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恋愛小説発表会〜時にはノンジャンルで〜

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  • from: エリスさん

    2012年05月24日 17時01分59秒

    icon

    「夢のまたユメ・53」
     その日の百合香は、兄を仕事に送り出してから、自室でネット小説の原稿を校正していた。

     真莉奈は聡史(さとし)のグラスにワインを注ごうとして、その匂いで吐き気を覚えた。
     真莉奈は急いでワインをテーブルに置くと、「すみません!」とエプロンで口を押えたまま、部屋を飛び出して行った。
     「……どうかしたのかね? 彼女は」
     聡史の問いに、メイド頭の香菜恵が進み出て、代わりに酌をしながら答えた。
     「申し訳ございません、旦那様。彼女は今朝から、体調を崩しておりまして」
     「なんだ? 風邪か? 医者の家に仕えるメイドが不養生では話にならん。明日にでもうちの病院に来させなさい」
     「承知いたしました」
     香菜恵がワインを持って一歩下がると、向かい側に座っていた慶子が軽く手を挙げた。
     「香菜恵さん、私にもワインのお代わりを」
     「はい、奥様。ただいま」
     香菜恵が慶子の方へ回ろうとしている間、聡史は慶子に言った。
     「君が可愛がり過ぎなのではないかね?」
     その嫌味に慶子は苦笑いをして、言った。「昨夜はあなたのお相手をして差し上げたではありませんか」
     その切り返しに、聡史も笑った。「そうだな。まるで気乗りしていない、人形を抱いているようだったよ」
     「もう止めましょう。メイドの前で」
     「香菜恵さんなら構わないだろう? 君が子供のころから仕えている人だ。わたしがこの家に来る前から、君たちのことは良く知っているはずだ。そうだろう? 香菜恵さん」
     瓶の中のワインをすべて慶子のグラスに注ぎ終わった香菜恵は、一歩下がってお辞儀をした。
     「はい、仰せの通りでございます」
     「では、心当たりはないかね。真莉奈が交際しているもう一人の人物に」
     慶子は心の内で驚きながらも、表情は平静を保とうと必死に堪えた。
     しかし香菜恵は動揺を隠せないでいた。
     「旦那様……それはどうゆう……」
     「簡単なことだ。うちの奥さんの相手だけしていれば、妊娠などするはずがないのだよ。だから、彼女には別に男の交際相手がいるはずだ」
     一方、真莉奈は洗面所で嘔吐したものを、水で洗い流していた。
     『どうしよう、私……もう隠しておけない!』
     “始末”するなら、慶一郎がアメリカ留学している今しかない。悪阻が治まれば、お腹はどんどん大きくなってくる。
     『病院は駄目。人に知られる――慶一郎さまの将来にキズが付く。それなら、自分で……事故を装って……』
     洗面室から出てきた真莉奈は、そのままふらふらっと、二階へ上がる階段をのぼった。
     『あとは、目眩を起こしたことにして……』
     真莉奈は手すりから手を放し、そのまま後ろから階段を落ちようとした。
     だが、誰かが真莉奈の体を受け止めて、一緒に手すりにしがみ付かせた。
     香菜恵だった。
     「なんて危ないことをするの!」
     香菜恵は階段の途中であるその場に真莉奈を座らせて、自分は見おろすようにして諭した。
     「お腹の子供だけじゃないッ、自分だって死ぬかもしれないのよ!」
     「死んだって、いいんです…‥」と真莉奈は言った。「私のせいで、慶一郎さままでが貶められるぐらいなら」
     「やっぱり……慶一郎坊ちゃんなの? どうして……あなたは慶子お嬢様の……」
     すると、階段の下から声がした。
     「私が慶一郎に譲ったのよ」
     慶子だった。「あの子が真莉奈を好きだってことは知っていたから」
     「お嬢様……」
     聡史との夕食を中座するなど、怪しまれるようなことはしない性格なのに、慶子はやはり真莉奈が心配で来てしまったのだろう。
     「真莉奈……慶一郎が避妊を怠ったのは、いつ?」
     「怠ったなど!?」と真莉奈は咄嗟に言った。「いいえ、これは私の責任で……」
     「どっちの責任かなんて、この際どうでもいいの。あなたが受胎した正確な日にちが知りたいのよ」
     「それは……慶一郎さまがアメリカへ行かれる前夜です」
     「そうなると、ちょうど三月目ね……」
     慶子は顎に手を添えながら考えた。そして、何か思いついたのか、二人を見上げて言った。
     「二人とも、出掛ける仕度をしなさい」
     ――慶子が二人を連れてきたのは、都心から離れた一軒の大きな古い屋敷だった。表札に「三条院」と書いてある。
     「こちらは、お嬢……奥様の遠縁にあたられる?」
     と、香菜恵が言ったので、真莉奈も思い出した。
     『慶子さまが聖ヨハネ女学園で姉妹(スール)となられた……』
     車ごと屋敷の中に入った一行は、駐車場でこの家の執事に出迎えられた。
     「いらせられませ、慶子さま。お部屋でお嬢様がお待ちでいらっしゃいます」
     「そう。今日はご主人は?」
     「旦那様は出張で、今はフランスにいらっしゃいます」
     「それは……私としては好都合だけど……」
     執事に案内された部屋は、二階の一番奥にあった。
     そこに、一人の女性が天蓋ベッドの中で待っていた。
     「慶子お姉様……」
     「久しぶりね、静流(しずる)」
     慶子の一つ下で、学園の風習により姉妹の契りを結んだ後輩である。真莉奈にはすぐに分かった。
     『ただの姉妹ではなかったんだわ。お嬢様ったら、私と言うものがありながら、この方とも……』
     と、真莉奈は嫉妬したが、自分も慶一郎に乗り換えたのだということを思い出して、恥ずかしくなった。
     そして慶子は真莉奈と香菜恵の方を向いて話し出した。
     「静流はね懐妊しているのよ。ちょうど真莉奈と同じ三月目よ」
     すると香菜恵は素直に喜んだ。「まあ、おめでとうございます」
     「それが素直に喜べないのよ。静流は初産の上に高齢出産で、しかも気管支の発作も起こす。おまけに婿養子のご主人は、あまり静流に関心がなくて放りっぱなしで」
     「まあ……」
     「だからね、私が静流に勧めたのよ。子供が生まれるまで、軽井沢の空気が綺麗な所で過ごしたらいいって。別荘はうちのを貸すから――その間、私も一緒にいて面倒をみてあげたいけど、そうもいかないから、香菜恵、真莉奈、私の代わりに静流の世話をしてあげて。そうすれば、静流は安心して“双子”を生むことが出来るわ」
     「双子?」と、真莉奈は聞いた。「静流さまのお腹には、双子がおいでになるのですか?」
     「いいえ」と静流は言った。「私のお腹の中には、一人しかいないわ」
     「では、いったい……」
     「もう一人は、あなたのお腹の中にいるのよ、真莉奈さん」
     「ええ!?」
     「そうゆうことよ」と慶子は言った。「静流が双子を生んだことにして、真莉奈の子を三条院家で匿ってもらうのよ。慶一郎の子供であることは隠して」

     ここまで校正し終った百合香は、ペットボトルの紅茶をクイッと飲んだ。
     「ありえないかしら、この設定」
     百合香が独り言をつぶやいた時、目覚まし時計が鳴って昼の12時であることを告げた。
     「いけない、時間だわ」
     百合香はワープロソフトに入力してあったそのデータを、マウスを使ってコピーして、パソコンをインターネットにつなげた。そして自分のネット小説サイトを開くと、書き込みページにペーストして、データを送信した。
     「いいわね! 現実にありえないからこそ小説なんだから」
     これで今日のネット小説の更新は終了である。
     百合香はパソコンをシャットダウンすると、着替えを始めた。今日は紗智子と映画を見る約束をしているのである。
     もう三月に入ってから暖かくなってきたので、春用の紫のチュニックに、コートだけ冬用のダウンコートを選ぶ。
     黒いレギパンを履くとき、ベルトを締めようとして、百合香は手を止めた。
     『……そう言えば……』
     自分も月の障りが止まっている。先月も、今月もまだ……。
     百合香は、ベルトの穴をいつもより外側に留めた。
     『出来ていたとしても、多分、結果は変わらない……』
     百合香はコートを着て、バッグを手にすると、姫蝶に「言ってくるね」と声を掛けて、出掛けたのだった。


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  • from: エリスさん

    2012年05月18日 09時55分53秒

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    「夢のまたユメ・52」
     「それで榊田さんったらね、駐輪場に着いたら、〈さっき、レオちゃんって呼んでくれましたよね〉なんて言うから、さっきは咄嗟のことだったので、済みませんでしたって謝ったのよ。そしたらね、〈いいえ、これからもそう呼んでください〉なんて言うのよ」
     と、百合香がしゃべりながらパソコンに打ち込んでいると、百合香が打ち込んだ文章が一段上がって、ルーシーからのメッセージが表示された。
     「それ、絶対榊田って人もユリアスさんのこと狙ってたんだよ」
     「う〜ん(・_・;) やっぱりそうなのかなァ〜」
     今更ながら、ルーシーとチャットで話している最中だった。
     「ユリアスさんって美人なんだね(*^_^*) モテモテじゃない^m^ 」
     「どうなんでしょ(^_^;) もう40歳のおばさんなんですが」
     「歳は関係ないって。それで? レオちゃんと呼んでくださいって言われて、なんて返事したの?」
     「丁重にお断りしたわよ。相手は会社の上司よ。そんな馴れ馴れしく呼べますか」
     すると、百合香の横から声をかけて来た人物がいた。
     「だよな。俺と言うものがいるんだから」
     語らずとも分かるだろうが、翔太だった。毎週土曜日は翔太が宝生家にお泊りに来る日である。
     「もう……」と百合香は苦笑いをした。「横から入ってこないでよ。約束通り読みながらチャットしてあげてるでしょ?」
     そう。百合香がチャットの文章をいちいち読みながら打ち込んでいるのは、翔太がその間放っておかれるのを寂しがって、せめてそうゆう風にしてほしいと頼んだからである。
     「他の男の話されたら、黙ってられないよ」
     「もう、嫉妬なんかしちゃって」と、百合香は嬉しそうに笑って、翔太の頬にキスをした。「もうちょっとだから、待ってて」
     「早くしないと、お兄さん帰ってきちゃうよ」
     「大丈夫よ。今日はお兄ちゃん遅番だから、帰り遅いもの」
     百合香はそう言うと、パソコンに向かった。――ルーシーからのメッセージが表示されていた。
     「しつこくされたりしない? その人」
     なので百合香はこう書いた。「榊田さんって凄いクールなのよ。だから大丈夫じゃない?   それじゃ、ごめんね。うちのダーリンが待ちきれないみたいだから」
     「あらら(*^^)♪ それじゃまた来週ね!」
     「またね★」
     百合香はチャットの通信を切って、パソコンをシャットダウンした。
     「はい、翔太。お待たせ……」
     百合香が炬燵から離れて、寝床まで膝歩きで行こうとすると、待ちきれなかったのか、翔太が百合香の手を掴んで、引っ張り込んだ。
     「やだ、ちょっと(^_^;) 乱暴は……」
     それ以上言おうとする百合香の唇をキスで止めて、抱きしめながら押し倒してくる。
     力任せに浴衣の紐を解かれ、前を開かれると、下着をつけていなかった百合香の白い胸が露わになった。
     その胸に、翔太が吸い付いてくる。
     百合香は途端に甘い声をあげた――抑えが利かない。
     「翔太……ねえ、お隣に聞こえちゃうって……」
     「聞かせてやればいい……」と翔太は言った。「リリィは俺だけのものだって、みんなに分からせてやる」
     「もう……」
     こうゆうところが可愛い……と思いながら、百合香は翔太の肩を抱きしめた。
     けれど……。
     『お母さんのことを知ったら、きっと、長峰家の人達は……。私、あとどれぐらい翔太とこんな風に過ごせるんだろう……』
     考えようとしても、翔太の指使いがそれを邪魔する。
     百合香は、今は身を委ねること以外は忘れることにした……。



     真珠美が興信所からの報告書を読んでいたのは、ちょうどその頃だった。
     「翔太には?」
     と、真珠美が聞くと、勝幸は首を横に振った。
     「そうですか……」
     真珠美は読み終わった報告書をテーブルの上に置いた。
     「残念だが、百合香さんには諦めてもらうしかない」
     勝幸が言うと、真珠美はキッと目じりを上げた。
     「なんて言うつもりですか? あなたの母親が穢れた人間だから、その娘のあなたも穢れているとでも言うつもり?」
     「そんな風には……」
     「同じことではありませんか。どんなに言葉を飾っても、あなたとお父様が問題にしたいのは、百合香さんの母親が義理の父親――血筋の上では叔父と、性的関係にあったことでしょ?」
     「そうだが……こんなスキャンダルを持った人物と、うちの翔太を結婚させるわけにはいかないじゃないか」
     「スキャンダルと言いますけどね!」と真珠美は報告書を手で払いのけた。「普通に考えてください! 当時12歳の女の子が、親子ほども歳の離れた男と恋愛関係になれるわけがない。これは確実に性的虐待です。百合香さんのお母様は被害者じゃないですか!」
     「そうだ、その通りだ。その通りだが……」
     「百合香さんのお母様――沙姫さんに、同情しますわ」と、真珠美は立ち上がって、夫から距離を取った。「望まない関係を持たされて、まだ幼気(いたいけ)な少女でしたでしょうに……だから、沙姫さんは百合香さんを、40歳間近になっても純潔を守っているような、そんな身の硬い女性に育てたのよ。自分が純潔を守れなかったから!」
     真珠美はほとばしり出て来る涙を、胸元に入れていた懐紙で拭った。
     「わたしだって百合香さんのお母さんのことは、気の毒だと思う。だけど、これとそれとは別だ。うちは多くの社員を抱える会社のトップなんだ。翔太はその跡継ぎなんだぞ!」
     「分かってますよ! そんなことは……」
     真珠美は勝幸に背を向けたまま、両手を握り締めて感情を抑えようとしていた。そして、一呼吸置くと、言った。
     「百合香さんには、私から話をします」
     「それじゃ……」
     「あなたやお父様では、彼女を傷つける恐れがあります。だから、私が……百合香さんに、お断りをしてきます」
     すると、真珠美が寄り掛かっていた障子が急に開いた。
     そこに、紗智子が立っていた。
     「そんなことさせない!」
     と、紗智子は中に入ってきた。「黙って聞いていたら、なんなのよ! お母さんまで百合香さんを切り捨てるなんて!」
     「おまえ、立ち聞きしていたのか!?」と勝幸が言うと、
     「そんなことは、どうでもいいのよ!!」と紗智子は怒鳴った。「翔太と百合香さんの結婚を止めさせるなんて、私が許さないわ」
     「しかしだな……」
     「しかしも案山子もない! だから前にもいったじゃない。翔太と百合香さんの結婚に問題があるんなら、私が後継者になるって! それで翔太はこの家を出ればいいわ」
     「それで済む問題じゃないんだ!」
     「済まなくても済ませてよ! 私、百合香さんじゃなきゃ嫌よ! お母さんだってそうでしょ?」
     紗智子は勝幸の前に座った。
     「結婚するって――家族になるって、元は他人同士だから、とても難しいことなのよ。なのに、私もお母さんも、百合香さんとはもうお友達なの。お父さんもおじい様も家にいないから知らないでしょうけど。全然気兼ねもしないで付き合える人なのよ、百合香さんは。そんな人、なかなか探せないわよ。だから嫁姑問題なんかが生じる家がいっぱいあるんでしょ? でも百合香さんとだったら、私、姉妹になりたい!」
     「紗智子……」
     「お母さんもそう思うんでしょ? 翔太が百合香さんを選んでくれて良かったって、言ってたじゃない」
     紗智子が真珠美の方を振り返って言うので、真珠美もこちらを向いた。
     「ええ、思うわ。百合香さんとなら、私は親子としてやっていける確信がある……私の母は、お姑である私の祖母にいじめ抜かれた人だったから、寿命を縮めて、私がまだ15歳の時に死んでしまった。だから、勝幸さんと結婚するとき、この家に母親がいないことを知って、とても安心したものよ。私は、私の母のようにはなりたくなかったから」
     「だったら、翔太と百合香さんとのことを許してあげてよ」
     「許したいですよ、私だってッ。でも私は、あなたの母親でもあるんですよ」
     思ってもみない言葉を聞いて、どうゆうこと? と紗智子は聞いた。
     「ただでさえ、あなたは男性を寄せ付けない気質。そんなあなたが会社の社長になんかなったら、余計に男性とは縁遠くなって、結婚できなくなってしまう」
     「そんなこと!」
     「そうじゃなくても、長男である翔太がいるのに、女であるあなたが社長になったら、あらぬことを詮索する人たちが現れるんですよ。そうなったら、結局、百合香さんのお母様のことが暴き出されてしまう。傷つくのは百合香さんなのよ!」
     その結果を聞いて、紗智子は言葉を失った。
     どうにもならない――長峰家がマスコミに通じる出版社を経営している限り、スキャンダルを抱えている人間を身内に入れるわけにはいかない。
     「だから……時期を見て、私から話します。大丈夫、百合香さんは分別のある人よ。分かってくれるわ」
     「だったら、私も……」
     「いいえ。こんな辛い役目、あなたにはさせられない。お母さん一人で行くわ」
     「じゃあ、せめてもう少し待って。私、今度の金曜日に百合香さんと映画を見る約束をしたの」
     「分かったわ。では、その後にしましょう」
    すると勝幸が「できれば……あまり先延ばしにない方が……」と言ったので、真珠美と紗智子はキッと勝幸を睨んだ。
     あまり先延ばしにすると、百合香が妊娠でもしてしまったら困るから言ったのだったが、今はこれ以上なにも言えなかった。




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  • from: エリスさん

    2012年05月10日 19時00分57秒

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    「夢のまたユメ・51」
     百合香が泣いているのを見て、皆は戸惑っていた。
     「えっええっと……宝生さん、どうしたの?」
     榊田が声を掛けて、ようやく百合香は平静を取り戻した。
     「すみません、お見苦しいところを。ナミの……池波君のお母様ですね。すみません、あまりにも、死んだ母の若いころにそっくりだったもので」
     それを聞いて、ああ! と皆も納得した。百合香とナミの母親が似ているということは、ナミの母親と百合香の母親が似ている、というのもあり得る話だった。
     「そう、お母様ともそっくりなのね、私は」とナミの母親は言った。「自分と似ている人は三人いるって言うけど、そのうちの二人がきっとあなたとお母様なのね、きっと」
     「ねえ! っていうか、親戚なんじゃないの? ホラ!」
     と、ナミの姉・琴葉は、母親の腕を掴みながら、目で語った。その気持ちを汲んだ母親は、うんうんっと頷いた。
     「ねえ? あなたのお母様の親戚に“久城(くじょう)”って家は、ない?」
     「あっ、はい!」と百合香はすぐに思い至った。「母の実家が久城家です」
     「お母様のお名前は?」
     「沙姫です。宝生……いえ、久城沙姫(くじょう さき)」
     「ああ、やっぱり! 沙姫さんの娘さんだったのね!」
     「え? 母さんの知ってる人なの?」とナミが言うと、
     「会いたかった人よ」と、母親は答えた。「百合香さん、私はね、あなたのお母様とは従姉妹にあたるのよ」
     「母の……従姉妹?」
    と、百合香は聞き返しながら身構えていた。その理由が分かるナミの母親は、にっこりと微笑んで見せた。
    「安心して。久城家の本家の者ではないわ」
    かなり深い話になるので、ナミの母親は百合香を廊下の長椅子のところまで連れて行った。他のみんなには遠慮してもらって。
    ナミの母親は、満穂(まほ)と名乗った。
    「私の父は、いわゆる“妾の子”で、本家に引き取られることなく、分家として久城を名乗ったの。そのせいもあって、私と沙姫さんとは一面識もないのよ。でも……とても会いたかったわ。私の父が、ずっと沙姫さんのことを気にかけていたの」
    満穂の父・正典(しょうすけ)は、久城家の先々代の当主が女中に手を出して生まれた子供である。そのため、久城家の奥方に蔑まれ、本家に迎えられることなく育ったのだが、その正典を沙姫の父・秀一朗(しゅういちろう)だけが気にかけてくれ、兄として様々な援助をしてくれたのだった。
     その秀一朗が事故で亡くなり、沙姫の母・沙弥子(さやこ)は一族の決定で秀一朗の弟・宗次朗(そうじろう)と再婚することになった(当時の日本では、長男の嫁が夫亡きあと、その弟と再婚することは良くあった)。まだ幼かった沙姫も新しい父親(血筋的は叔父)と一緒に暮らすことになったのだが、一年も経たないうちに沙弥子もなくなってしまい、沙姫は微妙な位置に立たされることになった。
     先々代の意志で、将来的な跡取りは沙姫としながらも、現当主に嫁がいないのは不都合だからと、宗次朗は新しい嫁を迎えることになった。その嫁が沙姫を育てることになったのだが、嫁にしてみれば、正妻である自分が産んだ子がいるのに、夫の子供ですらない子供を跡取りとして育てさせられるのが我慢できなかったのか、沙姫を手ひどくいじめ抜いた。
     「それを知って、私の父が沙姫さんを引き取ろうとしたんだけど、本家のご当主の猛反対を受けてね、出来なかったそうよ」
     と、満穂が説明すると、百合香は頷いた。
     「聞いています。かなりひどい邪推をされたって。だから私の母が、自分からお断りをして、叔父様に〈もう会いに来ないでくれ〉って頼んだんですよね。そうしないと、叔父様の名誉を傷つけることになるからって……母が、言ってました」
     「そう……」
     「でも、母は叔父様に感謝していました。本当は付いていきたかったって。義理の母親にいじめられて、義理の父親に……」
     百合香はつい涙ぐみそうになって言葉を切った。
     「いいのよ、言わなくても分かってる。父も分かっていたわ。だから、今でも悔やんでいるの。自分が悪く言われることなんか構わないから、無理矢理でも沙姫さんを連れて逃げるべきだったって。だからね、いつか沙姫さんが訪ねてきたら、どんな境遇になっていようと追い返したりせずに、うちに迎え入れてやれって、私が子供の時から教えられてきたのよ」
     「そうだったんですか」
     「沙姫さんが亡くなったって聞いたのは、沙姫さんの葬儀が終わって三日ぐらい経ってからなの。しかも、葬儀の席で何があったのかも聞いて……ますます、こちらから訪ねて行きにくくなってしまって」
     「分かります。私も、あの葬儀の直後に“親戚だ”って訪ねて来られたら、きっと感情的になって追い返していたと思います。そうしたら、今日の私とナミのつながりはなかったです」
     「本当ね。だから、今日になって会えて、ちょうど良かったのかも。きっと、沙姫さんがあなたと優典を引き合わせてくれたんだわ。私はそう思うのよ」
     「はい……おば様、とお呼びしても大丈夫ですか?」
     「ええ、もちろん。私は“親戚のおばさん”ですからね」
     話が一区切りついた頃、琴葉が小田切を連れて病室を出てきた。
     「お母さん、私、彼女を病院の外まで送って来るけど……優典も大丈夫そうだし、そろそろ帰る?」
     「あら、そうね。じゃあ、お父さんと連絡取らないと」
     「それは私がやっておく。携帯使うなら病院の外のがいいし」
     「そうね、お願い」
     琴葉が歩き出したので、小田切は満穂の方にだけお辞儀をして、琴葉の後を付いていった。
     『う〜ん、すっかり嫌われたなァ』と、百合香は思っていたら、
     「あの子は優典と合いそうにないんだけど……どうして付き合っちゃったのかしらね」
     「見た目は今時の子っぽいですけど(つまり「ギャルっぽい」と言いたい)、ああ見えて良く働くんですよ(ナミの前では)」
     「そうなの?……まあ、本人の自由だけどねェ」
     母親として心配なのは良くわかる――と、百合香は思った。(自分もナミの母親みたいなものだから)
     「私ももう一度ナミの顔を見てから帰ります」と、百合香が病室に戻ろうとすると、「待って」と満穂が呼び止めた。
     「百合香さん、あなた、縁談が進んでいるのよね」
     「はい。ナミにお聞きになったんですか」
     「それもあるけど……先日、沙姫さんのことを、興信所の人が調べに来たのよ」
     あっ、とうとう……と、百合香は思った。むしろ、母のことが一番あとになった方のが奇跡的と言える。
     「私も父も、余計なことは言っていないわ。でも、久城の本家の人は、きっとあることないこと言っているでしょうね。逆恨みもいいとこなのに……」
     「はい……覚悟はしています」
     「そう……」
     それ以上、何も言えない。
     百合香が病室の中に入ると、満穂も後に続いた。
     中にはまだ榊田もいた。
     「それじゃナミ、私も帰るね」
     「ええ〜、帰っちゃうの?」
     「そろそろ夕飯作らないといけないから」
     「そっか……すいません、わざわざ」
     「いいのよ。それに、私たちが再従姉弟(はとこ)だって分かって、嬉しかったわ」
     「ですよね! いや、びっくりだったけど、でも納得(^o^)」
     「私も(*^。^*)」
     「じゃあ、レオちゃん」と、ナミは榊田に言った。「リリィさん送って、あんたも帰ったら」
     「俺は追い出しかよ、ユウちゃん」
     「そろそろ会社に戻れって言ってんの。もう役目終わってるだろ。いい加減にしないと野中さんに怒られるよ」
     「いやまあ、そうだけどさ……」
     このやりとりを聞いて、
     『この二人、仕事以外ではこうゆう感じなんだ……』
    と、百合香は思った。もう上司と部下ではない。完全に友達である。
     「とにかく、リリィさんは夜道苦手なんだから、ちゃんと駐輪場まで送ってあげてよ。――自転車に乗っちゃえば、もう暗い道は大丈夫なんですか?」
     「強めにライトつけてるし、変な人が近寄ってきても自転車で逃げ切っちゃうから」と、百合香は答えた。
     「じゃあ、お気をつけて」
     「うん………あっ、そうだ」
     百合香はバッグを肩にかけながら、急に思い出した。
     「さっき、小田切さんが言ってたことなんだけど」
     「桂子の暴言なんか気にしないでください」
     「ううん、暴言じゃないの。今だから……この際だから言えるけど、私、以前はあなたが好きだったのよ」
     「え????」
     ナミが言葉を失って呆然となってしまっても、構わずに百合香は続けた。
     「あなたのことが好きだって気付いた直後に、あなたから小田切さんとのことを相談されて、だから告白もできずに諦めていたの。そんな時に翔太と再会して、それで今は翔太と付き合っているのよ。でも小田切さんには、私の気持なんかバレバレだったみたいね」
     「……それじゃ……今は?」
     「今はちゃんと翔太のことだけ好きよ。あなたのことは、家族みたいに思ってる。息子か弟か……とても大切な存在よ。そんな風に思っちゃ駄目かしら?」
     「駄目じゃないです!」と、ナミはつい大きな声を出した。「嬉しいです、とっても」
     「ありがとう……。だから、小田切さんのこと、怒らないであげてね。ちゃんと仲直りして」
     「はい。がんばってみます」
     「うん。じゃあ、お大事に。お疲れ様」
     「お疲れ様です!」
     百合香が病室を出て行き――ナミは、うなだれている榊田の肩をポンッと叩いた。
     「落ち込んでないで、俺が頼んだことやってよ」
     「いいよな、君は。モテモテで」
     「大丈夫。あんたのが美男子だから、そのうち良いことあるって」
     「そう願うよ」
     榊田が行ってしまった後、満穂は息子のベッドの傍らに腰を下ろして、言った。
     「優典、あんた、本当は……」
     するとナミはへへっと照れ笑いをした。
     「男としては、見てもらえてないと思ってたんだ。歳も離れてるし。でも……そっか……。惜しいことしたなァ」
     「だから、大して好きでもない子と付き合ってるの? 彼女を忘れようとして?」
     「やんなっちゃうよな。二人して同じことしてたよ……親戚って、そこまで似るんだ」
     「優典……」
     「でも、いいさ。今は、リリィさんも良い人と巡り合ったんだし……もうすぐ、結婚しちゃうし」
     「……そうね」
     満穂はそう言うと、息子を抱きしめて、頭を撫でてやった。
     「いい男に育ったね。お母さん、嬉しい」
     「へへ……」
     ナミは、母親の胸の中で、照れ笑いとも泣き顔ともつかない表情を浮かべていた。



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  • from: エリスさん

    2012年05月03日 17時02分47秒

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    明日は休載します。

     5連勤だった上に、今日はかなり無理をして台所に立っていたので、明日のネット小説は休載します。なんか、まともな文章が書ける気がしないので。
     まだGWの激務も残っているので、体を休めないと。

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