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恋愛小説発表会〜時にはノンジャンルで〜

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  • from: エリスさん

    2008年08月29日 14時20分53秒

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    「箱庭・20」


     執筆の仕事をしだして二時間ぐらいたった頃。すっかりライターのことなど忘れていた私に、その電話の相手は私を驚かせるに十分な人だった。
     「崇原さん!?」
     「そんなにびっくりした? 何か立て込んでたの?」
     「あっ、いいえ、そうじゃなくて……男の人から電話があるなんて、意外なことだったから」
     「今までどうゆう生活してたの? 君」
     え? それって変なの? だって普通、女性に男性から電話が掛かってきたり、訪ねてきたりすることって、親とか兄弟とか、恋人とかじゃなければ、ありえないことよね?
     まさか、これも母の過剰な教育の一つだったの!? だったら、これは第一歩。母の教育から逃げようとする、私の。
     「それより、どうかなさったんですか。こんな遅くに」
     「え? 遅いって、まだ八時……ああ、君の家ではそうなるんだろうね。ごめん、今度から気をつける」
     「あ!? いいえ、いいえ! いいんです。構わないでください。あの、それで?」
     「うん……ライターをね、忘れて行ったらしくて」
     「ああ! あれ、崇原さんのだったんですか?」
     「やっぱり君のところか。君の家で煙草は吸わないようにしていたから、忘れるはずはないんだけどって思ってはみたんだけど」
     「庭に落ちてました。たぶん園芸棚を作る時に落とされたんですよ。飛蝶が見つけてくれたんですよ」
     「へェ、賢い猫だね。お礼言わなきゃ。親父に上京する時にもらった記念のやつなんだ。明日は日曜だし、取りに行っていいかな?」
     「明日?」
     考えてもみなかった。次の機会が「明日」になるなんて。
     「まずいかな。男が一人で女性の家に訪ねて行くなんて」
     崇原もだいぶ気にしてくれているらしく、そう言った。――やっと「お嬢様」として見られなくなったのに、自分の無知が墓穴を掘るなんて……。
     それに、自分の望みを叶えるためには、もう貞節だのなんのとは言っていられない。
     「あの……いらしてください。私も……お願いしたいことがあるので」
     「何? 力仕事?」
     「いいえ、そういうのじゃなくて……お一人で、いらしてくださいませんか。あなたにしかお頼みできないことなんです」
     崇原はしばらく考えているらしくて、黙っていた。けれど、快い声で言った。
     「いいよ。それじゃ、明日のお昼ごろに行くよ」
     電話が切れた後、私はその場に膝をついてしまった。
     とうとう、言った。
     もう、後戻りはできない――する気もない。
     母の教えに背く――でも、ある意味では母の教えどおりに生きることにもなる。
     すべては、明日にかかっていた。


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  • from: エリスさん

    2008年08月29日 13時58分22秒

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    「箱庭・19」
     しばらくすると、お隣の家から飛蝶(ひちょう)が帰ってきて、女性陣は彼は遊び相手になってくれた。私はその間に昼食の支度をすることにした。殊に男性陣はお腹を空かせることだろう。腕をふるわなければ申し訳ない。
     台所で一人になると、少しだけ気持ちに余裕ができた。
     今日の招待は、ある決心をしてのことだ。その決心を、あの人に打ち明ける機会が、果たしてあるだろうか。皆をいっぺんに呼んだのは間違いだったろうか。けれど、彼だけを招待してはかえって怪しまれそうで。
     第一、私にそのことを切り出せる勇気があるかしら?
     この時、なぜか私は再従姉妹(はとこ)が以前言ってくれた言葉を思い出した。
     「時には自分の我が儘を貫くことも必要なことだと思うわ。沙耶さんはあまりに自分を抑えすぎる。それは長所でもあるけれど、大概はそれで他人に嫌悪感を抱かせてしまうことになる。言い換えれば、あなたはひどく臆病だってことになるの」
     『……そうね、アヤさん。今は、臆病になってはいけないのよね』
     けれど、昼食を終えても、やっぱり機会はやって来ず、とうとう夕暮れになってしまった。
     皆が帰る時間だ。
     「また、いつでも来てくださいね」
     私と飛蝶が玄関で見送ると、皆は口々に挨拶をしながら帰って行った。
     最後に崇原が振り向いた。
     「紅藤(くどう)さん……一人で、大丈夫か?」
     「……ええ、心配しないで」
     馬鹿! もっと他に言いたいことがあるでしょう! どうして言えないのよ、私ったら。
     それでも、私がそう言ったことで、彼は安心したようにニコッと笑いかけてくれた。
     ――私と飛蝶だけになった家の中は、確かにちょっと寂しい……。
     『いいわ、焦ることもないし』
     私はたすきを掛けて袖をまくり、居間の食器などを片付け始めた。
     飛蝶は私に構ってもらえないと知ると、一人で庭へ降りて行った。そこで何か見つけたのだろう。じゃれて遊びだしたが、私は猫のすることだからと、気にも止めなかった。
     片付け終わってもまだ飛蝶が遊んでいたので、私は縁側で身をかがめて声をかけた。
     「飛蝶、何で遊んでいるの」
     私に声をかけてもらったのが嬉しいのか、思いっきり元気な声で彼は返事をした。
     飛蝶の足元を見ると、暗くてよく分からないが、何か小さいものが見える。
     「ねえ、それ、くわえて持ってきて」
     私に言われるとおりに、飛蝶はそれをくわえて持ってきてくれた。それは、ライターだった。
     「ヤダッ。飛蝶ったらこんな危ないもので遊んでいたの? 火がついたら火傷じゃ済まないのよ! あなた、全身毛皮なんだから」
     これからは気をつけて見ているようにしないと……そんなことより、このライター、どこかで見たことあるわ。使い捨てなんかじゃない、ちゃんとガスを詰め替えることができる、割と高価そうなものだ。
     園芸棚を作ってくれた誰かが落としたことは間違いない。今日来てくれた男子はどの人も会社の男子寮の人だから……。
     『女の私が電話できるところではないわ』
     受付嬢の範子か、大御所の志津恵が家に帰り着いた頃を見計らって、電話することにしよう。彼女たちなら社内で男の人に声をかけても、誰も変に思わないだろうから。
     とりあえず、そのライターは台所のテーブルに置いておくことにした。


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  • from: エリスさん

    2008年08月29日 10時51分00秒

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    明日から公開ですね

     「20世紀少年 第1章 降臨」が。

     この作品の予告編を見るまで、こんなマンガがあったことすら知らなかった私ですが、見た途端、

     「《ともだち》ってこのことだったんだ!」

     と、衝撃を受けました。
     なんてマニアックな作品を引っ張り出したんだ、「@DEEP」のスタッフは!

     このサークルでも何度も語ってますが、私は風間俊介のファンです。
     その彼が主演を務めたドラマ版(間違っても映画版ではございません!)の「アキハバラ@DEEP」の中に、この《ともだち》が出てくるんです。

     それはSEARCH.8「メイド大戦争」と、SEARCH.9「ボックスの過去」の中で。バナナマンの日村さん演じるダルマが、あの《ともだち》のマスクを付けて登場する。普段はアニメオタクじゃなくても分かるメーテルやのび太やゴルゴ13のコスプレをするダルマが、仲間たちですら「なんだ? それ」と突っ込みを入れるようなコスプレをして出てきたので、視聴者も戸惑ったんじゃなかろうか。

     「なんでそんな格好してんの?」
     「いや、詳しくは言えませんよ」
     「ああ、《ともだち》か....」

     確かこんなような会話を生田斗真演じるボックスとしていたんだけど(あとでまたDVDを見直しておこう.....)、その時は、

     「俺とおまえは友達だから、深くは聞かないでおくよ」

     というつもりでボックスが言ったものと勘違いしてしまった。
     あの格好が《ともだち》というキャラだったとは。

     なんでも、この8話と9話の収録をしていた最中のバナナマン日村は、すごく忙しかったために「@DEEP」の収録現場に行けず、仕方なく「顔を隠した代役」を立てた、らしい――視聴者の間で広がった噂ですが。その「顔を隠した代役」として演出家だか脚本家だかが思いついたのが、その《ともだち》というキャラだったのだろう。
     他にメジャーどころで「顔を隠すキャラ」は見つけられなかったんだろうか? ロビンマスクとか――それをやるぐらいならキン肉マンをやれって投書が来ちゃうか。だったら仮面ライダー、ウルトラマン......不自然か?


     とりあえず、「アキハバラ@DEEP」を再び楽しく見るために、近日中に「20世紀少年 第1章 降臨」も見ようと思っている、ひねくれ者です。


     「デトロイト・メタル・シティ」も見たいんだけど、なかなかチャンスがないなァ。

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  • from: エリスさん

    2008年08月22日 14時54分23秒

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    最後に会ったあの日。

     主人公の紅藤沙耶(くどう さや)にはこの時、まだ人に言えない決意がありました。来週の更新で書けるとは思いますが……なんだと思います?
     私も沙耶の決意と同じことを、もう大分以前から考えてはいるんですけど、なかなか実行できないですね。
     なんでか――協力してくれそうな人はいるんですけど、このあと沙耶もそうなるんですが、なかなか言い出せないんですよ。

     だから昨日の「西洋骨董洋菓子店(アンティーク)」に出てきた桜子は、本当に度胸があるなァ、と感心します――あはは、これでバレたかな?



     さて、「最後に会ったあの日」――詳しくは説明できませんが、察してください。その日、アナウンスの仕事の合間に一息ついていた私に、阿部サダオ似の後輩がこう言ったんですよ。
     「最後に再チャレンジしないんですか?」
     またアイツに愛の告白をしろってことなんだけど、
     「するわけないでしょ。どんなに頑張ったって、あの人が私のものになるわけがないんだから」
     「そんなの分かんないじゃないですか。これだけ“いじめ”てんですから」
     かなりのSであるアイツは、その日、あまり喉の調子が良くない私を朝の9時半から17時まで「アナウンス担当」に据えていたのだ。普通なら、14時あたりで中番と交代させるのに。
     それ以外にも今まで、普通だったら一人でやらせない過酷な仕事を、私ひとりにするということを平然とやってきたアイツだったのだが、それを阿部サダオ君は、
     「Sな桜さんが、ちょっとMなエリスさんをいじめて楽しんでいる」
     と解釈していたらしい。
     まあ、そういう要素も多少あったんだろうが。
     でもそういうのって、普通は「ご主人さまと恋奴隷」の関係になってからやらない?


     「いや、アイツのは単なる意地悪だから」

     それでも、接していられただけ良かったのかもしれないけど。

     「いいのよ、来世でまた会えるだろうし」
     「来世って、そんな先まで待っちゃダメです」
     「いいの。待つのよ、私は!」
     「やっぱMですよ、エリスさん……」

     悪かったね (^_^;)

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  • from: エリスさん

    2008年08月22日 14時35分21秒

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    「箱庭・18」
     「男手がいるって言うから連れてきたけど、こんなんで足りる?」
     志津恵が言うので、十分ですよ、と私は答えた。
     「まさか、こんなに来てくれるとは思ってませんでした」
     「で? 何やらせるの?」
     すると、新人の男の子が言った。
     「せ、先輩! 着いた早々、働かせるつもりですか!」
     「そうよ。そのために連れて来たんだから」
     「そりゃないですよ、こんな暑いのにィ。紅藤先輩、麦茶かなにかください!」
     すでに用意して運んで行こうとしていた時だったから、私は快く返事をした――実際、駅から歩いて来たらしい彼らを、すぐに働かせるのは可哀相だ。
     それなのに、
     「だらけるんじゃありません!」
     志津恵の一喝にびっくりして、危うくお盆ごとお茶を落とすところだった。
     「紅藤さんは独立したばかりで忙しいのに、わざわざ招待してくれたのよ。男ならそれに報いるぐらい当然でしょう?」
     志津恵が仁王立ちで後輩たちに諭しているあいだ、崇原は台所にいる私の所に来て、どうしていいか困っている私の手からお盆を取って、テーブルに置いた。
     「俺一人でも出来る仕事?」
     「あっ、ハイ……お隣からね、木材もらったんです。床の修理した時に余ったとかで。それで、園芸棚を作ってもらおうと思ってたんですけど」
     「よく花屋で売ってる三段になったやつ? いいよ、日曜大工の道具、ある?」
     「庭の物置に」
     私が崇原を案内しながら庭に出ている間も、まだお説教は続いていた。
     「あんた達、私の顔を潰したら、あの会社でどうゆう目に合うか分かってるんでしょうねェ」
     それを聞いて、崇原が吹き出した。
     「志津恵さん、こいつらそんなに馬鹿じゃないですよ。加藤、鈴木、俺の手伝いしてくれるだろ?」
     「ハイ!! 喜んで!!」
     後輩達は慌てながら、崇原の手伝いを始めた。――崇原の方が若く見えるが、全員彼より年下だから、見ていておかしい。
     「さっ、それじゃ私たちはお茶でもいただきましょう。紅藤さん、いま持ってこようとしたのはあれ? いいわ、私が持ってくる」
     志津恵が台所へ行っている間、私は縁側から中へ入った。すると、範子が小声で皆に言った。
     「志津恵さんの姪って、志津恵さんにそっくりなんだってね」
     「ああ、一緒に暮らしているお兄さん夫婦の一人娘。確か、育恵ちゃんだっけ?」
     と、君子が言うと、江津子がとどめを刺した。
     「きっと性格もそっくりに育つよ」
     「なにが育つって?」
     見ると、ニッコリと微笑みながら志津恵が立っていた。
     なので、私がごまかした。
     「紫陽花の木ですよ。まだ植えたばかりで小さいけど、きっとそのうち育つって……」
     「ああ、そうだね。あと二年もすれば立派になるんじゃない?」
     志津恵が納得したので、同期の三人は安堵したようだった(だったら言わなければいいのに……)

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  • from: エリスさん

    2008年08月22日 13時53分38秒

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    「箱庭・17」
     引越しの方もひと段落つき、私はさっそく母が馴染みにしていた植木屋へ連絡を入れた。この庭の植物をもっと増やすつもりだったからだ。
     まず縁側から見て、池の右端に白と紫、左端にピンクと青の紫陽花を植えた。池の中には既に、橋を境にして右に菖蒲、左に白い睡蓮(すいれん)が咲いているから、梅雨の季節である今は実に見応えがある(紫陽花がもっと成長すればの話だけど)。門から玄関までの間に敷き詰めた石畳の横には、小石で枠を作って、ナスやキュウリなどの家庭菜園を作ることにした。
     秋頃には椿を届けてくれるように注文もしてある。
     少しずつではあるけれど、私の庭が出来上がってくる。
     『そろそろ、いいかな』
     菖蒲の花が咲いているうちに、私は友人たちを招待することにした。
     折悪(おりあ)しく、学生時代の友人たちは催し物があるとかで、会社の友人達だけが遊びに来てくれた。
     菖蒲の柄の浴衣姿で出迎えると、
     「紅藤ちゃんの雰囲気だねェ」
     「そっちの方がペンダントとも合うし、似合う似合う」
     「前から和服の方がいいって思ってたんだ」
     と、同期の三人とも褒めてくれた。殊に範子は、私自身が縫った物だと知ると、
     「今度、私のも作って」
     と、私の手を取って懇願したのである。
     「いいわよ、お安い御用。さっ、上がって」
     家の中を案内すると、皆、口々に「質素なところがいいね」と言ってくれた。皆、私がどうゆう家の娘か知っていたから、ちょっとは豪華な家を想像していたのだろうか。祖母が四年前にこの家を建てた折も、親戚が同じようなことを言っていたと聞く。それが嫌で、祖母は業者の人に「なるべく質素にデザインしてほしい」と頼んだそうだ。そのおかげか、皆もこの家を気に入ってくれた。
     ただ一つ不満な点と言えば……。
     バスルームへ案内すると、皆、鳩のような点の目になった。
     「……ねえ、どうして……」
     と川辺範子が言うと、松原江津子も言った。
     「お風呂だけ最新式なの?」
     なので、私は答えた。
     「祖母の趣味だったのよ」
     「だからって……スイッチ一つでお風呂が沸く上に、ジャグジーまで付いてるっていうのは、ちょっと……。お婆さんの感覚じゃないよ、これ」
     東海林君子が指摘する通りなのかもしれないが、本当のことなのだから仕方ない。なにせ、祖母はちょっと歩くだけで秘湯にぶつかるような山奥の寺で生まれ育った人だし、東京に奉公に出て、祖父に気に入られて、力づくで結婚させられてからというもの、家の中に閉じ込められた生活では、これぐらいしか楽しみがないのだ。実際、祖父の家ではもっと豪華なお風呂に入っていたぐらいで、私の実家と比べても、やはり質素な方なのである。
     私がその話をすると、三人とも腕組みをしながら考え込んだ。
     「お金持ちの人も、それなりに苦労するんだァ」
     「まあ、紅藤ちゃんは体弱いし……」
     「そだね。これぐらいは、とりあえず、今より虚弱にならないためにも……」
     三人の言葉に安堵した私は、
     「ね? わかってくれるでしょ?」
     と媚び(?)を売った。
     けれど、やっぱり東海林君子は容赦してくれなかった。
     「でも、あの屋根の上の、太陽熱でお風呂沸かす機械は、あんたでしょ?」
     「……ご名答」
     「やっぱりどこかお嬢様なのよね」
     と、君子は言ってからニコッと笑ってくれた「ま、人のこと言えないけど」
     ああ……そうよね。私と同じ専門学校だったってことは、聞いたことはないけど、それなりの名士のお嬢さんってことなのよね、君子も。
     私たちは居間へと行き、庭を見ながら寛ぐことにした。
     彼女たちが近況報告をしてくれる。川辺範子はとうとう意中の人に告白したそうだ。
     「へェ、良かったね。うまくいくように祈ってるわ、川辺ちゃん」
     「エッヘヘ。ありがとう……そうそう、それからね、東海林ちゃんにも」
     「それはいいって」と、君子はすぐさま言った。「まだ、わかんないんだから」
     「え? なに?」
     話が飲み込めない私に、また江津子が補足してくれた。
     「東海林ちゃんもついに、シングル卒業したのよ。お見合いしたんだって」
     「お見合い!?」
     「だから、しただけだって。まだ付き合うって決めてないわ」
     と、君子はいつになく照れながら言った。この表情からして、相手はとてもいい人だということが分かる。
     「これでとうとうシングルは私と紅藤ちゃんだけになっちゃったのよ。紅藤ちゃん、お願いだから、置いてきぼりはやめてね」
     と、江津子は私の手を握り締めながら言ったが、
     「そんなことを言っても……」
     こればかりは何があるか分らないし……私の中で、ある決意もあることだし。
     そんなうちに、塀の向こうを数人の男女が歩いてくるのが見えた――阿倍志津恵と、会社の若い男子たちだった――崇原もいる。

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  • from: エリスさん

    2008年08月22日 12時57分15秒

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    「箱庭・16」
     「……ありがとう、お母さん」
     私は、涙を堪えていた。母が泣いている子供を見るのを煩(わずら)わしく思う人だから、必死に堪えていたが……やっぱり出てきてしまう。母が私に背を向けて座っていることが唯一の救いだった。
     「なにを礼なんか言っているんだい、気色悪い。さあ、さっさと出ておいき。おまえが居なくなってくれてせいせいするよ」
     「はい……今日まで、ありがとうございました」
     母の部屋を出て、自分の部屋に戻ってショルダーバックを手にすると、私は玄関から外へ出た。
     表には、兄の車が停まっていた。
     「乗りなよ、送るから」
     「いいのに、お兄ちゃん。せっかくのお休みなんだから……」
     「いいんだよ。僕も松戸の方に行く用事があるんだ」
     兄は私を助手席に押し込めるようにして乗せ、自分は運転席へと回って車を走らせた。
     しばらく走ってから、兄はボソリと言った。
     「姉ちゃんの時は、膝かけだったよな」
     「……うん」
     姉が家を出る時も、母は冷え症の姉に膝掛けを贈ったのだ。もちろん、非情な言葉も添えて。
     「それ、シャアのために作ってたんだ……なんか意外だけど、うなずけるよ。母さんは、いつもそうだ。僕達のことを愛そうとしないくせに、変な時に慈悲を見せる。最初から最後まで冷酷でいてくれれば、変な期待もしないのに、そんなだから……諦めきれないよな」
     「私は……それでも嬉しいの」
     私がそう言うと、兄はチラッと私の方を見た。
     「それでもいいの。ほんの一瞬でも、愛されてるんじゃないかって思えれば、毎日の冷たい仕打ちなんて、帳消しになるわ」
     「……そんなに好き? 母さんのこと。親父も言ってただろ? おまえのこと、流産しようとしてた人だよ。姉ちゃんもそれ見てたって……」
     氷をいっぱい入れた水風呂に入ってみたり、重たい荷物を抱えたり、階段からわざと落ちようとしたり――そのたびに、紅藤の祖母や家政婦たち(その当時は祖父の家にいた)に止められて、私は生き延びた。
     私は望まれない子供。それでも、
     「お母さんは“お母さん”ですもの」
     すると、兄は苦笑いをした。
     「おまえのように、達観できればな」
     姉はよく、私のことを紅藤家の犠牲者だと言う。でも、一番犠牲になっているのは兄の方だわ。姉以上の画力と、私など足元にも及ばないほどの文章力を持ち、子供のころは「いつか手塚治虫のようになってやるんだ」と言っていたのに、銀行員になることしか許されなかった人。そしていつか、父のように気に染まぬ妻を向かえなくはならない。
     私は、そんな家から逃げ出した。
     いつかその報いは来るだろう。それでも構わない。私は自分の家と、庭と、家族が欲しいのだ。
     ――新居に着くと、縁側で飛蝶が待っていてくれた。



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  • from: エリスさん

    2008年08月20日 19時59分46秒

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    今日になって一項目削除しました。

     削除した方がいい、と諭してくれた友人がいたので。

     私は別に、女にレイプされた過去を消す気はないんだけど。
     隠していたところで、いざ恋人にバレた時に、その恋人を傷つけるだけだ。始めから分かっていれば、
     「そんな過去があってもいいから」
     と、腹に据えた人しか私と交際しないはずだ。
     だから、もしかしたら付き合うかもしれない、と思う相手には話している。
     過去にそれでも受け入れてくれた人は、あの「歌舞伎くん」だけでしたけど。

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  • from: エリスさん

    2008年08月19日 09時28分33秒

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    いっそのこと、自分で立ち上げる?

     一部の人は知ってると思うけど、このサークルプレイヤー内にあった「レズ 同性愛」というタイトルの出会い系サークルを解散に追い込んだ。
     なんでかって言うと、あるメンバーが自身のヌード写真を公開したのが許せなくて、抗議したからだ。
     レズ=いやらしい、というイメージを増長させる行動をしたことは絶対に許せないし、サークルの品位も下げた。なにより、同性愛者であることを悩んでいる人が見たら、自分もこんな人間だと思われているんじゃないかと、もっと苦悩させてしまうに違いない。
     だから必死に抗議した結果、オーナーがサークル解散を決断した。


     それ以後、レズビアンのための出会い系サークルは立てられていない。
     私がみんなの出会いの場を潰してしまった結果になったので、ちょっと責任を感じているが――真面目に交際相手を探しているメンバーに対して、いくら自分のとは言え、ヌード写真を載せてふざけるような人間は、彼女の今後のためにも諫めるべきだと思った。
     とは言え、私にとっても出会いの場が減ってしまったのは惜しい( -_-)

     これはやはり、私が責任を取って、新サークルを立てるべきか?

     みなさんの意見、お待ちしています。

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  • from: エリスさん

    2008年08月15日 20時03分35秒

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    「Re:Re:風邪薬を飲んで就寝中」
    明日も風邪が治っているか自信はないが、

    ちょっと気力は出てきたかも。〓〓〓予定変更しちゃったんで、近所の温泉は行かれなかったけど(宅急便を待たなければならなかったんで)


     「その温泉、連れてって!」
     私がレズ寄りのバイだってことを忘れた後輩が言っていたが……温泉はやっぱり一人で行こう、来週にでも。
     明日の仕事もきつそうです。

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