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恋愛小説発表会〜時にはノンジャンルで〜

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  • from: エリスさん

    2012年08月31日 11時42分50秒

    icon

    「夢のまたユメ・64」
     恭一郎が二階に上がって来たので、百合香はカールに言った。
     「ごめん、カール。一つずれて、そこの席を開けてもらっていい?」
     「あっ、お兄さんですか? じゃあ、ずれます」
     「悪いわね(^.^)」
     妹がそういう会話をしている間、恭一郎は自分の部屋を開けて、絶句した。
     「……ここまで酷くなったか……」
     「アハハ(^_^;) それでも片づけた方なんだよ」
     恭一郎の部屋が開いたことで、マツジュンが咄嗟に覗きに行った。
     「ひどい、お兄さんのコレクションの数々が……前に見せてもらった時より増えている感じもしますが」
     「うん、増えてるよ。オーズのタジャドルコンボとか、あの後買ったし……タジャドルどこいった?」
     恭一郎が見ている方向――ベランダに出る窓の上のスペースが、歴代仮面ライダーを飾るスペースなのだが、仮面ライダークウガしか残ってはいなかった(ある意味、クウガだけ落ちずに残っていること自体が凄いが……)。
     「ああ、それでしたら、こっちに……」
     と、翔太が行って、襖障子の向こう側に置いておいた段ボールを手前に引っ張った。
     「拾えるものはできるだけ拾っておきました。ただ、一つ残念なお知らせが……」
     「なにかな?」
     「ダイカイシンケンオーが……」
     と、翔太がロボットを一体持ち上げて見せると、恭一郎は愕然とした。
     「み、右足がァ――――――!!!!」
     ダイカイシンケンオー――侍戦隊シンケンジャーに出て来る侍巨人(合体ロボ)である。恭一郎のお気に入りの一つだが、この震災で右足が取れて、どこかに行ってしまったのである。
     「いや! でも、この部屋のどこかにはあるはずだ! 百合香、窓とかは開いてなかったんだろ」
     と、恭一郎に聞かれたので、百合香は答えた。
     「もちろんよ。戸締りはきちんとして出掛けたんですもの」
     「よし! 明日は発掘作業をするぞ! 翔太君、もちろん手伝ってくれるよな」
     「もちろんです!」
     「俺も手伝います!」と、マツジュンも言うと、
     「いいとも! 見つけてくれた人には、俺の食玩コレクションの中から、好きなのをあげよう」
     「本当ですか!?」
     「燃えてきたァ!」
     「とにかく、今は空腹をどうにかしよう。百合香、メシだ!」
     「ハイハイ(^o^) こっちに出来てるよ」
     百合香は温め直した豚汁をお椀に入れて、恭一郎のために開けてもらった場所に置いた。――大原と榊田も、開いている席に通されて、先ずはお茶から始めていた。
     恭一郎は百合香の隣に座ろうとして、その反対側の隣にいるカールに気付いた。
     「あれ?……どこかで、お会いしませんでしたか?」
     「え?」と、カールも驚いた。
     「お兄ちゃん、カールがうちに来たのは今日が初めてだよ?」
     と、百合香が言うと、
     「ああ、うちでじゃないよ。もっと賑やかな場所で、会ったような……」
     「カールは覚えある? うちのお兄ちゃんと会った覚え……」
     カールは混乱したような表情をしていたが、急に何か思い出して、
     「そうだ! お兄さん、秋葉原の電機量販店にお勤めなんですよね?」
     「はい、そうですけど……あっ、もしかして、お客さんとして……」
     「そうですそうです! 僕、今日アキバ行ってたんです。太陽電池を溜めて使う懐中電灯を買いに。もう、この近所は売切れてて。それで、アキバのお店何軒か回って、その時に何人かの定員さんに質問して、どうゆうのがいいのか教えてもらったから。お兄さん、その時の定員さんじゃないですか?」
     「ああ、言われて見れば……今日はそうゆう質問ばっかり答えてたからな。これはどうも、ご来店ありがとうございました」
     「こちらこそ! 詳しく教えてもらってありがとうございます」
     「なに? お兄ちゃん。ゲームソフト担当なのに、今日は家電コーナーにいたの?」
     と、百合香が恭一郎に話しかけて、恭一郎の視線が百合香に移っている間に、カールはこっそりと安堵のため息をついた……。
     「そうなんだよ。実はそれが朝から連絡を入れられなくなった理由でさ。会社に泊まった従業員、全員が朝早くから起こされてさ……この非常時に、防災グッズを求めて来店されるお客さんがいっぱいいるだろうから、一階店舗を急きょ防災グッズコーナーにするぞ!って」
     「それは、大変でしたね」
     と、翔太は本当に気の毒に思って言った。
     「まあ、会社の方針も分からなくはないしね。それに本当に、朝から一杯4お客さんが来て……なんか、停電になりそうなんだろ? 電子力発電所が使えなくなって」
     「そうみたいね」と、百合香が言うと、
     「そうなると、太陽光で充電できる装置っていうのはかなり役立つんだよ。懐中電灯だけじゃなくて、携帯も充電できるのとか……あっ、一つ買ってきたから、あとで生活費で落としてくれ」
     「いいけど(^_^;)」
     「へえ、いいですね。俺も買いに……」
     と、翔太が言いかけた時、翔太の携帯が鳴った。翔太は携帯を手に取って、あっ、という顔をした。
     「ごめん、家からだ」と、翔太は百合香に言って、携帯を手に廊下に出た。
     翔太はしばらく廊下で話してから、すまなそうな顔をして戻ってきた。
     「ごめん、リリィ。俺、一端帰るよ」
     「そろそろ言って来られる頃だと思ってたわ」と、百合香は苦笑いをした。「昨夜から引き留めてたものね」
     「すまない。俺の部屋も地震でごちゃごちゃしてるらしくて。本棚とか……」
     「どこも同じよね」
     「恭一郎さんも、すみません。明日、お手伝いできないかもしれません」
     「俺の方はいいよ。マツジュン君が手伝ってくれるって言ってるし」
     「なんなら、俺も来ますよヽ(^o^)/」と、ナミが手を挙げる。
     「頼むよ、再従弟殿……まあ、そんなわけだから」
     「本当にすみません……あっ、でもちょっとは顔出しますから」
     「無理しなくていいのよ?」と、百合香が言うと、
     「いや、無理じゃなくて……明日は絶対に来たいんだよ」
     「あら、どうして?」
     「ホワイトデーだから。忘れてたの? リリィ」
     「あっ、ああ!」
     ポンッと百合香は両手を打った。――この震災で、恐らく忘れていた人は大勢いたと思われる。
     「それじゃ、また明日……」
     と、翔太がそのまま帰ろうとしたので、百合香はせめて玄関まで送ることにした……。

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  • from: エリスさん

    2012年08月24日 11時37分14秒

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    「夢のまたユメ・63」
     「紙コップ買っといて良かったよなァ」
     翔太はそう言いながら、紙コップの包装をはがしていた。「こんなに早く使うことになるとは思ってなかったけど……ホラ、一人一個ずつ取って廻しな」
     「ハーイ」とマツジュンが返事をして、縦に連なった紙コップを受け取った。そして順々に回して行ったのだが、そこへナミがサイコロステーキとマッシュポテトの山盛りの皿を持って一階から戻ってきて、翔太に言った。
     「ミネさん、すっかりこの家の人みたいですね」
     「ん? そりゃあ、毎週通ってるから」と、翔太は“チクリッ”としたものを感じながらも答えた。
     「リリィさんと結婚したら、この家に入るんですか?」
     「いや。俺、跡取りだから、リリィに俺の家に来てもらうつもりだけど」
     「へえ……この家の人達、困るでしょうね。こんな料理上手の娘を取られて」
     「なんだよォ、ケンカ売ってんのかよォ」と、翔太は苦笑いをしながら言った。「そりゃ、申し訳ないと思うけどさァ、しょうがないじゃん。結婚って……娘を嫁に出すってそういうことだし。一雄おじさんも恭一郎さんも、そういうことはちゃんと分かってくれてるから……」
     「……へえ……」
     ナミはそう答えて、自分の席に座り……ジョージに肩をポンポンと叩かれてなだめられた。
     『やっぱり、こいつリリィのこと好きなのか……』と、翔太は思った。以前、忘年会で会った時も、百合香の隣に座っていて、かなり親しくしていたのを見逃してはいなかった。後に百合香とは再従姉弟(はとこ)であることが分かった、というのは百合香から聞いているが。
     『俺がジョージに頼んでリリィとよりを戻さなかったら、こいつがリリィと付き合っていたかもしれないんだな。良かったァ、そうなる前により戻して』
     翔太がそんなことを考えているうちに、料理がすべて戻って、翔太の隣に百合香が戻ってきた。
     「それじゃまあ、まだマネージャーたちが来てないけど、始めますか。みんな、遠慮なく食べて!」
     「いただきまぁす!」
     一人500円だけの会費を集めて作ったにしては、結構な料理の量である。飲み物は主にペットボトルのお茶やジュースだが、百合香が冷蔵庫で作り置きをしておいたお茶まで振る舞われた。
     「これ、飲んでみたかったんだよォ。いつもリリィが休憩室で飲んでるの見て、おいしそうだったから」
     と、ぐっさんはローズヒップティーをコップに注いだ。
     「ああ、これジュースじゃなかったんですね」と、シマは言った。「赤いから、てっきり……」
     「ユリアスは仕事中に甘いもの飲まないよ」と、ユノンが言った。「いつも無糖の、フルーツティーだかフレーバーティーだか……なんて言うの? ユリアスゥ?」
     すると、自分のと翔太のコップに大量に氷を入れてから、ティーポットからお茶を注いでいた百合香は答えた。
     「フレーバードティーって言うのよ。紅茶の茶葉にいろんなフルーツとかの味が合わさってるの……はい、どうぞ」
     「アリガト(*^_^*) いい匂いだな」
     「でしょ?」
     と、百合香が翔太とラブラブオーラを発しているので、ぐっさんが言った。
     「ああ! そこの二人だけ特別なの飲んでる!」
     「みんなも飲んでいいわよ。氷を入れてアイスにしてもいいし、ホットのままでも当然美味しいわよ」
     と、百合香はティーポットをぐっさんの方まで廻してもらった。その間、ユノンも自分のコップに注いでみる。
     「あっ、ブルーベリーの匂い……」
     「どれどれ……美味しい! なにこれ?」
     「カシスブルーベリーよ」と、百合香は言った。「ブルーベリーだけのお茶も売ってるんだけど、私はカシスも一緒入ってる方が好きなの」
     「今度お店教えてよ!」と、ぐっさんは言った。「自分だけいいお茶飲んでて、ずるいよ」
     「じゃあ、今度案内する。他のお茶も飲む?」
     「飲む!」
     食事も進み、みんなは3グループぐらいに分かれて,震災の時にどうしていたか、などを話し出した。
     ナミがマツジュンの家に泊まった下りになって、やはりシマからこう言われた。
     「俺んち来れば良かったのに。俺、一人暮らしだから遠慮いらないよ」
     「遠慮はいらんが……身の危険がある」
     と、ナミは烏龍茶を飲みつつ言った。
     「なんだよ、身の危険って」
     「おまえ、酔っぱらった時の記憶がないのかッ」
     と、ナミが突っ込むと、
     「そうだよ!!」と遅番の男子スタッフ・林が言った。「俺、やられたぞ! 辛うじて口じゃなかったけど(ToT) 」
     「どこにキスされたんだっけ?」と、かよさんが聞くと、
     「ここです、口のすぐ横ッ」
     「もう少しで口じゃん!」
     「そうですよ。言ってやってくださいよ、先輩!」
     「それはァ……駄目よね、シマ君」
     と、かよさんに言われて、
     「ええ〜、いやァ〜………………どうもすいません」
     「って言うか、覚えてるの?」と、ユノンが言うと、
     「いいえ、全然覚えてないです。後で話には聞くんですけど」
     「駄目じゃん!」と、ナミは言って。「そんなんで、俺が泊まりに行けると思う?」
     「ああ……無理ですね」
     「シマってさァ、男が好きなの?」と、ぐっさんが言うと、
     「いや、女の子が好きですけど」
     「じゃあ、どうして酔っぱらうと男にキスするんだよ!」と、林が牙をむき出しにするように言うと、
     「いやァ、全然分からない。リンリン(林のこと)が女の子みたいに可愛く見えたのかも」
     「そりゃ俺、背ちっちゃいけど、そんなことあるか!!」
     「まあ、君を女に見間違うことはないよな」と、翔太が言うと、百合香が言った。
     「つまり、シマ君って潜在意識は私と同類ってことでしょ?」
     その言葉で、翔太、かよさん、ぐっさん、ユノン、カール、ナミは納得したが、その他の〈去年の4月以降にバイトに入ったメンバー〉は、訳が分からないという顔をした。
     「あれ? もしかして、知らないの?」
     と、かよさんが言うと、シマは、「なんの話ですか?」と聞き返した。
     「かよさん、もしかしたら最近はそうゆう話題出てなかったかも」
     と、ぐっさんも言った。「だって、リリィが好きな女の子の話しなくなったから」
     「言われて見ると……」
     「ユリアスはミネさんに一途だった時期があったからね、好きなタイプの女の子が現れても、心が動かなかったんだよね」
     と、ユノンが言うので、
     「そうね、確かに」と、百合香も言った。「でも、全然女の子が気にならなかったわけじゃないのよ。可愛い子がいたら、ときめいたりはしてたんだけど」
     「恋には至らなかったんだね」
     「そうそう」
     「な、なんの話ですか? ええ??」
     と、林が混乱していたので、翔太が答えを出してあげた。
     「こう見えてもな、俺のリリィはバイ・セクシャルなんだよ」
     「「えええええええええ〜〜〜〜〜〜〜〜!?」」
     驚いている二人を見て、カールが百合香に言った。(ちなみに翔太とは反対側の百合香の隣にいる)
     「なんか新鮮ですね、この驚き方」
     なので百合香が言った。「あなたは驚くどころか、“素敵です!”とか答えてたわよね、初めて聞いた時」
     「だって素敵じゃないですか。性別にこだわらずに恋が出来るなんて」
     「そういう風に捉えることができる、あなたもなかなかの大器よね」
     翔太もそうなのか、シマと林に自慢げな表情で言った。
     「どうだ。ミステリアスでカッコイイ女だろ? 俺の彼女は」
     「えっ、ええっと……」と、シマは動揺を隠せず、それでもこう言った。「長峰さんは、それをちゃんと受け入れてるんですか?」
     「もちろんだ。そうじゃなかったら、わざわざよりを戻したりなんかしない」
     「で、ですよねェ〜〜」
     すると「良く言うよ」と、かよさんが苦笑いをした。「あんた、初めてリリィにその話聞いた時、私の所に愚痴りにきたよね。《リリィの凄いカミングアウト聞いちゃいました……》って ^m^ 」
     「あの時は!……まだ未熟だったんです。今はもう、大人の男になりましたから (^o^)/」
     「ホントかね」
     「ホントです! リリィがネットで書いた百合小説も全部読破して、今じゃリリィの総てを理解してます!……そうだよな? リリィ」
     と、最後の方は百合香に恐る恐る聞いたのだが、百合香は満面笑顔で答えた。
     「うん、あなたが一番理解してくれてるよ」
     「ホラ見ろヽ(~o~)/!」
     「はいはい、熱い熱い(^_^;)」と、ぐっさんが締めたところで、シマが手を挙げた。
     「あのォ……ユリ小説ってなんですか?」
     「そうゆうジャンルがあるんだ」と、翔太が答えた。「女同士の恋愛小説だよ。男同士の恋愛小説やコミックを〈BL〉って言うのに対して、〈GL〉って言うこともあるけど、一般的には〈百合〉って呼んでるな」
     「一般的なんですか? それって……なんか、エロい、いや、なんて言うか……」
     と、シマが言葉に困っていると、
     「百合小説は魅惑的なジャンルだよね」と、カールが言った。「僕、百合漫画なら読みますよ」
     「あら(^o^) 私も百合漫画好きよ」と、百合香は言った。「どんなの読んでる?」
     「森島明子先生のを……」
     「〔半熟女子〕の? 私も好きよ。あの先生の描く女の子は、柔らかそうでいいわよねェ」
     「そうなんです。触りたくなるぐらい、柔らかそうなんです(^o^)」
     「あとは?」
     「三国ハヂメ先生とか」
     「〔極上*ドロップス〕ね! そっか、カールは見た目で“柔らかそうな体”を描く作家が好きなんだ」(筆者注 *の部分は本来ハートマークが入る。ネットに乗せると文字が化けるため、代字を用いた)
     「リリィさんは誰が好きなんですか?」
     「私は天野しゅにんた先生と……」
     「大人の女同士も描く人ですね、分かります」
     「あとは、影木栄貴と蔵王大志のコンビが描いてるのが好き」
     百合香とカールがあらぬ世界に行きそうになっていて、ついていけない一同だったが、百合香が出した作家の名前で、あっ、と翔太とユノンが気付いた。
     「あの人、百合漫画も描いてたのか?」
     と、翔太が聞くと、ユノンも言った。
     「総理大臣と女子高生の恋愛漫画なら読んだことあるよ! 私も影木栄貴先生の絵は好きィ〜」
     「でしょォ? 女の子がすごい美人で描かれてるのよねェ」
     と、百合香がまたそっち方面に行ってしまいそうになるので、ぐっさんが制した。「なに? 有名な作家さんなの!?」
     なので代わりに翔太が答えた。
     「DAIGOのお姉さんだよ」
     「DAIGOって、ウィッシュ! の?」
     と、ぐっさんが手を交差させながら聞くと、翔太も同じように手を交差させた。
     「そう、ウィッシュ! の。総理大臣の孫が漫画家だったってことで、テレビでも取り上げられたことがあるよ」
     「私はそのことを知る前から好きだったのよ」と、百合香は言った。「その頃はDAIGOもDAIGOスターダストって名乗ってて、お姉さんの漫画が原作になってるCDドラマに声優として登場したりしてたわ」
     へえ〜っとみんなが感心していると、翔太は言った。
     「でも、リリィの本棚にそれらしき本って並んでないよな」
     「そりゃだって……隠してあるもん」
     「つまり、全部H系か?」
     「うん(*^_^* ;) 間違っても家族には見せられない」
     「へえ……後で見せてね」
     「ええ〜〜」
     「いいじゃん……その後、“もえる”よ」
     「その“もえる”はどっちの字を当てるのかしら?」
     「そりゃもちろん、ファイヤー! の方」
     「あら(*^。^*)」
     「はいはい!」と、ぐっさんが手を叩いた。「二人だけの世界に入るな、この二人は!」
     玄関のチャイムが鳴ったのは、ちょうどそんな時だった。
     「今度は誰かな?……あっ、マネージャーか」
     と、百合香が言うと、ナミが言った。
     「レオちゃんなら、きっと車ですよ」
     「そうね。車の置き場所教えてあげなきゃ」
     百合香はそう言って立ち上がると、父の部屋の窓を開けて、玄関前を見下ろした。案の定、榊田は車で来ていた。
     「ここ、駐車していいですか?」
     榊田が車から顔を出して、百合香に言った。
     「いいですよ! ふだん、父が車を置いてる場所なんで」
     「お父さんは今日は?」
     「しばらく新潟から帰ってきませんから、遠慮なく!」
     百合香はそう言うと、窓を閉めて、階下へ降りて行った。
     すると、百合香が玄関を開く前に、誰かが引き戸を開いた。
     「……ただいま」
     「……おかえり。もう、今日は全然連絡も寄越さないで!」
     百合香は、その人物に抱きついた。
     それを見ていた大原は、ドキッとしてしまっていた。
     「えっ、えっと……私たちが道に迷ってて、この人が通りかかってくれたんで、道を教えてもらったんだけど……」
     そこへ、翔太も降りてきた。
     「恭一郎さん!」
     「え?」と、大原は驚いた。――榊田も嫉妬しそうなっていたが……。
     「申し遅れました」と、百合香を優しく離した彼は、大原と榊田に振り返って、言った。「妹がお世話になっております。宝生百合香の兄、宝生恭一郎です」
     「お兄さんでしたか!?」と、榊田は驚いた。「だったら、一緒に車に乗って下さったら良かったのに!」
     「いや、自転車に乗っていたので……」
     「そんな、これぐらいの自転車だったら、僕の車に乗せられましたよ」
     「いやまあ……お邪魔になるといけませんので」
     「ああ、大丈夫ですよ、恭一郎さん」と、翔太は言った。「この二人、そうゆう関係じゃありませんから」
     「あっ、そうなの?」
     「それより、心配してたんですよ。今日は全然連絡がないから」
     「うん、いろいろと大変だったんだよ。でも、百合香には君が付いていてくれるから、心配ないだろうと思って」
     「恭一郎さん……」
     恭一郎の言葉にじわっと感動していると、百合香が急かした。
     「とにかく中に入って! 寒かったでしょ、お兄ちゃん。ご飯は?」
     「まだだよ。いやぁ、お腹すいた!」
     「おにぎりがいっぱいありますよ。豚汁とか、焼き肉とか……」
     「お兄ちゃんが好きな唐揚げも!」
     「おっ、ご馳走だな」
     みんなは家の中に入って行った………。


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  • from: エリスさん

    2012年08月10日 13時13分55秒

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    「夢のまたユメ・62」
     百合香たちが家に帰ると、ジョージたちが宝生家に着いていた。
     フロアスタッフほぼ全員だと、30人近くもいる。これにこの後マネージャーたちも来るのだから、仏間兼居間に全員は入れるか不安になった百合香は、隣の父の部屋の障子を開けて開放することにした。
     「いいこと! 父の物には一切触らないように!」
     「ハーイ!」
     と、返事をした傍から、狸の置物に手を伸ばす遅番スタッフがいたので、
     「やめんかい!」という、ぐっさんの突込みが入った。
     「でも、この置物すごいねェ」と、かよさんは言った。「本物そっくりに作ってある」
     「あっ、それは本物です」
     「え??」
     「小学校4年生だったかな、まだ。それぐらいの時に、新潟の祖父の家に春休みに遊びに行ったんです、泊まりがけで。そしたら、朝起きたら池に狸が浮いてまして」
     「死んでたの?」とユノンが聞くと、
     「そう。たぶん、山は雪が深くてまだ食べるものが見つからないから、池の鯉でも取ろうとしたんじゃないかと想像してるんだけど……でも、そう簡単に取れなくて、溺れて死んじゃったらしいのね。それを、うちの祖父が知り合いの剥製づくりの職人さんに頼んで剥製にしてもらったの」
     「ええ〜!? 残酷! お墓作って埋めてあげたら良かったのに」
     と、ナミが言ったので、百合香は、
     「当時まだ子供だった私もそう言いました。だけど、周りはかなりの積雪で、2階建ての家が一階まですっぽり雪に埋まってるような状態なのよ。お墓作ろうにも、雪を掘って地面を出すまでが大変だったから、親たちに止められて……」
     「あっ、そうなんですね」
     「それに、無傷の狸が手に入ったんだから、これは剥製にするのが一番いいんだって祖父が主張して……で、出来上がったものが、これ。作ったら作ったで祖父も満足したらしくて、気前よく父にくれたのよ」
     「結構費用かかったんでしょ?」と、かよさんが言うと、
     「たぶんね」
     「大盤振る舞いだね」
     「で?」と、マツジュンが言った。「売ったらいくらになるんです?」
     「知らないよ(^_^;) 売る気ないし。そんなことより、テーブル出すの手伝って!」
     百合香は三階の物置から、普段はまったく使っていない家具調こたつを出すことにした。腕力の無い女性では出せないので、体格のいい男性陣にやってもらうことにする。それでも心配だから傍についていると……誰かが兄の部屋の障子を開けようとしている音が聞こえたので、百合香はダッシュで行って、
     「開〜け〜る〜な〜と〜言〜ったで、しょォ〜〜〜!」
     と、ナミとマツジュンの首根っこを捕えた。
     「覗いたっていいじゃないですか……お兄さんの自慢のコレクション……」
     と、アニメ・特撮オタクのマツジュンが言うと、イケメン俳優が演じている特撮ヒーローが好きなナミは言った。
     「でもなんか、前に見せてもらった時よりごちゃごちゃしてるような」
     「地震のせいで、飾ってあったものが落っこちたのよ。でも私じゃ整頓できないから、兄が帰って来るまでそのままなの! だから、絶対に開けないでちょうだい。中に入っちゃ駄目ェ〜〜!!」
     百合香が凄んで見せたので、二人ともタジタジになって後ずさった。
     「分かりました、もう見ません」
     「ホントにお願いね」と、百合香はため息をついた。「あっ、ご苦労さん。そのこたつ、父の部屋の方に置いて」
     「オッケーです!」
     と、シマが調子よく返事をする……基本的にいい奴だったりするのだが、お酒で失敗するから困ってしまう。
     『まあ、今日はお酒出さないから……』と、百合香が思っていると、一階の台所からユノンが呼びかけてきた。
     「ユリアス〜! 味見してェ〜」
     「ハイハァ〜イ!」
     豚汁とおにぎりの調理を女の子たちに任せていたので、百合香は言われるままに味見に行った。
     「お味噌、薄くない?」
     「そうね……もうちょっと入れた方がいいかなァ……でも、ユノン、お料理うまくなったね」
     「エヘッ、頑張ってるでしょ?」
     「うん、偉い偉い(^O^)」
     「リリィさん、こっちも見てくださいよ」と、後藤が声をかけてくる。「おにぎりもおいしそうでしょ」
     「うん、おいしそう……人によって形も大きさも違ってるところがなんとも……」
     「リリィさんも握りましょ♪」
     「そうね、作ろうかな……」
     と、腕まくりをした時だった。――玄関のチャイムが鳴った。
     「あっ、誰か来た」
     と、百合香が言うと、ユノンが、
     「お兄さんじゃない?」
     「いやァ……お兄ちゃんならチャイム鳴らさないし」
     とりあえず百合香が玄関へ出ると……。
     「あら! 久しぶりね!」
     「しばらくです、リリィさん」
     元ファンタジアのスタッフで、今は保育園で保育士として働いている、カールこと小坂馨だった。
     「ジョージに誘われまして。お邪魔していいですか?」
     「もちろん♪ 上がって上がって」
     そこへ、誰が来たのかな? といった感じで、姫蝶が顔を出した。
     「……みにゃあ」
     「あっ、キィちゃん。初めてのお客様だけど、どうかな?」
     「へぇ……」と、カールは感心そうに言った。「綺麗な猫ちゃんですね。顔も整ってるし、毛並みも綺麗で」
     「ありがと。キィちゃん、褒められたよ」
     「みにゃあ(^O^)」
     「アハハ、褒められたの分かるみたい」
     「はい、可愛いですね」
     と、カールは身を屈めて姫蝶に手を伸ばした。
     『あっ、それだけはヤバい……』と百合香は思ったのだが……。『あれ???』
     姫蝶は嫌がりもせず怒ることもせず、カールに頭を撫でさせた。
     「すごォい、カール!」と、それらの様子を見ていたユノンは言った。「キィちゃんは男の人には絶対触らせないんだよ」
     「へえ、そうなの?」
     「そうなのよォ」と百合香は言った。「でも、さっきもナミがちょっとの間だけキィに女だと思われて、触らせてもらってたから、今もカールのことを女性と勘違いしているのかも。ホラ、カールは美人だから」
     「見た目で判断しているんですか? 猫って」
     「いや……どちらかと言うと、匂い」
     「じゃあ、僕は男の匂いがしないのかもしれませんね」
     と、カールは立ち上がった。「もしかしたら、僕は女なのかも」
     「ありえそうで怖いわね、カールなら」
     「確かめてみますか?」
     「え?」
     百合香が答えに困っている隙に、カールは百合香の右手を取って、自身の胸に触らせた。
     「はい、どっちですか?」
     「えっと……男の人の割には柔らかい、けど……」
     「誰と比べてます?」
     「翔太……」
     「ですよね。ミネさんはスポーツマンだから胸が筋肉質なはずですよ」
     「あっ、そうよね……」
     百合香が尚も困っているので、カールは手を離してあげた。
     「こんな平たい胸の女はいませんよ」
     と、カールが笑顔で言うと、百合香はちょっと安心した。
     「そう……よね。ごめん、びっくりしたの。確かめるっていうから、てっきり、あっちを触らせられるのかと……」
     「リリィさんにそんなことさせませんよ。苦手なの知ってるのに」
     と、カールは満面の笑顔で言った。
     「あっ、そうだっけ」
     個人的に自分が男性嫌悪症だってことは話していなかったはずだが、噂で聞いていたのだろうか。
     ジョージが階段の上から声をかけて来たのは、そんな時だった。
     「カール、来てるの? こっち上がってて来いよ!」
     「うん、今いくよ!……ついでに、何か上に運ぶものあります?」
     と、途中から百合香に言うと、
     「あっ、そうね。おにぎり持って行ってくれる?」
     「はい、よろこんで」
     なので後藤がおにぎりの並んだ大皿を持ってきて、カールに手渡した。
     「それじゃ、また後で」
     「うん、楽しんでいってね」
     カールは階段を上がって行き、「みんな、忘年会ぶりィ〜!」と言いながら居間へ入って行った。



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  • from: エリスさん

    2012年08月03日 15時44分58秒

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    「夢のまたユメ・61」
     「3階は物凄い被害が出たんだよ」
     と、ユノンはポテトチップスを食べながら言った。
     なので、百合香も同じ袋からポテトチップスを手に取って、パリッと一口食べてから言った。
     「3階だけなの? 他の階は?」
     「商品とかは倒れたりしたけど、水浸しになったわけじゃないから、陳列直せば普通に営業できると思うよ」
     「水浸し?」
     そこへ、三つの紙コップに烏龍茶を入れて戻ってきたナミが言った。「スプリンクラーが誤作動を起こしたんですよ」
     昨日の震災で、SARIOの三階のとある飲食店が、すぐに火を止めなかったために、フライパンに引火して、火が天井に届いてしまい、スプリンクラーが作動した。すると、同じ三階にあるすべての店舗のスプリンクラーが誤作動を起こし、三階は水浸しになり、スプリンクラーが設置されていないファンタジアのロビーやシアターに通じる廊下にまで水が流れ込んできてしまったのである。
     「お客さんを避難させている間はまだ大丈夫だったんですけど、避難させて戻ってきたら、もうロビーと廊下のカーペットがビチャビチャで、従業員エリアに置いてあった作成中の巨大模型も、水吸っちゃって使い物にならなくなっちゃうし……」
     「それってもしかして……」と、百合香がフロアの作業スケジュールを思い出しながら言うと、
     「プ○○○アです」
     「やっぱり(-_-;) フードコートに陳列するやつよね? 子供たちが喜びそうだったのに……」
     「ハイ(T_T) 残念です」
     「でもね、何個かは無事だったんだよ」と、ユノンは言って、烏龍茶を飲んだ。「一応それで、プ○○○ア全員はそろうし」
     「ああ、それは幸いにも……」
     「でも、あの水浸し……特にカーペットが乾いて戻って来るまでは営業できないってことになって。他にも、建物とかに破損が出てないか調べなきゃいけないから、しばらくは休業ってことになるって」
     そこへ、姫蝶を抱っこしながら、かよさんが割り込んできた。
     「リリィのところには、まだ電話連絡きてないの? 私たち、昼前までにはみんなマネージャーから電話もらって、しばらく休みだって連絡受けてるよ」
     「来てないですね、私の所には……キィちゃん、おとなしく抱っこさせてますね」
     百合香が姫蝶の鼻先を撫でながら言うと、
     「もう、すっかりと私とぐっさんのことは慣れたみたいよ。マツジュンのことは相変わらず威嚇するけど」
     かよさんが言うと、翔太とサンドウィッチを食べていたマツジュンが言った。
     「そうなんです、俺、まだ嫌われてるんです」
     なので翔太は言った。「気にするな、俺もだ」
     「そうなんですか?」
     「姫蝶は養い親のリリィに激似で男嫌いなんだ。だから仕方ない」
     「そうなんですね! 俺だけじゃないんですね」
     「ええ〜、でもォ〜」と、ナミはかよさんの手から離れた姫蝶の頭を撫でながら、言った。「俺、平気ですよ?」
     「な、なに!?」と、翔太とマツジュンはその光景に驚いた。
     確かに一見平気そうに見えたが、姫蝶は鼻面を上げて、自分の頭を撫でている相手の手を良ォく匂いを嗅いだ。その結果、
     「シャアッ!」
     と、威嚇の声を出した。
     「あっ、あれ(゜o゜)???」
     「ああ、分かった」と百合香は言った。「ナミ、あなた可愛いから、女の子に見えたのよ」
     「ええ〜、そんなァ〜〜!」
     それを知り、翔太とマツジュンはこそこそと言い合った。
     「男として見てもらえないよりは、まだ姫蝶に嫌われる方が……」
     「ですよね」
     電話が鳴ったのは、ちょうどそんな時だった。
     「あっ、俺が出るよ」
     ちなみにここは、二階の仏間兼リビングである。翔太がいたところが一番電話に近かったのと、ちょうど百合香の膝の上に姫蝶が乗ろうとしていたので、翔太が代わりに電話の子機を取ったのだった。
     「はい、宝生です。……はい……その声は野中さんですね? お久しぶりです、長峰です。はい、無事です。今、リリィの家に遊びに来てまして……はい、代わります」
     翔太は電話の子機をを百合香に渡した。「野中さんからだ」
     「ありがとう。……もしもし、宝生です」
     「野中です! 良かった、ようやく連絡が取れた」
     「え? ようやくって……」
     「宝生さんの携帯、何度かけても“電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため……”ってガイダンスが流れるんだよ」
     「あっ、そうだったですね……」
     どうやら、もう普通に使えると思っていたら、まだしょっちゅう圏外に入ってしまっていたらしい。それで野中も仕方なく、自宅の方の電話に掛けたのだった。
     野中からの電話は、しばらくSARIOが安全確認に入るため、ファンタジアが休業になるという内容だった。
     「いつから再開できるか目途は立っていないので、しばらくは自宅待機で、それでもいつでも出勤できる体勢でいてください」
     「分かりました」
     「あと、こうゆう非常事態になって、電話では連絡が取りづらくなってしまう場合も……実際、宝生さんがそうでしたからね」
     「まったくもってスミマセン(-_-;)」
     「いや、電波が届きづらい場所があるってことは、良く聞きますから、それは仕方ないです。それでも、メールなら時差はあっても届くはずなので――iモードセンターが一時預かったりとかして」
     「そうですね、確かに」
     「なので、今まで従業員のメールアドレスまでは登録していなかったんですが、今日から登録することになりました。今から言うメールアドレスに、件名に自分の名前を入れて、空メールを後ほど送ってください」
     「分かりました。――翔太、そこのメモ帳とペンを取って」
     相変わらず姫蝶が膝の上に乗っているので、代わりに翔太に動いてもらった。
     百合香は野中が言うメールアドレスをメモした。
     「あっと、ふぁんたじあ……はい、大丈夫です。では、後ほどメール送ります」
     「はい、よろしくお願いします」
     百合香は電話を切ると、翔太に子機を渡しながら、言った。
     「しばらくお休みになっちゃった……」
     「仕方ないよ。こんな時なんだから」
     「ねえねえ、それより〜」と、ユノンが言った。「今晩はなに作ってくれるの?」
     「はい? (・o・? なに、宴会やりに来たの?」
     「ん〜っていうか、疎開?」
     「かなり違うよ、それ」と、ぐっさんが言った。「つまり、どこの飲食店も開いてないから、一人暮らしの何人かはまともな食事ができなくなっちゃったのよ。ナミのところなんか断水してるんだって」
     「断水!? それは難儀ね……」
     「いやァ、そうなんですよォ……」
     とナミが言うと、マツジュンが、
     「いや、でもこいつ酷いんですよ。昨夜は俺の家に泊まったんですけど……」
     「あっ、泊まったんだ」と百合香が言うと、
     「電車が動かなかったんで」と、ナミが答える。「でも、朝には帰ったんですよ」
     「帰ったけど」と、マツジュンは言った。「2時間もしないうちに戻ってきて、風呂貸してくれ、とか言うんですよ。俺、親や妹と同居してるんですよ。せめて一人暮らしの同僚のところに行けよ!」
     「一人暮らしの同僚で男子って言ったら、あいつしか思い当たらなかったんだもん……」
     「……ああ、彼ね」
     フロアスタッフで、ナミ以外の一人暮らしの男子と言うと――お酒に酔うと男子に対してキス魔になる、シマこと嶋根くんしかいなかった。主に遅番のスタッフなので、百合香と勤務時間が被ることは、1,2時間程度だから、宝生家にも遊びに来たことはない。
     「でも、お酒が入らなかったら大丈夫なんでしょ? 彼は」
     と、かよさんも言うのだが、
     「そう言われてるだけで、しらふでも襲ってきたらどうするんです!」
     「ただでさえ、ナミは女の子みたいに可愛いものね」と百合香は笑って、「ああ、だからか」
     「何がです?」
     「姫蝶が初め、ナミを嫌がらなかった理由よ。マツジュンのところでお風呂借りた時、妹さんのシャンプーを使ったんじゃない?」
     「あっ、使いました。でも、妹さんがくれたんですよ」
     「俺のがちょうど切れてて」と、マツジュンが言った。「そのこと俺が言ったら、妹が試供品でもらったシャンプーとリンスのセットを持ってきたんです……ハニカミながら」
     「あらら(^_^;) ナミ、気に入られちゃったみたいね」
     「そうみたいですね」と、マツジュンは不機嫌そうに言った。「うちの妹、女子高から女子短大に行ったんで、男をあんまり知らないんですよ」
     「お兄ちゃんとしては、大いに心配するところだね」と、ユノンは言った。「でも、ナミは彼女いるから、妹さんに手を出したりしないから大丈夫だよ」
     「そうそう」と、ナミはマツジュンの肩を叩きに行った。「だから、今晩も泊めてね」
     「いい加減に断水は直ってるだろう! 今晩は帰れ!」
     そんなこんなで、今晩は宝生家で宴会を開くことになった。今この場にいないジョージや、遅番のスタッフにも声を掛け、シマも来ることになったので、
     「近隣住民に迷惑がかからないよう、お酒は出しません!」
     という、百合香からの御沙汰がくだった。
     「それじゃ、材料の買い出しに行ってこようか」
     百合香はそう言って、姫蝶を抱き上げた。「キィちゃん、翔太と一緒にお留守番できる?」
     「え? 俺、留守番なの」
     「この大人数で行くわけにもいかないでしょ? 誰かに残っててもらうとしたら、姫蝶の顔見知りの方がいいじゃない。余震もあるし」
     「そうだけど……俺だって懐かれてるわけじゃないから」
     「だったら、私が残るよ」と、かよさんが言った。「買い物には、リリィと、ぐっさん、ユノン、あとナミとで行っといで」
     「じゃあ、そうします。念のため、姫蝶は猫部屋にいてもらうんで」
     かよさんに選抜された四人で買い物に行くことになった一行は、SARIOの食品売り場まで行くことにした。
     百合香は母が使っていたショッピングカーを持っていこうとしたが、
     「何かあった時、リリィさんだけ先に帰れた方がいいから、自転車持っていって下さい」
     と、ナミに言われて、そうすることにした。
     SARIOまでは、歩くと25分かかる。途中、百合香が知っているスーパーや八百屋に寄ったのだが、どこもお休みだったので、結局SARIOまで来るしかなかった。
     正面入り口まえの駐輪場はガラ空きだった。
     「本当にやってるのかしら?」
     と、百合香が怪しむと、ユノンがすぐにご案内の張り紙を見つけた。
     「食品売り場側の売り口しか開いてないんだよ。だから、こっちの駐輪場が空いてるんだ」
     「そして、こんなご案内も」
     ナミが見つけたその張り紙には、こう書いてあった。
     〈シネマ・ファンタジアに御用の方は、食品売り場側の入口へお回りください〉
     その張り紙には、現在地から食品売り場側の入口への簡単な地図も書いてあった。
     「これって、間違いなく“先売券の対応”だよね」
     と、ぐっさんが言う。
     「それしかないよね」と、百合香も言った。
     どこの映画館もそうだろうが、映画の指定席券は前日でも購入可能だった。とくに土曜日・日曜日はチケット売り場が込み合うので、前日の金曜日のうちに指定席券を買いに来るお客が多い。とくに今日――3月12日は、前作がかなりの動員数を集めた「SP 革命編」と、ディズニー映画の「塔の上のラプンツェル」の初日だった。
     それが、震災のためとは言え、映画館側の都合で見られなくなってしまったのである。当然、払い戻しをしなければならない。
     4人は食品売り場側の入口へ行ってみた。すると、長テーブルにノートパソコンと簡易金庫を置いたファンタジアのマネージャー・大原美雪がいた。
     「あっ! みゆきちゃんだ!」
     と、ユノンが言うと、ぐっさんも大原に手を振りながら言った。
     「みゆきちゃーん!」
     「コラコラ、二人とも(^_^;)」と、百合香はたしなめた……本人がいないところで、大原マネージャーを下の名前で呼んでいることは知っていたが……。
     しかし、そんなことは意に介さず、大原も嬉しそうに両手を振った。
     「みんな! 無事だったのね!」
     大原も昨日はお休みだったので、ユノンとぐっさん、ナミが出勤していたことは知らなかった。
     「みゆきちゃん、入口の外の、こんな寒いところで対応させられてるの?」
     と、ユノンが言うと、
     「そうなの。目立つところでやらないと、お客さんが気付いてくれないから。それに……入ると分かるけど、自動ドアが開いたところから、もう商品が並んでて」
     「ここぞとばかり、いっぱい品物を出してるんですね。みゆきちゃん、災難……」
     と、ナミまで言うので、
     「もう、あんた達は! マネージャーを友達みたいに呼ぶんじゃないの!」
     「ええ〜、いいじゃん。可愛いし」
     と、ぐっさんが言うので、大原も微笑んだ。
     「いいのよ、今は。他のマネージャーもいないし。それより、みんなで買い物?」
     「そうなんです。今晩、うちにフロアの子たちが集まることになりまして……」
     百合香は「お酒なしの宴会」をやることを説明すると、
     「いいなァ……宝生さんってお料理上手だって評判だし、私も行きたい……」
     と、大原は本当に羨ましそうに言った。
     「もしかして、みゆきちゃんもまともなご飯が食べられなくなったの?」
     と、ユノンが言うと、
     「そうなの。なじみのコンビニがお休みで……」
     それでもコンビニなんだ(^_^;)と思った百合香は、
     「良かったら、大原さんもどうです?」
     「え!? いいの?」
     と大原が喜ぶと、ぐっさんも言った。
     「そうだよ、来ちゃいなよ! 遠慮はいらないよ」
     「行く! 絶対行く!」
     すると、「僕もいいですか?」と、横から誰かが割り込んできた。
     レオちゃんこと榊田玲御だった。
     「あら、レオちゃん」と大原は言った。「あっ、交代の時間ね」
     「はい、交代の時間です。で、僕も行っていいですか? 馴染みの飲み屋がお休みなんです」
     「いいですけど……」と、百合香は言いつつ、この人が来ると翔太が誤解しないかなァ? と心配した。
     「飲み屋さんみたいに、お酒は一切出しませんよ」
     「お酒はいいです。ご飯がおいしければ」
     「でしたら、どうぞ」
     『まっ、他の子たちもいるし、大丈夫だろう』と、百合香は割り切ることにした。

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