗をぬぐった。「アリガトネ、ナミ。助かった」
     「いえいえ、お互い様」と、百合香の前に立っていた“ナミ”こと池波優典(いけなみ ゆうすけ)は言った。「あのお客の数じゃ、誰かリリィさんの前に立ってないとアナウンスできないでしょ? もぎりで手がふさがっちゃって」
     そうだね、と言う代わりに百合香は微笑んでみせた。
     そんな時、奥の方から別の男性スタッフがやってきた。
     「リリィ! ちょっと早いけどアナウンス交代する?」
     「そうね、10分早いけど交代しとこうか。メガネは溜まってるの? ジョージ」
     ジョージと呼ばれた彼――林田穣次(はやしだ じょうじ)は即座に言った。
     「オウ、あと100個ぐらい」
     「ああ、がんばって拭かないとね(-_-;)」
     ここで言うメガネというのは3Dメガネである。百合香が勤務するこの映画館「シネマ・ファンタジア」も一年半前から3D映画を導入したのである。
     「あっ、じゃあ俺も」
     と優典が言うと、百合香は、
     「あんたは今のうちに男性用トイレのチェックしておいで。ミクちゃん、女性用お願いね。沢口さん、一緒にメガネふきましょう」
     「ハーイ」と、それぞれの心情によった返事が返ってくる中、百合香は奥へと歩き出した。
     アナウンスボックスのある入口から、奥へ入っていくと、10個のシアターが並んでいる。その中でそれぞれの作品が上映されていた。その途中の廊下には、近日公開される映画のポスターや、段ボール製の巨大模型(POP)が並んでいる。それらを見ながらゆっくりと帰る客もいれば、急がないと上映が始まってしまうのか走って行く子供もいる。そういう人たちに「いらっしゃいませ」と一礼をしながら百合香と沢口さん(百合香よりは年下だか先輩の女性スタッフ)が歩いていると、真ん中のシアターの前から怒鳴り声が聞こえた。
     「うだうだ言ってないで黙って貸しゃあいいんだよ!」
     見るからに品の悪い男性客に、新人の女性スタッフが絡まれていた。

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