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恋愛小説発表会〜時にはノンジャンルで〜

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  • from: エリスさん

    2007年08月28日 14時32分52秒

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    「露ひかる紫陽花の想い出・46」
     三郎はどうしていたかというと……まるで亀――つまり掛け物を頭から被って丸くなっていた。
     二人は噴出したものの、笑い続けるのは我慢した。
     「三郎、いつまでそうしているつもり」
     彰が三郎の頭から掛け物を取ろうと引っ張ったが、それは頑丈に掴まれていて離れなかった。
     「まァね」
     と、彰は軽く吐息をついた。「気持ちは分かるよ。わたしもそうだった」
     すると、ゆっくり頭が動いて、目だけが覗くように彰を見上げた。
     「……ホント?」
     「女ばかりの環境で育ったからね、おまえより驚いたと思うよ」
     三郎はそれを聞くと、恐る恐るといった感じに頭を出して、言った。
     「夢が壊れちゃった」
     自分たちが「良い行(おこな)い」をすれば神仏が下さるんだ、だから自分には兄弟が多いんだ、うちの両親は立派だ――と、思っていたのに。
     「僕にはできないよ」
     「まァ、三郎じゃまだ早いかもしれないね」
     左大将は唯一経験者なので(一人だけ側室がいる)、したり顔で答えていた。「でも、結婚は気持ちの問題だから、それだけじゃないんだよ」
     「僕もそう思いたいんだけど、だけど……父様がけじめはつけるもんだって言うんだ」
     確かにそうだなァ、とも思えるので、彰も左大将も腕を組んで悩んでしまう。
     男性が元服したてで若い場合、寝床を共にするのは年上、というのがこの頃の常識だった。つまり女が男を教育するのだが、彼の場合、相手が少将では……期待するだけ無駄だろう。
     「兄上は、紅の侍従(べに の じじゅう・左大将の側室。元は彼の乳姉弟)が初めてなんでしょう?」
     彰が聞くと、
     「矛先をわたしに向けないでほしいな……そうだよ。薫がまだ未成年だったから、彼女が成人するまで独身でいるのもいけないからって父上に言われて……。まあ、侍従はわたしにとったら姉のようなものだし……彼女の好意に甘えたんだ」
     「怖くなかったですか?」
     「もう十八だったからね。その前に自分を汚すことに躊躇ったな」
     自分を汚す? と三郎が聞く。
     「愛していない相手とは、どんな儀式も汚れになってしまうのだよ。神仏がお許しにならない。だからね、わたしなりに、薫への気持ちとは違った意味で、侍従のことを愛そうと決心したんだ。そのことばかり必死に考えていたから、恐怖心は忘れてしまったな。今じゃ、少しも躊躇わない」
     ふうん、と彰も興味深く頷いている。すっかり自分も「生徒」になっているらしい。
     「怖くなくなるんですか? 大将様」
     三郎が尋ねると、彼は微笑みを返した。
     「三郎は少将が好きだろう?」
     「はい、大好きです」
     「好きな人と結婚できるって幸福だよ。わたし達をご覧。わたしは九年も待っているし、彰の君など……ねェ?」
     「そうだよ、三郎。わたしは彩のことを物心つく頃から想っているけれど、まだ添い遂げられずにいる。比べて、おまえは本当に幸運の固まりじゃないか。なのに、怖いの出来ないの言っていたら、神仏がお怒りになって、おまえの幸運を取り上げてしまうよ」
     彰が言うと、
     「エー!? そんなのやだァ!!」
     と、三郎が跳ね起きた。
     一瞬にして笑いが起きる。

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  • from: エリスさん

    2007年08月28日 13時56分06秒

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    「露ひかる紫陽花の想い出・45」
     よくこんな真面目な人が(自分も人のことは言えないが)あんなやんちゃで、おまけに八歳も年下の姉を好きになったものだ、と彰は感心してしまった。
     「ところで彰の君」
     左大将は必死に気持ちを切り替えて、言った。「ここで何をしていたの? 中で待っているように言われなかったのかい?」
     「言われていたのですが、あんまり待たされるもので……」
     庭へ出て花を鑑賞していた彼だった。
     どうも、三郎が具合を悪くしているようなのだ。だが、さほどではないから叩き起こすまで待っていて欲しい……と言うわけで。
     「風邪でもひいたのかね」
     「夏にですか?」
     左大将の疑問を見事に打ち砕く彰……。
     そこへ、常陸守が回廊を急ぎ足でやって来た。
     「いやァ、お二方とも、お待たせ致しまして」
     二人が回廊へ上がって行くと、常陸守は申し訳なさそうな表情をして「実は三郎が……」と言葉を濁した。
     「そんなに具合が悪いのですか?」
     左大将が聞くと、
     「いや、病気ではないのです。それがその……今日、結婚に対する心構えを教えてやりましてな」
     二人は常陸守から事情を聞くと、呆然となってしまった。
     「子供の作り方を聞いて……」
     「寝込んだ?」
     そして、二人して深いため息をついた。
     その様子を見て、常陸守は大笑いをした。
     「そのご様子ですと、お二人とも同じような経験がおありのようですな。いや実は、わたしの父が艶福家だったもので、息子たちにはそうなってもらいたくないと、その方面の話は全く耳に入れないように心がけていたのです。今度のことはその賜物と、わたしとしては喜んでいる次第なんですが」
     とりあえず、寝込んだままにもしておけないので、二人は三郎の部屋へ行ってみることにした。

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  • from: エリスさん

    2007年08月23日 15時32分07秒

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    秋葉原でまったり


    おなじみ「スウィートトリップ」でお茶してます。

    チェリー&ローズティー と レアチーズケーキ。

    ここはフルーツティーが美味しい!
    なのに近々閉店しちゃうんだよなァ……。

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  • from: エリスさん

    2007年08月22日 16時54分40秒

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    ごめんなさい

    今日も「神話読書会」に力を入れて更新していたら、こちらを更新する暇がなくなりました。

    明日、時間あるかなァ......期待はしないでください。

    でもときどき雑談はしますので。読者の皆様、見捨てないでくださいね。

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  • from: エリスさん

    2007年08月16日 19時48分21秒

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    今週は休載しましたが

    「神話読書会〜女神さまがみてる〜」だけは更新している、この不思議(^O^)

    はい、時間がなかったんです。
    私がいつも通って癒してもらっていたメイドカフェ「スウィートトリップ」が近々閉店することが決まり、なのでそれまで、休日は別れを惜しみに通ってます。

    というわけで、休日に予定が増えてしまった私としては、「神話読書会」を更新するのが精一杯だったんです。
    許してくださいね。


    その代わりと言ってはなんですが、重大発表をします。
    今、新作を構想中です。それも今現在の自分自身の恋愛を基に。

    とはいえ、私や相手の男性をそのまま書く気はありません。キャラクター設定はモデルとは似ても似つかないところまで練り上げます。

    すごく自虐的ですね。

    でも、もっと自虐的なことをします。
    私が母を殺したかもしれない、という設定はそのまま書きます。
    母の死に様を思い出すたびにおかしくなってしまっていた私ですが、もういい加減乗り越えなきゃいけないと思う。

    母がベッドから落ちた時、ちゃんと母は私を呼んだ。確かに意識があったのだ。
    なのにベッドへ抱き上げた時に、呼吸が止まっていた。
    警察にその時の事情は話した。なのに私は罪に問われなかった。
    検死の結果も、母は自然死だった(腎不全)。
    でもそれって本当なの? 私が母を抱き上げた時にミスをしたのではないの?
    ずうっとそのことを悩み続けた結果、半引き籠もりになった。

    このままでいいはずがない。強くならなきゃいけない。
    分かってはいたけど、今までそれが出来ていなかったから、もういっそのこと、自虐的に慣れてしまうことにした。

    それに、私があの人を好きになったのだって、そんなわけで人間が恐くなっていた私に、優しくやんわりと接して、人間に――異性に慣れさせてくれたから、だったのだし。
    だから今度の作品に、母の死は欠かせない。

    無事に書きおわるといいのですが(^o^;

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  • from: エリスさん

    2007年08月09日 16時05分00秒

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    「露ひかる紫陽花の想い出・44」
     そうなったらいい……彩も思う。
     だが、まだ無理なのだ。そんな世の中は、これから長い年月――多くの血が流れ大地を染め尽くすまで、訪れるはずのない「夢」。
     それでも「夢」を見たい。
     頬を伝う涙が、その思いを表していた。
     薫が心配そうに声をかけてくる。
     「薫の君様……」
     彩は無理に笑顔を作った。
     「私も幸福になりたいですわ」


     左大将が回廊を歩いていると、庭に彰の中将の姿が見えた。
     「彰の君じゃないか」
     左大将は従者に沓を出すように命じて、それを履いて庭へ出て行った。
     ここは常陸守邸である。当然二人とも三郎の教育指導に来ていたのだ。
     「これは兄上。お久しゅう」
     彰が言うと、左大将は笑いながら答えた。
     「“兄上”はまだ早いよ」
     「なにをおっしゃる。見ていたんですよ、わたしは」
     薫の裳着の式の日、左大将は腰結いの役(裳の帯を締めてあげる人。この頃の女児の成人式では、その日初めて裳を着ける人の為に、他の人が帯を結って手向けとする風習があった)として三条邸に来ていた。
     「あの後、庭の木陰で……」
     彰はそう言ってから、自分の唇を指差した。
     「重ねていらしたでしょう? 姉上と。あれは魂を同じ物として結ぶ儀式。左大将殿は立派な我が家の婿殿ですよ」
     「人が悪いなァ、君も。だったら言わせてもらおうかな。三年前の正月(一月)中ごろに……」
     薫を訪ねてきた左大将は、バタバタと回廊を走る音がしていたので、薫と一緒に御簾の隙間から伺い見ていた。すると、彩が逃げていくのを彰が追いかけているところだった。
     「君は庭先で彩の君を捕まえて……美しい月光の下、絵になる風景だったよ」
     「……兄上」
     彰は目を細めた。「月が出るまで、いったい姉上の部屋で何をしていらしたのですか?」
     「え!?」
     どうやら墓穴を掘ってしまったらしく、左大将はしどろもどろに意味不明なことを並べ立て……深いため息をついた。
     「結局、何もできなかったんだ」
     「純情なのもいい加減になさったらどうです?」

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  • from: エリスさん

    2007年08月09日 15時25分03秒

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    「露ひかる紫陽花の想い出・43」
     「やっぱりあなたを呼んで良かったわ、彩。迷いが吹っ切れた」
     「光栄にございます」
     二人はしばらく笑いあった。
     薫は源氏の姫たちの中で一番美しい女人に育った。長女の麗景殿の女御も、次女の伊予の方(彩の兄・高明の正妻。姉妹の中で唯一の側室腹)もそれぞれに趣があって佳人ではあるけれど、薫は妖艶なまでの美貌と微笑を兼ね備えていた。幼いころは愛らしさの中に少々艶があるぐらいだったが、今は立派な麗人である。なのに「妖女」になりきらないのは、家に籠もるよりは野原を駆け回っていた方が好き、というこの性格のおかげだろう。彩が行儀見習いに上がっていた頃は、稽古ごとをさぼって庭へと逃げてしまう薫を、彩が追いかけていくのが三条邸の「名物」になっていた。房成が薫を見初めたのもそんな時である。
     「そうそう、桜の君(房成・左大将)と言えば、あなたのところに通っていた子……」
     「常陸の守の三郎殿ですか」
     「そう、その三郎の教育係に桜の君がなったそうよ」
     「はァ!? 私は彰の君様がなると聞いてますよ」
     「だから二人でやるのよ。あそこは四郎と五郎が年子でくっついてるから、一緒に教育するつもりなんじゃない?」
     三郎を仕込むためとは言え、源氏の大臣も前の大臣も、自分の長男を行かせるとは、よほどの熱の入れようだ、と彩は思わずにはいられなかった。
     「それだけ三郎に期待がかかっているんだわ。確かに今上の目指しているものは凄い。身分制度がなくなるんですもの。上も下もない、全てが平等……なんて、私には尺度がありすぎて分からないけれど、でもそうなったら、彩、あなたも自分を殺さなくて済むのだわ」
     薫は彩の方へ寄って、肩に手を置いて話し続けた。
     「ねえ、そうなったら、彰と――弟と結婚してあげて。あの子本気よ。純粋にあなたを想っているの。地位も名誉も、あなたに較べたら石ころも同然って、あの子は思ってるわ。だから、その日が来たら、絶対に彰と結婚してあげてね」
     「薫の君様……」

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  • from: エリスさん

    2007年08月04日 22時05分18秒

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    「Re:覚悟はしていたが」
    やっぱり精神状態がまともではないらしい。
    花火の音を聞いていたら、母のことを思い出した――あの死に様まで。

    そしたら、あの人に会いたくなった。
    ……まあ、時間的に、もうデートからは帰ってきてると思うけど。
    でも会えるはずがないし、せめてもと、メールで今の気持ちを聞いてもらった。
    ――読んでいるかどうかは疑問だけど。

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  • from: エリスさん

    2007年08月04日 18時30分55秒

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    覚悟はしていたが

    今日、あの人が仕事帰りに「デート」に行った。

    ただの噂ではない。
    本人がそう言ったのを聞いた、という人から教えてもらったのだ。

     「○○ちゃんたら、今日デートなんだって!」
     「うっそー!」
     「うわァ! 隅に置けない(爆笑)」

     と、こんな感じの会話になった。

    顔では笑ったが、正直ショックだった。
    いつかこんな日がくるって、覚悟はしていたはずなのに。

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  • from: エリスさん

    2007年08月01日 17時26分50秒

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    「露ひかる紫陽花の想い出・42」



     一方、彩は源氏の屋敷・三条邸に呼ばれて、少将など数人の従者を連れて訪ねていた。
     源氏の三女・源静子(みなもと の しずこ)が尚侍(ないしのかみ)として入内するので、その前に彩の和琴(わごん)が聞きたいと言うのである。
     彩は言われるままに和琴を弾いて聞かせた。和琴は若狭の宮の愛蔵だった名琴、腕は名手・藤原法明(ふじわら の のりあきら)の直伝――いや、父の腕を更に超える指使い。
     静子――俗称・薫の君は夢見心地で聞き惚れていた。
     彩が引き終わる。
     しばらく静寂が広がる――。
     吐息を一つ零してから、薫の君が口を開いた。
     「天人の爪音も、しばらくは聴けなくなるのね」
     「お褒めにあずかりまして……。薫の君様も、筝の琴でもお弾きになられては」
     「今はいいわ。聴くだけにしておく」
     「……お疲れなのではございませんか」
     「そうね、少しだけ」
     薫は軽く吐息をつくと、寄り掛かっていた脇息から体を起こした。
     「いろいろと考えていることがあってね。特に、桜の君のこと」
     「左大将(さだいしょう)様が何か」
     「うん……」
     薫は恥ずかしそうに俯いて、言った。
     「そろそろ結婚しようかなって」
     彩はそれを聞いて、喜びの声をあげた。
     薫と左大将・藤原房成(ふじわら の ふさしげ)はかれこれ九年の付き合いだった。出会ったころはまだ薫が十歳だったので、二人の結婚は房成の父・前の大臣が許さなかったのである。とりあえず薫が成人するまで待つことになった。
     なのに、薫が十五歳で裳着の式を迎えて、すぐにでも結婚するだろうと世の人々に言われていたにも関わらず、そうはならなかった。
     「もう、怖くはなくなりましたか?」
     彩が聞くと、怖いわよ、と薫が答える。
     「怖いけど、乗り越えなきゃって思えてきた。それに、桜の君をあまり待たせておくのもね。……春の陽だまりの中だけでは人間は生きられないのだと、自分自身に言い聞かせてるところよ」
     「そうですね。結婚に恐怖を持たれる薫の君様のお気持ちも分かりますけれど、でも、愛する方となら恐怖も喜びに変わるかと存じますよ」
     薫は彩の言葉に微笑むと、言った。
     「あなたも彰となら怖くないかもしれない?」
     言われた方は何も答えず、ただ微笑んで見せた。

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