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恋愛小説発表会〜時にはノンジャンルで〜

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  • from: エリスさん

    2010年04月30日 15時37分31秒

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    「阿修羅王さま御用心・32」
     水素に火を点けるとどうなるか――中学の理科の実験でやりましたよね? 読者諸君。

     “キ ュ ッ !

     あまりにも凄いその音は、御茶ノ水じゅうに響き渡ったにもかかわらず、花之江の神のアイディアで一般人への被害はなかったのであった。――かくして、津波も消えてなくなった。
     それを見て、真っ先に駆け寄ってきたのは沙耶だった。
     「アヤさん!」
     もう大丈夫、と周りの連中が油断していたのが甘かった。
     「真空波!」
     『え!?』
     次の瞬間、沙耶の胸元に強い風が吹き付けたかのように衣服がたなびいて、沙耶は後ろ向きに倒れていた。
     見れば、仰向けに倒れていた刺客の下から、もう一人の刺客――歌子のボーイフレンドが這い出してきた。
     「貴様ァ! 汚えぞ!! 仲間の後ろに隠れて技から逃げやがったな!」
     建の抗議に、
     「なんとでも言え!」と、そいつは高笑いして見せるのだから、腹が立つ<`〜´>
     千鶴がすぐさま駆け寄って、沙耶を抱き起した。
     「沙耶ッ、沙耶! しっかりして!」
     沙耶は、意識はあるものの、ショックで呼吸が出来なくなっていた。声すら出なくなっている。
     「ひどいわ! 沙耶は幼いころに小児喘息にかかって、今でも発作を起こすのよ!」
     千鶴が叫ぶと、
     「ヘェ、そうかい。それは好都合ってもんだなァ、北上さんよ。自分の女が心配でバトルどころじゃないってことか」
     「あなた達、そうまでして……」
     郁子がこぶしを硬く握って、今にも飛びかかろうとしているのを、建が制して彼女の前に立った。
     「勝負のためには一般ピーポーまで巻き込もうたァ、武道家の風上にも置けねェぜ。アヤ姉ちゃんが手を下すこともねェ。この一刀体術流正統後継者・草薙建が相手になってやる!」
     「イットウ……なんだって? 聞かねェ流派だな」
     「ウッセェ! どうせうちはマイナーだよ!」
     そこで郁子が口を挟んだ。「ちょっと、タケル!」
     「姉ちゃん」と建は小声で言った。「俺があいつの相手をしている間、紅藤ちゃんのヒーリングやっててくれ」
     見ると、智恵が背中を押したりして、どうにか呼吸はできるようになっていたが、呼吸困難はどうしようもできないでいた。確かに一刻を争う。
     「わかったわ」
     郁子は手袋を建に返した。「すぐに済むから、よろしくね」
     「まかせとけ」

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  • from: エリスさん

    2010年04月30日 12時27分38秒

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    「阿修羅王さま御用心・31」
     「大した奴らね。こんな技が使えるなんて、今まで見せもしなかったのに」
     津波はまだ止まらない――水素と酸素を気エネルギーで融合させて発生させているので、技を使う者のエネルギーが尽きない限り続くのである。……当然のことながら、水そのものも吸い寄せられてくる。
     おかげでこの御方は災難だった。
     「キャーッ!」
     この悲鳴を聞くことができる人間は、芸術学院の中でも少数だった。
     郁子と建は悲鳴の方向に視線を走らせた――講堂の窓が開いていて、そこから水流とともに花之江の神が流されて来たのである。(美夜はもうこの時、建が心配で新校舎へ来ていた)
     「タケル!」と咄嗟に郁子が叫ぶと、
     「分かってます!」と、建は狙いを定めて、流されてきた花之江をジャンプしてキャッチした。
     「もう! なんたること!」
     花之江は郁子の防御壁の後ろの安全エリアに入って、背中から思いっきり水流を吸い込みつつ、怒りの形相を露にした。
     「この水の神まで武器に使おうとは、なんたる無礼! 天災を降らして懲らしめてやろうかしら」
     「ダメだって! 花之江さんが本気になったら、東京が水没しちゃいますよ!」
     と建が言うと、
     「おだまり! 私は、お化けと間違われてホラー映画のネタにされた、馬鹿な妹とは違うのよ!」
     「それ、花之湖(はなのこ)さん怒るよォ〜〜……ところで、なんで水流を吸い込んでるの?」
     「馬鹿ね、私が吸い込んで水素と酸素に分解しとかないと、みんなが窒息しちゃうし、御茶の水じゅうが水浸しになるじゃない」
     「花之江さん、言ってることが矛盾してるよ」
     怒ってはいても、土地神としての役目は果たす花之江だった。
     なので郁子が言った。
     「花之江さん、その水素だけを集めて、奴らにぶつけられないかしら」
     「そりゃできるけど……アヤさん、あなた……」
     「向こうが超常力で来るなら、こっちもそうします」
     なので、建は言った。「姉ちゃん、それってヤバくない? 一般生徒が見守ってるんだからさ」
     「あいつらがこんな手段で来てるのに、正攻法で収まるはずがないでしょ? それに、あいつらのおかげで、おあつらえな密室ができてるのよ」
     「あっ!?」
     建も言われて気づいた。向こうから押し寄せてくる水流と、郁子の防御壁、そして花之江の吸引で、郁子たちがいるところは周りから見えなくなっているのだ。
     「だからタケル、今のうちに私の薙刀(なぎなた)を抜いてッ」
     「承知!」
     建は郁子の太腿のホルダーから、薙刀を抜いて組み立てた。
     「ハイよッ」
     建は郁子の左手にそれを渡してあげた。
     「結界、俺が代わるよ」
     建は人差し指を立てた形で両手を組み合わせ、念を唱え始めた。
     「臨(りん)、兵(ぴょう)、闘(とう)、者(しゃ)、皆(かい)、陣(じん)、裂(れつ)、在(ざい)、前(ぜん)! 出でよ、結界!」
     郁子が右手で防御壁を作っていた辺りに、建の両手が広げられる。それで、一神と二人の周りには球体の結界が張られた――郁子は防御壁を解いて……。
     「今から唱文を唱えます。唱え終わる瞬間に建は結界を解いて、花之江さんは水素を奴らにぶつけてください」
     「まかせて。ついでに他の人に被害が行かないように、二酸化炭素で包まれた球体の水素にしておきましょうね」
     それ聞いて建は言った。「花之江さん、そんなこともできたの(^_^;)」
     土地神様は偉大です<(_ _)>
     郁子は左手を胸の前に構えて唱え始めた。
     「ナウマクサンマンダ バザラダンカン ナウマクサンマンダ ボジソワカ!」
     絶妙なタイミングで建が結界を解き、花之江が水素を放つ――水流が押し分けられて、刺客の二人が見えてきた。
     「非天火炎弾(ひてんかえんだん)!」
     郁子の左手から、炎の球体が放たれた。

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  • from: エリスさん

    2010年04月30日 11時39分22秒

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    「Re:これからの注目作品」
    >  ....ってほどのものではないけど。


      (中略)

    >  さて、そしてこれはかなり先になりますが――うちで上映するかも決まっていませんが、たぶん配給元が配給元なので、やるんじゃないかと思われるのが「大奥」です。
    >  いつも楽しみに買っている雑誌・メロディーに「よしながふみ先生の大奥が実写映画化」と載っていた時には、本当に仰天しました。
    >  「やるんですか!? これを。やっちゃうんですか!」
    >  って、本屋で声に出しちゃいそうでした――かろうじて声にはなりませんでしたが。
    >  しかもこの間キャストが発表されまして、徳川吉宗役は柴咲コウで、水野祐之進役に嵐の二宮和也って! これまた、
    >  「いいんですか! ジャニーズがそんな役やって!」
    >  って、驚きしかありません。
    >  今ここで書くとネタバレになってしまうかもしれませんが、とりあえず原作の「大奥」がどんなストーリーかと言いますと――
    >
    >  三代将軍家光の時代、日本に疫病がはやった。その疫病は特に男子に罹りやすく、そのため男子の人口が女子の四分の一になってしまった。そこで血筋を絶やさぬために女は男を金で雇い、「種付け」をするようになる。
    >  この背景により、将軍職も男児から女児へと血筋がつながれ、大奥には将軍に仕えるための男子が集められるようになっていた。そして、身分違いのために好きな女性と添い遂げられない苦しみを抱えた水野は、大奥に入ることを決意する。
    >
    >  この水野という男はですね、一言で言えば優しい男なんです。優しいがゆえに、当時は婿を取るのは金持ちの娘だけで、武家であっても貧しい暮らしをしている女は、血筋をつなぐために金で男を買って「種付け」してもらっているって言うのに、彼はそういう女性から一銭も金を取らずに「無料奉仕」してあげてるんですね。
    >  いいんですか! 二宮君がそんな役をやっちゃって! 
    >  この原作のストーリー通りにやると、二宮ファンが泣きを見るような気がするんですが、そこはうまくやるんだろうなぁっと思ってます。
    >  私としては「大奥」は家光・有巧編が好きです。傷ついた者同士が慰めあうように愛し合っていた、そんな家光(千恵)と有巧(お万の方)の姿が切なくていいです。
    >  吉宗・水野編がうまくいったら、そっちも映画化されるのかな? だったら有巧はぜひとも堂本光一で。女装した有巧を綺麗に演じられる俳優は、光一君以外考えられないし。
    >
    >  というわけで、映画談義というよりは、私のジャニオタっぷりが発揮された書き込みになっちゃったかな。


     この書き込みをしてから大分たちましたが、とうとう私が勤務する映画館でも上映することが正式に決定しました。
     前売り券も明日から販売されるそうで.....私は水野の「流水紋裃(かみしも)ストラップ」が欲しいので、買ってしまおうかと野望しています。
     昨日から全キャストが発表され、ポスターも公開になってますが、水野役の二宮君は、やはり水野らしさを表現するために、目に力をこめてましたね。
     どんな作品になるのか、ちょっと楽しみになってきました。

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  • from: エリスさん

    2010年04月23日 14時20分39秒

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    「阿修羅王さま御用心・30」
     新校舎側に郁子たち、旧校舎側に唄子と刺客たちが陣を取る形になった。
     郁子はキュキュッと音をたてながら手袋をはめて、身構えた。
     「さあ、いらっしゃい」
     すると唄子のボーイフレンドの方が怒鳴る。「そのお嬢様な態度が気に入らないんだよ!」
     奴らがちょうど襲いかかった時、今日はワンピース姿の紅藤沙耶が新校舎の入り口から走り出てきた――南条千鶴も後を追ってくる。
     「アヤさん!」
     今にも郁子に駆け寄ろうとするのを、智恵が捕まえる。
     「危ないわ、紅藤さん! 下がってッ」
     「でも、アヤさんが!?」
     「アヤは大丈夫だから。見ていて……」
     左右から同時に竹刀が振り下ろされた瞬間、郁子はバック転で避けて、ついでに右側の竹刀を蹴り飛ばしていた。
     郁子の動きは一つ一つがリズミカルで無駄がない。美しささえ感じられる。――あたりから感嘆の吐息があふれ出ていた。
     「ブを極めればブに通ず……って言葉、知ってる?」
     智恵に言われて、沙耶は首を左右に振った。
     「舞踊を極めれば武術に通じ、武術を極めれば舞踊に通じる。格闘技なんて野蛮なものでも、リズムと洗練された動きで美しく見えるものなの。アヤが通っている道場の基本的な教えらしいわ」
     「それでアヤさんは、武道を始めると同時に日本舞踊も……」
     「どちらもお師匠様が同じ人なんですって。けれど、武術を芸術にまで高められる人は稀だと思うわ。アヤはそれを簡単にやってのけてしまう。やっぱり、天性ってあるのね……アヤの武術って、まさに日舞の振りですものね」
     智恵と同意見であるその人物は、龍弥が立っている窓際まで来て、言った。
     「やっぱり綺麗だな……ミステリアスな魅力が堪らないよ」
     突然にこんなことを言われても、慣れっこになっている龍弥は半分あきれながら答えた。
     「おまえがあいつを自分のリサイタルのゲストに指定するのって、単にあれが見たいだけか? 瑛彦」
     そう言われて、梶浦瑛彦(かじうら あきひこ)は不敵な笑みを浮かべた。
     「普段は見せてくれないからね」
     「そりゃ無理だろ? あいつ、一応この学校では“憧れのお嬢様”で通ってるんだから」
     「一応は余計だ。れっきとしたTOWAグループ前会長の御令嬢だ」
     「ヘイヘイ、そうですか」
     「……彼女が、その身分さえ隠していなかったら……」
     「ん?」
     「……いや、いいんだ」
     小・中学校時代、御令嬢ということで周りからチヤホヤされて育つことのないように、という亡き母親の教育方針で、自身の家柄を隠して登校していた郁子は、両親がいなかったことと、当時肥満気味だった体形からイジメにあっていた。そして、中学一年生の時の校内虐待事件――この事件をきっかけに、郁子は武道場へ通う決心をしたのである。
     もし、初めから家柄を明かしていれば、今の郁子はなかったのかもしれない。
     さて、戦闘の方であるが……先ほどから、唄子のボーイフレンドではない方だけが郁子と対戦し、ボーイフレンドの方は少し離れたところでそれを見ていた――いや、何かぶつぶつと呟きながら、両手で何かを形作っている。
     『あれは……指先に念を籠めているのか?』
     そう判断した建は、聴覚を研ぎ澄まし、彼が何をつぶやいているのかを読み取った。
     「大気よ、水よ、我に力を与えん。その大いなる御力をもって……」
     『この唱文は!』
     建は旧校舎側を指さしながら叫んだ。
     「そっち側! 校舎に入って窓を閉めろ! 窒息するぞ!!」
     建の声に、校庭の隅で見学していた生徒たちは、蜘蛛の子を散らすようにワタワタと旧校舎の中へ入っていく。
     そして、今度は新校舎側にも怒鳴った。
     「こっち側も窓を閉めろ! そんで窓から離れるんだ! 圧力でガラスが割れるかもしれない!」
     なにがなんだか分らないが、新校舎の生徒も慌てふためく。
     心配で離れがたくなっている沙耶のことも、智恵と千鶴が強引に、一階のロビーまで引っ張って行った。
     建は郁子の至近距離に寄って、大急ぎで結界の印を結ぶ。
     「臨、兵、闘……」
     「邪悪なるものを滅せよ!」
     「うわッ、間に合わ……!」
     どこからともなく水流が沸き起こり、どでかい津波になって押し寄せてくる――だが、建は濡れなかった。
     「大丈夫?」
     郁子が右手だけで見えない防御壁(ぼうぎょへき)を作っていた。その後ろに建もいたのである。

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  • from: エリスさん

    2010年04月16日 15時28分42秒

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    「阿修羅王さま御用心・29」
    >  額田王の長歌を暗唱してしまう。――その暗記力もさることながら、読む時の表現力、澄んだ声に、教室中の女子生徒がポワ〜ンとなってしまった。


     小声で囁く声が聞こえる。
     「やっぱり北上様よねェ〜。なんて素敵なお声(●^o^●)」
     「私達じゃあんなに感情豊かに、それでいてさらりと、なんて、万葉集相手に読めないもの」
     「この授業取ってて良かったァ……」
     こうなってしまうと、面白くないのは男子生徒である。たいして美人でもないのに、どうしてあんなに人気があるんだか……と、こう思ってしまう。(いやまあ、郁子の実力は認めてるんだけどね (^_^;) )
     特に面白くないのが、やっぱり黒田龍弥だった。
     「では、誰かに訳してもらいましょうか……」
     講師が言うと、
     「ハイッ」
     と龍弥が手を挙げた……いつもはそんなに積極的ではないので、講師も驚く。
     「では……ええっと、黒田君だったかしら?」
     「ハイ、文芸創作科1年 黒田龍弥です! 行きます!」
     ここまで意気込むと、本当にらしくない。それだけ郁子に闘争心を燃やしているのだろう。
     で、龍弥が口語訳を読もうとしたときだった。
     校庭からいきなり大きな怒鳴り声が聞こえてきた。
     「北上郁子! 出てこォ―――――――い!」
     『この声は……』
     郁子がそいつらの姿を見に行くまでもなく、窓際の席の生徒が校庭を覗いて、講師に言った。
     「柔道着みたいなのを着た若い男が二人と、あと女の方は……」
     「声楽コースの相沢さんです」
     なので、立っていた龍弥は、斜め前に座っている郁子に言った。
     「とうとう所構わずになってきたな、あいつら」
     「他人事みたいに言わないでよ。元はと言えば、あなたの従兄弟……」
     そこで龍弥は咳ばらいをしたのだが、周りの人は誰一人として気づいていなかった。講師が窓のところへ行ったと同時に、他の生徒たちも窓際に寄ってしまったからだ。自分の席から動いていないのは、もはや郁子と龍弥だけ。
     そんなときだった。
     「貴様らァ! ええ加減にせェ!」
     『あら? この声は……』
     郁子が思っている間に、龍弥の方はもう体が動いていた。
     二階の教室には、直接校庭へ出られるようになっている、階段付きのベランダがある。建はそこで右手の拳を硬く握りしめながら立っていた。
     「週に一回しかない万作先生の貴重な授業を妨害しおってッ、貴様らは芸術を冒とくしている!」
     建の言葉に、
     「そうだそうだ!」
     「カッコイイぞ、草薙!」
     という声も上がったが、龍弥はちょっとだけ頭が痛くなった。「論点が違う……」
     観衆が騒ぎ立てる中、唄子のボーイフレンドは言った。
     「芸術なんか知るか! 俺たちはあの女に勝てればいいんだ。あの女を出せ!」
     「貴様ァ、授業中は手を出さないっていう公約はどうしたッ。もし破ったら、そこにいる相沢唄子が歌謡界に入るときに、我らが流田恵理先輩と、フィーバスの藤村社長が妨害するってことになってただろうが!」
     すると唄子が言った。
     「もうそんなことはどうでもいいわ! こうなったら意地よ。私はもうすぐ卒業よ、これが最後のチャンスなの! どうあっても梶浦君のリサイタルに出たいのよ!」
     「悪あがきも大概にしたら」
     この声に、建も唄子たちもびっくりした。――龍弥も今まで彼女が座っていたはずの席を振り返った。
     郁子が、校庭へ現われていた。――その上品な歩き方が、その場の演出効果をアップさせている。
     「アヤ姉ちゃん!」
     建は忍者さながらにベランダから飛び降りた。
     「こんなことをしたところで、梶浦瑛彦(かじうら あきひこ)という天才が、あなたを選ぶと思っているの? 確かにあなたの歌唱力は認めるわ。でも、こんな汚いやり方でステージを手に入れようとする、あなたの汚れた心では、瑛彦さんのピアノとハーモニーを醸し出すことはできないわ」
     「ウルサイ! とにかく、私はあなたが憎くて仕方ないの!!」
     「俺たちもだ。あんたみたいな一見か弱そうなお嬢様に、俺たちが負けたままでなんかいられないんだ!」
     そこで建が怒鳴った。「おまえらな! 武道家としての意地よりまず、男として考えろ! よってたかって姉ちゃん一人に暴力振るうたァ、恥ずかしいとは思わんのか!」
     その言葉に、観客たちも賛同する――しまいには職員室の講師たちまでが面白がって見物する始末。
     「外野は黙ってろ! さあ、北上郁子! 剣を抜いてもらおうか」
     郁子と建の周りには、永遠の風のメンバーが集まっていた。
     「郁子先輩……」
     今井洋子(いまい ひろこ)が心配そうに縋りつく。郁子はそんな彼女に微笑みかけた。
     「大丈夫よ」
     そして、ブレザーを脱ぐと、洋子に渡した。
     「やるのか? 姉ちゃん」と建が言うと、
     「ここまで来たら相手してあげないと、納まりがつかないじゃない?」
     「そうだけどさ……なんかあいつら、いつもより余裕の顔してない?」
     「してるわね。どうしてかしら?」
     「たぶんさ」と、智恵が言った。「昼間だし、人前だし、アヤが暗器を抜けないのを見越してるんじゃない?」
     そう、人に暗器(隠し武器)を抜いているところを見られては、暗器の意味がない。だが、先刻から奴らは「剣を抜け」と言っている。つまり、彼らの余裕の表情には別の意味があるのだ。
     「大丈夫よ。無手(武器を持たないこと)だからって、あいつらに負けたりしないから……タケル」
     郁子は建に向かって右手を出した。建はジーンズのポケットから黒革の手袋を出して、その手に渡した。
     「俺はここに居ていいだろ? 邪魔はしないから」
     「あなたの役目ですものね、いいわよ。でも、チャーリーたちは下がっていて」
     郁子の言葉に、ウィンクでOKサインを出した智恵は、後輩たちと一緒に後ろに下がった(有佐は別館の校舎で授業中だったため、まだこの騒ぎを知らない)

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    2010年04月09日 15時52分12秒

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    「阿修羅王さま御用心・28」


     午前中の芸術学院は穏やかだった。
     二限目の授業、郁子は日本文学演習の授業で、万葉集の講義を受けていた。
     ちょうどその頃、職員室に一本の電話が鳴った。小説ゼミナールの講師・三原真理子への電話だった。
     「莉菜! あなた、いつ日本に帰ってきたの?」
     真理子は驚きながらも嬉しそうだった。
     「今から? いいわよ。今日はこのあと三時からの授業しかないし……なによ、聞きたいことって。……そう。じゃあその時にね。駅ビルの喫茶店で待ってて」
     真理子は電話を切ってから、通路を隔てて隣にある大学部学長の藤村寿子(ふじむら ことこ)へ声を掛けようと顔を向けると……。
     「あら? 寿子先生は?」
     「ああ、学長なら」と、真理子の後ろの席にいる美術科講師が言った。「用があるって、出掛けたけど」
     「そうなの? それじゃ、伝言頼んでいい? 私、これから人に会うので外出しますけど、午後の授業までには戻りますので」
     「分りました……人に会うって、デートですか?」
     「いやね! 古い友人ですよ。私、デートは主人としかしませんもん」
     と、笑顔で答えながら、真理子はバッグとコートを手に職員室を出て行った。
     今思えば、真理子が外出さえしていなかったら、あんな騒ぎにはならなかったかもしれない。
     一方、講堂はその時間授業がないということもあって、この御方は朝から二階席で酒盛りをしていた――とは言っても……。
     「主食がお酒だなんて、大変ですよね」
     ようやく登場できた尾張美夜(おわり みや)は、「愛しいお兄様」こと草薙建(くさなぎ たける)に頼まれて、新潟名産「赤い酒」をこの御方に奉納しに来たのであった。
     さて、ではその御方とは……。
     「そんなこと……なかったのよね、昔は。信仰心が厚かったからね、姿が見えなくても土地神には御供物を供えるものだっていう習わしがあったじゃない? だから、お神酒なんて尽きることなく毎日飲めたんだけど、現代の人たちって見えないものは信じないから、おかげで御供物が減って……今はこうして、私たちが見える人たちに頼るしかないのよ」
     学校ならどこでも、その土地を守ってくれる神様が必ずいるものらしく、特にそういった神様は水の神様だったりするので、プールやトイレに住んでいる。この芸術学院を守ってくれている土地神様――花之江(はなのえ)は、講堂のトイレの個室のドアの上にいつも腰かけているのだが、講堂で授業がない時は客席で昼寝なんかをしていた。ちなみに、水の神様にとってお酒は主食だが、人間みたいに酔っぱらったりはしないとか。
     「ねえ? ところで美夜ちゃん。あなた、このごろ演劇の練習お休みしてない?」
     「うん……ちょっとね」
     「いいの? 公演があるんでしょ?」
     「私、そんなに大した役じゃないんです」
     「そんなこと言って。なにか事情があるんじゃないの? アヤさんず心配してたよ」
     美夜はそう言われて、少し悩んだものの、花之江に顔を近づけて小声で言った。
     「内緒にしてもらえますか?」
     「事と場合によりけりよ。さっきも言ったとおり、アヤさんが心配してるんだから……まあ、心配はしてても何もできない状況にいるけどね、彼女も」
     「大変そうですものね(^_^;)」
     美夜も郁子の今の状況は分かっている。だからこそ心配をかけたくなかったのだ。
     「あのね……建お兄様の誕生日が近いんです」
     「ああ! そうか、なにか贈り物をしようとしているのね」
     「ハイ。冬だし、マフラーを編んでるんですけど、なかなかできなくて」
     「それで、練習を休んで頑張ってるんだ」
     「はい……」
     実はその他にも、今回の舞台のために郁子が龍弥を出入りさせようとしていることも知っているので、それが嫌だったのだ。美夜はれっきとした建のガールフレンド。なのに、自分を差し置いて他の男を見ている建の姿など、見たくないのだ。建が本当に愛しているのが誰なのか、知っているだけに。
     もちろん、そのことは郁子も郁も分かっている。そのことで美夜が傷つくことも予測していた。けれど……。
     『私だって分かってるもん。いつか、私とお兄様は別れなくちゃならないって』
     別にレズだったわけではない。たまたま好きになった人が女性だっただけ。
     それでも――傷つくと分かっていても「好きです」と言わずにはいられなかった。
     建はその気持ちに応えてくれた――それで、十分なのかもしれない。
     ……さてその頃、モテモテの建クンはと言うと、郁子が授業を受けている真下の教室で、古典芸能の授業を受けていた。講師はなななァ〜んと、あの狂言師・野村万作先生でいらっしゃいます(ここだけ実話です!)
     郁子もこの授業は受けたかったのだが、その時間どうしても三年間の間に一年は履修しなければならない必修科目の授業(日本文学演習)があったので、泣く泣くそちらを受けている。
     「では次のところを……」
     日本文学演習の講師は、出席簿を覗きながら言った。「北上さん、読んでください」
     「はい」
     郁子は立ち上がって、分厚い万葉集の本を持ち上げようとしたが……。
     「あら、そんな謙遜はしなくていいのよ」と、講師は言った。「あなたの実力を見せてちょうだい」
     郁子はその言葉に微笑んで、本を閉じた。
     「冬ごもり 春さり来れば 鳴かざりし 鳥も来鳴きぬ
      咲かざりし 花も咲けども 山を茂み 入りても取らず
      草深み 取りても見ず 秋山の 木の葉を見ては
      黄葉(もみじ)をば 取りてぞしのぶ
      青きをば 起きてぞ歎く そこし恨めし
      秋山ぞわれは」
     額田王の長歌を暗唱してしまう。――その暗記力もさることながら、読む時の表現力、澄んだ声に、教室中の女子生徒がポワ〜ンとなってしまった。
     

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  • from: エリスさん

    2010年04月02日 16時29分41秒

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    「Re:今日は自宅にいます」
     来週こそはネットカフェで更新できるように、体調を整えねば。(^_^;


     ところで私の失恋話ですが、なんと、告白した事実すら無かったことにされました。
     そんな人だとは思わなかったので、かなりショックです。

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  • from: エリスさん

    2010年04月02日 16時03分54秒

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    「阿修羅王さま御用心・27」


     その日の夜、とある場所で、唄子が自分の雇った刺客どもに会っていた。
     「なんであの女、まだピンピンしてんのよォ〜!」
     「なんでと言われても……」
     沙耶を人質にする作戦は、どうしても実行に移せなかった。校内では手を出さない、という公約ができているため、授業が終わる頃を見計らって待ち伏せていたのだが、今日はずっと講堂で「永遠の風」の稽古を見学していたために、なかなか出てこず、そのうえ、ようやく現われたと思ったら、建の護衛付きで、すぐにタクシーで帰ってしまった。その腹いせをまたしても郁子に向けたら、案の定返り討ちにあってしまったのである。
     「勝とうなんて思うからいけないのよ! とりあえず舞台に立てないぐらいに打ちのめしてくれれば!」
     「いや、それがさ」と、友人の方が答えた。「怪我すらさせられないんだよ、俺たち」
     自分で言ってて、情けなくないか? 君。
     「力の差がありすぎるんだよなァ」
     「でも、勝ちたい!」
     「そりゃな。だけど、万策尽きた感じだよな……」
     「いや、一つだけまだ方法がある」
     「ホントか!?」
     「だからな……おまえ、共犯な」
     「え? (・・;)」
     「この際なんでもいいからッ、あの女をやっつけてェ!」
     その日の夜中、武神道場宝物殿に泥棒が入ったのだった……。


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  • from: エリスさん

    2010年04月02日 13時25分39秒

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    今日は自宅にいます

     昨日の墓参り(静岡まで)がたたって、体調が良くないことと、

     東京ガスがガス器具の点検にくるので、

     今日は自宅で、携帯電話を使って更新してます。

     なので今日は文章が短いうえにスピードも遅いですが、ご容赦ください。

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