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恋愛小説発表会〜時にはノンジャンルで〜

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  • from: エリスさん

    2013年07月26日 15時10分51秒

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    夢のまたユメ・83

    「私の母の父――つまり祖父の久城秀一朗(くじょう しゅういちろう)は、子供のころから女の子と見間違えられるほど、とても綺麗な人だったんですって」
    百合香はチャットでルーシーに説明した。
    「しかも体があまり丈夫ではなくて、そういう儚げなところもまた美しさを添えていたとか......祖父を知っている人は、みんな口々にそう言うわね」
    「よっぽど美人だったんだろうね――男に"美人"は変かしら?」
    ルーシーがそう返事をすると、
    「この場合、変じゃないよ」と、百合香は自分を嘲笑うように返事をした。

    「兄さんを見ていると、普通の男でも兄さんに恋してしまう――それぐらい凄い人だったんだ」
    と、正典も家族に話していた。「だからと言って、宗次朗(そうじろう)まで可笑しくなるのは、どうかしているとしか思えない。奴は兄さんの血を分けた弟なんだからな」
    「それが亡くなった久城家の先代?」と、ナミは聞いた。
    「ああ。わしにとっても兄貴になるあいつだ」
    「実の兄貴を弟が好きになるとか......BLの世界じゃあるまいし......」(空想の中の出来事で留まってほしい、と思っている)
    「でも確か、秀一朗さんと先代――宗次朗さんが一緒に暮らすようになったのって、結構大きくなってからなんでしょ?」
    と、満穂が言うと、琴葉が、
    「え!? どうゆうこと?」
    「二人は母親が違うのよ。だから最初は別々の家で暮らしていて、秀一朗さんのお母さんが亡くなったんで、宗次朗さんのお母さんが後妻に入ったの」
    「ってことは、先代の母親って元は愛人?」と、琴葉が言うと、
    「当時は"二号さん"って言ったのよ」
    「どっちでもいいわ、愛人でも二号でも妾でも! あの爺さん! さんざんうちのおじいちゃんを"妾の子"呼ばわりしておいて、自分だって元はそうだったんじゃない!!」

    「秀一朗が15歳、宗次朗が14歳の時に、二人は一緒に暮らすようになったの」と、百合香はキーボードを叩いた。「宗次朗の邪な思いは、その頃からもう始まっていたらしいわ」
    「今まで一緒に暮らしていなかったから、お兄さんを兄とは思えず、恋愛対象として見てしまったのね」
    「そう言うことなんでしょうね。それで秀一朗は18歳で結婚したの。相手は子供のころからの許嫁である沙弥子(さやこ)――私の祖母ね。翌年に私の母が生まれたんだけど......祖父はその二年後に亡くなったの。それで、当時の当主である曽祖父の命令で、宗次朗が次期当主に、祖母の沙弥子は宗次朗の妻になった」
    「義理の弟と結婚させられたのね。昔はそういうこと多かったらしいわね。拒否することって出来なかったのかしら」
    「拒否したら母を――娘を久城家の跡取りとして取り上げられて、自分だけ実家に帰されそうになったらしいわ」
    「それじゃ、嫌でも再婚を受け入れるしかなかったのね」
    「でも、その結婚も2年ぐらいしかもたなかったの。祖母は自殺してしまったから」

    「あの宗次朗の奴、沙弥子さんをネチネチいたぶり続けたらしい」と、正典は言った。「もとは憎い恋敵だ。遺書の内容によると、毎晩のように、兄さんがどんなふうに沙弥子さんを抱いていたか聞いてきて、教えないと暴力をふるうし、教えたら教えたで"同じ風に俺を抱いて見せろ!"って迫ってきたとか......」
    「変態じゃん!!」と、ナミは怒った。
    「そうだ、あいつはそうゆう奴だったんだ!」
    「それじゃ、死にたくなるのも無理ないわよ......」と、満穂も言った。
    「本当は沙姫ちゃんも......娘も道連れに死のうとしたんだが、沙姫ちゃんは幸いと言おうか、飲まされた薬の量が少なくて、一命を取り留めたんだよ」

    「母はときどき言っていたわ......あの時、母親と一緒に死んでいたら、私は穢れなくて済んだのにって......母は、成長するにつれ父親に面差しが似て来るようになったの......」

    「満穂は兄さんによく似ているよ」と、正典は昔を思い出しながら言った。「似ているが、やはり兄さんの艶っぽさまでは引き継がなかったな。そこはやっぱり、兄さんとは片親違いのわしの娘だからなんだな」
    「私は沙姫さんとも似ているのでしょ?」と、満穂は言った。「百合香さんがそう言ってたわよ」
    「そうだな。二十歳の沙姫ちゃんまでしか知らないが、確かに似ていると思うよ。でも、沙姫ちゃんには満穂には無い、艶っぽさがあった――父親譲りのな」

    「その結果、母は義理の父親に――血筋上でも叔父にあたるその男に、12歳の時に襲われたのよ」

    「ここから先、宗次朗が狂いだした」と、正典は言った。「本当に欲しかったものが、女体化して現れてくれた――あいつはそういう風に思い始めた。沙姫ちゃんは天が自分に許した秀一朗兄さんの代わりだと。だから、周りの人間にも、自分が姪を犯していることを隠すどころか自慢するようになった。だからこそ、疎遠にしていたわしのところまで、その話が耳に届いたんだ」

    「正典さんは当時まだ学生だったそうなの。でも、母が辱められていることを知って、自分が母を引き取りたいって申し出てくれたのね。それに真っ先に賛成したのは宗次朗の後妻だった。後妻にしてみれば、自分が産んだ子供が3人もいるのに、夫の子供でもない母が跡継ぎでいるのが面白くなかったから、その話は願ってもないことだったの。それなのに、宗次朗が断固として許さなかったの。それどころか、正典さんにひどい言葉を浴びせたのよ。
    "おまえも兄さんにそっくりな沙姫を、自分のものにしたいだけだろう?"って」

    「一緒にするなってんだ!」と、正典は吐き捨てるように言った。「俺は兄さんをそんな目で見た事はないし、沙姫ちゃんのことだって純粋に叔父として、守ってやりたいと思ったんだ。兄さんに受けた恩義を返すためにも!」
    「それで、おじいちゃんは沙姫さんを引き取るのを諦めたのね?」
    と、琴葉が言うと、
    「諦めたくはなかったんだけどな」と、正典は言った。「沙姫ちゃんから断って来たんだよ。わしに迷惑をかけたくなかったんだろうなァ」

    「母は、本当は正典おじさんについて行きたかったんですって。でも、そうしてしまうと、きっと正典さんの不名誉になる噂を宗次朗が撒き散らすに決まってるから、だから断るしかなかった」

    「その上で、わしに久城本家との付き合いを完全に絶ってくれ、と懇願されたよ。そうすることで、沙姫ちゃんはわしを守ってくれたんだ......沙姫ちゃんが流産したって聞いたのは、その翌年だったな......」
    「義理の父親の子を?」と、ナミが聞くと、
    「それしかあるまい」と、正典は言った。「まだ14歳だった。聞くところによると、義理の母親が知り合いの医者に中絶手術を頼んでいたのに、宗次朗がそれに気付いて沙姫ちゃんをどこかに監禁したそうだ。無事に自分の子供を産ませるためにな。だが、沙姫ちゃんが食事を絶って衰弱したことにより、子供だけが死んでしまったんだ」
    「沙姫さんは、死のうとしたの?」と、琴葉が聞くと、
    「かもしれない......本人に聞いて見た事はないが......その後、沙姫ちゃんはもう1回、自分で流産をしている......」

    「二度目の流産の時は、さすがに母の命も危なかったそうなの。それで、母は久城家が経営する病院に長期入院することになった――父とはそこで知り合ったんですって」
    「ようやくお父様登場ね」と、ルーシーは言った。「確か、二人は駆け落ちしたのよね!」
    「そうなの。母が義理の家族に不当な扱いを受けていることを知った父が、母に恋をして、それで連れ出してくれたのよ。母は良く言っていたわ。
    "あの時のお父さんは、まさに私の王子様だったわ"って」

    「なんでも、宗次朗の奴、入院している時まで沙姫ちゃんに手を出したそうなんだ」
    「人でなしね!」と、満穂は言った。「流産して体を壊している患者に、医者が手を出すなんて!」
    「まったくだ。一雄さんはそこに通りがかって、沙姫ちゃんを助けてくれたそうだ。一雄さんはそこでマッサージ師をしていたんだな」
    「そうそう、初めはマッサージ師だったって、おじさん言ってた」と、ナミは言った。「40歳すぎてから整体師の勉強を始めて、今に至るって」
    「そうか、今は整体師なのか......言葉が不自由らしいが、いい青年だったな」
    と、正典が言うと、
    「え!? じいちゃん、一雄おじさんに会ったことあるの?」
    「一度だけな。こっそり、沙姫ちゃんのお見舞いに行ったんだよ。そしたら、ちょうど二人が会っている時でな......わしはあの時、初めて沙姫ちゃんの笑顔を見たよ。それで確信したんだ。この人なら、沙姫ちゃんを幸せにしてくれるってな......二人が駆け落ちしたのは、その翌日だったよ」

    「二人は東京に出てきて、母の学友の寿美礼おばさんを立会人にして結婚したの。母が二十歳になる誕生日にね。成人していれば、親の許可なく結婚が可能になるでしょ」
    「結婚してしまえば、どんなに実家が連れ戻しに来たって無理よね。やるじゃない、ユリアスさんのご両親」
    「うん、私もそれは誇りに思う。それで、母は大学を中退して(実家を継ぐために医者になろうとしていた)主婦業に専念したんだけど......2度の流産が原因なのか、母は不妊症になってしまって。不妊治療を続けた結果、兄と私を体外受精で出産したのよ。もちろん卵子も精子も両親の物だから、兄も私も実子であることに間違いはないわけ」
    「そうよね! それ、疑いようがないよね。それなのに、確かお母さんのお葬式の時に実家の人が押し入ってきて......」

    「宗次朗の後妻と娘たちが、沙姫ちゃんの葬儀に押しかけて、沙姫ちゃんを父親をたぶらかした淫乱女だとかなんだとか侮辱したあげく、百合香ちゃんと、お兄さんはキョウイチロウ君って言ったか?」
    「そうだよ」と、ナミはいった。「恭一郎さんだよ」
    「そう、その二人のことを、義理の父親との間に作った不義の子だって、わめきちらしていったとか」
    「それが分からないわね」と、琴葉は言った。「なんで、自分たちの父親にとっても不名誉になることを、わざわざ喚き散らして行ったの?」
    「たぶん、沙姫ちゃんが幸せな結婚をしたのが許せなかったんだろう」と、正典は言った。「宗次朗の娘たちは、三人とも縁談がうまく行かなかったんだ。宗次朗が沙姫ちゃんとのことを隠しもしなかったものだから、もしかしたら実の娘たちにも手を出しているんじゃないかと噂されてな」
    「だから結局、久城本家は分家から養子をもらったんだものね......悪いのは沙姫さんじゃないのに、逆恨みもいいところよね」と、満穂は言った。
    「本当に......呪いなんだね」と、ナミは納得するのだった。

    「ねえ? ユリアスさん」と、ルーシーが言った。「わたし達、そろそろ直接会わない?」
    『直接?』と、百合香は戸惑った。『今までネットでしか係わっていないのに?』
    戸惑いはしたが、しかし、百合香は会いたいと思った。今までの会話から察するに、おそらくルーシーはリアルでも自分と知り合いなのではないか? と、思っていたのだ。
    『誰なのか確かめてみたいし、会ってみようかな......』
    返事を書き込もうとしたとき、百合香の携帯電話が鳴った。
    小林佐緒理の名が表示されている。
    「ごめん、ルーシーさん。電話かかって来たから、ちょっと待ってて」
    百合香は手早くそう打ち込むと、携帯を開いた。
    「はい、宝生です!」

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